【完結】TSアマゾネスが勇者に殺されたがるのは間違っているだろうか   作:みゅう(蒼山みゆう)

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アナザーエンド後半。
これが本当のラストです。





最終話(下) アマゾネスは努力する

「この、脳筋女め。何わかりきったことを言ってるの? 見ればわかるでしょ」

「そういうことを聞いてんじゃねぇ! 本当になんなんだよ。私に団長を取られた嫉妬か!?」

 

 もっと動きやすいようにするためか、ドレスの裾を股の付け根近くまで引きちぎりながら吠えるティオネ。

 

「そうだよ。だからボクの手に取り戻して何が悪いの?」

「悪いに決まってんだろうが。てめぇは団長を傷つけた」

 

 理性が蒸発しているこの女との、くだらない問答はそう長くは続かないだろう。

 

「よりにもよって、団長が一番信頼しているてめぇがぁあああ!」

 

 迅い────そう考えたときには既に遅かった。

 鼻っ柱に渾身の右ストレートを受け、壁に背中を叩きつけられる。

 

「こんなことをしでかして、何が取り戻すだ。ふざけんな! 取り戻す努力を一度でもしたことがあったのかよ!?」

「ごふっ!?」

 

 身を思いっきり屈めてからの、突き上げるようなアッパー。

 鳩尾に貫通されたかと思うほどの衝撃が走る。

 

「どれだけ私が嫉妬していたかわかるか? いつも舞踏会に連れていかれるのはイル・ムークスだ。いつも同じ部屋で過ごすのは黒百合だ。ずっと私は指を咥えて見ているしかなかった!」

 

 体を浮かされたところで、同じところに拳がもう一発。

 肺の空気が全て外へと排出される。

 今のボクは息をすることさえも許されない。

 

「だから私は努力した。努力して、努力して、努力して。馬鹿なりに考えてやれることは全部やった!」

「かはっ……」

 

 リミッターを外したティオネの暴力はあまりにも圧倒的だった。

 勝負の土俵にさえ、ボクは立たせてもらうことすらできなかった。

 

 ティオネは瀕死になればなるほど、怒りが高まれば高まるほど、所有するスキルの効果によってそのステータスは劇的に上昇する。

 今までの小競り合いとは比較にならないほどに、重い一撃なのは当然の結果だった

 

「団長が欲しがってた、頭脳も、品性も、何もかもを持っていたてめぇに、追い付いて、そして追い抜くために。全力で変わろうと私は努力した!」

 

 下腹にハイキック。

 今ので完全にあばらが何本か折れた。

 そしてすかさず同じところにもう一撃。

 

「変わらなかった。変わろうと努力しなかった。団長の優しさに付け込んで、ありのままの自分を認められることに満足するだけで終わってた。努力をしなかった今のままのてめぇには、団長は絶対渡さねぇ。負け犬は大人しくそこで指を咥えて見ていろっ!」

 

 抉り取るように容赦なく叩き込まれる腹部への衝撃。

 一言ずつに込められた彼女の想いが、打ち付けられた拳を通して嫌というほどに理解させられる。

 

 それは悲痛な訴えだった。

 ボクとほぼ全てのスペックが真逆のティオネはずっと歯がゆい思いをして来た。

 でも彼女は自力で団長の隣をたったの一度、ようやくの一度を勝ち取った。

 

 その姿が眩しくて叶わないと思ったからこそ、今日の計画を立てて来たはずなのに、ボクは一時の気の迷いで、フィン団長に何をしてしまったのだろう。

 

「でもそれが嫌だったら、戦えよ。不敵に笑って、私の前に立ち塞がり続けろよ。腹括って、女として私と同じステージに上がって来いよ!」

 

 床に仰向けとなりマウントを取られたボクは、首根っこを掴まれて怒声を浴びせられる。

 

「努力したよ。遅かったかもしれないけれど、最後の最後でボクはようやく努力をした。ねぇティオネ、残酷なことを聞かせてあげようか。ボクはフィン団長とキスをした」

「嘘っ!?」

 

 掴まれていた襟を手放され、後頭部ごと床に叩きつけられる。

 

「でも、ダメだった。全然幸せにもなれなかったし、気持ちよくもなれなかった。ティオネたちみたいに普通の女の子と同じ舞台にボクはあがることすら許されなかったんだよ」

 

 ティオネは追撃を加えることはせず、ただボクを声に耳を傾ける。

 

「何が努力だよ。報われる可能性のある努力ならボクだって全力でやるに決まっているだろう。普通のアマゾネスに生まれた君が、知った口を利くなよ!」

「イル……」

「女としての全てを生まれ持ったアマゾネスでありながら、男としての心を刻まれたボクの気持ちがわかる? 無理にでも一歩をようやく踏み出してみて、フィン団長を幸せにできないって確信したときの絶望が、女としての好きを手に入れた君に、わかるわけないだろう! ボクはこの世に生まれてくるべきなんかじゃなかった。この世界に相応しい存在じゃなかった。きっと本来紡がれるべき物語の形を、ボク一人の我儘で歪めてしまっていたんだ」

「私は馬鹿だから、イルの言っていることなんてちっともわかんないわ。もっとわかるように言いなさいよ。この頭でっかち」

 

 ぺしん、と力なく左頬を叩かれる。

 ふと湧いた疑問は一瞬で解決した。

 

「────ティオネ」

 

 怒りが多少収まったせいなのか、もしくはスキルの効果でごまかせるダメージ量でなくなったからか、彼女の顔色がみるみる内に青くなっている。

 そろそろ毒が回り切ってしまう頃合いだ。 

 

「もう限界だろう。ボクの負けでいい。今は早く団長のところへ。二人まとめて解毒と解呪をする」

「わかったわ。私はまだ耐えられるけど、体の小さな団長は毒の回りが早いはずだから、少しでも早く」

 

 今の二人の状況に対応できる解毒、解呪手段を奪われたこのオラリオで、対抗できるもっとも簡易な手段はボクの魔法だ。

 

 サークル内に二人の体が納まるように移動させ、ボクは詠唱を開始する。

 

「我は白にして玲瓏たる月華の乙女達に請う。清らかなる星霜の祈りを紡ぎ、安寧の光を今此処に。輪唱せよ『浄滅の凱歌』」

 

 この程度の痛みぐらいなら、詠唱になんの支障もなかった。

 サークル内に降り注ぐ白い光の雨が無事に二人の解毒と解呪に成功したことを確認する。

 

「良かった。これで団長は無事ね」

 

 解呪と解毒は成功したものの、負傷自体はまだ収まっていないティオネは未だに顔色が悪い。

 そんな彼女はやっぱり、意識を失った団長の身を一番に案じた。

 

「イル、これからどうするつもり? いえ、どうしたいの?」

「最初はフィン団長にって考えてたけど、今ならティオネになら殺されてもいいかなって、ちょっと考え出してたところ。まぁすぐに却下したけれど」

 

 ボクは思い浮かべた馬鹿みたいな考えを正直に言葉にする。

 

「バッカじゃない! 頭いいくせにホント私よりずっと馬鹿ね」

「とっくに知ってる。ムカつくけどそうみたいだね────ティオネ」

「何よ?」

「フィン団長のことお願いね」

「任されたなんて言わないわよ。私の意志と私の足で、勝手に団長についていくわ」

 

 強いなぁ、かっこいいなぁ、いつもティオネは。

 

「そうか。それなら安心だ。これで安心してオラリオを去れる」

「そう、なんとなくそんな気はしていたけれど。ファミリアに留まる気はないのね?」

「うん、ファミリアのみんなのことは遠いところから想うことにするよ。そうだティオネ、前から一つ気になっていたんだけどさ。ティオネってファーストキスはもう済ませたの?」

「キキキ、キスなんてそんな大胆なことまだ私は────っ?!!」

 

 前歯をぶつけるぐらいに強引に口を塞いで、そしてすぐに離れる。

 カチンとぶつかった歯済みで、下唇が少し裂け、口内に血が流れ込む。

 きっとそれは後悔の味がした。

 

「……は、はははっ!」

 

 なーんだ、そんな単純なことだったのか。

 

 今のは単なる嫌がらせだったはずなのに、嫌がらせでやってしまったことを後悔した。

 

 馬鹿だなぁ。

 今頃になって気付くなんて本当に馬鹿だよボクは。 

 

「何笑ってんのよイル! ふざけんな!」

「ロマンチックなファーストキスを団長に捧げさせるもんか、って思っただけなんだけどね」

「え、何よレナみたいなその変な顔は! まさかイルって、もしかしてそっちの気もあったの?!」

 

 冗談で言ったであろう彼女の言葉にもっと早く気付いていれば、もっと違う結末もあったかもしれないのになぁ。

 

「もし、そうかもしれないって言ったらどうする?」

「もしも、なにも。私の心も体も団長のものよ。他の誰にも渡さないわ!」

「そう、それならいいや」

 

 フィン団長ならば、ティオネを任せていいや。

 

「何が”いいや”よ! 全然意味わかんないんだけど」

 

 そうかフィン団長のことは心から敬愛していたけれど、どこまでも真っすぐで、誰よりも努力家な君のことをもしかしたらボクは────────

 

「ティオネ、これを」

 

 ティオネの首へ鍵付きの銀のネックレスを装着させる。

 

「ノームの万屋でこれを見せればわかるさ。本当は破棄するつもりだったけれど君にあげるよ」

「よくわかんないけど、大事なものなんでしょ。団長のために使わせてもらうわ」

「是非そうしてくれよ。じゃあ、そろそろボクはオラリオを去るよ」

「は? フィン団長への詫びとか色々あるけれど、最低限ロキのところで改宗できるようにしないとダメでしょ?」

 

 ティオネの言うことは本当なら間違っていない。

 冒険者なら当然のことだけど、今回はその常識に当てはまらなかった。

 

 ボクはこれからオラリオ(この世)を去るのだ。

 間違った勇気の使い方だけれど、これが一番だと思えたから決心がついた。

 

「ティオネ、フィン団長を抱えてくれる? そう、もっとぎゅっとだ」

「こ、こうかしら?」

 

 胸元に抱え込みながら恥じらうティオネ。

 そんな彼女の胴体を掴み、窓の外へと投げ飛ばす。

 毒で弱り切った体力の戻っていないティオネには抗う術はなかった。

 

「なにすんのよっ! ────────まさかっ」

「バイバイ」

 

 3階から落下する彼女たちを見ながら、ボクはソレを起動させた。

 

「イルゥー!!!」

 

 夜を引き裂く轟音は、天井、地下、左右の部屋、ありとあらゆる場所で次々と連鎖した。

 かつての大抗争でオラリオを恐怖に染め上げたイヴィルスの負の遺産と共に、ボクはここで眠ろう。

 

 あっさりと根負けして魔法を使ったのは失敗だったなぁ。

 2人がボクを殺す意味がなくなってしまったから、こんな終わり方を選ぶしかなくなってしまった。

 

 子宮(おなか)に埋め込んだ薬も結局役立たずのままだ。

 ティオネを救わせるためにのほかの女(ボク)の子宮を漁らせるという、最悪なトラウマを植え付けさせる作戦は結局お蔵入り。

 あのときティオネの強さを認めてしまったから、ボクの女としての最低限の良心がそれだけはダメだと踏みとどまらせた。

 本当にこれだけは、やらなくてよかったと今更ながらに安堵する。

 

 ぐらりと、足場が崩れた。

 そして天から降り注ぐ瓦礫とともに埋もれいく中で考えるのは二人のこと。

 

 殺されてステイタスとなって、順調に進んでくれるよりも、ボクのいない世界で前みたいに順調に進めなくて、苦しんでくれた方がボクが健在だったころのありがたさを思い出してくれるかもしれないじゃないか。

 

 ボクがフィン団長とティオネの心に傷をつけるから、それを二人で埋め合いながら、重い足取りで歩いてくれるなら、ボクが生きた証はそれでもう十分だ。

 

 

 

 

 ────────暗い、暗い、世界の中で、ようやく光が迎えに来た。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「団長、さっきからずっと詰め込み過ぎですよ。これ期限まだ残っているのに」

「そうだったのかい? すまない。てっきり進捗が遅れていると勘違いしていたよ」

 

 イルが旅立った後、後任となったアキとラウルの二人に頼み込んで私は団長の補佐について少しずつ勉強することにした。今はまだ二人のお使い程度のことしかできないけれど、がんばって帳簿の手伝いもできるように、算術の勉強も少しずつ始めている。

 

「少し休憩しませんか?」

「これは、クールマリーの花茶か。最近は中々流通しなくなってね、随分となつかしい匂いだよ。それによく知っていたね?」

「私は団長のこと、オラリオ中の誰よりも知っているんですから当然です」

 

 そう、私はオラリオ中の誰よりも団長のことを知っている。

 それのほとんどは今は天界に還ったイルが私に教えてくれたこと。

 

 今日出したのは彼女がファミリアに来た初めての日に団長が淹れてくれた故郷の味。

 

 ノームの万屋の鍵で引き出したのは古い日記帳だった。

 ロキ・ファミリアに来てからの10年分、それを私は受け取った。

 捨てることも、誰かに見せることも良しとできなかった彼女が遺した思い出の欠片たちを。

 

 団長への愛が、自分の性のことを理解できない恐怖が、ファミリアの代わりに一人で背負って来た暗部の闇が、余すことなくそこには綴られていた。

 

 イル・ムークスの愛を、知識を、祈りを、彼女が抱いていた全てを、私は託された。

 

「それとこれも良かったらどうぞ」

 

 見た目は武骨なリンゴのカントリーケーキを一切れ差し出す。

 

「ティオネ、これはもしかして……」

「レフィーヤに手伝って貰いながらですけれど、頑張って作ってみたんです。イルみたいに美味しくないかもしれないけれど」

 

 これもイルが遺してくれたレシピの一つ。

 時々彼女が振舞ってくれた忘れられない思い出の味。

 甘さも、香りも、触感も、団長の好みとなるようにイルが試行錯誤の果てに生み出した味だ。

 

 これはイルの献身と努力の結晶だ。

 それを私は恥ずかしげもなくその知識と技を盗みとった。 

 

「ありがたく頂くよ。────────うん、美味しいね」

「よかったです。頑張った甲斐がありました」

「君もたべるかい?」

「はい」

 

 私は団長からフォークを渡された。

 恋人同士がするような「あーん」が自然とできる日はまだまだ遠い。

 最近仕事馬鹿になっているから、もう少しデートなどをできるようになりたいものだ。

 

 そして私は一口含む。

 さっきも味見はしたけれども、なかなかの出来栄えだった。

 

 でも、料理上手なレフィーヤに手伝って貰っても尚、まだイルの味には少し届いていなかった。

 空気がうまく抜けていないところがあって触感が違うし、ちょっとだけ小麦粉がダマになっていた。

 

「────次は、もっと美味しいの作りますから」

「そうか。それじゃあ期待しておくよ」

 

 団長が花茶で喉を潤おしながら自然な笑顔でそう答えてくれる。

 そう言われたら頑張るしかないじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は努力する。

 女として、冒険者として、団長の補佐として努力をし続ける。

 

 それがティオネ・ヒリュテにはできるのだと、あのイル・ムークスが信じてくれたのだから。

 誰も泣かずに済んだかもしれない、もしも話を踏み越えて、今日も私は前へと進み続ける。

 

 

 

 

「イル、勝ち逃げしたつもりだろうけれど、私は負けないからね。天界(そこで)で見てなさい」

 

 

 




ラストまでお付き合い頂きありがとうございました。

これはフィン団長と共に、本当はティオネを愛していたイルの物語。
報われない愛の行く末として最初に思い浮かべたのがこのエンドでした。

ギャグ補正の強かったトゥルーエンドよりもティオネへの思いがこのエンドには詰まっています。

生前も死後も立ち塞がるイルという強敵に、努力で挑み続けるティオネの話こそを本当は描きたかったのです。
今話のサブタイトルは意図的なもので間違いではないです。

【お願い】
2025/11/24
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