一ノ瀬ちづるに幼馴染がいたら   作:さっきのピラニア

6 / 50
昔のアイツの事。

 

いつからアイツがいたのかは覚えていない。

気づいたら一緒にいたし、アイツといろんな所に遊びに行っていた。

虫も捕まえたし、ゲームもした。エアガンをもって近くの小山に入って、サバイバルっぽいこともした。帰るのが遅くなったときはおじいちゃんにこっぴどく叱られたけど、アイツと一緒に怒られているときは全然怖くなんてなかった。

 

アイツが中学になると、いろんな趣味を始めていた。あんまり覚えてないけど楽器とか、カメラとかボールとかがいっぱい転がってた気がする。

私はアイツの家に遊びに行ったときに触らしてもらってたけど、特に興味はなかった。あのアーティストが凄いんだぜとか、スポーツ選手の話とかしていた気がするけど、全部聞き流してたし。

でも、一つだけ覚えている曲がある。RCサクセションのイエスタデイを歌ってって曲。彼の部屋のコンポから時々流れてた。私は小学生だったから意味はよく分からなかったけど、イエスタデイを歌ってと連呼していたから気づいたら覚えてた。

 

アイツは高校生に入ってからは、陸上部に入っていた。

時々、私は時々アイツの練習を見に行った。頑張れよ~ってラフな感じで。面倒臭そうな顔でこっちを見ていたけれど、特に何も言われなかった。アイツが1つの事に打ち込んでいる姿は珍しいと思ったし、見ているのは嫌いではなかった。今の私が駆け出し女優として頑張れているのは、あの姿を見ていたのがあるかも。ほんのちょびっとだけだけど。

 

アイツが高校三年生の最後の大会の時、私は応援に行った。

一番速いわけじゃなかった。一回勝って準決勝に進んではいたけど負けてしまった。

走り終わった後、彼は非情に悔しそうな、悲しそうな顔をしていた。私はそんな顔を初めて見た。幼馴染の私でさえ知らない彼の表情だった。

アイツの努力は知っている。でも報われなかった。一番になれるのは一握りの才能と努力と機会に恵まれた人だけ。彼には多分才能が足りなかったんだと思う。

 

大会が終わった後、既にアイツはいつもの表情に戻っていた。これが自分の限界だと、踏ん切りを付けたような顔をしていた。

何か思いつめた雰囲気がしていたけれど、これ以上声はかけ辛かったから何も聞かなかった。聞けなかった。でもあの時勇気を出して聞いておけば良かったのかな。そうすればあの事は起こらなかったかもしれないのに。

 

今思い返すと彼はずっと苦しんでいたのかもしれない、藻掻いていたのかもしれない。才能のない自分に、才能が無くっても努力で道は開けるって信じていたのかもしれない。それをあの時、証明したかったのかもしれない。でも現実は非情だ。才能のない人物は容赦なく蹴落とされる。積み上げてきた全てを失って、またスタートラインに戻ってしまう。また一歩ずつ歩かなければいけない。

 

 

彼は、今もずっと、藻掻き続けている。

 




最初期に書いた文章なので、後で物語的に合わなかったらこの話は移動・追筆するかもしれません…その時は活動報告の方で告知します。
作者の計画性のなさが露呈してしまう…

このssの読者層

  • 中学生以下
  • 高校生
  • 大学生
  • 20代(大学生除く)
  • 30代以降
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。