彼は救いの言葉が聞きたかったんです。他の誰でもない彼女自身から。
読者の皆様には納得しきれない部分もあるかもしれませんが、この表現が作者の限界です。非常に申し訳ない。ほぼ毎日更新していましたが、彼を納得させる言葉は何か。裏で1か月以上ずっと考えていました。
彼を納得させようと考えたちづるの、私の葛藤の話。お楽しみください。
--透視点
映画の上映が終わると、ちづるが病室から出てきた。俺がいるのに気づいていたらしい。
「…付いて来て。」
彼女は俺を呼び出した。あの場所に。俺が俺の気持ちを話した、あの場所に。
「この前のアンタの考えを聞いてずっと考えてた。アンタがどうしたら納得してくれるんだろうって。アンタには才能がまだ見つかっていないかもしれない。それが私の答えよ。」
「私は、女優という職業に夢を持ち、偶然少しだけど才能があった。そのためにどうしたらいいか考えて行動してきたから今がある。でも私だってまだ女優としてデビュー出来ていない。もし夢破れたら、ただの文学部の大学生に戻ってしまう。女優という夢のみにかけ続けてきた私は、これが駄目なら全て駄目になってしまう。でもあなたは違う。」
彼女は言葉を続ける。
「今の仕事は本当にしたい事ではないのかもしれない。けどそれは才能だけじゃない、学生時代から積み上げてきたものがあるから今がある。私はあなたが大学でどんな事をしてきたのかは知らない。今、社会人でどんな事をしているのかも。でもあなたは私とは違う色々な経験をしてきた。年齢という壁で諦めたことも一杯あったんだと思う。でもあなたは私に言ったじゃない。まだ諦める年じゃないって。あなたもそうだと私は思う。どこかで自分の才能が見つかるかもしれない。…これに一生をかけようと思える夢がみつかるのかもしれないじゃない。」
「あなたは自分に才能が無いって言ってる。それでも…それでも…私は今のあなたが好き。この先何かあなたの才能が見つかるかもしれない。その時に頑張れば良いじゃない。私は今の才能を探して苦しんでいるあなたも、もし何かを見つけて進んでいってしまうあなたも、見捨てない。見捨ててやらないんだからっ。」
彼女はそう言って俺を見つめた。見つめ続けた。
「…もし一生、俺に才能が見つからなかったらどうする?」
「それでも良いじゃない。それでも私は透の傍にいる。才能を探して藻掻き続けている貴方をずっと見守ってる。私は女優をになるという夢を、貴方は自分の才能を見つけるっていう夢を追い求めていけばいい。それでいいと、それでいいんだと私は思う。才能なんて簡単に見つかるもんじゃないって貴方を見ていて思うわ。一生これに賭けていいのかって自問自答して、選択して決断して突き進んでいく。貴方はそのきっかけをまだ見つけられていないだけ。貴方がもしどうしようもなくて挫けそうになった時は私が支える。今まで貴方が私が挫けそうになった時に支えてもらった時のように。」
「…そうか…。」
彼女は俺の迷いに答えをくれた。才能という俺のトラウマに。彼女なりの言葉で。
墨ちゃんの言葉を思い出す。
『透くんは自分の気持ちに素直になって、ちづるさんはあなたの覚悟だけでいいと私は思う。』
和也の言葉を思い出す。
『俺も勿論水原を幸せにする覚悟があります!幸せにします!でも…でも…彼女を見ていると思うんです…彼女を本当の意味で一番幸せにできるのは透さん、あなたなんじゃないかって。』
『…悔しいけど…めっちゃ悔しいけど…水原が透さんを選んだんなら、…あなたが彼女を選んだんなら、俺は二人を祝福します。』
小百合おばあちゃんの言葉を思い出す。
『これは私の我儘になってしまうけれど、私は透君がちづるの傍にずっといてほしい。ずっと…ずっと彼女を見てくれていた貴方に。彼女の事を考えてくれた貴方に。』
『人の心は99%の嘘で出来ているわ。人はね、本当の気持ちを世間体、自分の境遇、相手との立場で本当はこんな気持ちではなかったと相手にも自分にも嘘を付くこともできる。でも、一つの真実が実現できるなら、99の嘘を付いても構わないと私は構わないと思っているわ。あなたがどんなに嘘をつき続けても、最後の最後に真実を告げてくれることを願っているわ。』
今まで、自分の気持ちには蓋をしてきた。あの時に覚悟はしてきたはずだった。結局東京に帰ってきてこんなことになってるんだからざまぁねぇな、俺。
本当に良いのかと自問自答する。あの時の自分は最善の選択だったと思っている。たとえちづるの気持ちを傷つけてしまったとしても。最終的に彼女は幸せになれる。自分は傍観者として彼女からちょっと離れた場所で見守っていれれば良い。ちづるの隣は俺はふさわしくない。
しかし、ちづるの気持ちはは違った。5年経っても、俺がふさわしい人物だと思う人が現れても、彼女の気持ちは変わらなかった。
あの時、このままだったらお互いに共依存してしまう。ちづるの幸せにはならない。そう思ったから自分は距離を取った。高校・大学生活を営んでいく中で、女優の経験を積んでいく中でもいい、海さんや和也のような人を見つけ、共に歩んでもらえればそれで良いと俺は思っていた。
彼女は俺に語ってくれた。俺はまだ才能を見つけられていないだけだと、諦める必要なんて無いと。そして俺に言ってくれた。絶対に見捨てない、と。
あぁ、彼女はあの時から何も変わっていない。彼女はずっと、本気だったんだ。昔も、今も、そしてこれからも。彼女の本気に向き合うために、自分も本気にならないといけない。その覚悟が足りなかった。墨ちゃんはこの未来が見えていたんだろうか。天使だけじゃなくて予言者だったのかよ彼女。
一度夢に見た景色が今、ここにある。だけど俺だけには過ぎた景色だ。彼女の目に映るのは俺である必要なんてない。ずっとずっとこの手を伸ばし続けても、俺はここに立つ資格なんてない。和也や海君、今後会うであろう素晴らしい人たち。その中の誰かが彼女の隣に立って支え続けてくれればいい、俺はそう思っていた。
でも彼女は否定をした。否定してくれた。彼女は知って受け入れてくれた。失望しないでいてくれた。俺がずっと見ていたことも、考えてあの時、傍から離れたことも。全て知った上で、受け入れてくれた。世界から振り落とされたように感じていた俺を救い上げてくれたのは間違いなく彼女だった、彼女だけだったんだ。
俺も覚悟を決めよう。俺はただの凡人だ。才能なんてない。そんなの昔から分かってる。数少ない積み上げてきたものがあるなら…それは俺のちづるへの気持ちだったんだろう。
これからも俺は自分の才能とは何か考え、迷い、抗い、失望し続けるんだろう。それでも彼女は俺を見捨てないと言ってくれた。今の俺が好きだと。これからの俺も好きでいてくれると。
俺も自分の気持ちに素直になろう。資格なんて無いと諦めていた自分をもう一度見つめ直して。まず彼女に対しては本気になろう。俺にはまだ可能性がある。それがいつ花開くは分からない。5年後?10年後?もしかすると一生かかるのかもしれない。才能を見つける事を目標にしたってかまわないじゃないか。そこに正解なんて無いんだから。
短く息を吸う。…ゆっくりと…ゆっくりと言葉にする。
「…ちづる…好きだ。これが俺の気持ちだ。…今まで待たせて済まなかった。」
「…うん、知ってる。私も透の事が好き。」
彼女と唇を合わせた。彼女は泣いていた。あの時以来、俺に涙を見せていなかった彼女が泣いていた。
ちづるを見続けよう。共に歩こう。共依存じゃない。遠くから見守る関係じゃない。君を守るため生まれてきただとか、君を守るためにこの身を捧げるとか、そんなことは言えないけれど、一番近くで支えよう。支え合おう。片方が折れそうな時はもう片方が支えればいい。両方倒れた時は肩を支え合って立ち上がればいいさ。
そう言って俺らは手をつないで歩き出す。
お互い少し強めに手を握って。
もう二度と離してしまわないように。
‐‐病室
「ありがとう、小百合おばあちゃん。今まで待たせて、遠回りしてしまって、ゴメン。でも、もう大丈夫。大丈夫だから。」
病室に戻ると、おばあちゃんはほんの少し目を開けてこちらを見てくれた。
そして、私の頭を抱きよせて言う。
「…そう。…それがあなたたちの真実なのね。…和也くんにも本当に良い映画だったと、お礼を伝えておいて。…ちづる…本当に愛しているわ、…私の宝物よ。私にはこの景色を見れた…もう何も未練は無いわ。」
「…うん、私もおばあちゃんは宝物よ。」
「…透くん…ありがとう…ちづるは任せたわよ。…幸せにしてあげてね。」
透は俯きながら黙ってうなずいていた。
ーー小百合視点
「もう少し待ってて、おばあちゃん。もう少しだけ頑張って。」
映画が終わるとちづるはそう言って部屋から出ていった。
私はもう本当に長くない。貴方、もう少しで会いに行きます。
…一つだけ、心残りがあるとしたらちづるをひとりぼっちにしてしまう事だった。
しばらくすると、ちづるは戻ってきた。透くんを連れて。
「ありがとう、小百合おばあちゃん。今まで待たせて、遠回りしてしまって、ゴメン。でも、もう大丈夫。大丈夫だから。」
あぁ、なんとかこの命はもってくれた。
ちづるはひとりぼっちにはならない。彼がいてくれる。
その事実だけで十分だ。
彼の心はここに戻ってきてくれた。ちづるの所に。
私はちづるを抱き寄せる。本当に愛している、私の宝物。
彼女の花嫁姿は見れなかったのは少し残念だけれど、これで十分だ。
これからも二人は多くの困難に遭遇するだろう。でも、二人なら乗り越えられる。お互いを想い、決別し、そしてまたぶつかり合い、再び繋がることができた二人なら。
二人に沢山の幸せが訪れるよう、私たちはあっちから見守っているわね。
……本当に…ありがとう…透くん。
‐‐後日
私たちはお墓の前にいた。大好きなおばあちゃんとおじいちゃんの前にいた。
私は悲しい気持ちは残るけれども、一ミリの未練を残さずに、おばあちゃんを送ることができた。最期に二人の姿を見せることができた。
神様はイジワルだ。でも頑張ればちょっとだけ優しくもしてくれる。
私はたった一人にはならなかった。おばあちゃんはいなくなっちゃったけれど、彼がいてくれる。今まで散々回り道をしてしまった。
おばあちゃんが居なくなっても、私の日常は続くどうしても続いていく。
今日も彼の隣を歩く。もう後ろをついて行っているような、そんな気持ちにはならなかった。やっと、彼に追いつくことができたんだ。
これからもちょっと意地悪で、子供っぽくて、すこしだらしなくて、そしてたまに大人な彼の隣を歩いていくんだろう。
今日の晩御飯は何にしようか?オムライスが良いかな?
お墓の前の二人が私たちを祝福してくれている。そんな風な気がした。
一ノ瀬ちづるに幼馴染がいたら END
実は原作でちづるが泣くシーンは全て透といることで無くなっていたことに気付いてくれた読者はいたでしょうか。(最後の病院のシーンは除きます…)…私の見落としが無ければですが…。彼は彼女の涙を見たくなかったのかもしれませんね。
ここで物語は一区切りですが、エピローグ後にも、いつもの日常回をあげていくので気が向いたら見に来てくれると嬉しいです。
書いていたけど流れ上、あげづらかったので自分なりの供養です。
(R18版もあげるかもなので、気になった人はこっそり見に来てください)
読者の皆さん、約2か月弱ですが、御覧いただきありがとうございました。
「彼女、お借りします」の二次創作はこのサイトではかなりマイナーな作品だったと思います。
他に連載投稿者がいない中、豆腐メンタルの私が続けられたのは間違いなく読者の皆様の応援。そして勝手に暴走していく魅力的なキャラクター達のおかげです。ありがとうございます。
思えば大分回り道をしてしまいました。投稿当初は2万字程度で終わらせる予定だったのですが。どんどんと間延び?してしまって読者の皆様には早くラストを見せろよと歯がゆい思いをさせてしまっていたのかもしれません。
衝動的に書き始めた今作ですが、
透とちづるには、一応最初にトラウマを決めて執筆は開始していました。
理由は私が書くときになるべく物語がブレない様に、です。
透にはもうお分かりかと思いますが、「才能」を。ちづるには「透との別れ」「家族以外との人との繋がり」を。ちづるは書いていくうちに少しズレてしまった感は否めないですが…
あと曲も決めていました。nano.RIPEの「ハナノイロ」。花咲くいろはの主題歌ですね。話を書くときはこれらが視界に入れて書いていました。話が詰まったらずっと見返してました。文才の無い身としては何とか完結できてうれしい限りです。
二次創作の読み手を十数年続けていましたが、ふと今までの人生を振り返って、今まで自分は何をしてきたんだろう。他の人より時間を使ってきたものは何だろう、とふと思い立ち。この作品が出来上がりました。
透の葛藤は私達にもある。今回はその挫折と葛藤を「彼女、お借りします」の原作の力を借りて書かせていただきました。
初投稿の身ではあったのですが、個人的に毎日投稿、この作品だけは最後まで突っ切るという覚悟で書かせていただきました。何とかここまで来れて私自身ホッとしています。生活でも結構無理をしてしまいました。次回作はここまで更新頻度はあげられないかと思います。
最後に一つ。あなたも何か書いてみてください。二次創作でもいい、オリジナルでもいい、外に出さなくても良い、ここに投稿しなくても良い、文章でも漫画でもいい。あなたがその時考えたことを残しておくこと、それ自体が既に尊いんです。あなたの考え方の一部を語るアウトプットになるんです。まぁ人はそれを黒歴史とも言うのですが。
もし私に見せてくれるなら、こっそり教えてください。これであなたも私と同じ投稿者です。誰かにみてもらったら、もうそれで投稿者なんです。
末筆ですが、ここまでお付き合い下さりありがとうございました。
感想いただけると、次回作の投稿が早くなるかもしれません(既に書いていたりする)
また次回作でお会いしましょう!ありがとうございました!
私のTwitter。ほとんど趣味のテニスアカウントですが…
https://twitter.com/pia252525
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