セバスは夕食を持って帰ってきた。
その間に良い出会いがあった。セバスの心は多少、上を向いていた。
それも館に帰宅するまでだった。
「セバス様、アインズ様とゴーナイト様がお待ちです」
「――すぐに行きます」
「こちらです」
ソリュシャンが先頭を歩く。
セバスは緊張した足取りで後を追った。
――――――
セバスが帰ってくる、少し前にさかのぼる。
王都の館、二階には至高の存在のために作られた部屋がある。
どの部屋よりも豪華な家具と調度品で飾られたそこに、足を踏み入れるのは二回目だ。
モモンガさんは部屋を見回している。
「ふむ。ナザリックに劣るとはいえ、素晴らしい出来だ」
うんうんと頷くモモンガさん。
こうやって自分たちの為に用意してくれたことは、どんなに小さな事でも褒めていこうねと、モモンガさんと約束したのだ。
俺も言葉を紡ぐ。
「そうですよね。居心地がいいから、落ち着けます」
「そうですね。ゆったりできます。……さて、セバスが帰ってきた後の予定でも組むか」
上座に置かれた一人用ソファに、まずモモンガさんが座り、その隣りにある一人用ソファに俺も座る。
ナザリックの自室に用意されたソファはふかふかだが、こちらは硬めだ。うん、こっちも座りやすくていいな。
ナザリックから連れてきたメンバーは、コキュートス、デミウルゴス、念の為ヴィクティム――胎児のような見た目の天使、デミウルゴスに抱っこされる程小さい――、その他のシモベとハンゾウを連れてきた。
ハンゾウったらマジで便利すぎて困る……多分、他のNPCたちが嫉妬しちゃうレベル……。
今度、皆が参加できるBBQ大会とか開催して、他の子たちの機嫌とろう。
「どうしました?」
「えーと、後で相談したいです」
「?わかりました」
BBQ大会の相談は後でするか……今する事じゃないからな。
その前に。
「コキュートス、アインズさんの傍に立て。デミウルゴスとヴィクティムはこっちだ」
俺の命令を受けて、コキュートスとデミウルゴス、デミウルゴスに抱っこされたヴィクティムの位置が入れ替わる。
「?ゴーナイトさん、どうして……」
「私よりコキュートスの方が防御力が高いからです。少しでも、アインズさんの近くには安全を置きたいのです」
「それなら、コキュートスを私たちの中央にして――」
「それだと、コキュートスに迷いが生じるかと。迷っていたら守れる命も取りこぼしちゃいます。だから、コキュートスには、皆にはアインズさんを守ってほしい」
「……守られないあなたは、どうなるんですか?」
「攻撃はすべて回避しますよ」
弾むように砕けた調子で話すと、モモンガさんは深くため息をついた。というか、わざと「はー」って言った。
「俺たちのどちらを優先するかは後でしっかり話し合うとして、問題は面接ですよ」
「まず、ツアレには夕食を食べてもらいましょう。お腹が減っては力が出せませんからね。セバスとは今生の別れになるかもしれませんし、二人の時間を作ってあげたいです」
「……なんか、セバスが助けた娘に随分入れ込んでませんか?」
「どちらかと言うと、セバスの方に……ですね。ツアレに関しては、子供が拾ってきた小動物に対して接する感じですよ」
「なるほど」
雑談を交えつつ進めていく。
組織の、アインズ・ウール・ゴウンの情報は秘密にしておく事になった。
「前情報なしですか。ユグドラシル時代を思い出します」
「ナザリックを手に入れるとなった時も、情報無しで挑みましたからね」
懐かしい気持ちに満たされる。
そこにセバスが帰ってきた。
ソリュシャンに案内されたセバスは緊張している。ツアレの面接日だもんな、緊張するよね。
テーブルを挟んだ向こう側で、セバスが深くお辞儀をする。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「よい。わざとお前がいない間に来たのだ。だから謝罪は必要ない」
「はっ」
モモンガさんの言葉で、セバスの緊張が少し和らいだみたいだ。顔色がちょっとだけ良くなった。
俺はセバスに声をかける。
「セバス、お前がいない間に決まった事を話そう」
当初の予定通り、先程決めた事をセバスに聞かせる。
ツアレに夕食を食べさせる事、二人の時間を作る事、ナザリックの事を話さずこの部屋に連れて来る事。
「……そうだ。アインズさん、この部屋には私たち――セバスの上司がいるという事、面接するという事は事前に話しますか?話した方が、こちらで説明する手間が省けますよ」
「ふむ、そうするか。――聞いていた通りだ。セバス、お前の方で説明しておいてやれ。ただし、再度言うがナザリックについては伏せろ」
「かしこまりました。それでは、いつ頃こちらの部屋に戻ればよいですか?」
俺とモモンガさんは顔を見合わせる。
俺は「三十分ほどでどうでしょうか?早いですか?遅いですか?」と聞いた。
モモンガさんはちょっとだけ考えて「そのくらいでいいと思う」と言う。
「ではセバスよ。三十分ほどで戻れ」
「かしこまりました。では失礼いたします」
セバスは部屋の外に出ていった。
その間、俺たちはツアレにどんな質問をかけるか、あらかじめ伝えておくか話し始める。
――三十分後。
セバスが女性を連れてきた。
部屋の扉が開かれる。向こうとこっちの視線が交差した。
メイド服の女性は、愛嬌のある顔立ちを驚きと恐怖に歪ませる。
「ひっ――」
悲鳴を上げたいだけマシだなあと思うのだけれど、そう思わないのがNPCたちで。
なんで怒ったのかわからないが、女性――ツアレ――に対して怒りを向けようとしたので、意識をこちらに向けさせる。
「ウォッホン!……失礼、ちょっと喉の調子を整えようと思いまして。あ、私、アンデッドだから喉はないんですけれどね。あはは」
小粋なジョークなのに誰も笑わない。しかも視線が痛い。唯一の救いであるモモンガさんですら「こいつ何言ってんだ?」って感じの空気だしてる!辛い!
俺は耐えられなくて、話しを進めることにした。
「――面接を始めましょう。アインズさん、お願いします」
「――うむ。まずは部屋の中に入るといい」
そういえばセバスとツアレ、まだ部屋の外にいたわ。
まずツアレを見たモモンガさんの様子が変わった。
知らない奴から知人を見る目に変わった感じだ。
うーん?二人とも前からの知り合いではないはずだし。後でモモンガさんに聞くか。
モモンガさんが今回の面接における注意事項を、ツアレに話す。ツアレはビビっているけれど、必死に耳を傾けていた。
そして、モモンガさんはツアレの本名を聞いた。
――ツアレの本名を聞いて、一人だけ納得するモモンガさん。
そして、ツアレにどうしたいのか、どうなりたいのかを聞いた。
ツアレは震えながらも、強い意志を込めて言う。
「私は……セバス様と、一緒に暮らしたいです」
「よかろう。聞け、皆の者。これよりツアレはアインズ・ウール・ゴウンの名の下に保護される。……客人待遇で迎えてやれるが、どうする?」
「あ……セバス様と一緒に働きたいです」
「わかった。お前をセバス直轄の仮メイドにしてやろう。――よろしいですね、ゴーナイトさん」
「異論ありません。セバス、お前が救った命なのだから、ちゃんと面倒を見るように」
「はっ!かしこまりました」
欲しがったもの、拾ったものに対して責任をとるように、そう伝えたつもりだ。セバスの事だ、ちゃんと伝わっているだろう。
後の細かい指示はモモンガさんが出しくれた。最後の仕事がそれぞれ決定する。
セバスとソリュシャンは小麦の買い付け、デミウルゴスが欲しがったからだ。
デミウルゴスはどこかに出かけるらしい。気をつけて行ってらっしゃい。一応、ハンゾウを護衛に付けておこう。
館の警備は……セバスたちが帰ってくるまで、そのままにしておきましょうよ。盗みに入られないとも限らないし。それにツアレがいるから、守ってあげないと。
そこでデミウルゴスが言う。
ツアレを囮にして敵の拠点を暴こうと。
それに対して俺は首を振った。
「その案は良いものだか、もしもツアレが敵に殺されたら蘇生ができないだろう。危険すぎる……だから、コイツを使う」
カチン――。
ゴーナイトが金属に覆われた指を鳴らすと、彼の影から一体のハンゾウが出てきた。
彼はゴーナイトに向かって膝をつく。
「正体をみせよ」
「御意」
ハンゾウの姿が溶けて、また何かに固まる。
それはドッペルゲンガーだった。
服は祭服を着ている。このドッペルゲンガーはナザリックの司祭なのだ。そしてゴーナイトの被造物であった。
「立て、エードラム。そしてツアレに変身しろ。彼女の代わりに囮となれ」
「かしこまりました。――お嬢さん、しばし姿をお借りしますね」
グニャリとエードラムの姿がまた歪み、メイド服姿のツアレが現れた。
偽物のツアレはその場で、くるりと回転してみせる。
ゴーナイトは満足気に頷いた。
「――うん。上出来だ。では、始めましょうか」