クラウドファンディングの映画も完成し、後は上映を残すのみ。
その事をおばあちゃんに話すともちろん行くわと言ってくれた。
そして今日は上映予定の映画館の下見の日。おばあちゃんも外出許可を取って一緒に来てくれた。あともう少しで私の一つの夢を叶える事ができる。
映画館の下見が終わり、ひと休憩を入れる。そのときおばあちゃんは私に質問してきた。夢を見続ける事に苦しんではいないか、と。私は言った。たくさん辛いこともあるけど平気だと。私は夢を見るのは好きだ。きっと、これからも。私は自分の言葉に少し照れ臭くなって、木ノ下和也の手伝いに行った。行ってしまった。
今思えばあの時、もっとおばあちゃんの身体に気をつかっていればこんな事にはならなかったのかもしれない。映画を見せられると、一つの夢が叶うと舞い上がって冷静さを失っていた私が、悪かったのかもしれない。
おばあちゃんの元に戻ると、彼女は倒れていた。私はその時動転して何も考えられなかった。木ノ下和也が気を回して救急車を呼んで病院へ向かってくれたことだけは覚えている。
先生の話だともう回復は難しいらしい。
神様はイジワルだ。どんなに努力しても、どんなに願っても叶わないことは叶わないという現実を突き付けてくる。
彼は言った。おばあちゃんに俺たちの本当の関係を伝えなくて良いのかと。最後の最期、たった一人の肉親にまで、強がって嘘をつき続けて良いのかと。おばあちゃんの命に一ミリも罪悪感は残らないのか、と。彼は言った、私の気持ちを最優先にしてほしいと。おばあちゃんに悲しい真実は伝えたくなかった。
彼は何かを思いついた様で飛び出していった。しばらくすると、映画の機材を持って病室に入って来た。ここで映画の上映を行うらしい。
映画が始まると、彼は何も言わずに部屋を出ていった。おばあちゃんに必死に話しかけると、ほんの、ほんの少しだけおばあちゃんは目を開けてくれていた。
映画が終わった後、私はおばあちゃんに実は彼は本当の彼氏ではないと伝えた。本当は伝えたくなかった、けど。罪悪感は残したくなかった。彼女の命に。
おばあちゃんは、あなたが思う相応しい人を選べば良い、と言ってくれた。私はあなたが幸せにこれからも過ごしてくれればいい、と。
私はおばあちゃんに映画を見せる事は出来た。本当の事も伝える事が出来た。
…ただ…一つ、一つだけ見せられなかった景色がある。私のほんの一ミリの未練。
見せられなかった景色を今掴みに行こう。
もう、もう二度と、絶対に離してしまわないように。
--和也視点
映画の上映を始めた後、俺は病室を出た。病室の前には透さんが立っていた。
「よう和也。連絡してくれてありがとうな。…どうだ、映画は見せられたか?」
「たぶん。意識はあるか分からないですが、音は聞こえているみたいです。」
「…そうか。」
「…あとは、任せます。今、水原の前に立てるのは俺じゃない。あなたです。よろしくお願いします。」
俺は軽く礼をして立ち去る。
「…分かった。」
俺は彼女を抱きしめる事は出来なかった。だが彼は違う。彼氏ではないかもしれないけれど、最も近い存在。彼女を一番想い、見続けてきた存在。
あの子が幸せになれなきゃ。この世なんて嘘だ。俺はそのためなら諦められる。たとえ恋人でなくなっても一生支えていきたい。俺はそう決めたんだ。
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