プリンセスコネクト! Re:Birth   作:UNAG3

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遅くなっちゃいました。仕事や勉強で大忙しでしたよ、モチベも上がらずグダグダしてましたわ。

とりあえず、継続は力なりと言うことで間隔空いても頑張って投稿していきます。


第24話

荷馬車一行は【サレンディア救護院】を出発してから、およそ2時間が経過していた。騎士とペコリーヌは先頭馬車の荷台の屋根に並んで座っていた。

 

「見てくださいよ騎士くん!ランドソルが小さく見えますよ~」

「だいぶ移動したからな。あと、あんまりはしゃいでるとすぐ腹減るぞ」

「いや~、なんやかんやで私と騎士くんのふたりで行動することって初めてじゃないですか」

「確かになぁ…、いつもはコッコロも合わせて3人行動が基本だったもんな」

「そうなんですよ、今回は滅多にないチャンスだと思いませんか?」

「何のチャンスだよ、それ……」

 

騎士はいつもよりはしゃいでいるペコリーヌを軽く相手をしながらも一人周囲の警戒を続けていた。一方、ペコリーヌは仕事というよりもピクニック感を醸し出していた。

騎士と二人きりでお出かけしているの嬉しいのだろうか……まぁ、実際は二人きりではないが

 

「それにしても【牧場(エリザベスパーク)】の牧場は遠いですね~、あと小一時間は掛かるんじゃないでしょうか?」

「どうだろう、俺としてはこのまま魔物とかが出なければいいかな」

「出ないと言えば、魔物がまだ現れていませんね~? いっつも出向いた先で必ずと言っていいほど襲われていましたから、ちょっと違和感がありますよ~」

 

ペコリーヌの言う通り、【美食殿】として郊外での活動をしているとしょっちゅう魔物が徒党をなして襲い掛かって来ていた。しかし本日はお休みなのか、そのような気配は全くと言っていいほどに静かだった。

 

「たまにはこんな日もいいじゃないか。ゆっくりしていこうぜ?」

「それはそうなんですが…、さすがに何もないのに飽きたと言いますか、暇と言いますか…」

「なら、そこら辺の木とか数えてたらどうだ?」

「いくら暇だとは言え、木を数えるなんて普通やりますかね…」

 

出発当初はテンションアゲアゲなペコリーヌであったが、トラブルも魔物の襲撃のようなことも起きなく…暇なので騎士の横顔を眺めていたり、周囲の景色を眺めていたりと時間を潰していたが流石に飽きた模様。

 

結局ペコリーヌは見える範囲の木を数え始めた。本当は騎士といちゃいちゃしたかったのだが、仕事モードに入っている騎士はあまり構ってくれない様子だったので潔く諦めた。

 

 

 

 

 

「526、527、528、529、530………もう飽きました! あと、お腹も減りました!」

 

ペコリーヌが木を数え始めてから30分経って、ようやく限界が来たようだ。それにしても良く続いたものだ…これで騎士は横でペコリーヌのブツブツ声をこれ以上聴かずに済んだ。

 

「お疲れさん、昼飯には早いけどおにぎり食べるか?」

「是非いただきます!…うん、おいしいです!具は鶏肉ですかね?」

「一口で食べるなよもったいないなぁ」

「一つじゃ物足りないですねぇ…、どこかに木の実でもありませんかね?お腹の足しにしたいんですけど~」

「なんでも口に入れるのは良くないってコッコロが言ってたぞ?」

「ふつうの人ならそうかもしれませんが私は特別ですからね。自然に存在する毒程度なら無効化できるので問題ナシなんです。ヤバいですよね☆」

「すげぇなそれ、普通にうらやましい」

「ですが、デメリットとしてすぐにお腹が減ります」

「なんだそれ」

 

ペコリーヌが言っているのは「とある装備」のことである。これはカロリーを消費する代わりに身体能力を大向上させる代物で、対象になるものは筋力だけでなく視力・聴力・免疫力など多岐にわたる。

 

なお、先ほどペコリーヌが数えていた木の本数が多かったのも、視力が常人以上になっていることで、数えられる範囲が広くなっていたからである。

 

「おや?……あれは動物でしょうか、それとも魔物ですかね? 進路先に何か居ます」

「ほんとか? ん~…俺にははっきり見えないが、何か居そうかな?」

「ええ、でも確かに私には見えてます。 あれは茶色ですね、一体だけで居るようですが……」

「群れてないなら楽勝だな、さっさと行って斬ってこようか?」

 

騎士はそう言って荷台から飛び降りて、魔物?を狩りに行く気マンマンの状態だった。ペコリーヌのGoサインが出れば今にでも飛んでいきそうだ。

 

「ストップですよ騎士くん。仮に相手が魔物だったとしても害を成さない命を無闇に刈り取るのは気が退けます。襲われたら対処するぐらいにしておいてください」

「わかった。ペコがそう言うならそうするよ」

「ありがとうございます」

「気にすんな、俺はペコに従うだけだ」

「騎士くんも意見とかわがままくらい出してもらってもいいですよ?なんか上下関係があるみたいでちょっぴり寂しいですよ」

「そういわれてもなぁ…」

 

騎士と名付けたのはペコリーヌだが、かといってお姫様というか目上の存在のような扱いをして欲しかったわけでなく、もっと同年代の友人に近い関係を築きたいのだが騎士にはやっぱり伝わらないわけで……ペコリーヌの騎士への恋路はまだ舗装されないようだ。

 

「で、どうする?俺が確認してこようか?」

「いえ、わたしがちょっくら先に行ってきます。騎士くんは馬車と一緒に居てください」

 

ペコリーヌも馬車から飛び降り、自身の剣を携える。

 

「やばくなったら叫んだり何かしてくれよ。すぐに向かうから」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。それじゃ行ってきますね」

 

騎士から向けられる過剰な心配は一度置いといて、ペコリーヌは茶色の生き物のもとへ向かって行った。


 

 

 

「なんと獣人(ビースト)の女の子が居ました」

「……ん?どういうことだ?」

 

あれからペコリーヌはすぐに戻って来た。…のだが、何故かペコリーヌの後ろには女の子が背負われていて、隣には大き目な茶色い生き物がいる。

 

女の子の頭には獣人(ビースト)特有の獣耳が見える、意識がないのか萎れているように見える。

そして、付き添うようにいるモフモフした生き物はおそらく魔物だろう。ここにいる人たちの2倍ほどの大きさの体、足には大層ご立派な爪が目立っている。一般人なら近付かれるだけでも卒倒モノだ。

 

「この子が居た場所に気を失っていた女の子がいたんですよ。最初は襲われていたのかと思って驚きましたが…」

 

この子と言っているのは茶色の生き物のことだろう、ペコリーヌに撫でられて目を細めている。もしかすると気を失っている女の子のペットだろうか。

 

「コイツって動物じゃなくて、魔物だよな…?」

「はい、たぶんそうだと思います。私もこういうのは初めての体験ですよ、魔物って大体こちらに気付いたら襲ってきますからね」

 

ペコリーヌの言う通り、魔物というのはどの種族であっても明確な敵として判断できるほどに良く襲ってくるような生物なのである。魔物にであったら襲われるのが世間一般の常識なのだが――

 

「でもコイツはそうじゃないと」

「ええ、この女の子を守るようにしてジッとしてましたからね。最初は威嚇されましたが、私を無害だと判断してくれたようで」

「その子と魔物はどうする? 一緒に連れていくのか?」

「そうするしかないでしょうね。荷台は空きがあるのでそこで休んでもらいましょう」

 

一度、馬車の人たちに断りを入れて、ペコリーヌは女の子を荷台の中に降ろして寝かせてあげた。モフモフ魔物も同じようにして荷台に乗り込み、女の子の傍で寄り添うように腰を下ろした、まるでわが子を守る親のようだ。

 

「いや~、珍しいものを見させてもらいましたねぇ~」

「なんだかご機嫌だな」

「まぁ、女の子が気を失ってしまっているのは心配ですが…。でも、魔物と人がああやって共存している姿を見て知ったら、この世の中にはまだ優しさというか何というか…温かみっていうものがちゃんとあるんだな~って思いませんか?」

「……いや、さっぱりわからん」

 

ペコリーヌが言っていること、感じていることを騎士はまだ理解できていない様子だった。

 

「そうですよね~、わかってましたけど。でも、いずれ騎士くんもこの気持ちが分かる日が来てくれると私は嬉しいですね」

「ペコが喜んでくれるんだったら、頑張ってみるよ」

「はい♪期待して待ってますから」


 

時刻はもうすぐお昼ごろ、荷馬車の一行は山の麓まで来ていた。周りはすでに森におおわれていて緑一色、いかにも「山に来ました!」みたいな場所だ。ランドソルの街よりも空気が澄み切っているような感覚さえ感じ取れる。

 

耳を澄ませば鳥たちのさえずりと木々のさざめき、風が通り過ぎる音…そして一番近くからは「グゥ~」というお腹が鳴る音が聞こえてくる。

 

「もうそろ着きますかね? かな~りお腹ペコペコなんですけど…」

「俺のぶんを少し食べるか?」

「いえいえ、そういう訳にはいきません! 牧場に着くまで我慢します! 私は我慢強い女ですから」

「我慢強いって言うなら、この空っぽの弁当箱はなんだよ」

「………てへっ、ヤバいですね☆」

 

騎士の視線を可愛さアピールでごまかそうとするが早弁(犯行)がバレた以上、無意味である。

この腹ペコ少女(ペコリーヌ)は昼前には自分の弁当を喰らいつくしていたのだった。それでも量が足りなかったらしく、今もこうしてお腹を鳴らしてEmptyサインを出している。

 

それにしても、一般人というか女の子がお腹が鳴る音を人に聞かれたら恥ずかしがるのが普通のリアクションかもしれないが、ペコリーヌは違う。違うと言っても最初の方は顔を真っ赤にしながら恥ずかしがることもあったのだが、あまりの鳴る頻度に騎士とコッコロが慣れて気にしなくなった辺りからペコリーヌも恥ずかしがることが無くなった…。

―――慣れとは恐ろしいものである。

 

「てか、牧場に着いたとしても食べ物にありつける保障は無いと思うんだが…それはどうなんだ?」

「たぶん大丈夫だと思います! だって食料の生産している場所ですよ? 食べ物があるに決まってるじゃないですか!」

「…そ、そうなのか?」

 

ペコリーヌの力説に押される騎士。ペコリーヌにごり押しされてしまえば流石に頷くことしかできない。ペコリーヌが黒と言えば、白もすこし灰色にはなってしまうのが騎士の性である。

 

なにがともあれ、目的地の牧場はすぐそこまでと言えるほど騎士とペコリーヌたちは移動していた。

道のむこうには平原らしき場所が見えてきた。きっと今進んでいる道を抜ければ牧場なのだろう。

 

「おっ? もしかするとあそこが【牧場(エリザベスパーク)】の牧場ですかね? ようやくご飯が食べれるんですね♪」

「…だといいけどな」

「そうとなればテンション上がってきましたよ!って誰かいますね、ここの人でしょうか?」

「確かに誰かいるな、ちっこい人影があるけど…。ん~、あれは獣人(ビースト)っぽいな」

「なら【牧場(エリザベスパーク)】確定でしょう。ふぅ…長かったぁ…」

 

なんだかペコリーヌがやり切った感をだしているけれど、まだ折り返し地点に着いただけである。これから荷物積みをしてから来た道を戻らなければならないのだが、ペコリーヌのおなかが都合の悪い事実を隠しているようだ。

 

道を進んでいくと騎士とペコリーヌたちを乗せた荷馬車一行は広い平原に出ていた。左右に牛やヤギなどのたくさんの家畜が放牧されており、少し道を進んだ先には小屋もあるので目的の牧場に着いたことは間違いないだろう。

 

そのまま馬車に揺られていると、先ほど見えていた人が近付いてくるのが分かった。近付いてきた人には頭に耳、後ろには大きなしっぽが付いているのが見える。騎士の言っていた通り獣人(ビースト)のようだ、しかも小柄な女の子。

 

「やぁやぁ。きみたちは【牧場(エリザベスパーク)】になにかご用かい?」

 

身の丈以上ある槍を携えた獣人(ビースト)の女の子がこちらに話しかけてきた。文脈から【牧場(エリザベスパーク)】の関係者で間違いないだろう。

 

「あっ、あなたはリンさんじゃないですか! お久しぶりです!」

「ん? …あぁ、あの時のお姉さんとパッとしないお兄さんじゃないか。久しぶりだねぇ、元気にしてた?」 

 

出迎えてくれたのは数か月前に少しお世話になった、リスの獣人(ビースト)『リン』であった。


 

リンの案内に従い、騎士とペコリーヌたちは再度移動を始める。リンが荷馬車の先導をしてくれるようだ。

 

「今日はお客さんが来ることは知らされていたけど、ここでまた会えるとは奇遇だね。えっと名前は確か…」

「私がペコリーヌで、こちらが騎士くんです」

「ペコリーヌさんと騎士さんっと…、あれ?そこのお兄さんってそんな名前だったっけ?」

「あのあとに名前を決めたんですよ、彼は記憶を失っていますから」

「あ~、確かにそんなこと聞いたような…。それにしてもペコリーヌさんはよく私の名前覚えてたね、私なんか会って2,3回程度じゃ覚えられないよ~」

「私は幼少期の頃から人の名前を一回で覚えられるように教育されてましたから」

「へ~、なんだか貴族やお偉いさんみたいだね~。…おっと、馬車はここで待機してもらえるかい?」

 

リンが荷馬車の人たちに待機位置の指示を出し始める。すぐそばにはサレンが購入したであろう商品がまとめて置かれているのが見える。

 

「それじゃあ、私は持ち場に戻るからね。ゆっくりしていくといいよ」

「ありがとうございます。それでなんですが、お願いしたいことがありまして」

「お願いしたいこと?」

「はい、私たちがここに来る道中で保護した女の子がいるんですが…」

「女の子? …その子は今どこにいるの?」

 

ペコリーヌの言葉に心当たりがあるのか、リンの表情が少し変化した。そしてリンを案内するようにペコリーヌが女の子と魔物が居る荷台に移動する。

 

「荷台で休んでもらっています、こちらで大きな魔物さんと一緒に」

「これは…、しおりんとニャットじゃないか…」

「よかったぁ、お知り合いだったんですね」

 

ペコリーヌたちが馬車の荷台を覗くとニャットと呼ばれていた魔物がまだ女の子を包み込むように寄り添っていた。しかし、女の子の意識はまだ戻ってはいないようだ。

 

「うん、この子はシオリって言うんだ。ここで一緒に暮らしてるんだけど、生まれつき身体が弱いらしくてね」

「そうだったんですね、でもどうして一人で…」

「今日は調子が良いから大丈夫だって言って、一人で出かけちゃったんだよ。はぁ~言わんこっちゃないなぁ」

「で、どうするんだ? ここまま寝かせておくのも良くないだろう?」

 

騎士の言う通り、これから荷台へ物を積まなければならなく、場所を退けてもらわなければならない。本来なら安静にしてあげた方が良いのかも知れないが…

 

「そうだね。しおりんの部屋に案内するから運んでくれないかい? 私が運びたいところだけど…この通り体が小さいから厳しいんだよね」

「なら、俺が運ぼうか?」

「お兄さんかぁ…。どさくさに紛れてしおりんに変なコトしないでよね」

「変なことってなんだよ?」

「……まぁ、いいや。よろしく頼むよ」

 

騎士はシオリを運ぶために荷台に乗り込むと、リンと騎士の会話の内容が伝わっていたのか、ニャットと呼ばれた魔物がその場から立ち上がり、荷台から降りたのであった。

 

「それじゃあ、部屋はこっちだから私に付いて来てよ」

「わかった。ペコ、こっちの方はよろしくな」

「はい、わかりました。私は【牧場(エリザベスパーク)】の代表さんに挨拶しに行ってきますね。騎士くんも粗相が無いようにお願いしますよ?」

 

騎士はシオリを抱えて、リンの後に着いて行った。ペコリーヌは【牧場(エリザベスパーク)】の代表もといギルドマスターに会いに行こうとするのだが、いかんせんどこに居て誰なのかさっぱり分からない。前もってリンに聞いておけば良かった思うが、すでにリンは騎士と共に建物の中に入ってしまっている。

 

「とりあえず、周りに居る人に聞いてみますかね~? お~い! すみませ~ん!」

 

ペコリーヌはちょうどよく近くで作業をしていた男性に声を掛けみた。

 

「ん?どうしたんだい?」

「ここで働いてる方ですよね? こちらの代表さんにお会いしたいのですが…」

「ああ、今の時間帯なら牛の世話をしてるはずだよ。あっちに牛舎があるから分かりやすいと思う」

「仕事中、ありがとうございました!」

 

男性が指を指した方向にさっそく行ってみる。周りを見たところ人が沢山働いているようには見えないのですぐ見つかるだろう。

 

 

 

 

牛舎に着いたものの人の姿が見えない。牛は沢山いるのだが、肝心の人が見当たらない。牛で見えないのか、行き違いになってしまったのか…

 

「えっと……牛舎はここですよね? すみませ~ん、【牧場(エリザベスパーク)】のギルドマスターさんはこちらにおいでですか~?」

「ギルドマスターはオラだけど、何か用事だべか?」

 

声の主は近くから現れた、小さい体に青い髪、そして目立つ牛の被り物。近くにいたらしいが、どうやら牛に隠れていたようだ。しかし、小さすぎて見つけづらい…もし、声が届いていなかったら見つからなかったかもしれない。

 

「―――あ、あなたは……マヒ、ルさん、ですか……?」

「んだんだ。…久しぶりだなぁ、あの時に比べて元気でなによりだべ」

 

マヒルと呼ばれた少女はペコリーヌに笑顔を向けていた。

―――ペコリーヌはかつての恩人に偶然の再会を果たしていた


 

「ほら入って~、ここが私たちの居住空間だよ」

「お邪魔しま~す」

 

リンに誘導されるようにして騎士はシオリを抱えて家におじゃまする。ニャットも騎士と一緒に入ってきているが、リンは気にしていない様子なので一緒に暮らしているのだろう。

 

「あらリンちゃんじゃない。それに…お客さんかしら?」

「やぁ、リマは休憩中だったかな?」

「―――⁉ 魔物っ?」

 

家に入ると中には2足で立っているもふもふした生き物が存在していた。明らかに人間(ヒューマン)でも獣人(ビースト)にも見えない…馬かロバとか、もしくは魔物…。そこら辺の親戚と言わたほうが納得できるレベルだ。

 

騎士はとっさに抱えているシオリを自身の体で庇うようにして姿勢をすばやく整えた。

 

一方、リンに「リマ」と呼ばれていた謎のもふもふ生物は騎士の魔物発言に対して……

 

「だぁあ!れぇえ!がぁあ! 魔物ですってぇええええ⁈」

「あっちゃ~……」

 

リマ、大激怒である。魔物じゃないのに魔物扱いされているのだ、当たり前っちゃ当たり前だ。

となりで見ていたリンも流石に擁護できない。しかし初見でリマを魔物や動物と勘違いしてしまうのも無理はない。と思いつつも言い出せないリンであった。

 

「こんなにもふもふして可愛い生き物が魔物な訳ないでしょうが! 失礼な殿方ね、まったく!」

「そ、そうか…。ごめんな、勘違いして」

「分かればいいのよ、分かれば…。これからは気を付けてよね?」

「うん、これからは気を付けるよ」

 

咄嗟の謝罪により、なんとか許しを貰った騎士。女性に対するマナーをほんの少しは学ぶことが出来た一件であった。

 

「それよりもシオリちゃんじゃない! どうしたの? 今日は一人でお出かけするって言ってたけど」

「うん、そうなんだよ。今来たお客さんたちが倒れていたところを見つけてくれたらしくて、一緒に連れてきてくれたんだ」

「そうだったのね、ありがとうお兄さん。私たちの仲間を助けてくれて」

「助けたのは俺じゃなくて、ペコの方だ。礼なら彼女に言ってくれ」

 

騎士は感謝の言葉に対してお礼はペコリーヌにしてくれと言って、リマの言葉を受け取ろうとしなかった。

 

「あらそうなの? でもこうしてシオリちゃんを運んでくれてるじゃない、それだけでも十分助かってるんだから感謝の気持ちは素直に受け取っておきなさいな」

「そうそう、誰かから感謝の言葉が贈られるのは多くないんだからさ? もらえるときに貰っておくのが良いと思うよ~」

「……それって、リンちゃんがいつも仕事をサボろうとしてるからでしょ~」

 

リンの発言にリマのツッコミが刺さる。ぐうたらしているリンに感謝の言葉を贈るようなもの好きはそうそういないだろう。

 

「んんっ…、ここは…」

「おっと、目を覚ましたか?」

「えっと……。あ、あなたは?」

 

騎士の抱えた腕の中でようやくシオリが目を覚ましたようだ。起きてすぐ目の前に見知らぬ男性の顔が見えているせいか困惑しているようだ。

 

「シオリちゃん大丈夫? 痛いところとか違和感とかない?」

「しおりん心配したんだよ~、道で倒れてたって聞いてたからさ」

「リマさんにリンさん……? あぁ、私ったら道の途中で気を失ってしまったようですね…」

 

リマとリンに声を掛けられたシオリは自分の状態を理解したようだ。心配をかけてしまって申し訳ない、といったような表情をしている。

 

「あまり無理しちゃだめよ? 今回は良かったものの、何かあったらみんな悲しんじゃうわ」

「はい、ごめんなさい。最初は調子よかったので大丈夫だと思ったんですけど…」

「まぁまぁ、こうして無事だったんだから結果オーライにしようよ? しおりんもすごく反省してると思うし、この話はもうおしま~い」

 

別に責めているつもりはあるわけ無いが、シオリは自分を自分で責めてしまうような優しい子だ。しょんぼりしているシオリの顔を見かねたリンは今回の件についての話を強引に終わらせた。

 

「そうね、とりあえずシオリちゃんはおちつくまで部屋で安静にしてましょ。シオリちゃん何か食べ飲みする?」

「そうですね…食べ物はいいので、飲み物を貰えると助かります」

「わかったわ。それじゃあ持ってくるから、リンちゃんは案内よろしく~」

「あ~い。ほらお兄さんいくよ~」

 

再度、リンの案内に従ってついていく騎士。騎士にお姫様だっこされているシオリは降ろして欲しいと言うアイコンタクトをリンに送っていたが完全に無視されてしまっている。

 

これはリンの気遣いと同時におしおきでもあった。年の近い男性とのコミュニケーションがほぼ無しのシオリにとって、男性にお姫様だっこされることなど、ましてやその姿を見られるなどある種の拷問に近い。

 

ちなみにリンはシオリの顔が恥ずかしさで赤くなっている姿を見てニヤニヤしているだけだった。

 

「はい、ここがしおりんのお部屋だよ。ベットに寝かせてあげてよ」

「あ、あの…もう自分で動けますから…」

「どうどう、病人のしおりんは安静にしないとダメだよ~? ほらお兄さん、無視して寝かせてあげて」

「……あぁもう、好きにしてください…」

 

リンの追撃により、シオリは諦めモードに突入した。真っ赤になった顔を両手で隠しているが、さすがにもう遅いだろう…

 

「それじゃあ、私は仕事に戻るから。しおりんはそこのお兄さんにお礼言うんだよ~」

「えっ? ちょっとまってリンちゃん⁈ 二人きりはちょ―――」

 

冗談と思いたかったが、マジでリンはシオリの部屋を後にした。普段ならあの手この手で仕事をサボる言い訳を言っているようなぐうたらな人物なのだが…。

 

残念ながら今回は違った、別に悪いことをしているわけではないので文句の言いようがない。これは質が悪いと思うシオリだった。


 

「あ、あのっ…助けてくれて、ありがとう、ございます」

「そのくらい気にするな、実際助けたのはペコリーヌっていう俺の仲間だ。俺は運んだだけだし」

「それでもですよ…。あ、申し遅れました、私の名前はシオリといいます。改めてありがとうございます…」

 

ベットに寝かされたシオリは起き上がり、騎士に面と向かって姿勢を正して自己紹介した。

 

「俺は騎士だ、本当の名前は分からないから仮の名前らしいが…、まぁ好きに呼んでくれ」

「騎士さんはご自身の名前がわからないのですか?」

「俺には記憶が無いんだ、気づいた頃には仲間と一緒にランドソルで生活していた」

「そうなんですか…大変なんですね」

「いや別に不便を感じたことがないから大変とは思わないな。けど『さっさと記憶を取り戻せ』って言ってくるちっこいエルフが少し鬱陶しいくらいか?」

 

騎士はコッコロのことを思い出す。コッコロは自分の使命を全うするには騎士が完全な状態に戻ってもらわないといけないらしく、度々愚痴をぶつけたり、文句を言ったりしている。

 

「エルフですか…。実は私、獣人(ビースト)とエルフのハーフなんですよ?」

「でも、エルフって耳が長いのがほとんどだよな…?」

「はい、私の姉はそうなんですけど…。私たち姉妹は見た目が何故かバラバラなんですよね。これって珍しいらしくて―――」

 

それからシオリのお姉ちゃん話が続いた。見た目が似てないことや寝ることが大好きだとか、摩訶不思議な魔法をつかえるだとか…、気が付けばシオリの口からはたくさんの言葉がすらすらと出ていた。つい先ほどまで顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた子とは思えないほどに。

 

「…それでですね。って、すみません…。ちょっと喋りすぎてしまいましたね」

「いや別に気にしてないぞ? むしろさっきより元気そうでいいじゃないか」

「はい…、私も不思議です。男の人とこうして一対一で話すことも、こうやって一緒に居ることさえも初めてなんですが…なんでしょうね?」

 

シオリはちょっと恥ずかしそうにしながらも騎士と会話を続けていると、ドアの向こうから微かな物音が聞こえるのをシオリの耳が捉えた。ちなみに騎士はまったく気付いていないようだ。

 

…シオリは無言で腰かけていたベットから立ち上がり、床に座っていた騎士の横を通り過ぎていき―――部屋のドアを開けると…

 

「「あ」」

 

リンとリマが仲良くシオリの部屋に向かって耳を傾けていた。

 

「…お、おふたりは、い、いつからそこ、に…?」

「えっと……私は飲み物を持ってきたらリンちゃんがここにいたから…」

「ちょ、ちょっとリマ⁈ 私を売らないでよ~。 …でも、しおりんったら――」

「「いつもとちょっと違って、可愛かったよね~?」」

 

どうやらリンとリマ(盗み聞きコンビ)は一切悪びれも反省する様子は全くないらしい。

 

そんなふたりを見ていたシオリはと言うと身体は小刻みに震え、頬を赤らめ、目にはうっすら涙を浮かべて――

 

「もうしらないっ! ばか! あっちいって!」

 

なんともかわいらしい怒声が周囲に伝わる…。

シオリなりの罵詈雑言を叩きつけたつもりなのに、一切伝わっている気配もなく、ふたりの笑いが増えるけだった。


 

「悪いなリマ、これは俺の仕事なのに手伝ってもらって。おかげでほとんど片付いたぞ」

「いいのいいの、気にしないで頂戴♪ 私は力仕事に自慢があるのよ? ほれっ」

「おぉ、すごいなぁ…。うちに欲しいくらいだ」

「あらやだ~、私のことを欲しいなんて騎士さんったら~♪ …ペッ!」

「つばを吐くな、つばを」

「あらやだ。私ったら、うふふふ」

 

現在、騎士とリマは馬車に荷物を積みこんでおり、絶賛リマの力強さがお役立ち中である。

 

本来なら騎士とペコリーヌで作業する予定だったのだが、ペコリーヌが近くに見当たらないので結局騎士一人で仕事をしていた。そんな騎士を見ていたリマが手伝いの申し出をしてくれたのだ。

 

「それにしても結構買い込んでるんじゃない? マヒルちゃんが言ってた大口契約の相手って、もしかすると騎士くんたちなのかしら?」

 

騎士と一緒に積みこんだ荷物たちの量を見ると、いつぞやのマヒルが言っていた話を思い返す。…確か、「これは安定収入への一歩だべ!」とか、なんとか言っていたような…

 

「そうか? 俺はサレンに頼まれて来たからなぁ…細かいことはさっぱりわからん」

「そうなのね~、でもこの数は一家族で消費できる量じゃないわよ~?」

「それなら大丈夫だ。うちは子供とか沢山いるし、何よりいつも腹ペコなやつもいるから問題ないだろう」

 

騎士の言う通り、騎士が居候している【サレンディア救護院】には沢山の育ちざかりな子供たちが住んでいるし、なによりペコリーヌがいるのだ。

 

すでに救護院内にある食材は痛む前に消失してしまうフィールドが彼女によって形成されていたのだ。

 

「騎士くんが言うなら安心かしらね? 私たちが汗水垂らして、手間暇かけて作ったものだからちゃんと沢山の人たちに食べてもらいたいのよ」

「そっか。それじゃあ、ありがたくいただくとするかな。 よっと…、これで積み込みは終わったかな?」

「たぶんそうね、見た感じ忘れ物は無さそう」

 

どうやらペコリーヌが戻ってくるまでに騎士とリマだけで積み込みが終わってしまったようだ。先ほどまで、一か所に積まれていた荷物たちはすでに馬車の荷台の中だ。

 

「ペコの奴…、いつ戻ってくるんだ? 積み込み終わっちまったぞ」

「何か言ってなかったの?」

「代表に会うとかなんとか言ってような…」

「ならきっと、マヒルちゃんに会いに行ってるのね」

「そのマヒルってのはどこに居るのか分かるか?」

「そうね~、今の時間帯なら牛かヤギの世話をしてるかも」

 

なんだかペコリーヌのことを心配してそうな騎士を察したリマが、代わりにペコリーヌを探しに行ってあげようかと提案したとき、リマの視界にギルドマスターであるマヒルと何かを頬張っている長髪の女の子が並んで歩いている姿が映った。

 

どうやらマヒルとペコリーヌはこっちに向かってきているみたいで、ペコリーヌは騎士に向かって手を振っている。これで探しに行く必要も、騎士が安否を心配する必要もなくなったみたいだ。

 

「遅れてごめんなさい騎士くん。ちょっと話し込んじゃいまして…」

「もうとっくに荷物運んじまったぞ。あとはもう帰るだけだ」

「ありゃりゃ、それはすみません。でも、ひほひへはふには(一人でやるには)早かったんじゃ?」

 

辺りを見回すペコリーヌ、けれど腕に抱えている食べ物を口に入れることはやめない。絶対に謝罪の誠意が伝わってなさそう。

 

「それならリマに手伝ってもらったんだよ」

「お久しぶりねペコリーヌちゃん、さっき騎士くんから聞いたけどシオリちゃんを助けて貰ったって聞いてね。どうもありがとう」

「いえいえ、当然のことを下までですよ。リマさんも手伝っていただいてありがとうございます」

「別にいいのよ。好きでやってるんだから♪」

「リマさんは相変わらずモフモフしてて可愛いですね」

「やだもぉ、ペコリーヌちゃんってばお世辞言っちゃってぇ♪ ペッ!」

 

再会を交わすペコリーヌとリマ、ペコリーヌの褒め言葉を素直に受けてまたも唾を吐いている。

それを見ていたペコリーヌは流石に苦笑い、マヒルは客人の前ではやめてけれ、と頭に手を付いて軽くため息を吐いた。

 

「そういや、シオシオはどうしたべか? 寝てるべか?」

「うん、まだ疲れ?が残ってるし安静にさせてるわ。 …まぁ、原因は私たちにもあるけども…」

「ん? どういうことだべ?」

 

あの後、シオリはキャパシティダウンしてしまったので現在ベットで安静中。体調は大丈夫なのだが、恥ずかしさが引くまで部屋にこもってるだろう。

 

「それでこのあんちゃんがペコペコの言っていた『騎士』っていう人だべか? オラはマヒルだ、よろしくな」

「あぁ、よろしくマヒル」

「うんうん。ええあんちゃんでねぇか? ペコペコはええ人に会えてよかったなぁ」

「はい、ヤバいですね☆」

 

騎士の姿をじっくり見た後に腕を組んで、うんうん頷くマヒル。一方、騎士の方はマヒルの姿を見て『救護院の子供たちと変わらんなぁ』と思っていた。

 

こんな小さい女の子でもギルドマスターなのだから、きっとこの世界では見た目だけで判断しては痛い目を見そうだ。

 

「そろそろ私たちも帰るとしますか。救護院の人たちも待っていますし、残念ですが長話をし続けるのは良くないですね」

「だな。スズメのことも心配だし、帰るとするか」

 

日持ちしない食材たちに帰りを待つ子供たち、そして何をしでかしてるか分からないスズメがお留守番しているのだ。早く帰ることに越したことはないだろう、クルミとアヤネの助けをしなければ。

 

「帰りは気を付けるど?」

「はい、今日は会えてうれしかったです。また食べ物貰っちゃってありがとうございます!」

「また、元気で会えたらご馳走してやっからな~」

「それじゃ騎士くんもまた」

「リンとシオリにもよろしくな」

 

騎士とペコリーヌは、牧場に訪れたとき同様に馬車に乗り込んだ。そしてマヒルとリマに別れを告げて【牧場(エリザベスパーク)】を後にするのだった。




エリザベスパークはとりあえず以上です。みんなまとめて出した方が話数も削れるし楽だよ。

マヒルとペコの出会いは番外で出す予定です。ストーリー進行に影響ないんでね。

それにしてもシオリが小清水さんとは思えないよなぁ…、「こんなかわいい声出せたのかよ⁉」って思いましたもん。初見殺しですわぁ…
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