ネクロフィリアの未熟児   作:紅絹の木

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もう一度

「モモンガ様、冒険者たちをナザリックへ運びました」

「そうか。ならば問題は解決だな。“吸血鬼に殺されてしまった”彼らには気の毒だが、生き残った我々は先に進むとしよう」

 

冒険者組合に呼び出されたモモンガは、吸血鬼ーシャルティアーの討伐を引き受けた。幸運なことにシャルティアの普段の美しい少女の姿は見られておらず、真祖の醜い姿が報告に上がっていた。誰が討伐するか話し合い、その過程で付いてきてしまった哀れな犠牲者を、先ほどナザリック送りにしたところだ。

これで邪魔者はいなくなった。シャルティアについて集中できる。

 

アルベドとマーレにハムスケを紹介した後、ナザリックに帰還したモモンガは、ユリから指輪を渡される。そして即座に宝物殿へと転移した。

〈飛行〉を自身にかけて、金銀財宝を言葉通り体現した金貨や宝の山を抜ける。

 

宝物殿の武器庫の扉の前にはシズがいた。

小さな体に長いストロベリーブロンドの髪。幼い印象には似合わないアイパッチをしている。

 

「なぜここにいる?」

「ゴーナイト様に待機を命じられました。モモンガ様を待つようにと」

「そうか。では行こう。ーかくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう」

 

扉、漆黒はある一点に吸い込まれて、ぽっかりと開いた穴から奥が覗く。

今までの管理の行き届いていない区域から、博物館の展示室という言葉が相応しい区域へと移る。

〈全体飛行〉をかけて二人は先を急いだ。

やがて長い通路から広間に出る。広間の奥には応接用のソファがある。そこに黄色のコートを着た男が立ち、漆黒の鎧がソファに座っていた。モモンガを見つけると、ゴーナイトは立ち上がる。

 

「お帰りなさい、モモンガさん」

「ただ今戻りました……」

「おぅ帰りなさいませ!モモンガ様!」

「……ああ」

「パンドラと一緒に待っていたんですよ」

「そのようですね」

 

とある親衛隊の制服に非常に酷似した物を着用している者こそ、モモンガが創造したパンドラズ・アクターである。

オーバーアクションな動きと芝居かかった口調がダサいとモモンガは思った。ここからは見えないが、シズが引いているのが手に取るようにわかる。

 

「シズ、指輪を預かってくれ。さあ、奥に行きましょうか」

「わかりました。じゃあ、私のはパンドラに預かってもらおうか」

 

二人は指輪を預けて、霊廟へと入って行った。

 

 

 

 

「入るのは久しいですね」

「そうですね。……ここはいつも変わりない」

 

左右の窪みに武装した像がずらりと並べられている場所まで到達する。ここはモモンガが作成したアヴァターラが収められている場所だ。仲間たちの装備品を置いておく場所である。

ゆえに空白もある。まだ引退していない仲間たちの場所だ。モモンガとゴーナイトの窪みも空席だった。

 

「それで、シャルティアとは戦うんですよね?編成はどうしますか?アルベドに任せますか?それとも私たちで選びましょうか」

「ゴーナイトさん、そのことなんですけれど。……私に任せていただけませんか?」

 

ゴーナイトはモモンガの方を振り返った。彼に表情などないが、内心とても驚いていることは手に取るように理解できた。

 

「……どういうことでしょう」

「……単騎で戦いを挑みます」

「ふざけないでください!そんなの許せるわけないでしょう!下手したら、モモンガさん死んでしまうんですよ!!」

 

怒声が響きわたる。ゴーナイトに肉体があれば、息を荒くしていただろう。だが、今は耳が痛いほどの静寂が聞こえるだけだ。

ゴーナイトはゆっくりとモモンガに近づき、右手で彼の左手を取った。頭をモモンガの左肩に乗せて、謝罪する。

 

「大声を出してすみません。でもお願いです。そんな事言わないで……俺を一人にするような事を言わないでください」

 

すがりつくように、泣きつくように発せられる言葉たち。いや、実際に泣いているのだろう。心の中で、彼は泣いている。

モモンガは、はじめて愛する者の悲痛な声を聞いた。そして、それは聞いた事がある。過去に、親を亡くしたとき自分が流した声だ。無下になどできるはずもなく、ゴーナイトを優しく抱きしめる。労わるように、慰めるように背中を優しくさすった。

 

「あなたを、置いていく訳ないじゃないですか。はじめてできた……あ、愛しゅる人なんですから」

「……だったらなぜ、単騎でシャルティアの所に向かうんですか?なぜ俺と行ってくれないんですか?」

「それは、三つ理由があります。俺が疑問に思ったからです。俺は、はたして本当にナザリックの支配者に、ギルド長に相応しいんでしょうか。愚かで、今回の問題を引き起こした原因は私にあると思うんです」

「相応しいに決まっています。ギルドメンバーに愛されて、こんなにもギルドのことを愛してくれた。NPCたちを為に、色んなことを頑張ってくれた。あなたこそ、ナザリック地下大墳墓の主人に相応しい。それに支配者としての責任問題なら私にだってあります。もう一度言いましょう。一人で背負わないでください」

「……ありがとう、ございます。……二つ目は、罠を警戒してです」

 

シャルティアを囮にして、敵が待ち伏せているかもしれない。敵の裏をかくためにも、大勢で攻撃するのではなく、少数で攻撃するべきだ。そうすれば、相手側も伏兵を気にして出てこれなくなる。

 

「ユグドラシルでよくありましたね。こちらから仕掛けた事もありました」

「そうです。ふふ……懐かしいですね」

 

二人は額をくっつける。コンと、金属が鳴った。

 

「三つ目は、NPCたち同士でーー子どもたち同士で殺し合いをさせたくなかったからです。それは、わかってくれますよね」

「……っ、わかります。けれど、だからって一人で行く必要がありますか」

「あなたには、ここに残ってください。残って、もしもがあった場合に備えてください」

「ひどい、酷い……!なんて事言うんですか。それなら、あなたが残ってください。俺に行かせてください」

「できません。あなたを死地には送れない。送り出せない。……俺が行けるのは、あなたよりPvPの勝率が高いからです。俺なら勝って、帰って来られる」

「確かに、モモンガさんは強いです。それは知っています。でも、でも……」

「……ゴーナイトさん」

「…………」

「“お願いします”」

「………………ここで、それを使いますか」

「はい、使います。聞いていただけますか?」

「……ずるいなあ、モモンガさんは」

 

どちらかが行かなくてはならない。ならば、勝率が高い方が行くことは当たり前だ。

ゴーナイトは己の無力を呪った。力がないばかりに彼を子供(NPC)と戦わせてしまうのだから。

 

「ごめんなさい……」

「ゴーナイトさん」

「ごめんなさい。弱くて、ごめんなさい………」

 

かん。

モモンガはゴーナイトの口元に“歯を当てた”。

 

「ーーーーモモンガさんっ」

「俺に責めるなと言うなら、自分を責めないでください。いいですね?」

「わかり、ました……」

 

二人はお互いを強くーゴーナイトは優しくー抱きしめた。もう迷いはなかった。

 

「モモンガさん、ナザリックを頼まれる前に一つ、いや二つほどお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「一つ、アルベドを説得してください。私では上手く話せません。というか、彼女が納得しないでしょうから」

「わかりました。私の口から説明します」

「二つ、パンドラズ・アクターをここから出してあげてください。も、もしもの時、彼の頭脳があった方がいいですから」

「了解です。帰り際にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡しておきますね」

「それから……」

「はい」

「……もう一回、お願いします」

「…………はい」

 

再び、かんと音が鳴った。

 

 

 

〈つづく〉

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