【完結】TSアマゾネスが勇者に殺されたがるのは間違っているだろうか   作:みゅう(蒼山みゆう)

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原作8年前。
アストレアレコードの1年前時点のお話です。




第二話 TSアマゾネスは理解者を得る

 館の入り口で名乗ると門番の人に案内され、ロキ・ファミリアの幹部と女神の待つ部屋へと通される。

 先日に手紙を送っていたことが功を奏してか、入団試験を受けることすら難しいと言われるロキ・ファミリアの入団試験を戦闘試験免除の上、いきなり幹部および主神様との面接を受けさせてもらえることになったのだ。

 

「失礼します」

 

 一礼をして入室。

 

「おー来た来た!」

「噂をすればだね」

 

 向かい合うのは3人の男女。

 恐らくは朱髪の女神がロキ、黄金色の髪の少年に見える小人族が団長の勇者、そして翡翠色の髪のエルフが九魔姫でほぼ間違いないだろう。

 

「それにしてもえらい可愛い子が来てくれたやんか。この可愛さだけで合格にしたってええわ」

 

 狐のように細い眼をさらに細めて笑う女神ロキ。

 どうやら第一印象はそう悪くないようだということにホッとする。

 

「馬鹿なこと言うな。この時世だ。きちんと彼女を評価しなければ、互いに不幸になる」

「わかっとるって。ママは真面目やなぁ。じゃあさっさと始めよか。うちはロキ・ファミリアの主神のロキや。イルちゃんで名前あっとるか?」

「はい、イル・ムークス。12歳です。本日は宜しくお願い致します」

「宜しくイル。僕がロキ・ファミリア団長のフィンだ。そして隣にいるのが副団長のリヴェリア。本日とは言わず長い付き合いになれたらいいね」

「はい、ボクもそう思います」

 

 同じ年ごろに見えるけれども、すごく落ち着いた口調で話す勇者。

 前評判通りの、理知的な雰囲気で頼れる感じだ。

 うん、上司として悪くない。

 

「それは良かった。それじゃあ早速本題に入ろうか。イル、君は先日まで医療系ファミリアのヒュギエイア・ファミリアに居たそうだね。随分と前のファミリアでも活躍していたみたいだけど、何故オラリオに?」

「いろんな人やモノ、出来事に触れるチャンスが欲しかったんです。前のファミリアも居心地が良かったんですが、開拓村の最前線でしたから。それで一番目新しいものが集まるオラリオに来ました」

 

 神様の前では嘘はつけない。

 理由としては薄っぺらいけれど、これがオラリオに来た口にしやすい理由だ。

 ん、なぜかフィン団長が親指をぺろりとなめている。

 なんだあれ、一部のお姉さんたちの心を鷲掴みにしそうな可愛い少年は。

 

「なるほど。よくある理由だね。でも悪くない考えだ。リヴェリアだって似たような理由なんだ。そう恐縮することはないよ。それより気になったのは、この一週間、随分と色々なファミリアから勧誘を断ってまで、前のファミリアとは空気が全然違ううちみたいな探索系ファミリアを選んだんだい?」

「私もギルドから聞いたのだが、あのディアケンヒト・ファミリアからの誘いも断ったらしいな。冒険に固執する理由が何かあるのか?」

「レベルを上げたいんです。できるだけ早く。でも元々いたファミリアとは違って、オラリオの医療系ファミリアでは中々前線には出ないからレベルも上がりにくいって聞いたので」

 

 団長、副団長が疑問に思うのも不思議ではない。

 でも、その問いに対する答えとして今の答えは適切だっただろうか自信がない。

 やばい、今のは不味い回答だったかな。

 

「君の年齢でレベル2というのは素晴らしい逸材だ。悔しいことだがこの不安定な情勢の中では、若手の育成に費やすことが可能な労力は限られている。戦闘技能以外にも、医術方面の知識を持った人材は喉から手が出るくらい欲しいというのが我々の率直な意見だ」

「イル、強さを求めるのは構わないよ。それが例え私怨であったとしても、僕たちは理由も聞かず責め立てたり、突き放そうとは考えてはいない。でもね生き急ぐように力を求める子供を窘めるのは、導くのは大人としての役割なんだ。だからもう少し踏み込んだ理由を聞かせてくれないかい?」

 

 純粋にボクのことを心配してくれているらしい。

 もしかしてボクと同時期にランクアップしたらしい噂の戦姫と姿を重ねて言ったのだろうか。

 どうやら彼女はかなり無茶な冒険を繰り返しているらしいと聞いたことがある。

 

 仕方がない。

 非常に恥ずかしいけれどこれは覚悟を決めて言うしかない。

 

「二つ名が欲しいんです」

「二つ名? 確か『☆褐色天使☆』だったよね。君によく似合った名前だと思うけれど気に入らなかったのかい?」

「天使の名を冠することができるのはかなり名誉なことだとは思うのだが、恐縮しているのか?」

「うちは好きやで。めっちゃ可愛い名前やんか……プッ」

 

 あ、あの神様笑いやがった。

 

「ボクの感性って、結構神様たちと近いらしんですけれど──ロキ様。この名前って『痛い』と思いませんか」

「『痛い』って、イルちゃんまさかホンマに天界のセンス理解しとる?」

 

 また噴き出しそうな口元を抑えながら問いかけるロキ様に、こくりと攻守したボクはさらにこう続ける。

 

「一刻も早く二つ名を変えたいんです! 何ですか☆って……どう発音するんですか。だから、レベルが上がりやすい環境で、まともな二つ名をもぎ取って来た実績がある神様のいるファミリアを選んだんです。お願いです、ロキ様を頼りにして来たんです!」

「よっしゃ採用!」

「ロキ!?」

「え、いいんですか?」

 

 ボクよりもなだらかな胸をドンと叩いたロキ様が声を張り上げた。

 

「おい、頼られたからって早計ではないのか?」

「この子を手放すのは絶対ありえへんで。前んとこのヒュギエイアは典型的な善神やし、イヴィルスからの刺客という線はない。毒を多用してくる奴らに対抗するためにも、この子は貴重な戦力や」

「そうだね。外部に頼らずにファミリア内にその手の知識を持つ者がいればいいなとは僕も思うよ」

「そしてなによりこの子のセンスや。イルの発明は既にオラリオ中の女冒険者に絶大な貢献をもたらしとる。それにうちらと同じ感性を僅かにでも理解した。この意味はわかるなフィン?」

「邪神対策か……なるほど、いつも後手後手ばかりで嫌になっていたところだ。その提案は悪くないね。イル、君は前のファミリアでどんな仕事をしていたんだい?」

「はい、基本的には森に採取や狩猟に行って、食材や薬の材料の確保と、薬の調合が主な仕事なんですけど、ファミリアで一番算術が得意だったのでここ3年は街へ薬を卸に行ってくるのと、あとは薬の生産工程を管理するのはボクだけの仕事になっていましたね。他には料理・炊事・洗濯などの家事一通りは持ち回りでやってました」

 

 あとは何をアピールするべきだろうか。

 前のファミリアの機密を話すわけにもいかないし。

 そう思案していたところ、フィン団長がパンと手を叩いて切り出した。

 

「イル、ロキは先走ってああ言ったけれど、僕からは一つだけ条件を課そう」

「なんでしょうか」

「君にはボクの補佐官として、事務仕事を補助してもらう」

「それはすごく光栄なんですけど、ボクなんかの外様の下っ端でいいんですか?」

「外様だからこそかな。どうしてもうちのメンバーは戦闘が本分だからね、リヴェリアぐらいしか内向きの仕事に特化した人材はいないんだけど、彼女は後進の育成で手が離せなくてね。君は画期的な発明をしたと聞いているけれどそれには様々な困難があったはずだ。発明をしたことそのものよりも、それを世の中に流通させた手腕こそをボクは評価したい」

 

 人並みレベルとは言え、元々は商社マンの端くれだ。

 文化が違う世界とは言えども、その手の依頼や調整は調薬以上に慣れたものだった。

 自分の中で当たり前だと思ってい事が思った以上に評価されていたのはなんだか嬉しい。

 

「冒険と調薬の時間が削れてしまうのは本意ではないかもしれないが、それに見合った報酬は用意したいと思っている」

「報酬ですか」

「人脈と情報、これが欲しくてオラリオに来たんだろう? 君が付いてこれるのならば僕の隣にいる君にはオラリオでも最上級のものが手に入ると思うんだけれど、どうだろうか?」

「ぜひ宜しくお願い致します!」

 

 差し出された右手を握り返す。

 結構力強く握ったけれど、ボクより頭一つ分小さい彼の手からはしっかりとした力が返って来た。

 小さくてもやっぱり勇者なんだな。

 

 

 

 

 

「それじゃ、イルちゃん。これからお楽しみのステイタス更新の時間やで」

 

 上機嫌なロキ様に手を引かれて、改宗とステイタス更新のためにロキ様の部屋に連れて来られた。

 フィン団長とリヴェリア副団長は部屋の外で待ってもらっている。

 ボクの背中にロキ様が血の付いた指でなぞり、新たな文字を刻み込んでいく。

 

「よし。これでイルもうちの眷属や。ほれ、ステータス写し終わったで」

 

 ロキ様から渡された紙に目を通す。

 

 

 イル・ムークス

 レベル2

 力 I 93→H 135

 耐久 H 105→H 161

 器用 F 373→E 469

 敏捷 H 160→G 202

 魔力 I 0→I 0

 狩人 I 

 

<スキル>

【並列人格(マルチタスク)】

 ・常時発動。

 ・器用および敏捷の超高補正。

 ・ただし人格同士の思考矛盾時には器用および敏捷にマイナス補正。

 

 

 

 

 トータル235アップか、ここまで上昇したのは初めてだ。

 

「あ、旅で全然更新できなかった分、結構上がってますね」

「イルちゃん凄いわ。もうちょっとで器用がDになるやんか。レベル3間近やで。それにスキルも補正率高そうやし、ええもん持ってるやん」

「ありがとうございます」

「それにええもん言うたら、こっちもなかなかなぁ」

 

 えっ。

 

 その一音ですら発せないまま、ふいに呼吸が止まった。

 

「アマゾネスなのに地味な男の子みたいな恰好しとると思ったら、こっちはなかなか女の子しとるやんけ」

 

 ボクの胸元に伸ばされた手が視界に入った。

 酸素を求める金魚のように、ぱくぱくと口が動くばかりで声が出ない、出せない。

 

 そうだこれは過去の記憶を思い出したあのときと同じだ。

 ただ得体のしれない感覚、未知への恐怖にボクの頭は埋め尽くされていく。

 

「うーん、12歳でこれなら将来にも期待できるな!」

 

 これは冗談なのだ。

 単なるスキンシップなのだ。

 ロキ様の口調からそう頭では理解しているのに体が理解してくれない。

 

 心臓が内側からはじけ飛びそうな痛い。

 目頭が燃え尽きそうなほど痛い。

 首をいっそのこともぎ取ってしまいたいほどに痛い。

 

 触れられた場所が気持ちいいとか気持ち悪いとか、そういった感覚を飲み込んでしまうくらいに、心の奥が痛い。

 

「……イル?」

 

 どうしてだろう。

 寒くなんかないのに、体の震えが止まらない。

 

「ぅ、あぁ……」

 

 後ろから回されていた手が離れたのはわかった。

 

「悪かった、ちょっとした冗談のつもりやったんや」

 

 そしてボクの目の前にしゃがみ込んでいることも。

 でもロキ様がどんな顔をしているのかが視界がぼやけてよくわからない。

 ニヤついたままなのか、それとも反省してボクを思ってくれているのか。

 

「ちょ、泣いとるんか」

「あ、あああああああ……!」

 

 どうしてだろう。

 なにも悲しくなんてないのに、ただただ情けなくて涙が止まらない。

 どうしてボクはこんなに弱い生き物なんだろう。

 

「どうした────────フィンお前はそこから動くなっ!」

「わかった」

「すまんリヴェリア、いつもの調子でつい弄ってしまったら……」

「この大馬鹿者! 出ていけ! 弁明は後で聞く、まずはこの子だ」

 

 エルフの怒号が部屋中に反響する。

 女神が去り際に何かを言ったが、自分の声にかき消されてよく聞き取れなかった。

 

「……もう嫌だ」

 

 こんな情けない、自分で自分のことがわからないのはもう嫌だ。

 このままじゃ男にも女にもなれない、アマゾネスにも日本人にもなれない、誰にも理解されない存在でいなきゃいけないなんてもう嫌だ。

 

 だから早くレベルを上げて、魔法を覚えなきゃ。

 魔法でもう一人のボクを殺さなきゃ、こんなことがきっと永遠に続くのだろう。

 

 

 

 

 

 

「イル、リヴェリア。入るよ」

「あぁ、もう大丈夫だ」

 

 ボクが取り乱してから小一時間くらい経った後、リヴェリア副団長の返事を受けて、改めて入室してきたフィン団長とロキ様。

 背中を丸めてしゅんとしているロキ様は、前に立つフィン団長よりも心なしか小さく見えた。

 向こうに非があるとはいえ、過剰反応したボクのせいでこってり絞られたんだろうことは容易に想像できた。

 

「イル」

 

 フィン団長の手にはスミレが彩られた白磁のカップがあった。

 

「これは?」

「僕らの一族が嗜む伝統の花茶だよ。水分補給が必要かと思ってね」

 

 気が利く人だなぁ。

 さんざん泣き腫らしたせいか、ちょっと喉がカラカラしているみたいだと、フィン団長に言われてようやく気付く。

 差し出されたカップを受け取ると、立ち昇る湯気から甘く柔らかな香りが鼻腔に届く。

 

「ありがとうございます。いい香りですね」

「よかった。結構独特の香りだから人によっては好みが分かれるからね」

「ボク好きですよ。これ、紫に変色しているけれど、花弁の感じだとクールマリーですか?」

「そんなに流通しているものじゃないけれど、一目で言い当てるなんて流石薬師だね。少し柑橘を絞るとね。色が青から紫に変わるんだ」

「なるほど。pHで変わるんですね」

「ぺーはー?」

「いえっ、なんでもないです。冷めないうちに頂きますね」

 

 もう既に実用化されている気がするけれども、食品用の着色料として実験したら面白そうだなと考えていたら、うっかり前世知識が漏れ出していたみたいだ。

 

「イル、落ち着いてゆっくり飲むと良い。はい、リヴェリアもお疲れ様」

「ありがたく頂こう」

 

 じんわりと体の中から広がる温もり。甘い香りの後に広がってくる、柑橘の酸味がほんのり効いていて美味しい。

 

「幸せの味がしますね」

「イル、君は詩人みたいなことを言うのだな。面白い子だ」

 

 そう言って頭をふんわりと撫でてくれるリヴェリア副団長。

 クールビューティなのに母性に溢れたエルフとか、前世の感覚だったら好みのど真ん中ストレートのタイプだ。

 今はイルとしての女性の感覚が強いから、やましい気持ちは一切ないけれど。

 

 それにしても団長も副団長も凄く良い人だ。

 神様についてはさっきのセクハラは嫌だったけれども、この二人が従う神様なら子供を大事にするタイプなんだってのは容易に想像ができる。

 このファミリアを去るって選択肢はどうしても考えられなかった。

 だからボクはもう少し踏み込んだ話をしようと腹を括った。

 

「少しは落ち着いたかい?」

「はい、お茶のおかげです。ごちそうさまでした」

「それじゃあ、そろそろ聞かせてもらっても構わないかな? やらかしたロキを含めて話さなくちゃいけないことなんだろう?」

「イル、辛くなれば、途中で取りやめてもいいからな」

「大丈夫です」

 

 リヴェリア副団長の気遣いが辛い。

 先ほどまでのやり取りの感じだと、恐らくボクが過去に何かしらの性的被害を受けたことがあるのではないかと心配されているみたいだ。

 

「多分これを見てもらうと一番手っ取り早いかと思うんですけれど」

 

 ボクは先ほど更新したばかりのステイタスの写しを見せる。

 団長と副団長は初めて見るステイタスに興味津々とばかりに目を光らせていたが、二人ともすぐに眉をしかめた。

 

「イル、この“人格同士”って言葉から察するに、君は多重人格者なのかい?」

「はい、正確にはちょっと違うかもしれないですけれど、大体似たようなものだとボクは考えています」

「なぁ、自分がスタイルを隠すような服装や変な一人称を使っとるんはもしかして……」

「ボクの中には男としての性自認があります。でも女としての体に引っ張られている人格も少なからずあると考えています。アマゾネスなのに、いやアマゾネスじゃなくてもおかしいですよね。さっき泣いちゃったのは、できるだけ目を背けてきた多分この体が女だって事実を改めて突きつけられて混乱しちゃったからなんだって思います」

 

 空気が凍り付くって、こういうことなんだろうな。

 あの細目の女神様でさえも目を丸くしている。

 

「言いづらいことを良く言ってくれたね。その覚悟に僕は敬意を表するよ。君は勇気のある人だ」

「よく頑張ったな」

 

 ぽんぽんと、柔らかな手がボクの頭を包み込む。

 多少なりとも男の人格があると言ったばかりなのに、リヴェリア副団長は嫌じゃないんだろうか。

 異性に対して潔癖なエルフ、その中でも高貴なハイエルフなのに、なんでさっきまでと同じように接してくれるんだろうか。

 

「それにしてもイル、さっきはホンマにゴメンなぁ」

「いいえ、もう大丈夫です。緊張をほぐす為のちょっとした悪戯ってことはわかってますから」

「詫びにはならんかもしれんけど、自分が安心できる居場所はうちが用意したる。安心せい、うちかて女の子の方が好みやし、性癖はそれぞれや。アポロンかて両刀やし、フレイヤだって気に入った子供なら性別に頓着せーへん。男と女の両方の心がある程度、神の基準ならなーんもおかしくなんかないわ。もしこのファミリアの中でも外でもそんなしょーもないことでイルを虐める奴がおったらうちがとっちめたるからな! 任せとき!」

 

 今まで丸めていた背中を伸ばして弾まない胸をドンと叩きながらそう主張する女神様。

 

「ロキは酒癖とセクハラが酷い奴ではあるが、懐は広いし、自分の子供は大事にする。それは私も保証しよう」

「ロキと同じく僕も君の名誉を守ると誓おう。勇者と女神フィアナの名にかけて」

「イルたん、また涙こぼしとるで。ほら、うちの胸で受け止めてあげるから、ドーンとな。それともリヴェリアママのおっぱいの方がええか?」

「ロキっ!」

「気持ちは嬉しいんですけど、気恥ずかしいので却下で。あ、フィン団長ハンカチありがとうございます」

 

 シンプルな無地のシルクのハンカチを差し出され、それを受け取る。

 遠慮なくそれを使わせてもらった。

 

「いいよ。この方が君も気が楽なんだろう?」

「ええ」

「さてとだ。リヴェリアこの後も少し時間をもらえるかい? 実際問題、部屋割りとか入浴とかそのあたりの線引きを考えなくちゃいけないからね。イルのNGゾーンとの擦り合わせをしておきたい」

「わかった。午後の予定はアリシアに引き継いでおこう。歓迎会の準備の件もな」

「厄介者のボクなんかのために歓迎会を……」

「君は僕の想像以上に自己評価が低い人間らしい。それにどうやら自分の中に色々抱え込むタイプなのが見え隠れしているけれど、言っておくよ。イル・ムークス。先達は、君たち後進を導くために居る。だから遠慮なく頼れ。そして僕たちは今日からファミリアだ。家族が助け合うのは当たり前の話だろ?」

 

 美辞麗句を並び立てたわけでもなく、とてもシンプルな言葉で、スッと受け止められる考え方だった。

 憧憬と表現するには、まだまだ薄っぺらな感情。

 

「助けられたらその分他の誰かに君の力を貸してくれたらいい。そして君はそれができる人間だと見込んだから勧誘したんだ」

 

 ちょっと歯の浮いたセリフも真顔で言い切れるその姿。

 小さな勇者の言葉に確かに込められたその自信に、ボクは惹かれるものを確かに感じた。

 

「期待しているぞ。イル・ムークス」

「はいっ!」

 

 これがボクとフィン団長との初めての思い出。

 ボクが『勇者の懐刀』となるまでの最初の一歩だった。

 




ロキを貶める意図は無いんですが、タイミングが悪かった。
彼女はイルの性自認に理解のある神様ですので見せ場用意してます。

全4話中の2話。
ここまでがプロローグで次からが本番開始。
10年後、原作開始から2年後の話になります。




追伸
ダンメモのアストレア・レコード全クリしました。
書籍化して欲しいくらいに凄く良かった。
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