ゴーナイトは、クランの時からのメンバーだ。温厚な性格で、対立を嫌い、悪く言えばどっちつかずな男だった。広く浅く仲が良く、決して深く関わる事がない人物だった。
やがて仲間が引退したり、ログインする頻度が減ってきた頃。ようやく俺たちの間は縮まった。まずはじめに知ったことは、ゴーナイトさんは、回避率に異常にこだわる人だった。
「どうすればもっと回避率上げられるか、考えているんですよ」
「装備とかステータス以外で、ですか?戦士職ってリアルの体が結構、物言いますよね?実際、ワールドチャンピオンのたっちさんは警察官ですし。鍛えるとかどうでしょうか」
「なるほど。やってみます」
その日から、彼は本当に筋トレを始めた。
それまで影が薄い人だと、特別悪さもしなければ迷惑をかける人でもなかったので。印象が残らない仲間だったが、あの日から“こだわりの強い人”という印象がついた。
ある日の金策中に、なぜそこまで回避率にこだわるのか質問した。
「俺がゴーストだからです。攻撃が当たらなかったら、幽霊らしいでしょ?」
なるほど。オーバーロードらしくあろうとした俺みたいに、ゴーナイトさんもゴーストナイトらしくあろうとしたんだ。
気が合うかも、とその時思ったんだ。
二人ともほぼ毎日ログインして、仕事の愚痴を言い合って。ギルドを維持するための金貨を集めて、また少し喋る。
変わりばえのない毎日だった。でも季節のイベントや年末年始を一緒に過ごせたことは、例えゲームの中だろうと嬉しかった。
「せっかくの桃の節句なんですから、女の子たちの記念写真撮りました。性別不明のNPCについてはノータッチです」
彼は俺に写真データを見せてくれた。シャルティア、アウラ、プレアデス、メイドたち、アルベドと沢山あった。どれも同じ構図で、周りに桃の節句の飾りー桃の花ーを置き、並んで撮っている。
「へー、桃の節句の飾りのアイテムなんてあったんですね」
「それ買ってきた奴です。季節感あっていいなと、思ったので。茶釜さんたちがいたら盛り上がって、衣装にも凝りだすんでしょうけど、俺にはこれが限界ですね」
「いいじゃないですか。充分、華やかですよ」
余裕があって、気まぐれに季節のイベントを楽しむ。気楽で楽しかった。何よりゲームを楽しむゴーナイトさんの姿が、俺を楽しませてくれた。
酒を片手に一日中お喋りした日もあった。
「よし、おれ自分のフレーバーテキストにモモンガさんのこと愛してるって書く!!」
ベロベロに酔っ払った友人はとんでもないことを言い出した。驚きよりもおかしさが勝って、大笑いした。
「じゃあ俺はゴーナイトさんのこと愛してるって書いちゃいますよ?嫌じゃないですか?」
「全然!ただテキストに書くだけだし。あー他人のテキストに書けたら面白かったのになー」
どうやら本当は俺のフレーバーテキストを弄りたかったようだ。そんな機能がなくてよかった。
真面目でこだわりが強く、現状を楽しめる男という評価に、イタズラが好きも加わった。
男は最後までモモンガといてくれた。
ナザリック地下大墳墓、最奥、玉座の間。セバスとプレアデス、アルベドが臣下の礼をとることで、より厳かな雰囲気になる。
王は玉座に、友は隣に立っていた。
「本当に楽しかった。ゴーナイトさんのおかげです。名残惜しいですけど、またいつか」
「あー、できたら次も一緒に遊んで欲しいんですよ。なので、はい」
「メール?これは別ゲームのタイトルですね」
「評価が高いもの順に調べてきました。気になったものから、一緒に遊んでみませんか?」
モモンガは深く微笑んだ。
「ええ!ええ!一緒に試してみましょう!……これからもよろしくお願いします。ゴーナイトさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。モモンガさん」
零時。
ユグドラシルは終わらなかった。
いや、違う。
俺たちが終わらなかったんだ。
〈つづく〉