今日、私は透の家にいた。大学生活が始まってから、演劇のレッスンやバイトがない暇なときは入り浸る様になってしまった。昔はこんな感じだったし。抵抗はない。
アイツは鍵は頑なに渡そうとしてくれないので、そのうちこっそり合鍵でも作ってしまおうかと画策している。ガードが固くてまだ実行できてないけど。
「また食器洗ってない!食べたら放置せずにすぐ洗えってこの前言ったでしょ。」
「お前は俺のオカンか。」
「オカンって言われて結構。アンタが直すまで何度でも言ってやるわよ。」
透は自堕落というわけではないが、だらしない所ちょいちょいがある。一々注意しないと直してくれない。一人暮らしが長いせいかサボり癖が抜けてない感じではあるけど。
「で、今日は何の用だ?開口一番怒鳴ったってことは何かトラブルでもあった?」
「そうなの!新しいお客さんがすっごい面倒臭い人で!・・・・・・」
私は愚痴り始める。守秘義務に引っかかるかもしれないけど、それ以上に今日のお客はホントにひどかった。
お客の名前は木ノ下和也。最初は普通のお客さんだなと思ってた。デート場所もお約束の水族館。だけどレビューの評価は最低の☆1。特に失敗をしたつもりはないのに何この評価は!今まで最高の☆5しかなかったのに!
後日、彼はまた私をレンタルしてきた。前回の反省を生かして水族館の魚の知識に関しては勉強してきた。彼と話を弾ませるネタを増やすために。一応、プロのレンタル彼女ですから。バイトだけど。
当日彼は予想外の行動に出てきた。こっちは彼女として振舞っているのに他人ですとか言うし。こんなことして虚しくない?とか聞いてくるし。
何?私に文句を言うためだけにレンタルしたって言うの?信じられなかった。
流石に我慢できなかったので彼に言い返してやった。今思い返すと私の素を引き出すための彼なりの罠だった。プライドが傷ついて、つい感情的になってしまった。
直後に彼のおばあさんが倒れて病院に付いていき、彼女として紹介された。レンタル彼女だけど。家族に紹介したいって人は偶にいるし。その後は自己責任だけど。
今日一番予想外だったのが行った病院が私のおばあちゃんの入院先だったこと。いろいろあって彼の彼女ってことになってしまった。おばあちゃんは疑っていたみたいだけど。レンタル彼女だからおばあちゃんの推測は正しい。
彼のおばあちゃんが無事だと分かると、彼は私にレンタルした経緯を話し始めた。
元カノに先日振られたこと。寂しさに耐えられず、自暴自棄になって私をレンタルしたこと。
彼の気持ちは分かる。寂しくて耐えられなる感情は。私は自暴自棄にならなかったけど、強い自分を作り、目標を作り、忙殺して耐えることができた。
彼は最後に言っていた。自分の力でなんとかすると。本当の自分になると。
私も本当の自分になって、自分の気持ちを打ち明けなきゃと、彼に背中を押された気がした。ほんのちょびっとだけだけど。
分かれ際には別れたことにしましょうとキッパリ言っておいた。本当の彼女じゃないし。
「…レンタル彼女のバイトも大変そうねぇ。逆の立場だったらそのバイトは選ばないなぁ。普通にコンビニバイトとかやったほうが気が楽かな。」
そう言って透は食器を洗い始めた。この前は「動かざるごと山の如し」とか言って後回しにしようとしていたから思い切り踏んずけてやった。「働きたくないでござるぅ!」とか宣っていたので、蹴っ飛ばして洗わせた。
透にはレンタル彼女のバイトに関しては教えている。
教えたらすぐにスマホで調べて、「ほへ~こんなバイトもあるのか」と言っていた。私のページ以外も眺めていたからスマホを奪い取って電源を切ってやった。睨まれたが気にしない。
もちろん透には、レンタル彼女の話は絶対口外しないように釘を刺しておいた。
毎日3000字とか投稿してる人、化け物かよって投稿してて感じます。
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