第1話
ある水辺で橙色の髪をした少女がところどころ赤くなってしまった服を洗っていた
「さすがに何回も返り血を浴びてるせいかシミも目立つようになってきてヤバいですね。はぁ、新しい服が欲しいです。」
魔物退治後の一仕事である衣服の洗濯をしている少女が血が付いた部分をこすりながらぼやいていると視界の隅で奇妙な光が入り込む。
「こんな真昼間で流れ星?ですか、昼間の流れ星は不吉のようなものを感じますね。あっちはたしかランドソル城がある方向…」
少女は悩む、彼女自身あちらの方向に足を進めることに抵抗を感じているが、向かわなければならないという使命感もまたあった。一度、洗濯をしている手を止め、自身の両頬を叩き自信を鼓舞する。
「よし!とりあえず当たって砕けろです!どうせこのままじゃ何も変わりはしないんです。そうと決まればまず服を乾かさないとですね」
この一歩が少女のこれからを大きく変えていくことになる。
人気のない山地の森の中を進む銀色の髪をした小さな少女がいた。
背中には荷物と身長以上の槍をを背負い、手には地図を持ちブツブツ呟きながら歩みを進めている。
「ホントにこっちで合っているんですか?こんな人里離れた場所にわたくしが仕えるお方がいるんでしょうね、わざわざこのわたくしが出向いてやってるんです。あのジジイ…もし間違っていたらどうしてくれましょうか。」
少女はイライラした様子で森の中を進み続け小一時間、森を抜けるとあたり一面が草原になっていた。草原を進んでいくと、色とりどりの花が咲いている場所があった。そこに人らしき姿が寝ているのを遠目で見つけ、さらに歩みを進める。
どうやら寝ていたのは人間で間違いなかったようだ。少年というよりは青年、体つきも衣服の上からでも薄っすら分かる筋肉質であり、鍛えられているのが窺える。衣服自体はところどころほつれているが、身体の外傷などは見当たらない。古郷から旅立つ際に持たされた人相が描かれた紙と寝ている青年を見比べ、この方こそ仕える主と理解したが少女は焦る。
「え⁉これ死んではないですよね?見たところケガとか流血とかございませんですし…まさかの餓死⁉ウソでしょ⁉まさか遅れすぎたとか…流石にこれはわたくしのせいじゃありません!こんな遠くなのがおかしいんですよ!わたくし悪くない!!」
寝ている青年の傍で頭を抱えて悶える少女はショックを隠し切れない。
「どうしましょう、アメスさまの宣託をまっとうする事で周りに差をつけて、古郷での地盤固めを楽に済まそうとしていたのに…これじゃわたくしのライフプランがおじゃんに…」
頭をかかえたままつぶやいていると寝ている青年に動きが見えた。
目を開けたのを見て、青年が死んでいないこと理解すると少女の表情が変わる。少女は軽くガッツポーズをした後、姿勢を正して青年に声をかけた。その姿には先ほどの狼狽えていた様子は微塵も感じられないほど凛々しさを感じさせられる。
「わたくしは、偉大なるアメスさまによって派遣された『ガイド役』…名前はコッコロと申します。以後、お見知りおきを主さま」
青年は上半身だけを起こし少女に体を向けるが反応が薄いというよりは無いに近い。
「おや、キョトンとされておりますね。すみません不躾ではございますが…あなたさまのお名前を、お聞かせ願えますか?」
会話を試みるがやはり反応はかわらずであったため、少女は考えるそぶりを見せる。
(たしか、主さまは記憶のほとんどを失っているとお聞きました。記憶喪失でメジャーなのはエピソード記憶、名前を伺っても名前を答えられないのは仕方のないこと、記憶はおいおい何とかなるでしょう。意味記憶や手続き記憶もダメならお手上げですが。)
フラグのようなこと考えながら少女は気を取り直して青年に声を掛けた。
「とりあえず、主さまはわけがわからない状態、わたくしがお導きしますのでどうかご安心を。」
すると青年のお腹からグルルル∼と大きな音が鳴っているのを耳にして、少女は背負った荷物を下ろし何かを手に取った
「どうぞ主さま、おむすびでございます。主さまがお腹を減らしていた場合を考慮して準備してまいりました。召し上がってください。」
しかし、また反応がない。出会ってからほとんど同じ反応ばかりで流石に少女もおかしさを感じてきた。
おむすびを青年に持たせたが反応はなし、話しかけても反応はなし、つまりは―――
「これ全部(記憶が)ダメになってるってことぉ⁉」
また頭を抱えた少女の悲痛な叫びが周囲に響き渡った。
少女の使命はアメスの託宣にあった青年のサポートをすることである、が、肝心な青年に記憶が無いため、目的やこれからの方針さえもお先真っ暗状態である。
少女の
青年の口に用意していたおむすび2つのうち1つを詰め込むと銀髪の少女―――コッコロと名もなき青年はまず大陸の中心都市、ランドソルを目指した。街に行けば食べ物があり、仕事がある。
コッコロは青年の手を引きながらこれからのことを考える。
(主さまが正常に歩けるのは不幸中の幸いでしたが、一人で生活させるのは厳しい…かといって付きっ切りではいずれ路銀が尽きてしまいますし…さっさと記憶を取り戻してくれませんと―――)
手を引かれている青年は足取りがおぼつかないため、ペースはゆっくりであったが10分ほど歩き続けていると青年の足取りが良くなっていることにコッコロは気づいた。
青年にペースを速めることを伝え、さらに歩みを進める。どうやら体の動かし方を取り戻すは早そうに見える。この調子でランドソルに着くまでに記憶を取り戻してくれと祈るコッコロであった。
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アメスの託宣にあった青年と出会い、ランドソルを目指してから2時間ほどが経った。
再び青年のお腹の音を聞き、一度休憩しようと腰を下ろせる場所を探していると草むらから物音が聞こえた。コッコロが音が聞こえる方向に向かい、槍を構えて草むらに近づいていく
「おっ、動物ですかね、主さまがお腹を空かしておいでの様子、夕食が来てくれるのはありがたいです。『ギュルルルル∼』しばしお待ちください主さま、さっさと捕まえますかr―――」
コッコロは野ウサギか狸だと思っていたのに対して、居たのは地面に突っ伏した橙色長髪の女性だった。しかも、先ほどのお腹の音はこの女性からだったのだろう、今なお鳴り響いている。
今日は変な人物に会うなぁとコッコロは苦笑いをこぼした。すると、突っ伏している女性がしゃべりだす。
「お、お腹が減りました。もう、動けませ~ん…、そちらの方、食べ物をお持ちですか?」
突然話しかけられ、内容が内容だったため、なんだコイツとコッコロは引いていたがポーチにある干し肉を取り出すと手元にあった干し肉が消えた。一瞬のことでコッコロは目が点になったが、突っ伏していた女性―――謎の少女は幸せそうな顔をし、口をもごもごし終えると、コッコロに感謝を告げる。
「見ず知らずのわたしに食べ物を恵んでくれるなんてっ、良い人ですね!一生恩に着ますっ、ありがとうございま~す☆」
えぇ、とコッコロはまたしても引いたがとりあえず少女の名前を聞き出そうとした。少女の外見はところどころ汚れがあるが身に着けている装飾品は低い身分が身に着ける代物ではなさそうだと判断。良ければ貴族の娘、悪くても商家の娘―――身分が低くないのは確かであるため、干し肉の恩を利用して庇護を受けるのが得策と、コッコロは刹那ともいえる瞬間で思考を完結させた。しかし、なぜ、身分のありそうな人物がこのような場所に、しかも少女である。少し気になるコッコロであった。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
謎の少女はすこし困り気味で答える。
「わたしの名は…いや、それよりも。わたし魔物に追われている最中でして…」
はぐらかしたなコイツとコッコロは恩を利用する作戦が崩れていくことを感じたが、魔物という単語を聞いて周囲に意識を飛ばして索敵を開始する。数秒してコッコロは魔物と思われる魔力を感知し、魔物がいる方向と数を割り出した。
「何だかえらいことになってますね。魔物の群れが押し寄せてます。どうしましょう主さま?」
特に焦りもせず、主である青年に声をかけているコッコロに腹ペコ少女が話しかける。
「魔物の群れはわたしが連れて来たようなものなので無視できません。ちゃちゃっと片付けてきますので、ふたりは避難してください!」
少女は剣を持ち魔物が向かって来るであろう方向に足を進めていったが、コッコロは魔物の襲来を利用できないかと思案する。
「そうだ、主さまに戦いかたを説明できるいい機会。さきほどのお方にさらに恩を売れるし、主さまの記憶を取り戻すきっかけになるやもしれません。そうと決まれば行きましょうか主さま」
お腹を空かして座り込んでいた青年の口に残りのおむすびを突っ込み、水筒で無理やり流し込んで飲み込んだことを確認したら青年の手を引き、魔物に向かっていった少女の後を追った。
コッコロは走れない青年にイラつきはしたものの、置いてはいけないため少し駆け足で少女の後を追っている。
「あのお方大丈夫でしょうか?先ほどまでダウンしていた人が魔物の群れに対処できるとは思いません。急いで後を追いかけねば、急いでください主さま!男ならさっさと走ってください。」
仕える青年を急かしながらペースを上げてくと魔物と対峙している少女の後ろ姿を見つけたがどうやら押されている様子だった。
このままでは少女が倒されてしまうのは目に見えていたので助勢するため、仕方なく青年の手を放した。
「主さま、ここでお待ちになってください。さっさと片付けてしまいますから。」
魔物がいる方へ振り向くと、少女が魔物に飛ばされてとどめを刺されそうになっている光景がコッコロの目に映ったが特に動じなかった。コッコロは恩を売って倍以上に返してもらうのが信条であり、少女を助けたいから助けるのではなく今後の見返りを考えて助けるだけである。現状あの少女の身分は不明で、訳ありの可能性が大のため見返りの期待は薄い。わざわざ助ける必要性はないので少女が死んだあとにでも魔物を倒し、身ぐるみ剥がして質に入れようとコッコロは思考を切り替えた。
すると、声が聞こえた。『助けなきゃ』という声が―――
青年の方にすぐ振り返ると突風がコッコロを襲うかのように当たり、目をつむってしまう。目を開けるとが青年の姿が見えない。まさか!と思い、魔物の群れがいる方向を見るとそこには少女にとどめを刺そうとしていた魔物に突っ込む青年の後ろ姿が見えて慌てて後を追う。
「うそっ⁉主さま走れたの?しかもメッチャ速い…って、まずいまずい!死んだら私のせいじゃん⁉」
焦りで素が出ながら全力ダッシュするコッコロであった。
剣を持った少女は魔物の群れと対峙していた。自身を追いかけていた魔物は最初10体にも満たないほどであったのに現在の数は30ほど、大中小と選り取り見取りであり、少女は苦戦している様子。無理もない、満腹状態なら余裕であったが現在絶賛腹ペコ中であり、無力な状態であった。完全に敵の数を見誤っており防戦一方であった。
「まずいですね、カッコつけた良いものの、このままでは嬲り殺されてしまいます…。」
魔物の攻撃に合わせて剣を盾代わりにしているが手の感覚が薄れてきており、ついに剣を弾かれ、そのまま少女は剣と共に地面に投げ出され転げまわる。足に力が入らない…何とか膝立ちの状態になったが見上げるとそこには腕を振り下ろす魔物がいた。
(こんなところで死んじゃうんですかね、わたし…ごめんなさい、お父さま、お母さま、結局わたしは何も成すことはできませんでした―――)
少女は目をつむり、自身の生を諦めかけた―――
が、その生が終わることがなかった。風が吹き、目の前には腕を振り下ろしたはずの魔物ではなく青年の背中だけが映った。
青年はわからない、自分がいる場所も、自分のことも、手を引いてくれた少女も、掛けられる言葉の意味も―――
膝を着く少女が見える、それが誰かもわからない、けれどなにかが心に刺さる―――
口が動いた、音が出る、意味は分からない、けれどなにかを心が叫んでいる―――
自然と足が動いた、何故かはわからない、けれど身体が動こうとしている―――
頭に映像がよぎる、見知らぬ少女の悲痛な表情が見えた―――
『繰り返してたまるか』
声が響いた。身体に、心に。染み渡る感じがした。馴染んでいく感じがした。
衝動といえるものに身を任せて青年は一直線に駆け抜ける。
青年の助走をつけた拳は腕を振り下ろした魔物より速く魔物に突き刺さる。
次は戦闘シーンですよ