ヤルダバオトを退けて、一息ついてからナーベにデミウルゴスと連絡を取らせる。
デミウルゴス……作戦内容教えてくれなかったよ。悲しい。デミウルゴスの作戦が俺のせいで失敗したらどうしよう。
場所は変わって、王城の一角。
王都の冒険者たちが集められていた。ヤルダバオトを倒すための作戦会議だ。チーム漆黒は作戦の要を任された。モモンがデミ……じゃない、ヤルダバオトと互角に戦ったからな。一番やばい敵を任されるのは当然だな!
チームのリーダーをつとめる冒険者たちは、部屋の奥に呼ばれた。作戦内容を知るためだ。チーム漆黒は、後で別室で作戦内容を聞く事になっている。
みんなとは違う動きをするからね。仕方ないよね。
リーダーの皆さんが作戦内容を聞かされている間。
副リーダーと思わしき人たちが、俺たちに殺到した。俺とモモン、それぞれ一列になって並んでいる。……モモンの方が圧倒的に多いな。
「――え、なんですか?」
「ああ、挨拶をしておこうと思いまして」
「なるほど」
手を差し出されたので、握手を交わす。
軽く自己紹介をして、ちょっとした雑談をして、次の人の順番になる。
ぐわ〜、ここに名刺があればな!少しは相手の情報を覚えられたのに!特徴とか書き込んだのになあ!
列が終わると、並んでいなかった冒険者たち――まだ若い――が、今度は並びにくる。
自己紹介を聞けば、駆け出しの冒険者らしい。めちゃくちゃ緊張しつつも挨拶に来てくれた。
う、初々しい!なんだか視線に熱がこもっているのは、アダマンタイト級冒険者への憧れかな?それなら憧れの像を壊さないようにしたいと思う。
先に並んでくれた冒険者たちの時と同じように、自己紹介と雑談をした。
駆け出し冒険者は興奮したように顔を赤くして去っていく。ほとんどは笑みを浮かべているから、対応は間違えていないだろう。
途中でイビルアイさんがモモンを迎えに来たが、モモンは行かなかった。
先に並んでくれている人たちが優先だってさ。わかる。
挨拶にはナーベを行かせた。一人で行かせていいものか悩んだが、こちらにも列がある。ナーベの応援には行けそうにないな。
……列に並ぶ人さっきより増えてない?もしかしてモモンの列に並んでから俺の所に来てる??
結局、モモンより時間をかけて列を片付ける。
なんでこんなに並んだんだ??
やっと解放されたので、モモンとナーベの所に向かった。そこにはイビルアイさんもいた。
「お待たせしました」
「いえ、さほど待ってませんよ。では、あちらに行きましょうか」
「ええ」
二人並んで歩き出す。ナーベとイビルアイさんは後ろだ。
――――――
ラナー王女とその配下、蒼の薔薇と漆黒――つまり二つのアダマンタイト級チームなどを見送ってから、その場に残された冒険者たちは話し出す。
話題はチーム漆黒だ。
人として器がでかい。
丁寧。
朱の雫のメンバーもそうだぞ。
そんな雑談から入り、モモンの人柄に話がうつる。
蒼の薔薇の一人が呼びに来たのに、リーダーであるモモンは行かなかった。代わりに仲間のナーベに任せた。
悪く言えば、状況判断を間違えそうな人。
良く言えば、同じ冒険者を――例え駆け出しであろうと仲間を尊重してくれる人。
その部屋にいる冒険者たちは、モモンに……同じく残ってくれたゴーンに魅了される。
「そういえば、ゴーンという人物について、どれだけ知っている?」
「ほとんど知らないな……とにかく、さっきの短いやりとりで、いい人なのはわかる」
「おれは知っているぞ。なんでもモモンと同格の強さで、一人で伝説級のモンスターキメラを倒したらしい」
「はっ……キメラだと?嘘だろ。あれはおとぎ話の中のモンスターで、実際にはいないはずだろ?」
「いる。あと、本当だ。エ・ランテルの冒険者組合長が、本物だと発表してる」
一瞬、時計の針が聞こえそうなほど、辺りが静まった。
「おれ、とんでもない人と握手しちまった……」
モモンたちが去っていった扉を見つめる視線には、憧れが満ちている。
ゴーンと握手した手をグッと握った。
――まだ、あのガントレットのかたさが残っている気がした。
――――――
「(セバス、顔広いな……)」
ゴーンは、今話題に上がっている人物について考える。
セバス・チャン。
ナザリックの家令。生活面の最高責任者。
「(たしか、報告書の中にはクライムとブレインの名前はなかった……と思う)」
ゴーンは書類仕事が大の苦手だったので、仕事ではない視点から書類を読んでいた。
それは、日記である。
セバスが書いてくれた日記だと思って読む。
遠くにいるセバスとソリュシャンが、元気に仕事を頑張っていることを喜んだ。そして日記……じゃない。報告書には、ほとんど仕事関係しか書いてなかったはず。
チラリとクライムとブレインを見る。
うーん。根性があってカルマ値がプラスよりな彼らなら、セバスに気に入られるだろう。
いつ作ったコネクションかな?
「(あとで、セバスに教えてもらおうっと)」
とりあえず、ここは無難に褒めておきますか。
そう思っていたら、モモンが言った。
「そのセバスという人物と私が実際に戦ってみないことには、どちらが上かなど想像もできませんが……」
「モモンさーーんとゴーンさーーんの方が上です」
イビルアイさんが頷いた。
俺とモモンは、ナーベの頭に軽くチョップと拳を落とす。
「そんな風に言っちゃダメだ。ナーベ」
「申し訳ありません……」
「――仲間はこういっておりますが、クライムさんとブレインさんが強いと言うのですから、私は互角の強さを持っているのではないかと思いますね」
モモンの言葉をうけて、蒼の薔薇がまた賑やかになる。
そこで聞こえてきた魔剣の話。
「(魔剣キリネイラムか……たしか、アインズさんの報告書にあったはず)」
魔剣かっこいい、と覚えていたアイテムだ。
集めたらアインズさんが喜ぶかな、と考えていた。
――国一つ滅ぼせるようだし、集められそうなら、そうしよ。
ゴーンは無邪気に考える。彼に顔があれば、ニコニコと笑っていただろう。
そこにこの国の二番目の王子と、レエブン侯が入室した。モモンたちは、この二人とすでに先程会っている。王城に入ったときだ。八本指に対する備えからヤルダバオトを討滅することに、依頼内容が変更されたのだ。
そして、王女たちが集めた冒険者と協力することも要請されている。
彼らと軽く言葉を交わし、モモンたちは退出する。
どうやら、王女に話があるらしい。
最後に王女は言った。
「では皆さん。私はここで、皆さんが誰一人欠けることなく戻ってくることを、神にお祈りしております。……皆さん、より正確に言えばモモンさんに全てはかかっています。ご武運をお祈りしております」
深く頭を下げる王女に、それぞれ答えながら、今度こそ部屋から退出した。
――――――
戦闘が始まる。
イビルアイさんとナーベ、それから俺は空を飛べるので、飛ぶ。ついでに俺が飛べないモモンを運ぶ。後ろから抱きついて、持ち上げるのだ。なんでこの持ち方かって言うと、モモンが両手に剣を握っているからだ。
両腕は使えた方がいいでしょ?
……イビルアイがめちゃくちゃこちらを見てくるが、絶対にこの役目は譲らんぞ。
甘い雰囲気なんて今は邪魔だけど、ナザリック外の女性とくっつくのを許せられるほど、こちらの心は広くないんだよ。
アルベドとシャルティアは抱きついてもいいよ。うちの子だから。俺は我慢する。
「ゴーン、落としてくれ」
「了解」
ある地点に来たので、ぱっと、モモンを地上に落とす。衛士たちとモンスターの間だ。
モモンは、瞬く間に地獄の猟犬を切り裂く。
――たった二撃。それで、獣のモンスターたちを倒してしまった。
次は朱眼の悪魔だ。六体いる。
いっせいにモモンに向かって突撃してくる。
「……ゴーン。頼みます」
「いいですよ」
まるで相手の得意な仕事を頼むように。気軽なやりとりだ。
ゴーンを空から地上へ滑り落ちる。そしてモモンよりも少し細い長剣を抜いて、スキルを発動させた。
一振、巨大な斬撃となる。
モモンから先の地面を、レンガの壁を簡単に抉った。
朱眼の悪魔たちは、身体を真っ二つに切られている。
「すげえ……」
衛士の言葉が聞こえた。
そうだろう。モモンは凄いんだぞ?
俺は誇らしい気持ちになる。
次だ。
魂食の悪魔、一体だけだ。逃げようとしていたので、斬撃を飛ばそうとした。
「左に退いてください」
「はい」
素直に左に退く。
右側からブンッと巨大な剣が投げられた。魂食の悪魔の首に刺さる。悪魔はばたりと倒れて、息絶えた。
「こんなものか……。まあ、軽い運動にはなったな。さて、諸君。これから冒険者たちの反攻作戦が行われるはずだ。もう少しこの場を維持してくれ」
俺は魂食の悪魔だったものから、モモンの剣を引き抜き、振って血を飛ばす。
綺麗になった剣をモモンに渡した。
「どうも」
「どういたしまして」
「また運んでもらえますか?」
「いいですよ」
モモンが背中を向けてくるので、また抱きしめて、空に上がる。
モモンは衛士たちに頭を下げた。
「しばらくは悪魔たちも来ないだろう。急ぎで敵の首魁を討伐する。それまでの間、後ろにいる市民たちを守ってくれ。頼んだぞ」
モモンが言い切ったのを確認してから、俺は上空に飛び立っていく。後ろにはナーベとイビルアイが続いた。
「……強いんだな」
イビルアイが声をかけてきた。
あ、俺に声をかけてる??
「モモンの隣に立てるよう、頑張っていますからね」
「そうか」
なんか一人で納得してる。
雰囲気が柔らかくなっているし、チーム漆黒のメンバーとして認めてもらえたのかな?