「組むって…、一体どんな風の吹きまわしだ?」
突然、怪盗稼業の勧誘を受けた騎士は戸惑いの表情を浮かべる。
「一緒に盗みをするっていうことじゃないからにゃ? あくまで協力体制を築くって意味にゃ」
「でも協力って言ってもなぁ… 盗みを手伝うのは嫌だな、ペコが悲しむ」
一緒に怪盗として活動することはないようだが、盗みを手伝ってくれということらしい。だが、騎士はペコリーヌとコッコロから「やってはいけないこと」を教え込まれている、言われたことをしてしまうのは気が退けてしまう。
「確かにアタシがやってるのは盗みだにゃ。けれど、それは悪いヤツらの立場から見ればということにゃ。騙された人たちからしてみれば取り返してくれた、という風に受け取れるにゃ」
「つまりどういうことだ?」
「つまり、アタシがやっていることは人助けにゃ。ただそれが盗みに見えてしまうだけなのにゃ」
ファントムキャッツは騎士が「盗み」というワードに意識が引っかかっていたことを理解したらしく、言葉の意味を言い換えることでなんとか言いくるめようとしていた。実際やってることが悪人から「金品を奪い返す」なので言っていることはまぁ正しい、ちゃんと嘘は言ってない。
「やっていることは人助け?」
「そうにゃ、人助けだにゃ。アタシは人助けを手伝って欲しいってお前に言っているのにゃ、どうだ?これなら大丈夫だにゃ?」
騎士の頭はこんがらがってきた、確かにファントムキャッツは悪人を懲らしめて弱き人々を助けている。しかし、やってることは盗みに他ならない。
盗みは悪いことだと言い聞かされているが人助けは良いことだからしなさいということも言われている… 騎士は良いことをするために悪いことするという矛盾を抱えてしまった
「ちょっと待ってくれないか? この話は仲間に相談したい」
結局、自分で判断できないので仲間に判断してもうことにした。しかし、「ファントムキャッツの手伝いしてもいい?」とやすやす聞かれても、怪盗である彼女は困る。当然、答えはNOだ。
「お前さん、どこかのギルドに入っているのかにゃ?」
騎士が仲間と言っていたので、一応ギルドなどの加入状況を聞いておくことにした。
「ああ、【美食殿】っていうギルドに入ってる」
「な~んだ、もうギルド加入済みだったかにゃ~。スカウト目的で声を掛けたんだけどにゃ~、あわよくばアキノたちに紹介してうちのギルドに入ってもらおうとしたけど残念だにゃ」
「アキノ?ギルド?」
騎士はファントムキャッツから誰かの名前やギルド勧誘がどうのこうのという言葉を聞いたが、その疑問に答える反応は返って来ることはなかった
「なんでもないにゃ~、とりあえずこの話は終わりにゃ。 それじゃあ、さっさと仲間の元にお帰りにゃ、心配してるんじゃないかにゃ?」
「いや、この話が終わったらすぐにでも帰るよ。…それにしても諦めるのが早くないか?」
諦めの速さにすこし驚いた騎士は思わず理由が聞きたくなった。
彼女は怪盗だ、しかも結構有名どころの人物である。普通は素性を明かされないよう動くはずなのだが…、例えば「死にたくなくなければ俺たちに協力しろ」みたいに口封じをしてもおかしくなさそうなのだが、もしかすると彼女の言っていた「お仲間」が関係しているのかもしれない
「いや、実際に猫の手も借りたいくらいに忙しいんだにゃ。悪人を懲らしめる実働担当がアタシしかいない、けれど悪人は山ほど居る。だからお前さんみたいに強いヤツをスカウトして楽に仕事できたらいいにゃ~と思ってたけど、お前さんにはちゃんとした仲間がいるみたいだったからおとなしく引き下がることにしただけにゃ」
「そうか…、お前の仲間になることはできないが見逃す程度ならしてやるよ」
「お前さんみたいな強いヤツが見逃してくれるなら、それだけでも十分だにゃ」
どうやらここで話は終わりのようだった。ファントムキャッツが席を立ちテーブルに代金を置いて颯爽と店の出口へ歩いて行き、「じゃあな」といった感じで手を挙げてこの場を去って行った。騎士はその後ろ姿を見えなくなるまで目で追うのであった。
「なぁお兄さん、今のカッコよさげな女性って誰だったの? さっきの身のこなしだけでも只ものじゃない感ハンパないよね」
クロエが騎士に寄ってきた、自分を助けてくれた人でもあるので気になるようだ。
「ん? あいつはファントムキャッツだけど、知らない?」
「―――ウソ⁉ マジで⁉ 冗談じゃなくて?」
超有名人の名前が出てきて流石に驚いてしまった。ということは、ここに居る青年はその有名人とガチめなファイトを繰り広げていたことになる。 クロエは騎士にも少し興味が湧いてきた。
「さて、俺も帰るとするか。なぁ、金はここであるので足りるか?」
クロエに先ほどファントムキャッツが置いて行ったお金を見せる。
「うん、大丈夫。まいどあり、良かったらまた来てよ、今度はちゃんと料理を食べにね?」
騎士も店を後にする。もう真夜中なのでコッコロが心配しているはずだ、早く帰らなければ何をされるか分からない。体はまだ痛みが残っているがこれからのお仕置きより幾分かマシなので、我慢して帰路に就く。
ひとり静かに歩いているとふと、騎士は違和感を感じた。体が妙に軽い、精神的にでは無く物理的にだ、服の中を確認していくと奪い返したお金が綺麗に無くっていて、代わりに紙きれが出てきた。
それは『怪盗ファントムキャッツ参上‼』と書いてあるカードだった。騎士にはなんて書いてあるかは分からないが、だいたい何をされたかぐらいは何となくわかった。―――辛勝か引き分けと思われた戦いは、残念ながら騎士の敗北かもしれない
「…前言撤回だな、次会ったら容赦無しにしよう」
次会ったときは必ずお金をむしり取ってやろうと固く誓うのであった。
「で、主さま? なにか言うことはございませんか?」
「…ごめんなさい」
「はい、素直でよろしいです」
騎士は宿に戻るとすぐさまコッコロがお怒りの様子であった。理由はもちろん門限までに帰ってこなかったからだ。
しかし、今回は朝帰りではないのが唯一の救いであった。もしそうだったら「強制お眠の時間」にされていたであろう…、コッコロの教育は非常に厳しいのである。
「はぁ~…、そのお怪我から察するに何かに巻き込まれたのでしょうから今回は大目に見ますが、何があったかくらいは教えてくれませんか?」
騎士はコッコロの言葉にうなずいて、事の顛末をコッコロに打ち明ける。とあるお店の用心棒になったこととファントムキャッツと戦ったこと、仲間に誘われたことを素直に伝えるとコッコロは頭に手をあててため息をついていた。
「そのようなことがあったのですね…。とりあえず御無事で何よりです、傷の具合を見せてもらえませんか?」
「わかった」
騎士は服を脱いで、コッコロの指示に従った。傷はある程度の応急処置の後が感じられるような具合になっていた。
「刺し傷と切り傷が多いですね、相手はお一人だったのですか?」
「あいつ一人だったよ、獣人だからか夜目が冴えていたかもしれない、おかげでこの様だ」
「怪盗なのに名が広まっていることは伊達ではないようですね、しかしそんな相手に無事に戻ってくるとは主さまはお強いですね」
「まぁ互いに本気じゃなかったしな、本気だったら今頃死んでた」
コッコロの回復魔法を受けて、傷跡すら残らなくなった騎士は服を着なおす。コッコロの褒める言葉を聞いても素直に喜べない、今回は相手が良かったそれだけだ、もし悪い奴なら今頃殺されていたと騎士は思っている。
「なあコッコロ?」
「なんでしょうか主さま?」
「俺は強くなりたい、このままじゃ自分もペコリーヌ、コッコロたちを守れないと思う。だから強くなる手伝いをして欲しい」
「…わかりました。このコッコロ、主さまの成長に力添えしましょう。ですが、わたくしを守るほど強くなるには1000年ぐらいは掛かるかも知れないですけどね」
コッコロとしては騎士には危険な目に遭って欲しくないので、どうせなら常に隣か目の届く範囲で居て欲しいのだがそうもいかない。騎士が強くなることを前向きに考えて、コッコロは騎士の成長を手伝うことにした。最後の言葉は余計だが…
「しかし、わたくしが扱うのは槍なんですよね。主さまは剣を扱うではないですか、わたくしは剣の扱いはそこまでよろしくありませんよ?」
コッコロの言う通り、騎士に教えるなら槍になってしまう。しかし、コッコロは剣を扱えないとは言っていない。
「槍でもいいよ、使える武器は多い方が良い。とっさに戦えるようにしたいんだ」
どうやら騎士の考え方は常に戦い続けるようにしたいらしい、自分の武器が無くなっても落ちているものや相手の武器を奪って使うといったところだろう。
「わかりました。では、時間の余裕があった時にでも鍛錬をしましょうか。少しずつ強くなっていきましょう、主さま」
「よろしく頼むよ、コッコロ」
こうして、コッコロとの鍛錬が日課として追加されたのであった。
翌日の朝、コッコロと騎士は外に居た。昨夜の話の続きの用で、まずは現状確認として騎士の実力をコッコロが測りたいらしい。
「では主さま、お好きなようにかかってきてくださいませ。もちろん遠慮はいりませんよ?」
「それじゃあお言葉に甘えて…、ケガさせたらごめんな?」
コッコロに言われた通りに騎士が足を踏み込んで、先制の一撃を振るう――動作は単純だが、かなり素早い一撃だ。にもかかわらず平然とした様子で避けられてしまった。
すかさず2撃目を放つがまた空振ってしまった。騎士はあきらめずに剣を振るい続けるが当たる気がしなかった。
「ほら、これじゃあ戦いにはなりませんよ?」
「うるせぇよッ!」
コッコロは余裕の笑みを浮かべながら騎士に話しかけている、しかも挑発じみた言葉遣いだ。さすがに騎士はイラっときたが、如何せん剣が当たる気配が全くしなかった。
「常に全力で振るっていると体力の消耗が増えてしまいますよ? 強弱をつけたほうがよろしいかと」
コッコロの言う通り、騎士は常に全力振りだ。剣の技術は一切なく、ただ力を使って相手に向かって振るだけ。しかし、なまじ力が強すぎるせいである程度の敵相手なら通用してしまう、そこらへんのモンスターやゴロツキ程度なら一撃で十分なほど。
けれど騎士の仮想敵は力も技術も持っている存在だ、このままではいけないと騎士自身も理解しているからこその現在の鍛錬なのだが
「大体わかりましたので、次はこちらから行きますよ」
逃げ一遍だったコッコロの雰囲気がガラリと変わるような気配を騎士は感じ取り、とっさに剣を構えた。
―――瞬間、騎士の胸元を狙うように矛先が飛んできた。騎士は自身の剣で打ち払う。
槍を払われたコッコロは、剣で払われた慣性を利用して初撃より加速を付けた攻撃を浴びせる。騎士の取った行動は剣で受け止めるのではなく避けることにした、慣性を利用して槍が振るわれたことが何となく理解していたようだ。
しかし、コッコロが攻めに転じた瞬間に騎士が攻めに入ることが出来なくなっていた。やっていることは先ほどの騎士同様にひたすら槍を振るっているのだが、上手く狙いを変えながらカウンターの一手も出せないようにしていた。
コッコロは槍の穂だけではなく柄、石突も全てをつかって攻撃をしている、穂先が弾かれたらすぐさま石突部分が飛んでくるのだ。おまけに速度がえげつない。騎士が捉えられる範囲の速度に調節しているのだが、どうやらコッコロはギリギリを探っているらしく、普通に容赦がない。
「ちょっ⁉ 俺を殺す気か⁉」
「殺さない程度を探っているのですよ、我慢してください」
騎士が咄嗟に間合いを離して仕切り直しを図ろうとするが、コッコロはそれを許さないらしく、距離を詰めていく。まるで憂さ晴らしをしている表情を浮かべており、楽しんでいるようにうかがえる。
「コッコロ、なんだか楽しんでないか?」
「何をおしゃっているのですか、ほらさっさと反撃してください。お強くなりたいのでしょう?」
騎士とコッコロの初めての鍛錬という名の一方的殴り合いはペコリーヌが迎えに来るまで続いた。
勿論、ペコリーヌが二人の元に着いた頃には騎士はぐったりしており、これにはペコリーヌもドン引きであった。
更新少し遅れて申し訳ないです、もしかすると不定期更新になるかもです。
試験勉強や勤務形態の変更だったりと色々大変になりそうです。