【完結】TSアマゾネスが勇者に殺されたがるのは間違っているだろうか   作:みゅう(蒼山みゆう)

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どこにも辿り着けなかった彼女の、もう一つの物語。
行き場を失ったアイの成れ果て。


   ~警告~

・こちら側の結末には救済はありません。
・もう片方の結末と比べると軽い性的描写があります。
・今話の頭から6割はルート共通です。
 もう片方を既読の場合、真ん中の赤字部分から読み始めて問題ないです。



未改訂版(アナザーエンド) ~アイの成れ果て~
最終話(上) TSアマゾネスは狂気に堕ちる


「5分も早い。流石フィン団長だ。いつもボクの想定を上回ってくれるんですね」

 

 本当に全速力で来たのだろう。

 荒々しく扉を蹴破って、部屋に突入してきたその眼は、あの魔法を使ったときのように激しい怒りに燃えていた。

 フィン団長のその手にはいつもの双槍はない。

 一刻も早く解呪と、解毒薬を入手するためにここに駆けつけてくるのを最優先した結果だろう。

 

「イル、どうしてこんなことをした?」

()の口からそれを言わせるなんて、酷いですね。ただ許せなかった、それだけの話ですよ」

 

 許せなかったのは決してティオネのことではない。

 ボクはティオネのことを認めている。

 変わること恐れない強い女として、諦めることを知らない女として。

 

 だから彼女がフィン団長の傍にいることを許せた。

 祝福しようとさえ考え、こんな茶番劇さえ用意した。

 でもボクは、女であることを選べなかったボク自身が許せなかった。

 

「自分の気持ちのこととなると、いつも君はそうやってはぐらかすんだね。だけど今日ばかりは、きちんと言葉にしてくれ。僕は全てを正しく察することができるほど万能じゃない」

「する必要なんかありません。して欲しくなんかありません」

「何故君はいつも理解されることを拒む。自分の殻に引き籠る。10年だ。僕は誰よりも君を見てきた自負がある。今一度問おうイル、僕は、君にとっての勇者はそんなに頼りがない男なのか?」

「頼りがいがありますよ。誰よりも信頼しています。だからこそ言葉にできない。してはいけない気持ちだってあるんです。わかって欲しくないことをわかって下さい!」

 

 きっと全部バレてる。

 だけど言葉にすることで、その気持ちに形を与えることが、ニ度目の死を選ぶことよりずっと怖かった。

 

 あまりにもあっけなかった一度目の死が、苦しみのない世界を知ってしまったことが、誘蛾灯の如く安易な道へとボクをいざなっていた。

 

「君が理解されることを拒むのなら、あとは力づくで立ち塞がるしかない。時間がないんだ」

「フィン団長に口喧嘩で勝てるわけないって知ってるんで、早く力づくで来てください。あまり猶予はないですよ。聖女もオラリオに居ない。そして解呪に必要な薬剤はオラリオ中から全て買い取って隠しました。ボクを殺して解呪しない限り、ティオネを救う手段はないですよ」

「あるよ。君をティオネに謝らせて、君自身で解呪させる」

 

 一歩、そしてまた一歩。

 ゆっくりとした足取りで彼は距離を詰めてくる。

 

「死んでも嫌です。殺されてでも、ボクかティオネを選んで貰います」

「勇者の僕が仲間の死を選ぶとでも?」

 

 選ぶはずなんてない。

 でも選ばなくちゃいけないように、ギリギリのラインを綿密に計画したからこそ、ボクたちは今ここに居る。

 

「────オラリオは平和になりました。平和になりすぎました。だからこそ今は遠征に専念できて順調に最深到達階層を更新できています。でもこれじゃダメです」

 

 一つ、深呼吸して先を続ける。

 

「自惚れじゃないって言い切れるぐらいに、ボクは貴方の片腕としてファミリアを、オラリオを助け過ぎました。せめて次善の結果は掴めるように、取りこぼしが少なくなるように。そして冒険を、貴方の成長の機会を奪い取ってしまった。まだまだボクが未熟でサポートが至らなかったあの暗黒期のように、冷酷に取捨選択しながら進んで行った貴方の姿はもう見る影もない」

「イル、今の君はザルドたちみたいなことを言っている自覚はあるかい?」

「ありますよ。勿論。今だからこそ、ちょっとだけ共感できます。フィン団長、今の貴方に足りないのは選ぶ苦しみと、そして何よりも進んで行く速さです。だから、今ここでボクを切り捨てて、前に進んでもらいます。ボクと出会う前の貴方になって、手数の足りなさにもっと苦しみながら進んでもらいます」

 

 今のボクはきっと人生で一番酷い顔をしていることだろう。

 今までよりもサポートが薄くなったフィン団長に『イルが生きて入れば』と、そのたった一言でも残せればボクの勝ちだ。

 

「ティオネを見殺しにする気がないんだったら、ファミリアと勇者の未来のために、その手でボクを殺してください。なまっちょろい冒険より、良いステイタスになってあげますよ」

「随分と饒舌だったけど、言いたいことはそれだけかい? お説教は後にすることにしよう。今は君を────」

 

 フィン団長が身を屈め、脚に力を籠めようとしたその瞬間。

 ボクは壁を叩き、仕掛けを作動させ、強烈な刺激臭を伴う煙幕を張る。

 

「くっ、催涙ガスか」

 

 無手とは言えステイタスがほぼカンストに近いフィン団長と、レベル6とは言え平均D位のステイタスに留まっているボクとでは、普通に戦えばどちらが勝つかなんて考える必要もない。

 

 スキルと薬品でありったけのバフを掛けて、魔法なしの団長のステイタスに敏捷が追い付くかどうかだ。

 

 だから今日だけは味方に決して奮うことのない武器を、ありとあらゆる悪意()を用意した。

 天井に仕込んでいた血の凝固を止める毒を込めた矢の仕掛けを解き放つ。

 これは仕掛けを作動させたボクのいる安全地帯以外では避けようのない密度で用意した。

 

 弾くための武器もなく、最悪の視界からの急襲であればフィン団長とは言えども────

 

「初見で見抜くなんて流石です。でも遅い」

「ぐっ!?」

 

 躊躇いなく顔面に突き立てようとしてきた拳はボクに届くことはなく、逆にボクの拳がフィン団長の右頬に突き刺さる。

 格上の相手にボクがこれを成せたのは単純なリーチの差、そして敏捷と器用ステイタスの差。

 

 この廃屋中に最初から巡らせてある無色無臭の毒ガスが、レアスキルによる毒への完全耐性を得たボク以外のステイタスと体力を徹底的に削ぎ落している。

 

 それ以外にも致死性を持たないという条件さえみたせば、三半規管と呼吸器、そして末梢神経に作用するものなど、ありとあらゆる毒の中で最悪の効果を発揮する毒を選んで、この廃屋と手持ちの武器に仕掛けてある。

 

 フィン団長を殺すなんてことはボクには絶対できない。でも本気の本気で打倒するためのありとあらゆる手段は用意した。

 

 だから超えてください。

 この逆境を、ボクの用意した(試練)を。

 

 踏みにじって、進んで下さい。

 ボクのどうしようもないこの(生命)を。

 

「君こそ甘いよ。殺意が足りない」

 

 そして嬉しくも悲しいことに、勇者は今夜もボクの期待を裏切らなかった。

 振り抜いたはずの右腕を掴まれたボクの体は、グッと下へと引っ張られてバランスを崩し、首に腕を巻き付けられた。

 

 ダメだ、落とされる。

 全力を尽くしたはずなのに何の試練にもならない位に、こうもあっけなく。

 

 絞め落されるのを覚悟し、瞳を閉じたボクに待っていたのは痛みではなく、思いもかけない言葉だった。

 

「イル、僕だってそう鈍感じゃない。思い上がりでなければ、君が僕に向けている感情の名前は多分わかっている。だけど君がここまで思い詰めていただなんてのは予想外だった」

「……フィン団長」

 

 そして新たに回された左手が私を頭部を包み込む。

 その小さな体躯に見合わないほどの力で、強く、暖かく。

 

「理解できていなかったことにようやく気付いた。だから僕は君をもっと理解したい。君は僕の一部だ。決して踏み台なんかじゃない。勇者の目であり、耳であり、頭脳の一部だ」

 

 泣いている赤子をあやすかのように指先で頭を撫でつけながら、憧れの人は言葉を続けた。

 

「イル、多分君にとって一番残酷なことを言おう。僕はきっと君が望んでいるであろうことを決して叶えることはできない。僕にとって一族再興の悲願は決して捨てられないんだ。でもその上で君に伝えたい」

 

 ボクの頭に添えられていた手が両肩に移された。

 窓から強い風が吹き込み、煙幕が晴れていく。

 

 ボクが愛した人の顔が、月明かりに照らされてその輪郭を一層と露わにする。

 丸くてちっちゃな可愛い彼の頬には二粒の雫。

 催涙ガスのせいだなんてことはわかっているけれども、この10年で初めて垣間見たその涙が、もしボクを想ってのものだったらいいのにと願ってしまう。

 

「イル、聞いてくれ」

「はい」

 

 ボクはただ一言だけを返す。

 

「僕は君と生きていたい。僕がいつか本物の勇者になれるその日まで、これまでのように僕に一番近いところで、僕の力となって欲しい。男としては最低でわがままな願いだとわかっている。だけど、どうかこの願いを聞いてくれるかい?」

 

 いつもずるいなぁ、この人は。

 いっそのことばっさりと切り捨ててくれたら楽なのに、それを許してくれない。

 本当に、男としては最低な人だ。

 

 

 

 

 

 

 こんなことで説得できるなんて思いあがれるなんて、なんて傲慢な人なんだ。

 

 だから一生忘れられない疵を、つけてやることにしよう。

 

 

 

 

 

「はい、いつまでもお傍に。ボクは全てを捧げます。だから────」

「んっ……!?」

 

 最初は舞い落ちる桜の花弁がそっと、地平線と交わるように。

 次は、ゆっくりと下弦の月を外から、そして内側から丁寧に拭いとるように。

 

 ボクは彼と温もりを交換する。 

 

 なぁんだ。

 やってみれば、意外とやれるもんだ。

 

 この感情はきっとトキメキなんて呼べる純粋なものなんかじゃないけれど、フィン団長の初めてを奪ったという事実が、独占欲が満たされる感覚がなんだか癖になってしまいそうだ。

 

 今、彼がどんな顔をしているのか見てみたい。

 困惑して目を丸くしているのか、照れてくれているのか、それとも蕩けているのか。

 

 いいや、目を開けるのはもったいない。

 目を見開くまでは、可能性は無限大だ。

 ボクが女になりきれていれば見れたかもしれないもしもの未来、もしもの彼。

 残り少ない時間しか残されていないのだから、可能性は無限大のまま眠りにつきたい。

 

 ゆっくりとつぼみをこじ開けるようにして、その奥に眠る彼の呼吸を捕食する。

 決してどこにも逃がさぬよう、奥深くへと潜り、根元から絡めとった。

 

 一方的に蹂躙するだけの愛の真似事は、ボクに悦楽を与えてはくれない。

 でも、こうしても尚、満たされない欠陥品であることを最後に知れただけでも良かった。

 

 じくりと、溢れ出す液体を彼の喉奥に直接流し込む。

 そして彼もボクにあたたかな雫を注ぎ返してくれた。

 

 鉄錆の味がする、赤い赤い生命の雫を。

 

「ぐっ、か、はっ……!?」

「ひょっとしてどこかの兎ちゃんみたいに、うまくやれるかもって思っちゃいましたか?」

 

 かくり、ばたりと。

 華奢な躰は膝から床に崩れ堕ちた。

 

「ダメじゃないですか。ここは男として、ティオネのために断固拒絶するべきところですよ」

 

 だからこうやって毒を流し込まれる。

 都合の良いラブロマンスはもう今夜は品切れなのだ。

 

「まぁこれでフィン団長のファーストキスがティオネに届くことは二度とないですね。本当に酷い人です。ボクも貴方も」

「ィ……ル」

「決して殺しはしない、ボクが殺されてフィン団長と一緒になるつもりだった。本当はそのはずだったんですけどねぇ」

 

 右膝のホルダーからナイフを引き抜く。

 オラリオで初めてランクアップしたときに買ってもらったナイフの内、手元に残った最後の一本だ。

 レベル6となった今では現役を退いた武器だけど、後輩たちに払い下げることもなく、部屋に飾り付けていたものを、なんとなく今日は身に着けて置きたくて持ち出してきた。

 

「もう、虫の息ですか? 死なない程度にしか入れてないのに。今頃ティオネの馬鹿はもっとキツイ毒を今も耐え抜いていますよ────あ、そうだ! いっそのことボクがフィン団長を殺して、経験値をもらって一つになるのもいいかもしれませんね。そして。オラリオを抜け出して今度は吟遊詩人になりましょう。ボク、ずっと昔(前世)から憧れていたんです」

 

 床に横たわり、息も絶え絶えなフィン団長が震える右手をボクに伸ばそうとしてくる。

 

「オラリオを幾度となく救った英雄の話を広げるんです。世界中の小人族に届くようにボクが勇者の歌を響かせましょう!」

 

 ボクと一つになって世界を回りましょう。

 オラリオの中に引き籠るより、二人の旅の方がきっと楽しいはずだ。

 

「それでは一旦さようならです。夢の中でまた会いましょう」

 

 膝をつき、逆手に構えたナイフを高く構え、血の滴る細い喉元に切っ先を向けた、

 

「永遠に愛してます。でも叶うことならば、女として愛したかった。フィン団長──────」

 

 振り下ろそうとした、まさにその瞬間だった。

 何かがボクの手にぶつかり、思わずナイフを取り落としてしまう。

 

 

 

 

「なに……やってんだよ」

 

 

 

 

 まだ歩けたんだ。

 どうやらボクは彼女のことを見くびり過ぎていたらしい。

 最後の作戦でボクは大きなミスを犯してしまったようだ。

 

「もうそろそろ死ぬ頃だというのに随分しぶといんですね」

「まだ死ねるかっ。それよりも質問に答えろ!」

 

 胸元を鮮血で染め上げた、純白のイブニングドレスのティオネが月明かりの差し込む窓辺に立っていた。

 

 

 

 

 

 「てめぇは誰にナイフを向けてんだよ!! イルゥッ!!!」

 

 

 

 

 

 睨まれただけで肌が焼け落ちそうなほどの鮮烈な眼光。

 怒蛇(ヨルムガンド)はかつてないほどに本気の殺意を、ボクに向けて解き放っていた。

 

 お互い、目を合わせた瞬間にはきっとわかっていた。

 どちらかが死ぬまでは、もう決して止まれない。

 

 

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