【完結】TSアマゾネスが勇者に殺されたがるのは間違っているだろうか   作:みゅう(蒼山みゆう)

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原作開始2年後に飛びます。


第三話 TSアマゾネスは失恋する

 ボクがロキ・ファミリアに入団してから10年の時が過ぎた。

 

 フィン団長の懐刀としてボクは全力を尽くし、闇派閥や堕ちた精霊たちとの抗争など様々な危機を乗り越えた。

 

 薬師であるボクが最前線に立つことは少なかったけれども、その代わりに毒薬と弓術、そして新たに会得した呪詛による汚れ仕事を率先してこなした。

 綺麗な表向きの仕事はファミリアに任せ、勇者とファミリアの名誉が傷つかないようにするために。

 

 レベルも馬鹿双子や発情狼と同じタイミングでランクアップを果たし、レベル6に達した。

 恥ずかしい二つ名も今では捨て去り、レベル3以降に新たに授かったのは『黒百合(ブラック・リリィ)』の称号。

 

 その花言葉は呪い。

 呪詛や毒、狙撃を用いて、ロキ・ファミリアのでもっとも多くの数の闇派閥を仕留めてきたボクに相応しい名前だ。

 姫の一文字が付きそうだったのを消してくれたあたり、ロキ様はボクのことを理解してくれる良い神様だ。

 

 ただレベル6になった今になっても本当に欲しかった精神系の魔法は覚えきれなかった。性別に関する悩みはなくなると思ったのにそうはならなかった。

 

 欲しかった魔法の代わりに手に入れた一つ目の魔法はありとあらゆる状態異常を治す魔法だ。

 特に願って手に入れたわけではないけれども、薬師としてのボクが手に入れる魔法としては至極順当なものだろう。

 

 そして魔法というには微妙なカテゴリだけど、念願のグリモアによって手に入れた力は呪詛だった。ボクの扱いが悪かったのか、それともグリモアに似た特別製のアイテムだったのかは未だにわからないけれども。

 

 ボクの新たな力となったそれは、ごく一部の例外を除く治癒魔法や援護魔法、薬品を無効化する最悪の呪い。

 常に新たな毒を開発するボクにとっては最高の武器となり、ファミリアの敵、特に闇派閥を数知れないほどに葬って来た。

 

 だがしかし呪詛はとても有効な武器となったが、結局のところ心から欲しているものではなかったのだ。

 あれ以降いくら金を積んだところで新たなグリモアを入手することもできず、もうここまでくればレベル7になれば魔法もしくは有用なスキルを新たに覚えられるとも思えない。

 

 ハッキリと言ってしまえばボクは詰んでいた。

 

 基本的にエルフなどのマジックユーザーの種族以外では魔法が発現してもせいぜい2つが限界と言われている。そのスロットに呪詛が含まれるかどうかは前例を知らないため怪しいものだけど、自然な方法で新たな魔法を手に入れるのは限りなく不可能に近いだろう。

 

 だから諦めざるを得なかった。つまりのところ22歳になった今も、結局ボクは女として生きることはできず、かと言って心だけでも男として生きることも選択できなかったのだ。

 

 ロキ様やレフィーヤ、それからフレイヤ様辺りからは女の子が女の子を好きになるのは、全くおかしくないことであると何度も聞かされたが、結局ボクは割り切れなかった。

 いまだに水浴びや入浴は極力一人で行うようにしているけれど、当人はあんまり気にしていないアイズやティオナあたりと偶に鉢合わせると未だにドギマギしてしまう自分がいる。

 

 そして逆にラウルやベートの粗末なものを見たところで性的な興奮は一切ない。

 アマゾネスの本能というものをこの方一度も感じた例がないのだ。

 例えそれがいつも傍に付き添い、世界で最も敬愛するフィン団長相手であっても。

 

 フィン団長の凄さは、この10年間についてボクは誰よりも一番近いところで見てきた。

 ファミリアをまとめる団長として、時にはオラリオを統括するリーダーとして、勇敢な種族の筆頭として、そしてただのフィン・ディムナとして見てきた。

 

 ちょっと詐欺師じみた言葉を使って周りを巻き込んで、嘘を真に、不可能を可能に何度も変えてきた彼が。

 ファミリアやオラリオの代表としての責務をこなしつつも、自らの目標を決して見失わず進んでいく彼が。

 

 ただただボクには眩しくて、尊かった。

 ボクはフィン団長が好きだ。

 

 かっこいい男性としてではなく、ただのフィン・ディムナという個人として。

 

 キスしたい、抱きしめたい、子供を産みたい。

 女であれば当然持つであろう感情がボクには生まれたことはなかったから、異性としての好きをフィン団長にあげられないのが辛い。

 けれども、性自認がどうであれ、そもそもアマゾネスの子供しか埋めないボクの体では、フィン団長とは決して結ばれることがないと考えればまた違う。

 

 小人族のフィン・ディムナをアマゾネスのイル・ムークスが異性として好きになっていけないのだ。

 

 最初から結論が見えていたボクは、女としての人生を掴み取ることを、異性として好きになろうとする努力そのものを放棄した。

 

 フィン団長の懐刀として、ロキ・ファミリアの唯一の暗部として全てを捧げる。

 

 ボクは、心も、体も、その両方の性別を捨て去ることにした。

 その選択を良しとできるくらいに、フィン団長は素敵な人間だった。

 

 フィン団長に比べたらあのベル・クラネルがなんだっていうのだ。

 確かにベル・クラネルは紛れもなく英雄だ。

 アイズがパートナーとして選んだのも納得がいく位に、その在り方全てが光り輝く本物の英雄だ。

 

 でもフィン団長は違うと、そうではないとみんなは言う。

 彼は人工の英雄だと。

 

 ふざけるな団長は、それでも人工の英雄になろうとするから凄いんだ。

 

 他のみんなから見えていないところで、彼が苦しみ、決断し、何かを切り捨ててでも、自ら輝こうとすることを諦めないからこそ偉いんだ。

 

 ボクはいま足踏みしているフィン団長に、新たなもう一歩を踏み出して欲しかった。

 

 ベル・クラネルと比較され、時として揶揄されるのが我慢ならなかった。

 だからボクは伸び悩んでいる彼が最も必要としているものを用意することにした。

 

 ボクは馬鹿だ。

 馬鹿なりに考えてこれが一番だと判断した。

 こんな目論見は彼にはすぐバレてしまうだろう。

 

 でもバレてもいい。

 バレても尚突き進むしかない道をいつものように計画し、切り捨て、選択させ、前に進めさせるだけだ。

 

 後願の憂いは無い。

 ほぼ同期のラウルとアキが健在であれば、全てが今まで通り回るように用意は済ませている。

 

 さぁ、あともう少しで時間だ。

 お世話になったファミリアへの、フィン団長へのイル・ムークス最期の奉仕だ。

 

 

 

 

 じっとりとした生温い風が頬に纏わりつく初夏の夜。

 廃屋と化した、とある協会の屋根裏の窓からボクは華やかな明かりの灯る建物を睨む。

 

「とうとうティオネを選んだんですね。フィン団長」

 

 派閥同士の付き合いによる定期的な舞踏会。

 今夜のフィン団長のパートナーに選ばれたのはいつも通りのボクじゃなく、あの頭がお花畑のティオネだった。

 

 なんで、あの女が。

 そんな答えは考えるまでもなかった。

 認めるしかなかった。

 

 フィン団長が遂にティオネに絆された。

 だからボクじゃなくてティオネを選んだ。

 

 そして異端のアマゾネスであるボクは、女避けの道具として体よく使われなくなってしまった。

 ただそれだけの話なのだ。

 

 理解はできていても、納得しているのだと自分にいくら言い聞かせても、団長とティオネの笑顔が見える度に、ボクの心は酷くかき乱される。

 

「きっついなぁ、これは」

 

 でもティオネの今の笑顔は彼女が努力した正当な対価だ。

 ボクを含めたオラリオ中のフィン団長のファンたちができなかったことをあの女はやり遂げた。

 断固として同族としか番を選ばないと誓っていたフィン団長の心を、種族の壁を越えて、あの女は掴み取るという偉業を成した。

 

 どうしようもなく惨めなほどに、女として完敗だった。

 でも当然だ、女であるという選択肢そのものをボクは放棄したのだから。

 

 男であった日本での人生を忘れられないまま無為な時を過ごし、女としてではないかもしれないけれど、フィン団長が好きなのだとようやく認められるようになった時にはこの様だ。

 

 フィン団長がティオネを選んだという事実を知ってから、この数日はボクにとってこの世の絶望全てを煮詰めたような、人生最悪の時間だった、でも必要な時間だった。

 

 ひたすらにフィン団長のことを考える。

 彼のためになるか、ならないか。

 それが男として、女としての生き方を見失ったボクの唯一の指針。

 

「……死ねばいいのに」

 

 ダメだ、一瞬よぎった黒い考えは指針に背く。 

 そう判断したボクはいつもの参謀としての頭にスイッチを切り替える。

 これまでの入念な準備は、全てこの一夜のために。

 

 

 

 

 やがて舞踏会が終わった深夜の帰り道。

 とある一点のみをボクは注視する。

 

 腕が震える。

 手汗が、胸の動悸が止まらない。

 

 かつて戦ったどんなモンスター、どんな犯罪者を相手取ったときよりもボクは今緊張していた。

 

「プレゼントだよ、ティオネ」

 

 そして、引き絞った弓矢を解き放つ。

 月明かり一つない闇の中を走る黒塗りの一矢。

 

 それはあまりにもあっけないほどに、すっと胸に吸い込まれた。

 

 転倒し、苦悶の表情を浮かべるティオネ。

 彼女を抱き抱えながら親指を舐め、対応策を思案する団長。

 

「よし、あたった」

 

 ティオネにあの一矢をあてられるか否か。

 それだけがこのボクにとっての唯一の気がかりだったが、無事にうまくいった。

 あとはこのまま最期の作戦を続けるだけだ。

 

 あの矢に込められていたのはとびっきりの毒と呪詛。

 オラリオ有数の呪術師として薬師として名を馳せたボクの最高傑作だ。

 ボク以外の状態異常回復魔法で唯一これに対応できるアミッドはクエストで今はオラリオの外に居る。

 だからフィン団長がティオネを救うに必要なアクションは2つしかない。

 

 ボクを殺して、呪詛のスキルを強制解除させること。

 そしてボクの臓腑に埋め込んだ複数種類の解毒剤を取り出して、ティオネに与えること。

 もちろんボクが生きたまま解毒剤がフィン団長の手に渡ることがないように、入念に仕込んである。

 

 これでもうボクは後に退けない。

 フィン団長はすぐにボクからのメッセージに気が付き、ここへすぐ向かって来るだろう。

 

「早く来て。そして殺してよ団長」

 

 同じファミリアの仲間に対する凶行は全てフィン団長と、そしてティオネに向けたボクの最期の置き土産だ。

 世界で一番大嫌いで、絶対に許せない敵であるティオネにボクは塩を送ることに決めた。 

 

 何故ティオネのために動いたのかと言えば答えは単純だ。

 敵ながらボクが認めざるを得なかったティオネ以外の女とフィン団長が結ばれる未来なんか絶対に許せないからだ。

 ならば他の女が介入する余地もなく、今後絶対に二人が離れることがないように団長自身の手でボクを斬り捨ててでもティオネを選ばせる。

 そんなイベントをボク自身で用意することにしたのだ。

 

 そしてこの案には素晴らしい副次効果があった。

 ボクを殺したフィン団長はボクの経験値を吸って強くなってくれるのだ。

 

 最下級とは言えボクはレベル6の一角だ。

 レベル7に至るには足りなくとも、この命が少なからずフィン団長のステイタスとなり、彼を生かす力となる。

 このたった一つのどうしようもない方法だけが、最後まで女としてフィン団長の子を成す覚悟ができなかったボクが彼と一つになれる手段なのだから、心が弱いボクはそれに縋るしかなかった。

 

 それが男にも女にもなれなかったボクの混沌とした激情の果て。

 これ以上あの女との幸せを見せつけられることを拒絶したボクが演じる一世一代の茶番劇だ。

 





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