三回ノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
パンドラズ・アクターは扉を開けた。部屋の中央に置かれた応接用ソファには、アルベドが座っている。パンドラズ・アクターは彼女の向かいに座った。
「それで。私が呼ばれたご用件を伺いましょうか」
座っているのに、芝居口調のせいで騒がしく感じる。
アルベドはまったく気にしていない様子で、にこりと微笑んだ。
「モモンガ様とゴーナイト様について相談したいの。本当はデミウルゴスも呼びたかったんだけど、今はナザリック外で任務中じゃない?だからあなただけを呼んだの」
「モモンガ様とゴーナイト様についてですか?何かあったんですか?」
パンドラズ・アクターは考える。
もしや創造主の女性の好みについて質問されるのだろうか。彼女とシャルティア・ブラッドフォールンがモモンガを第一正妃の座を争っている話は、デミウルゴスとコキュートスから聞かされている。
しかし、自分はその情報を持ち合わせていない。聞いたことも質問したこともないからだ。目の前の美女はがっかりするな。
どう言えば面倒なく……ゴホン。相手があまり傷つかず済むか考える。
「お二方はできていらっしゃるわ」
「……左様ですか」
「……あまり驚かないわね」
残念と言いたそうな顔をしている。
あまりからかわないでほしいな、と思う。パンドラズ・アクターは帽子を被り直した。
「モモンガ様とゴーナイト様は仲が良かったですからね。関係が発展しても不思議ではありません。ところで、どこでその情報を得たんですか」
「……乙女の秘密よ」
例えるなら女神のように微笑む。その表情から読み取ろうと凝視したが、無駄だった。諦めて続きを促す。
「それで、お二方ができているからなんでしょうか?何か問題が起きましたか?」
「何も起きていないわ。ただ、どうするべきか悩んでいるの。ねえ、私は皆とこの情報を共有するべきかしら。それとも黙っておくべき?」
「共有すれば、皆と協力してお二方を自然に二人きりにできますね。しかし、モモンガ様とゴーナイト様は公表されていない。意に反する行為とも捉えられかねません」
「反対に情報を共有しなければ、無知ゆえにお二方の仲を邪魔してしまうわ。それも良くないでしょう?どうすればいいのかしら」
ナザリックでもトップクラスの知能が頭をこねる。数分ほどかけて出した答えは。
「……正直に話してみませんか?気づいてしまったと。お二方に判断を仰ぎましょう」
「………………いいのかしら。主人の意も汲めないシモベだ、なんて思われない?」
「意に反して行動を起こしてしまうよりは良いかと。どうしますか」
「……お聞きしてみましょう。一緒に来る?」
「もちろんです。参りましょう」
二人は、ゴーナイトとモモンガがいる部屋へ向かった。
向かった先はモモンガの自室だ。今日はこの部屋の執務室にて、お二人は仕事をなされている。
扉の横には二体の高レベルのシモベか警備にあたっていた。二体はアルベドたちを鋭い視線を送る。当然だ。主人の部屋に近づく者は誰であろうと警戒する。でなければ警備の意味がない。むしろ警戒しないシモベなど不要だ。
ノックする。やがてメイドが顔を出した。
「モモンガ様とゴーナイト様にお話ししておきたい事があるの。アルベドとパンドラズ・アクターか来たと、取り次いでもらえるかしら」
「かしこまりました。」
メイドは部屋の中に戻る。数分後、彼女は戻ってきた。
「どうぞお入りください」
「よく来たな。アルベド、パンドラズ・アクター。今日は揃ってどうした」
「モモンガ様とゴーナイト様にお話ししておきたい事があり、参上しました」
「ふむ、聞こうか」
「……最重要案件なので、他の者の耳に入れることは、はばかられます。どうかシモベたちを下がらせてくださいませ」
シモベの分際でそのように願うなど、叱責されるかと思ったが、至高の存在は一つ頷いて受け入れてくれた。
「よかろう。お前たち、一時間休憩とする。下がれ」
メイドと護衛から了承の意が返される。彼らは部屋の外に出て行った。完全に足跡が遠ざかってから、感謝を述べる。
「願いを聞いてくださり、ありがとうございます」
「大したことではない。それで、最重要案件とはなんだ?」
「はっ!モモンガ様とゴーナイト様に関することでございます」
「なんだと?どういうことだ」
ご自身に関する件だと思わず、驚かれている。やはりあの件は内密だったのだ。ひっそりと深呼吸をして言葉を紡ぐ。
「お二方は、関係をお持ちでいらっしゃいますね」
「ごほっ!」
「なんでそれを!?」
「日々、お仕えする中で、お二方の距離が縮まっていることに気づきました。」
「そ、そうか……。バレてしまったか。あー、お前たち以外も知っているのか?」
「いえ、私たちのみでございます。ですが、いずれ気づく者が現れるかと」
「そうだな。……どうしましょう」
ゴーナイト様はモモンガ様にお伺いをたてる。モモンガ様は顎をさすりながら、熟考する。
「もう少し隠しておく予定だったんだがな。…………ゴーナイトさんはどうしたいですか?俺は、変な噂が流れてしまう前に、告げてもいいんじゃないかと思います」
「私は、モモンガさんさえ良ければNPCたちに話してもいいと思います。皆に話しておいた方が、お前たちも気が楽だろう?」
「私どものことを考えてくださり感謝いたします。ですが、最優先事項は至高なる御方々のご意志。どうぞ御心のままになさってください」
「心のままに、か。私は公表したいですね。……正直に申しますと、あなたとの仲を自慢したかったんです」
「ゴーナイトさん。……そう思ってくださって嬉しいです。よし。公表しよう。場を整えてくれるか?」
「かしこまりました。すぐにご用意します」
モモンガ様とゴーナイト様は、その日の内に告白されたの。私たち以外のNPCたちは酷く驚いていたわ。でも、仲睦まじいお二人の姿を見てお祝いする流れになった。
謙虚な神々はそれを辞退され、自室に戻られたわ。
メイドたちがそれぞれの持ち場へ戻っていく姿を見届けつつ、私たち階層守護者は残って話し合ったの。
「お二方はいつからお付き合いされていたんでありんすか?まったく気づかんでありんした」
「ほんとだよねー。アルベドは先に知っていたんでしょ?いつ頃かわかる?」
「私だって気づいたのはほんの先日よ。それより前は……多分まだだったんじゃないかしら」
微笑みを絶やさないアルベドに、他の守護者たちは不思議に思った。
「アルベド。随分と落ち着いているね。モモンガ様に懸想する君なら、もっと心が乱れていそうだがね」
「チャンスがあるからよ」
「チャンス、カ?」
「そうよ、コキュートス。ねえ、付き合ったらその次のイベントは何かしら?」
「え、えーと。結婚ですか?」
「当たりよ、マーレ。結婚の次は子ども。子どもといえば女が必要でしょう?その時、呼ばれれば良いのよ」
「なるほど!たしかに、それならまだチャンスがありんす!!」
モモンガとゴーナイトの関係を前に、失恋したと思っていたシャルティアが復活した。テンションが上がりすぎ、「もしかしたら3Pもあり得る」と呟き出す始末だ。
が、アウラの言葉によって挫かれる。
「あんたさ……アンデッドじゃん。お世継ぎ産めるの?」
「はっ!…………う、産めるでありんす。…………………………多分」
涙目になるシャルティアに、アウラが呆れたと言わんばかりに息を吐く。デミウルゴスはあえて、何も言わないでやった。
〈つづく〉