アイツは何も言わずひょっこり帰って来た。
私が大学に進学する直前の3月、家のインターホンが鳴った。
カメラ越しに確認するとアイツだった。
会うのはおじいちゃんが亡くなった時以来になる。
どうして今更?こっちの気も知らないで。
居留守をしようか少し逡巡したが、結局出ることにした。
「今更何しに来たの?」
「今年から就職でこっちで仕事することになったから。」
自分が思った以上に冷たい声色になってしまった。
アイツは特に気にした様子もなく、返してくれたけれども。
「私が今までどんな気持ちだったか分かってる?あの時の事、私はまだ根に持ってるんだからね。」
咎めるように私は問いかける。
「理解していないわけじゃないけど、一ノ瀬の気持ちが全て分かるわけじゃない。年も離れているし、俺にも進路があった。俺もどこかで決断をしなければいけなかった。幼馴染と言えどそこまで言われる筋合いはないな。まだ何か言いたいことはあるか?」
私は何も言い返せなかった。彼の言うことは正論だった。私だって分かってる。あの時の事を後悔している様子は無かった。
アイツはいつも通りだった。昔と変わらず。
「そっちも今年から大学生だろ。新しいアパートはもう決まっているのか?」
「…うん。手続きもほとんど終わっているし、後は管理会社から鍵を貰って必要なものを運び入れるだけ。」
「…そうか。力仕事が必要なら呼んでくれ。引っ越すと郵便番号とか前の住所とこんがらがって分かんなくなるんだよな。」
10分ほどお互い近況と取り留めもない話をして、その日は解散になった。昔と変わらない日常の一幕。私が4年間焦がれるほどに欲しかった日常。
アイツの新しい家は私の住む場所からそんなに遠くない。偶然だろうか。深く考えてもしょうがないっか。
アイツがあの時の変わらず接してくれるのなら、私も変わらずあの時のように接そう。
過ごしたかった4年間はもう戻らなかったんだし、切り替えていかないとっ。
「あ、そうだ一ノ瀬。一つ言い忘れていた。」
アイツは去り際に半身だけ私の方を向けて言った。
「あの頃と比べて本当に美しくなったな。小百合おばあちゃんの若いころにそっくりだ。それじゃあな。」
何かちょっと言いたい事を言えてすっきりした様な後ろ姿でアイツは去っていった。こちらの方は見ないで。今の私にとってはありがたかった。
そんなの不意打ちだ。アイツは何も思っていないかもしれないけど。私は今、緊急事態だ。多分顔も赤くなってる。
アイツの足音が聞こえなくなるまで私は立ちすくんだ。
私の止まった4年間が動き出した。そんな気がした。
1000字書くだけでもこんなに大変なんですね・・・
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