ネクロフィリアの未熟児   作:紅絹の木

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冒険者としての歩み

 

巨樹と呼ぶに相応しいモンスターでクルシミマスツリーを作った。ユグドラシル時代を思い出す、懐かしいイベントだ。

 

「今度は、ちゃんとクリスマスを楽しみたいですね。私たちだけじゃなくてNPCたちがいてくれますから」

「そうですね。今年はナザリックでパーティをやってもいいかもしれませんね」

「全身全霊を尽くして取りかかります」

「いや、もっと気軽な感じで頼む。……私たちのように、家族で楽しむ場合は畏まらなくていいんだ」

「なるほど。承知いたしました。全員が参加できるパーティを考えます」

「ありがとう。時期は十二月下旬であれば良いだろう。皆の都合を聞いて、無理のない日取りを決めてくれ」

 

守護者たちが了承の意を示す。

新しいシモベ、ドライアードのピニスン?に勧誘を任せて、私たちはナザリック地下大墳墓へ戻った。

 

 

 

そして数日後、モモンガはモモンとしてナーベナルを連れてナザリックの城壁上にいた。そこには真っ白なフルプレートを着込んだゴーナイトが傍らにいる。鎧もマントも白く、太陽の光をきらきらと反射していた。

彼もとうとう冒険者としてデビューするのだ。ゴーナイトの顔は兜に隠れて見えないが、中には端正な顔立ちの男性がいる。パンドラズ・アクターが見つけてくれた指輪の効果だ。触れられない限り偽物だとわからない。

この美しい顔はゴーナイトのリアルの顔である。指輪の仕様なのかわからないが、少々美化されている気がする。けれどほとんど変わらない。顔を見たモモンガは「綺麗ですね」と言ってくれた。そのため、ゴーナイトの機嫌はいい。

彼らのすぐ側に、同じく機嫌のいいNPCがいる。アルベドだ。

見送りに来ていたアルベドは、ゴーナイトを眩しそうに目を細める。羨望と、いつか未来で自分もあんな風に傍らに立つのだと思いながら。少し顔がにやけている。

 

「どうした、アルベド。何かいい事でもあったか?」

「はい。ございました」

「そうか。よかったな」

「はい。ありがとうございます」

「ゴーナイトさん。そろそろ行きますよ」

「ええ、わかりました。では、留守を頼むぞ」

「かしこまりました。お早いお帰りをお待ちしております」

 

モモンガは〈全体飛行〉をかけて飛んだ。ゴーナイトが続き、ナーベラルが最後に空へ向かう。

 

 

 

 

三人はぐんぐん速度を上げて、カルネ村の上空を通り過ぎる。村人たちが働く姿をちらりと視界に入れつつ、空の中を飛んで行く。

 

「ここら辺でいいだろう」

 

降り立ったのはカルネ村とエ・ランテルの間に位置する林の中だ。上空から辺りに人がいない事は確認済みである。林の中から出て、草を抜かれて整えられた道に入る。そこからエ・ランテルへ向かって歩き出した。

 

街には休みなく歩いて三時間ほどでたどり着いた。街へ入る列に並んでいる間、馬車や同じ冒険者らしい人々を眺める。

 

「人が多いですね。いつもこんな感じなんですか?」

「街に入るときはそうですね。馬車のほとんどは商人たちのもので、様々な物が忙しなく行き交っています。冒険者の数は、今日は少ない方です」

「そうなんですね」

「あ、動きますよ。ゴーンさん、離れないでくださいね」

「ちゃんと付いていきますよ」

 

ゴーンは、ゴーナイトの冒険者としての名前である。ユグドラシルで使われていたニックネームをそのまま名前に流用したのだ。おかげで名を呼ばれても間を空けず反応することができる。

モモンガさんやナーベラルから街について多数質問を投げかけていると、周りから話し声が聞こえてきた。

 

「あの白い戦士、漆黒の一員か?見たことないな」

「いや、違うだろ。漆黒はモモンとナーベの二人だけだ。……新しく仲間を迎えたのか?」

「新しい仲間の為にあんな見事な造りの鎧を用意してやったのか。はたまた自前で用意したのか、どっちだろうな」

「どっちにしてもすげえよ。漆黒の一員になれるなら、それだけの実力があるって事だ。相当強いぜ、アイツ」

 

……早速話題になっているようだな。モモンガさんたちがせっかく得た名声を壊さないように、さらに高められるように頑張らないとな。

街へはモモンの顔パスで入り、その足で冒険者組合に直行する。受付嬢に仲間が増えたことを伝えると組合長室に通された。

 

「やあ。モモンくん、ナーベくん。よく来てくれたね」

「お久しぶりです。組合長」

「そちらの彼が新しい仲間なのかな?はじめまして、エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザックだ」

「はじめまして、組合長。ゴーンと申します。モモンとは先日合流しました」

「合流した?前から知り合いだったのかね」

「ええ。元から仲間だったんですよ。ですが、ここに来る前にはぐれてしまいましてね。つい三日前に合流できたんです」

「それは良かったな。元から仲間ならば、試験は必要ないか」

「冒険者になるための試験ですか?」

「いや、ゴーン君の場合はアダマンタイト級に相応しいか見極める為の試験だな。新しく仲間に入った人物なら、アダマンタイト級の力があるか確かめさせてもらっていた。しかし、元から仲間であるならば、実力は保証されている。すぐにでもプレートを渡そう。一応、周囲を納得させる為にミスリル級以上の依頼を一つこなしてもらうがね」

「ゴーン様が相応しくないわけがなっ……」

「ナーベ、黙っていろ」

「……ミスリル級の依頼がなければ、相応のモンスターを倒すことで、依頼達成ということにしていただいてもよろしいですか?」

「かまわない。最近は強いモンスターの目撃情報がないから、すぐには見つけられないかもしれないが」

「道すがら倒してきたモンスターでもよろしいですか?」

「は?……まあ、難度が足りていればかまわんよ」

「ではどうぞ」

 

ゴーンは魔法が付与された背負い袋(重量が1tまでならばどんなアイテムでも入れられる)からキメラの頭(大きなライオンの頭部)を机にどんと置いた。

 

「なんだと!?」

 

組合長は勢いよく立ち上がり大声をあげた。口と目をポカンと開けてキメラの頭を見ている。

 

「その袋はマジックアイテムなのか……いや、それよりもこの頭、伝説のモンスターキメラか!?」

「伝説かどうか存じませんが、たしかにキメラと呼ばれているモンスターで間違いありません。モモンと合流する途中で出会い、倒しました」

「たった一人でかね?」

「はい。そうです」

「それは、とんでもないな……」

 

 

 

 

結果、試験はパス。そして、あらかじめ用意しておいたキメラが、アダマンタイト級と恐れられる伝説のモンスターだった為、依頼もパスとなった。ゴーンには無事アダマンタイトのプレートが用意される。プレートと討伐料金は後日渡されることになった。

キメラを持ってきたのは、討伐料で懐を潤すためだ。チーム漆黒としての活動に加えて、お金持ちの商人という設定のセバスたちの活動の資金になる。お金は多い方がありがたい。できるだけ出費を抑える必要がある。アダマンタイトとして宿屋に宿泊することは無駄だと、ゴーナイトは判断した。

 

「思いきってエ・ランテルで家を購入しましょう!そうすれば一度に大きい金額が動きますが、後は貯蓄に回せます」

「この世界って不動屋さんありますかね。という冗談は置いといて……ずっとここにいるわけじゃあるまいし、必要ですか?俺はこのまま宿屋暮らしでもいいんですけど」

「……三人一緒に泊まれるほど宿の部屋って広くありませんよね?私がチームに加わったことで、二部屋借りて宿泊することになります。つまり二倍の金額が出ていくことになります。それを毎日払うのはちょっと……」

「わかりました。家を買いましょう」

「私が床で寝れば問題解決ではありませんか?」

「ナーベは仲間だ。そんなことさせられるわけないだろう。その案は却下だ」

「かしこまりました」

 

ゴーナイトが持ってきた宝石を売り払った分と、三日後に冒険者組合から支払われたキメラ討伐料の金貨を合わせる。かなりの額が懐に入りモモンガたちは喜んだ。二人は相談して、手頃な物件を探す。

 

物件を探して一週間後に本命が舞い込んできた。

話を持ってきたのは、ゴーンの宝石を買い取った商人だ。見た目はヒョロヒョロと線が細く、しかし目には力がこもっているという印象的な三十代の男だった。

 

男は気品のある深い緑色の服を着て、モモンガたちが宿泊している高級宿屋を訪ねてきた。

 

「こんにちは、ゴーン様。先日は良いお取引をありがとうございました。お陰様で貴族の方ともご縁ができまして」

「それは良かったですね。ヘカトールさん。私としても、先日の取引はたいへん有意義なものでした。こちらこそお礼を言わせてください。ありがとうございます」

 

挨拶もほどほどに泊まっている部屋へ案内する。部屋にはモモンがおり、彼の前には書類が積まれていた。紙には他の商人から勧められた物件について情報がまとめられている。つまりヘカトールさんの競争相手の情報だ。ヘカトールさんが持ってきたものはこれらより良いものだろうか。

 

ヘカトールさんをモモンさんの向かいの席に座らせて、私はモモンさんの右側の席に座った。ナーベがヘカトールさんに水ーナザリック産の美味しい水だーを入れてから、商談を始める。

彼はナーベをジロジロ眺めたり鼻の下を伸ばさないので好感が持てる男だった。

 

「ありがとうございます、ナーベさん。それで……こちらが皆さんにお勧めしたい物件です。家は大きく、大人五人ほどが一緒に住めます。建って新しい方なのでまだまだ中も外も綺麗ですよ。台所、厠、風呂、井戸もちゃんとついております。ただ繁華街から離れ、スラムに近いので他の方からは敬遠されており、値段をかなり下げて買い手を探しています」

「たしかに、手頃な値段ですね。私たちが探した中でも安い方だ。しかしスラムが近いと言っても、この好条件なら誰かが買取そうですが……」

「それが、そのう……。大変申し上げにくいのですが……」

「なんでしょうか?」

「実は一度盗みに入られたことがある家なのです。なので、誰も買取たがらなくて……。それで値段もかなり下げました。今回、漆黒の皆様にお持ちしたのは、あなた方ほど腕の立つ方々ならば盗みなど敬遠する要素にならないのではないかと、考えたのです」

「仰る通り、対策ならばあります」

「おお!さすがですな!であれば、こちらの物件も候補に入れていただけますか?」

「そうですね……」

 

モモンとゴーンはアイコンタクトをとり、頷き合う。

 

「ナーベはどうだ?」

「モモンさーんとゴーンさーんに従います」

「そうか、ならばここにしましょうか」

「一応、中を見せてもらってから……ね」

「ありがとうございます!」

 

内装を気に入ったため、ヘカトールの物件を購入した。

こうしてエ・ランテルに拠点を持ったモモンたちであった。

 

 

 

 

〈つづく〉


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