大事な舞台当日。
透には絶対来てと言っておいたけど来てくれるかしら。彼の事だし、どっかにいるとは思うけど分からないわね。
結果的に言うと舞台は成功した。お客さんも楽しそうにしてくれたし、大きなミスもしなかった。
…ただ、演出家の人には選んでもらえなかった。スポンサーの姪の主人公の子に決まったらしい。
才能が足りなかった。…才能が足りなかったと思い込むしか。自分の気持ちに整理が付けられなかった。
舞台からの帰り際、木ノ下和也と会った。調べて私の舞台を見に来てくれていたらしい。彼は言ってくれた、めちゃくちゃ良かったと、格好良かったと。嬉しかった。でも主役の子が選ばれたと彼に伝えると、彼は疑問そうだった。私に才能がなかった。ただそれだけだと彼に伝えた。
私も彼と同じ。見切りをつけろとかケジメを持てとか言って、私も諦めきれてないだけ。お客さんの恋人をして貰ったお金を夢につぎ込んでる。私に才能が無ければ何の意味も無い夢なのに。
彼は否定してくれた。毎日頑張っていると、夢に向かってこれ以上ないくらい現実的に生きていると。そして、才能がないわけない、と。
それだけを言って彼は去っていった。
「一ノ瀬。」
振り返ると透がいた。彼も舞台を見に来てくれていたらしい。
「将来の大女優の姿を見ておこうと思ってな。良い舞台だった。」
「……素人のアンタに何が分かるのよ…。」
「素人目に見て良かったんなら良いんじゃないのか?舞台を見に来る人なんてほとんど素人だろうに。」
「…そうだけど…。」
「…和也も来てくれてたんだな。」
「さっきの見てたの?」
「そりゃあ大声で話してりゃ嫌でも、な。」
「…そう…。」
「んじゃ。帰るか。送ってくよ。」
「…今日は透の家に行く」
「えぇ…舞台で疲れてるでしょうに…来たければ勝手に来ればいいさ。」
そう言って彼は歩き出した。それ以降何も聞いて来なかった彼の優しさは、とてもありがたかった。
--透の家
「ほいよ。」
「…ありがと。」
彼は私の前にいつものカプチーノを置いてくれた。私はそれで口を湿らせる。彼は何も言わず、いつものウィスキーを傾けていた。いつも通りの変わらない彼の姿が、そこにあった。
「…駄目だった。主演の子が選ばれたみたい。」
「…そうか。デビューのチャンスは次回にお預けだな。気長に待つこった。」
「…ねぇ。」
「何だ?」
「私はいつまで頑張れば良いと思う?」
「…難しい質問だねぇ…。」
「…同い年でもうデビューしてる子は一杯いる。今回の舞台が駄目で、私どうしたら良いか分かんなくなっちゃって。」
「…そうか…。あくまで俺の意見だが…続けて良いんじゃないか?まだ諦めるって年でもなし、大学で既に夢持って挑戦してる人って案外少ないもんだ。普通は進路に追われてなし崩し的に選んで生きてる奴だっていっぱいいる。俺もその一人だしな。お前が夢の途中で挫折しそうになったら、愚痴ぐらいは聞いてやるさ。」
「そうね…そうよね…分かった…。ありがと。」
「どういたしまして。んじゃもう帰って寝なさいな。」
「…イヤ。傷心の女の子を一人で返すつもり?」
「その口叩けるってことはちょっとは元気出たみたいだな。…分かりましたよ。今日は傷心のお嬢様に免じて許しましょう。」
「…ありがと。」
彼はいつも通りだった。あの時と変わらずに気持ちを隠したまま。それはとても嬉しかったけれど、変わらないこの関係はなんだか残酷な気が、私はした。彼は今どんな気持ちで私の話を聞いていたのだろうか。
二人の過去をいつ挿入するか悩んでる自分がいます…早すぎても遅すぎてもって感じです…どうしよう…
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