「今までお疲れやったなぁ、カスミはん、王子はん」
「終わってみれば意外とあっさりだったね。いやはや、お二人の復帰が早くて助かったよ」
マコトとカオリの代理として、騎士とカスミが治安維持活動を行ってからもう2週間半ほどの時間が経過していた
負傷者コンビの容態はすでに完全復活と言っていいほどのコンディションに戻っていた、さすがは獣人といったころか…
今はマコトとカオリは現場復帰をしているためこの場には居なく、今いるのはマホ、カスミ、騎士の三人だけである
現場仕事から解放されたカスミは、何をしようか迷っていた。 今まで趣味である読書やなんやらは全くできていなかったので、真っ先に何から手を付けようか迷っている様子だ
一方、騎士もこれから何をしようか考えていた。しかし、こっちの方はカスミのように選択肢が多くて困っている状態ではなく、選択肢が何もない真逆だ。今まで、ほとんど誰かに命令や指示を受けてから行動していた為、自分本位での活動など行ったことが無いのだ。
今の騎士はまさに「もうすることないから、帰っていいよ」的な状態だった。もちろん帰ってもコッコロはいないし、ペコリーヌのところへ出向いても仕事の邪魔になってしまう可能性もある。 中途半端に物事を考えれる結果、これからの選択肢が無くなってしまった
「ん? どうしたんだい騎士さん、浮かない顔してるけど」
カスミが騎士の様子を不思議に思い、声を掛けた。2週間以上もコンビを組んでいたのだ、元相方の騎士のことは大体理解しているつもりだ。――結構単純なので喜怒哀楽がハッキリしていて楽(カスミ談)
「なんや、カスミはんと離れるのが寂しくなったんか?」
「いや、そうじゃないけど…。もういいよって言われてもこれからの予定が無いんだよなぁ」
「あらまぁ、それならうちとデートでも♪ と言いたいところやけど、うちも仕事があるしなぁ…」
騎士は今の現状をマホに打ち明けたが、打破できるような話は聞けなかった。
カスミの方へ視線を向けてみたが、残念ながら首を横に振られた。カスミも騎士に付き合う余裕も気持ちも無いらしい、今まではあくまで仕事の関係だったということだ。カスミはそそくさと自室に戻ってしまった
「そうか…、なら掲示板でも見てみて日雇い仕事でも探そうか」
趣味や娯楽などに時間を使う選択肢などなく、コッコロの「働かざるもの食うべからず」という言いつけを思い出し、結局はいつものように仕事を探すことにした騎士
「そうや、王子はん。 今までのお礼どす、受け取ってぇな」
「これはなんだ?」
「それは今まで働いて貰ったお礼や、お小遣い程度やけど無いよりましかと思うてな? それとうちの手作りクッキーや、小腹がすいたときにでも食べてな」
「ありがとうマホ、助かるよ」
「ええよ、むしろこれくらいで仕事を引き受けてくれたのが申し訳ないくらいや」
マホの言う通りで、騎士の働きと貰ったお金を考えてみるとほぼボランティアだ。 しかし、騎士は自分が原因ということを自覚した上で、給料無しで手伝っているつもりであった為、お金を貰えてラッキーと考えていたので結果オーライである。
「短い間やけど、ホンマに助かったで王子はん。 ほな、体調に気を付けてお元気で、また出会える機会があればデートしましょうや」
「あぁ、マホにはいろいろ迷惑かけたな。カスミにもよろしく伝えてくれ」
これにて、騎士の【
そして、新しい騎士の
とある夜のこと…、建物の屋根を走る人の姿が月明かりに照らされていた――
「なんでこうなったにゃぁぁぁ⁉」
「待てやゴルァアア‼」
――そして、その姿を追う一人の姿も月明かりに照らされていた…
「おまえ本当に人間かにゃ⁉ あたしに付いてこれるなんて、どれだけバイタリティに満ち溢れてるにゃ⁉」
「うるせぇ! さっさと盗んだ物返せ!」
「返せと言われて返す怪盗がいるかにゃ!」
なんてやり取りがすでに1時間程続いているのだが、当の本人たちは追いかけっこに夢中で気づいていないようだ…
「ぜぇぜぇ、このまま逃げても埒が明かないにゃ。 おまえが悪人の片棒を担ぐのがいけないのにゃ! 覚悟するにゃ!」
「なに⁉」
全力逃亡から一転、攻撃を仕掛ける盗人――怪盗ファントムキャッツ。しかし、ファントムキャッツの反転に騎士は驚きはするも、しっかり反応出来ていた。
ファントムキャッツは闇夜に紛れてナイフを騎士の足目掛けて投擲し、無闇に距離を詰めさせないようにしている。さすがに闇夜の戦闘は騎士に分が悪くいようで、上手く間合いを詰めさせてくれない。
人間である騎士は月の明かりを頼りにしながら戦っているが、相手のファントムキャッツには関係無いらしく、攻撃の手を緩めることはなかった。
お互いの牽制が3分程続き、単調なファントムキャッツの攻撃と夜での戦いに騎士は慣れ始めていた
「段々とお前の攻撃に慣れてきたぜ、ファントムキャッツ。やられてばかりって――うおっ⁉あぶねぇ!」
――突如、横薙ぎのナイフが闇の中から現れて騎士の首目掛けて襲ってきた。もちろんファントムキャッツはそんな間合いに居るはずもなく、何かしらの小細工をナイフにしているのは確かなはずなのだが、騎士はそれを闇の中、それも一瞬では見抜くことはできなかった。
「(ファントムキャッツの攻撃…。常に動作を小さくして気取られないようにしているな、視界の悪い夜専門みたいな戦い方でやりずらい!しかし、さっきの横から来たナイフもだが、月に雲がかかる瞬間を狙ってやがる…!)」
騎士は冷静さを維持しながら、ファントムキャッツの攻略を考えていた。
「おまえ、ずいぶんな実力者にゃ。その実力があれば悪人を懲らしめることもできたはずにゃ、世の為人の為に使おうと思わないのかにゃ⁉」
「そんなの関係ねぇよ、たまたま給料がいい仕事があったからこうしてバイトしてただけだ――あと借金返済」
「明らかに後者が目的だにゃ⁈ そんな理由聞かされたら余計に捕まりたく無くなったにゃ‼」
時は遡って、
「あ、俺って字読めなかったわ」
この男、読み書き+計算が壊滅なのだ。単純な単語なら読めるかもしれない程度でお金に関しては高いか安いだけしか判別できない。
コッコロママが投げ出すほどの知力の無さが露呈しているに戦いに関しては頭の回転が速いという典型的キャラをしていた。 だが、平和な世界では無意味でしかなかった…
掲示板に張り出されている中には指名手配、求人募集、尋ね人などの紙が張り出されているが騎士には記述内容を理解していない、しかしニュアンス的なものは大体分かるらしく、ちゃんと求人の張り紙を見ていた。 …だが、見ているのは給料と思われる数字一点のみ、この場にコッコロが居たら今頃張り倒されてたであろう
なんやかんやでよさげなお給料が出る求人を見つけることが出来た騎士なのだが、求人を出している場所・人が分からない以上、求人を見つけても意味がない。 ――でも大丈夫、なぜならペコリーヌが「分からないなら誰かに聞けばいい」と言っていたから
「なぁそこの人、ちょっといいか? ここに書いてある場所なんだけど――…」
という感じで無事に求人元への手がかりを手に入れることができ、さっそくその場所へ行くが意外と遠かった。行く途中で帰ろうかと思いもしたが、ここまで来たから引き返せないという謎の使命感も出てき始めていたので、道行く人に行先を訪ねながらもなんとかたどり着くことが出来た。
「ここが求人を出していた場所か… 武器屋?」
騎士がたどり着いた場所は武器や防具を売っているお店であった。さっそく中に入り、店の人間と思わしき人物に声を掛ける。
「ここの店が求人を出しているのを知ったんだがあってるか?」
「いらっしゃいって、なんだそっちの方か…。確かにうちで用心棒を雇おうとしているがあんちゃんがするのか?」
「ああ、そうだけど」
どうやらこの店は要人棒を欲しがっているらしいが、騎士の見た目はいかにも一般市民なので用心棒が務まるか怪しい目で見られていた。
「そうか、なら少し店の商品でも見て時間でも潰してろ。もう少しで求人受付はやめるからな」
「ん?」
なにか食い違いが起きていそうなやり取りだった、それもそのはず、騎士は求人内容は全く知らないし、興味もなかったのだ。まぁ知ったところで理解できるかは別のお話になるのがオチであるが…
結局、言われた通りに店内の武具・防具を見ながら次の指示があるまで時間を潰すことにした。 最近使っていなかったので忘れていたが、帯剣しているのはスズメから貰ったハリボテソードだ、これではモンスター討伐クエストなどをやる場合は役に立たない代物なのでどうせならここで何か良さそうなものを買おうと考え始めていた。
店内に置いてある剣などを眺めたり、手に持ったりしていると先ほどとは違う人から話を掛けられた。おそらくこっちが店員で、あっちが店主なのだろう。
「お客さん、なにかお探しでしょうか?」
「いや、求人で来ただけなんだが、ついでに剣も見ておこうと思ってな」
「そうですか…、ならコレとかどうですか?」
店員が身の丈程ある長剣をお勧めしてきた、騎士はそれを受け取り軽く素振りをしてみるが流石に長すぎる
「これは俺に合わないな、刃が長すぎて振りずらいし動きが制限されてる感じが嫌だな。もうちょっと短いのが良い」
「ならコレは?」
次は大剣、しかしこれも騎士には合わない。 そんな中、騎士は自分に合いそうな剣を手に取る、というのも今帯剣しているものとほぼ同じ大きさのショートソードだ。
「これいいな… おい、この袋に入っている金で足りるか?」
騎士は手に持った剣を即決で購入しようとしたが手持ちのお金が分からないので、所持金を店員に渡して代わりに計算をさせる。
「ん~、これだと足りませんね…。ですけどこれからうちの用心棒をするんですよね?」
「そのつもりだけど」
「それなら、その分を足したらなんとかなると思いますよ」
どうやら手持ちでは足りないが、給料が貰えるのであれば買えるそうだ。騎士はそのことを聞いて安心した、けれど、まだ採用通知は来ていない
「分かった、それじゃあコレ買うわ」
「ありがとうございます。 では、取り置きしてますので待ってますね」
騎士、初めて一人で買い物をすることが出来た。――ここがぼったくり店とも知らずに…
「採用試験…? 何だそれ?」
「あんちゃん、内容をちゃんと見てないのか⁉ 用心棒を雇う際に試験やるって書いてあっただろ」
どうやら採用試験とやらをやるらしいが、騎士はよくわかっていなかった。周りには騎士と同じく金目的で集まった力自慢の男女が集まっていた、ただしこの人たちはちゃんと内容を見ている
「そんなの知らん。で、どうやったらその用心棒とやらになれるんだ」
「あつまった奴を全員倒せばいい、簡単な内容だろ?」
「なるほど、俺にぴったりな内容だな」
そんな騎士のセリフを聞いた周囲の一部から笑い声が上がる。どうしても見た目が普通な騎士は初対面からすると強そうには見えないのだ。そんなヤツがすでに勝ち誇ったようにしているので、やはり一部の人々からすると冗談にしか思えないであろう。
「おい、すでに勝った気でいる坊ちゃんよぉ… 先に俺とやらねぇか? 手加減してやるからよぉ?」
騎士の後ろに立っていた、いかにも「俺、ゴロツキです!」みたいな風格をした人物に絡まれる。しかし、強者相手では言動が完全にやられ役または噛ませ犬になってしまうのは悲しきことだ
「別にいいけど、怪我させても責任とか賠償?とかしないからな」
――秒で終わった、まぁ秒というのはただの誇張表現なのだが…。
しかし、ゴロツキ?と騎士の戦いではなく、この試験そのものがあっさり終わってしまったのだ。この試験はトーナメント方式なのだが2戦目まで騎士が相手を秒殺しているの周囲の参加者に見られたからだ、そんなこともあって棄権者が予想以上に増えてしまい3戦目で決勝になってしまった。
…結果、騎士の被害者は3人で収めることが出来た。もし棄権者が少なければもっと増えていたであろう
「あ、あんちゃん見かけによらず強いなぁ…? いや~強い要人棒を雇うことが出来てよかった、これならファントムキャッツが来ても安心だ」
無事にお店の要人棒になることが出来た騎士、この店はどうやらファントムキャッツに狙われているらしい、店主がほっとした表情を浮かべているのが伺えた
「じゃあ明日の朝までの一日、よろしく頼むよ」
「え…なんだって…?」
これは内容に目を通していない騎士が100%悪い。 無断外泊が確定したため、コッコロママのお怒りも確定した。
ということで時間は戻り、ファントムキャッツと騎士が建物の上で攻防を繰り広げていた。
「お前のせいで店の商品を壊したのが俺になったんだぞ⁉ 絶対に許さねぇからな…!」
「そもそも、あそこの店は悪いところにゃ! おまえ、絶対にぼったくられてるにゃ!」
実は騎士の借金は買おうと思っていた剣のことではなくて、ファントムキャッツが騎士が守っている店に押し入った時にひと悶着あった際に無断で使用した
しかし、この店はなまくらを高く売りつけているようで、騎士の扱いには耐えられない剣ばかり。 騎士は外れくじを引いたようなものだった。
「ファントムキャッツを捕まえればチャラにするって言われたからなぁ、お前に恨みはないが俺の
「これじゃあ、どっちが悪い奴か分からなくなってくるにゃ! う~ん、なんだかやりずらい相手にゃ…」
しかし、そう言いながらもファントムキャッツの動きに変化はない。やることは隙を誘い、突く…それだけだ
今まで屋根での攻防であったが、ファントムキャッツが急に屋根から飛び降りた。 騎士は闇夜の中、かろうじてその姿を捉えており、ファントムキャッツを追いかけるように騎士も屋根から降りようとする
「女の子の後ろを追いかけ続けるのは嫌われちゃうにゃ!」
「チッ…、誘っていやがったか!」
眼と思われる2つの小さいな光で咄嗟に反応できた騎士は、ファントムキャッツの攻撃を身を強引に捩ることで回避に成功した。しかし、着地に失敗して、もろに地面に落ちてしまった。2撃目に対処するため、すぐに立ち上がり体勢を整える。…着ている服には胸と腹の2か所に2本の線が入り、微かに血が滲んでいた。 どうやら完全に回避することはできなかったようだ。
「おい
屋根とは違って、今騎士が立っている場所は月の光も入らない路地裏、完全にアウェーの戦いになってしまった。体力、力はおそらく騎士に分があるが相手を認識できなければ意味がない。 騎士は少し、冷や汗をかいた。
地面を駆ける音がする… 騎士は聴覚と嗅覚に集中する、視覚に集中しても意味無いと言わんばかりに割り切った考えでファントムキャッツを迎え撃つ。 ――風を切るような音がやってくる
「その程度ならッ!」
後方へのステップで攻撃をかわす。地面にナイフが刺さるどうやらまた足を狙っていたようだ
「やっぱりここで殺すのは惜しい人材だにゃ、どうかにゃ? おまえも死にたくないにゃろ?」
ファントムキャッツはこう言っているが、別に殺しをするつもりは全くもって無い、殺すというのは単なる脅しに過ぎない。
「お前だって最初から俺を殺すつもりないだろ? さっきから足を狙っていたりで殺気が無いんだよ、首元狙ったのだって脅しだろ?」
「は~…、交渉決裂にゃ。なら死んでも恨むにゃよ!」
さらに風切り音が聞こえてくる、次は3つ。どうやらファントムキャッツも本気で来たらしく、殺気に近いものを感じていた。
3つのナイフのうち、2本は足へ、1本は胸目掛けて飛んできたが剣や身体捌きでこれを回避する。そして回避に合わせてファントムキャッツが横から強襲してくる。どうやら足音を殺していたらしく、騎士は反応に遅れていた。しかし、持ち前の反射神経でなんとか捌ききることが出来た。
「そっちから来てくれるのは有難いなッ」
ファントムキャッツが飛び込んできたのは騎士の間合いだ、騎士はこの好機を逃さず、回避とほぼ同時に反撃へと移っていた。
しかし、ファントムキャッツもそんなことくらいは重々承知の上だ。これはただの布石、騎士を誘い込むだけの動作でしかない。
「そうかにゃ? あたしとしても乗ってくれるのは大助かりにゃ」
突如、騎士の後ろから先ほどと同じような風切り音が迫ってくる! ――しかし、騎士はすでに攻撃動作に入っており回避は不可能…!
「ぐぁあ⁉ ナイフが後ろから⁈」
「あたしもいるにゃ!」
騎士の意識が、背中に刺さったナイフに向いた瞬間を狙ってファントムキャッツも攻撃を仕掛けるが、騎士は追撃を許さず一度間合いを開ける。
「(一旦整理だ…、あいつが前に居たのに何故後ろからナイフが飛んできた…、実は複数人という可能性が? ん?いや、そもそも飛んできたナイフは何本だ⁉ ずいぶん投げ込まれているが無くなる気配がない…ということは?)」
騎士は反撃の思考をいったん止めて、状況整理を開始し始めていた。ファントムキャッツは長期戦を嫌がるように攻撃を苛烈なものにするが一手が届かないもどかしい状況になってしまった。
「(マズイにゃ… おそらくこっちのタネがバレる頃合いかもしれないにゃ、さっさと逃げたいにゃ)」
ファントムキャッツとしては攻撃のタネがバレるまでには蹴りを付けたかったのだが、そう上手くいかない。騎士から逃げたいところだが、もう少し体力を削らないと安心できない。
「だいたい分かって来たぞ、そのナイフの仕込みってやつがよ」
「それはどうかにゃ? 分かったところで見切れなかったら意味ないにゃ、そもそもお前見えてないにゃろ?」
「なに、お前がそこに居ることが分かれば十分だ」
「とんだ減らず口だにゃ!」
再度、騎士はファントムキャッツの正面に向かって駆け出す。一気に間合いを詰めて倒す算段なのだろうか?
「お返しだ!」
「私のナイフにゃ⁉ 背中に刺さった奴をもう抜いたのかにゃ」
ファントムキャッツは飛んできたナイフを身体を横にずらして簡単に避けた。――ところが、ナイフは通り過ぎることなく、横に逃げたファントムキャッツ目掛けて襲ってくる、さながら騎士の首を狙った攻撃に近い動きであった
「クソッ… やっぱりバレちゃうにゃ~」
「あの時に決着を付けなかったのが悪いな、もしくは違う方法を取るべきか…」
「そんなことあたしが一番分かっているにゃ」
騎士は細い線――糸を手に巻いていたのだ、ファントムキャッツのナイフには糸が仕込まれており、そのおかげで投げたナイフを回収できるしナイフの軌道をずらしたり、鎖鎌の要領で攻撃が出来る。 騎士の背後を襲った攻撃は、地面に刺していたナイフを手繰り寄せることで繰り出した攻撃であった。 これらは糸や動作が視認されにくい、暗闇だからこそ出来る芸当であった。
しかし、仕掛けが分かったところでファントムキャッツの優位は変わらない。暗闇である以上、この立場は覆ることはないのだ。
ファントムキャッツが繰り出すナイフが四方八方から飛んでくるナイフが騎士を襲うが、何故か避ける動作が見かけられなかった。
そして、ファントムキャッツが思い描いたように騎士にナイフ突き刺さった、急所は狙わずに腕や足などにだ。しかしそれでも十分過ぎるほどの箇所だ、ファントムキャッツは避ける姿が見られなかったことに疑問を抱いたが、揺るがない勝ちを前に気を許してしまった。
「さてと、さっさとナイフを戻してっとにゃ~…んん⁉ 戻ってこないにゃ、ちょっと刺さった場所が悪かったかにゃ? それとも絡まってしまったにゃ? やっぱりこの糸って便利だけど、あたしでも見にくいのが欠点だにゃ~」
「おいおい、これの程度で勝てると思うなよ
「な、なんにゃんだおまえは⁉ 化け物かにゃ⁉ ――ってナイフが抜けない⁈」
「疲れて動くの面倒だからお前からこっちに来いよッ! オラァッ!」
ファントムキャッツが飛ぶように騎士に引っ張られていた。どうやら体に刺さったナイフの糸を使って、繋がっているファントムキャッツを引き寄せたようだ。 ファントムキャッツもそうはさせないと踏ん張っていたが、疲労の蓄積と力の差によりあっさり力負けしてしまった様子
「(刺さったナイフが多すぎて、1~2本のナイフを捨てても意味がないにゃ。はぁ、一か八か特攻でもかますかにゃ…)」
騎士が糸を手繰り寄せるほうがファントムキャッツのナイフ破棄より早いため、ファントムキャッツに逃げる選択肢はすでに無くなってしまった。そもそも相打ち前提の騎士がおかしいだけで、どこか間違えれば死まっしぐらだったはず…
「(勢いそのままでぶっ潰してやる!)」
勢いよく向かって来るファントムキャッツを捉えた騎士が狙っているのは顔面のみ、勢いを利用して確実に拳を叩きこむつもりだ。騎士もファントムキャッツを殺すつもりは無い、なんせ捕まえたら報酬上乗せなのだ、借金返済のためにやるしかない
ファントムキャッツも騎士が顔面パンチをしてくるのは感づいていた、それならこっちはそれに合わせてカウンターを決め込むまで。
「(勝った気でいるその頭勝ち割ってやるにゃ)」
二人の距離がゼロになろうとした瞬間、騎士は構えていた拳を全力で振るう。 ファントムキャッツもまた、繰り出された拳のタイミングに合わせて体をねじって自身の軌道をずらす、猫獣人だからこそできる芸当であり、ほかの種族ではまずできない身体捌きであった
――結果、騎士の渾身の一撃はファントムキャッツを微かに捉えただけで終わってしまった
――そして、ファントムキャッツは突き出された腕を掴んで軸にし、頭部めがけてカウンターの蹴りを叩き込んだ
「どうだ! 参ったかにゃ!」
しかし、勢いを殺さずに足を振り抜いたはずなのに、手ごたえがまるで木を蹴るような感覚に陥っていた
「……」
「――‼ マズッたにゃ⁉ 手を――」
気づいたときにはもう遅かった。カウンターの軸として使うために騎士の腕を掴んでいたファントムキャッツだが、逆にそれが騎士の反撃を許す手助けをしてしまっていた。 騎士はファントムキャッツを離さないよう片手でがっちりと掴み、そのまま地面へ容赦なくたたき込んだ
「ガハッ⁉ ハァハァ… あ、あんな蹴りを叩きk――」
どうやら一発だけではまだ意識があったらしく、ファントムキャッツの言葉を遮って、再度地面に叩き込んだ。――今度はカエルを締めるように、頭から叩きつけた
「ようやく黙ったか、華奢な身体しているのに意外としぶといなコイツ…」
ファントムキャッツからは返事が返ってくることはなく、おそらく気を失ったようだ。 手足はすでにぶら下がっており、騎士から見て力が入っているようには見えなかった
騎士は痛む身体をいたわりながらも得物であるファントムキャッツを担いで、雇い主のいる店に戻るため帰路に就いた。――なお、騎士の身体にはいくつものナイフが刺さったままである
タマキは糸使いじゃないよ! ツムギと戦闘スタイル被ってないよ!
どっちかというとタマキは忍者に近くて、ツムギはヘルシング家の死神だから
ほらっ、全然ちがうでしょ?