【完結】TSアマゾネスが勇者に殺されたがるのは間違っているだろうか   作:みゅう(蒼山みゆう)

4 / 6
最終話で物語が大きく分岐します。

こちらはトゥルーエンド。
もう一つのエンドとは対極の結末になります。


未改訂版(トゥルーエンド) ~茶番劇の結末~
最終話 TSアマゾネスは勇者に全てを捧げる


「5分も早い。流石フィン団長だ。いつもボクの想定を上回ってくれるんですね」

 

 本当に全速力で来たのだろう。

 荒々しく扉を蹴破って、部屋に突入してきたその眼は、あの魔法を使ったときのように激しい怒りに燃えていた。

 フィン団長のその手にはいつもの双槍はない。

 一刻も早く解呪と、解毒薬を入手するためにここに駆けつけてくるのを最優先した結果だろう。

 

「イル、どうしてこんなことをした?」

()の口からそれを言わせるなんて、酷いですね。ただ許せなかった、それだけの話ですよ」

 

 許せなかったのは決してティオネのことではない。

 ボクはティオネのことを認めている。

 変わること恐れない強い女として、諦めることを知らない女として。

 

 だから彼女がフィン団長の傍にいることを許せた。

 祝福しようとさえ考え、こんな茶番劇さえ用意した。

 でもボクは、女であることを選べなかったボク自身が許せなかった。

 

「自分の気持ちのこととなると、いつも君はそうやってはぐらかすんだね。だけど今日ばかりは、きちんと言葉にしてくれ。僕は全てを正しく察することができるほど万能じゃない」

「する必要なんかありません。して欲しくなんかありません」

「何故君はいつも理解されることを拒む。自分の殻に引き籠る。10年だ。僕は誰よりも君を見てきた自負がある。今一度問おうイル、僕は、君にとっての勇者はそんなに頼りがない男なのか?」

「頼りがいがありますよ。誰よりも信頼しています。だからこそ言葉にできない。してはいけない気持ちだってあるんです。わかって欲しくないことをわかって下さい!」

 

 きっと全部バレてる。

 だけど言葉にすることで、その気持ちに形を与えることが、ニ度目の死を選ぶことよりずっと怖かった。

 

 あまりにもあっけなかった一度目の死が、苦しみのない世界を知ってしまったことが、誘蛾灯の如く安易な道へとボクをいざなっていた。

 

「君が理解されることを拒むのなら、あとは力づくで立ち塞がるしかない。時間がないんだ」

「フィン団長に口喧嘩で勝てるわけないって知ってるんで、早く力づくで来てください。あまり猶予はないですよ。聖女もオラリオに居ない。そして解呪に必要な薬剤はオラリオ中から全て買い取って隠しました。ボクを殺して解呪しない限り、ティオネを救う手段はないですよ」

「あるよ。君をティオネに謝らせて、君自身で解呪させる」

 

 一歩、そしてまた一歩。

 ゆっくりとした足取りで彼は距離を詰めてくる。

 

「死んでも嫌です。殺されてでも、ボクかティオネを選んで貰います」

「勇者の僕が仲間の死を選ぶとでも?」

 

 選ぶはずなんてない。

 でも選ばなくちゃいけないように、ギリギリのラインを綿密に計画したからこそ、ボクたちは今ここに居る。

 

「────オラリオは平和になりました。平和になりすぎました。だからこそ今は遠征に専念できて順調に最深到達階層を更新できています。でもこれじゃダメです」

 

 一つ、深呼吸して先を続ける。

 

「自惚れじゃないって言い切れるぐらいに、ボクは貴方の片腕としてファミリアを、オラリオを助け過ぎました。せめて次善の結果は掴めるように、取りこぼしが少なくなるように。そして冒険を、貴方の成長の機会を奪い取ってしまった。まだまだボクが未熟でサポートが至らなかったあの暗黒期のように、冷酷に取捨選択しながら進んで行った貴方の姿はもう見る影もない」

「イル、今の君はザルドたちみたいなことを言っている自覚はあるかい?」

「ありますよ。勿論。今だからこそ、ちょっとだけ共感できます。フィン団長、今の貴方に足りないのは選ぶ苦しみと、そして何よりも進んで行く速さです。だから、今ここでボクを切り捨てて、前に進んでもらいます。ボクと出会う前の貴方になって、手数の足りなさにもっと苦しみながら進んでもらいます」

 

 今のボクはきっと人生で一番酷い顔をしていることだろう。

 今までよりもサポートが薄くなったフィン団長に『イルが生きて居れば』と、そのたった一言でも残せればボクの勝ちだ。

 

「ティオネを見殺しにする気がないんだったら、ファミリアと勇者の未来のために、その手でボクを殺してください。なまっちょろい冒険より、良いステイタスになってあげますよ」

「随分と饒舌だったけど、言いたいことはそれだけかい? お説教は後にすることにしよう。今は君を────」

 

 フィン団長が身を屈め、脚に力を籠めようとしたその瞬間。

 ボクは壁を叩き、仕掛けを作動させ、強烈な刺激臭を伴う煙幕を張る。

 

「くっ、催涙ガスか」

 

 無手とは言えステイタスがほぼカンストに近いフィン団長と、レベル6とは言え平均D位のステイタスに留まっているボクとでは、普通に戦えばどちらが勝つかなんて考える必要もない。

 

 スキルと薬品でありったけのバフを掛けて、魔法なしの団長のステイタスに敏捷が追い付くかどうかだ。

 

 だから今日だけは味方に決して振るうことのない武器を、ありとあらゆる悪意()を用意した。

 天井に仕込んでいた血の凝固を止める毒を込めた矢の仕掛けを解き放つ。

 これは仕掛けを作動させたボクのいる安全地帯以外では避けようのない密度で用意した。

 

 弾くための武器もなく、最悪の視界からの急襲であればフィン団長とは言えども────

 

「初見で見抜くなんて流石です。でも遅い」

「ぐっ!?」

 

 躊躇いなく顔面に突き立てようとしてきた拳はボクに届くことはなく、逆にボクの拳がフィン団長の右頬に突き刺さる。

 格上の相手にボクがこれを成せたのは単純なリーチの差、そして敏捷と器用ステイタスの差。

 

 この廃屋中に最初から巡らせてある無色無臭の毒ガスが、レアスキルによる毒への完全耐性を得たボク以外のステイタスと体力を徹底的に削ぎ落している。

 

 それ以外にも致死性を持たないという条件さえみたせば、三半規管と呼吸器、そして末梢神経に作用するものなど、ありとあらゆる毒の中で最悪の効果を発揮する毒を選んで、この廃屋と手持ちの武器に仕掛けてある。

 

 フィン団長を殺すなんてことはボクには絶対できない。でも本気の本気で打倒するためのありとあらゆる手段は用意した。

 

 だから超えてください。

 この逆境を、ボクの用意した(試練)を。

 

 踏みにじって、進んで下さい。

 ボクのどうしようもないこの(生命)を。

 

「君こそ甘いよ。殺意が足りない」

 

 そして嬉しくも悲しいことに、勇者は今夜もボクの期待を裏切らなかった。

 振り抜いたはずの右腕を掴まれたボクの体は、グッと下へと引っ張られてバランスを崩し、首に腕を巻き付けられた。

 

 ダメだ、落とされる。

 全力を尽くしたはずなのに何の試練にもならない位に、こうもあっけなく。

 

 絞め落されるのを覚悟し、瞳を閉じたボクに待っていたのは痛みではなく、思いもかけない言葉だった。

 

「イル、僕だってそう鈍感じゃない。思い上がりでなければ、君が僕に向けている感情の名前は多分わかっている。だけど君がここまで思い詰めていただなんてのは予想外だった」

「……フィン団長」

 

 そして新たに回された左手が私を頭部を包み込む。

 その小さな体躯に見合わないほどの力で、強く、温かく。

 

「理解できていなかったことにようやく気付いた。だから僕は君をもっと理解したい。君は僕の一部だ。決して踏み台なんかじゃない。勇者の目であり、耳であり、頭脳の一部だ」

 

 泣いている赤子をあやすかのように指先で頭を撫でつけながら、憧れの人は言葉を続けた。

 

「イル、多分君にとって一番残酷なことを言おう。僕はきっと君が望んでいるであろうことを決して叶えることはできない。僕にとって一族再興の悲願は決して捨てられないんだ。でもその上で君に伝えたい」

 

 ボクの頭に添えられていた手が両肩に移された。

 窓から強い風が吹き込み、煙幕が晴れていく。

 

 ボクが愛した人の顔が、月明かりに照らされてその輪郭を一層と露わにする。

 丸くてちっちゃな可愛い彼の頬には二粒の雫。

 催涙ガスのせいだなんてことはわかっているけれども、この10年で初めて垣間見たその涙が、もしボクを想ってのものだったらいいのにと願ってしまう。

 

「イル、聞いてくれ」

「はい」

 

 ボクはただ一言だけを返す。

 

「僕は君と生きていたい。僕がいつか本物の勇者になれるその日まで、これまでのように僕に一番近いところで、僕の力となって欲しい。男としては最低でわがままな願いだとわかっている。だけど、どうかこの願いを聞いてくれるかい?」

 

 いつもずるいなぁ、この人は。

 いっそのことばっさりと切り捨ててくれたら楽なのに、それを許してくれない。

 本当に、男としては最低な人だ。

 

「はい、いつまでもお傍に。ボクは貴方の一部として力を奮い、全てを捧げます」

 

 でもそんな最低なお願いに対して、ボクは心からそう答える。

 

 彼からの返事はなかった。

 ただ、肩に置かれた手がボクの両頬に伸びてくる。

 

 

 うそっ、これって────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょーっと待ったぁああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりを遮るように窓から飛び込んで来た怒声。

 そしてボクの唇を塞ぐ、豪速球で放たれた靴底。

 

「てめぇ、団長にナニしようとしてんだこの男女ぁあああ!」

「ったぁあ……ティオネ、なんでここに!?」

 

 ドレスのスカートの裾を破って無理やり止血しながら、彼女はボクの目の前に現れた。

 彼女が死ぬまでの猶予はまだ随分設けていたけれども、麻痺毒の類は十分以上に浴びせているのになぜ

 

「私が団長の匂いを間違えるはずがないでしょ。それにこの建物が薬臭すぎて陰険男女だって丸わかりだっつうの!」

 

 なんという団長馬鹿。

 何という本能、執念の塊だ。

 

「いや、そうじゃなくて。なんでここまで動けたっていうの?」

「てめぇの毒ってわかったからに決まってるだろ」

「は?」

「負傷具合と、毒の回り具合を綿密に計算して時間を調整するってやり口は知ってんだよ。だから傷の周りごと抉って、血を余計に流して巡り方を変えてやった」

「この、脳筋女め」

 

 ギリギリまで殺す気のなかった、今回に限っては見事に最善手だ。

 

「イル、時間がない。ティオネに早く解呪と解毒を!」

「はい! 我は白にして玲瓏たる月華の乙女達に請う────────ぶはっ!?」

「ティオネ、君は何を!?」

「今日という今日は絶対許さないわよ」

 

 鼻っ柱に全力の右ストレートをかまされた。

 うわ、鼻血がダラダラだ。

 

「恨み言は後で聞くし、大人しく殴られるから今は先に治療を」

「だったら今殴られろ。この頭でっかち!!」

「ぐはぁっ!」

 

 身を思いっきり屈めてからの、突き上げるようなアッパー。

 鳩尾に貫通されたかと思うほどの衝撃が走る。

 

「てめぇ、よくも泣かせたな!」

「ごふっ!?」

 

 体を浮かされたところで、同じところに拳がもう一発。

 そうか、ティオネは瀕死になればなるほど、怒りが高まれば高まるほどそのステータスは驚異的に上昇する。

 今までのじゃれあいとは比較にならない重い一撃なのは当然の結果だった。

 

「よりにもよって、団長が一番信頼しているてめぇが、団長を泣かせやがって!」

「それはボクが……」

「言い訳なんか聞くかぁ!」

「っあ……」

 

 下腹にハイキック。

 今ので完全にあばらが何本か折れた。

 

「今日が初めてだったのに。てめぇから奪い取った初めての舞踏会だったのに。今夜だけは私の団長になってくれたのに。それを、大事な思い出を滅茶苦茶にしやがって。てめぇ、絶対一生許さねぇからなっ!」

「う……」

 

 同じところにもう一撃。

 本当に今日のティオネは容赦がない。

 そろそろ声すら漏らすのが苦しい。

 

「私は馬鹿だから、てめぇが何を考えてこんなことをやらかしたかなんてわからない。でも、なんで今日なんだよ! いつも舞踏会に連れていかれるのはイル・ムークスだ。いつも同じ部屋で過ごすのは黒百合だ。ずっと私は指を咥えて見ているしかなかったんだ。ずっと努力して、努力して、努力して。ようやく掴んだチャンスが今夜だったのに。団長が欲しがってた、頭脳も、品性も、何もかもを持っていたてめぇに、今日だけやっと追い付いたんだ!」

 

 ぺしん、と力なく左頬を叩かれる。

 

「……なんで、なんで滅茶苦茶にするのよ。だったらせめて私の前に立ち塞がり続けなさいよ。戦いなさいよ。女として、私と同じステージに上がって来てよ。産む覚悟がないなら、団長のために変わる努力ができないんだったら、せめて私の邪魔はしないでよ」

 

 悲痛な訴えだった。

 種族と性別以外、ボクと中身がまるっきり真逆のティオネはずっと歯がゆい思いをしていた。

 それをわかろうとしないで、ティオネがはしゃぐ姿に嫉妬して、こんなみっともないことをボクはやらかしてしまった。

 

「ごめん。謝って済む話じゃないけれど、本当にごめん。ティオネ」

「許さない。許さないわ。だからイル────────てめぇ、歯ぁ食いしばれよ!」

「ぎゃっ!」 

 

 連打。連打。連打。

 容赦ない連打が胴体に襲い掛かる。

 

 お腹が、痛い。

 お腹が、熱い。

 

「これは団長が買ってくれた」

 

 段々と浮き上がっていく体。

 段々と加速する拳と痛み。

 

 そして痛みの奥から生まれてくる得体のしれない感覚の波濤。

 

「初めてのドレスだっていうのに────」

「き……いぃ」

 

 そして背中に振り落とされるヒール。

 

「す──ぃ……」

「破りやがってぇええ────!」

「はうぁっ……??!」

 

 地面にうつぶせの状態で叩きつけられたところに、体重を乗せた肘打ち。

 完璧な空中コンボを見事に決められた。

 

 フィン団長の前でさえ理性を捨て去ったティオネの怒りは至極まっとうなもので、この痛みはボクが甘んじて受けるべき裁きだった。

 

 だけど、なんだこの感覚は。

 なんなのだこの痛いけれども、好ましいとさえも思える妙なこの感覚は。

 

「ティオネ、僕からもとびっきりの説教をするからその辺にしておかないか?」

「いいえ、団長。今日ばかりは止めないで。これは女の問題なの!」

 

 すかさず踵を極められた。

 怒りでリミッターの外れたティオネの固め技で足が引きちぎれそうだ。

 でもいっそのこと引きちぎって欲しいとさえ感じている、さっきから本当に何なんだボクは。

 

「おい、ごらぁあ!! 団長は優しくしても、私は優しくしてやんねぇぞぉ!」

 

 フィン団長にさえ感じたことのないこの胸の高鳴りはなんなのだ。

 まさか────────まさか、まさか、ボクはっ! 

 

「……好きだ」

「は?」

「多分、ボクはティオネのことが好きだ。それも性的に」

「はぁあああああっ!?」

 

 ボクの心は男の頃の感覚に引っ張られていて、それなのにボクは理想はフィン団長に惹かれているそう思っていた。

 

 その認識は間違っていない、でも認識が足りていなかった。 

 

「心はフィン団長が好きなのに。アマゾネスとして惹かれているのは、ティオネ。君だ」

「ちょっと待て、離れろ」

「レナのこと馬鹿にしてたけど、産みたいってこういうことなんだね。体が火照っておかしく、お腹の底からキュンキュンする感覚は生まれて初めてだ。理性に体がついて行かない。ねぇ、ティオネ。ボクはどうしたらいい?」

「知らねぇって。おいっ、ゲロつけるなっ!」

 

 いつの間にか逆にティオネをマウントして腰元に抱き着いていたボクの体。

 ティオネはポカポカと頭頂部にチョップを与えてくれるけれども、そのたびに訪れる新しい快感の波がボクの理性を消失させていく。

 

「痛い。でも酷いことした当然の罰だから受けるよ。だからもっとお願い。もっと激しくと、ボクの中のボクが叫ぶんだ」

「だ、団長ぉ~。イルがロキみたいになってるんですけど。本気で引き剥がしてるのに全然離れないんですけど、一体どうしたらいいんですかぁ~」

「ははっ、諦めて、好きにさせたらいいんじゃないかな。僕の経験談だけど」

 

 違う、違う、違う、ボクが好きなのはフィン団長なのにっ! 

 

「そんな冷めた目で見ないでください。乾いた笑いをしないで下さい。フィン団長。これは違うんです。ボクの心とは違うんですぅ~! 体が、勝手にぃー!」

 

 こうしてボクの中に眠る本当の意味での『異端(女好き)のアマゾネス』が目覚め、一世一代の茶番劇はあっけなく終焉となる。

 ちょっとだけいいムードだった思い出も、すべてが台無しだ。

 

 男にも女にもなれなかったはずの存在は、この日に死んだ。

 種族としての本能に存在を丸ごと否定され、くだらない悩みと一緒に殺された。

 

 そして次の日、ボクは新たなる魔法を手に入れ、新たなる自分を手に入れることになる。 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あの茶番劇から2週間。

 いつもどおりの日常を、今日もボクたちは謳歌する。

 

 ボクはフィン団長の補佐として、今日もギルドや銀行を駆け回り、ボクは何一つ変わらず片腕として力を振るっていた。

 

「カオルっ!」

「ティオネ、どうした?」

 

 フィン団長の休憩中に執務室に飛び込んで来たのは顔を青くしたティオネ。

 

「どうしたもこうしたも、いい加減イルを何とかしてよ。昨晩なんか、布団に潜り込んで来たんだけど!」

 

 ティオネの後ろから抱き着いているのは、ボクと全く同じ容姿のイル・ムークス。

 今までとは違い、ティオネとお揃いのアマゾネスらしい艶やかな服で着飾っている。

 

「寒いから、布団をあっためてあげただけだよ。何にもおかしくないよね、薫?」

「今は夏だよ。嘘としては0点だね、イル」

「がーん、薫はイルの味方だと思ってたのに酷いー」

「ところでティオネ」

「何よ」

「イルのことは任せた」

「何がところでよ! ふざけんじゃないわよ、あんたの半身でしょうが! それになんでそもそも理性を半分にしなかったの。本能だけのアマゾネスなんて最悪じゃない!」

「ティオネ、それ特大のブーメランってわかってる?」

 

 そう、ボクはあの夜の出来事をきっかけとして、分裂魔法を取得した。

 かの忌々しい事件の首謀者が用いた魔法と限りなく似た効果のものだ。

 ボクは前世の薫としての心と理性を持つ、カオル・ムークスとアマゾネスとしてのイル・ムークスの2人に分割した。

 

 だから、女性になれない元男性としていつまでも割り切ることができず、中途半端だったままのボクはもうこの世界のどこにもいない。

 

 アマゾネスとしての本能と才能全てをイルに振り分け、勇者の懐刀としての能力はカオルに振り分けた。

 

 中途半端はよくないと知ったから、お互いのためにそうしたのだ。

 だけど自分でも意外だったのが団長を好きだって心は、薫としての感覚だったらしいので、精神的な面で考えればボクも中々に異端の恋をしていたらしい。

 あの夜にアマゾネスとして覚醒時のときめきの感覚が、イルが分裂した後のボクの在り方さえもを完全に吹っ切らせていた。

 

 心が同性のフィン団長を愛するボクと、体が同性のティオネを愛するイル。

 魔法で分裂する前のボクたち二人は変わり者同士だったからこそ、一人の人間としてここまでやってこれたのかもしれないと今でこそ思う。

 

「よし、こうなったらカオル、あんたの方をぶちのめして、一旦一つに戻すしかなさそうね」

「まぁまぁ、落ち着いて。今日は良いもの持ってきたから。イルの面倒を見てくれるならこれを渡す用意がある」

「何?」

「団長のサイン入りの婚姻届けだ」

 

 不敵な笑みと共に、ひらりとそれを見せつけてやった。

 

「渡せ」

「はい」

「え、本当にいいの? それにどうやって手に入れたのよコレ?」

「それはちょっとっした幻影魔法をかけてもらった書類を紛れ込ませておいてだね」

 

 前世の記憶を生かした想像力による悪知恵の一つだ。

 フィン団長と同じステージにさえ立たなければ、ボクならばそこそこの確率でフィン団長を相手にしても欲しい成果をもぎ取れることを既に知っている。

 

「今初めてアンタの頭の良さに感謝してるわ。イルのおバカに脳味噌あげてたらこうは行かなかったものね」

「そりゃどうも。あ、でも第一夫人はボクだからね」

「イルとティオネのは~?」

「んー今度用意しとくね」

「ふざけんな。てめぇの分の書類はどこに隠してる?!」

 

 ばん、と音がしたのは3人のアマゾネスが姦しくしている机の方ではなく、執務室の入り口の方だった。

 

「イル、あの二人はなんて言っていたか、僕にわかりやすく教えてくれないかな?」

「あ、だんちょーだ。カオルとティオネが、だんちょーの婚姻届けとか、どっちが一番とか言ってたよ」

「ありがとうイル。君は素直で良い子だね」

「へへー、でしょでしょ」

「さて、薫、ティオネ。それをこっちに渡してもらおうか」

 

 すごくいい笑顔をしている団長。

 すごく男前な笑顔なのに、目が全然笑っていない。

 

「ねぇ、ティオネ」

「ええカオル、かくなる上は……」

「逃げよう」

「逃げるわよ」

 

 ボクたち二人はハリウッド映画宜しく、窓から飛び降りた。

 

「イル。二人を追ってくれ。望むだけの報酬は用意する」

「うん、いいよー」

『ロキ・ファミリア総員に告ぐ────────』

 

 

 

 ◆

 

 

 黄昏の館の主は、愛する子供たちの歓声を肴にして、好物である酒、その中で最も好む逸品を手にしていた。

 

「今日も子供らは元気やなぁ。昼間っから呑むソーマは最高やわー」

 

 杯を置いて代わりに手にしたのは羽ペンと、逃げ纏う二人から預けられた二枚の紙切れ。

 

「だから下界は最高や。でももっと面白くしたらんとなぁ。うちのサインはこれでよしっと。じゃあ、あとの欄はアンタが書くんやで。イル」

「はーい。ほしょーにん、ってところでいいの?」 

「そうそう。これでフィンもティオネも薫もみんな幸せや」

「ティオネと薫が幸せなら私も幸せだよー」

 

 実年齢の半分くらいを思わせるような幼い仕草で無邪気に笑う褐色の少女は、自らの半身と愛する女性のためと、悪戯好きの主神の思惑に、一も二もなく頷いた。

 

「よっしゃ、じゃあイルにもとっておきのソーマわけたるわ」

「やったー!」

「じゃあイルたん、まずはうちの分注いでやー。よしよし、そんじゃイルたんの分な」

「いい香り~」

「それじゃ、勇者と2人の花嫁たちに乾杯や」

「かんぱーい!」

「くー、イルたんと飲むお酒は最高やわ」

「ロキ、おいしいお酒くれるからティオネの次の、リヴェリアの次に好き~」

「3番目か~、1番目にしてもええんやで」

「考えとくね~」

 

 自らを慕う少女を撫でながら、天界の元トリックスターは穏やかに微笑む。

 

「フィンの奴、もう答えなんかとっくの昔に出しとる癖に。ここは親として後押ししたらんとな」

 

 その視線の先には中庭を駆け回る3人の愛する子供たち。

 

「────あとは勇気だけやで、勇者(ブレイバー)

 

 彼らの素晴らしき未来を願って、神は杯を一つ鳴らした。

 




これにてトゥルーエンド編完結です。
お付き合い頂きありがとうございました。

もとのプロットではバトル重視のシリアスな最終話でしたが、種明かしの関係上ギャグテイストになり、ある意味あらすじに偽りなしの茶番劇でした。

3話との落差が大きいので期待はずれ、って方向けにアナザーエンドとしてドロッドロの愛憎劇な最終話を用意しています。

主人公の補足をすると、もともと女性に興味あったのは本能側のイルでしたが、男としての記憶のせいだと理性側の薫が勘違いしていたので、色々悩み続けた10年でした。
薫の感覚自体は前世を思い出すまでの期間に、女としての感覚が実は馴染んでいたけれど、イルの女好きパワーのせいで表に出てこれなかったという設定です。

またどこかで拙作と出会う機会があれば宜しくお願い致します。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

容赦も救いも要らない方は次話、アナザーエンドへどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。