「……何の為に依頼を受けるんですか?」
それ、もう少し信頼関係を築かないと答えてもらえないやつー!
――――――
ワーカーたちとの交流は、上手くいった。
モモンと、ワーカーの一人である御老公の手合わせのおかげで、こちらの強さは示せた。何というか打ち解けられたと思う。
ワーカーたちの視線が、尊敬を含んだものに変化している。
さすがモモン。英雄の演技も慣れたものだ。
帝都から目的地までは馬車で移動する。
ワーカー側と冒険者側で別れて馬車に乗り込む。
馬車はスレイプニール(八足馬)という魔獣に引かれて、最近発見された遺跡に向かっている。
遺跡……つまりナザリックに、だ。
ワーカーたちは生贄なのだ。
可哀想だとは思わない。必要な事だから。
それよりもここ最近、モモンの機嫌は良くない。
すべて終わった後、たくさん甘やかしてあげたいと思う。
馬車を走らせて二日目の夜だった。
その頃には好奇を含んだ視線を投げられるようになった。
何でだ?変な行動はしていないと思うけれど……?
休憩中にぼんやり考えていると、声をかけられた。
「どうした、ゴーン」
「モモン……その、何だかチラチラと見られている気がして」
「ああ、それは……」
モモンが俺の腰に手を回す。
「私たちの仲が良いからだろう」
「あ、そうか」
周りの視線が一気に集中する。
恥ずかしくて、俺はモモンの優しい拘束から抜け出した。
「その、家に帰ってから……ね?」
「ええ。もちろん」
「――え?あの噂ってマジなの」
誰かの呟きがはっきり聞こえたので、そちらを見た。
ワーカーの一人、たしかヘッケランさんだったかな?
彼は俺たちに気づいて、バチッと合った視線をそらす。そして、仲間の一人であるハーフエルフの女性に殴られていた。痛そうだ。
俺はモモンから離れて、ヘッケランさんの方へ歩いた。ちょうど良い……つかず離れずの場所で止まり、声をかける。
「あの、どんな噂か教えてもらえませんか?自分たちの評判はきちんと知っておきたいのです」
「……なんて事ありませんよ。お二人が付き合っているという噂話だったんですが……本当だったんですね」
「――そうですね。モモンと俺は付き合っています。その他は、ありませんか」
「うーん……」
「あるんですね」
「ゴーン」
さらに聞き出そうとして、モモンに止められた。
モモンの方を振り向いて「どうした?」と聞く。
「その辺にしておけ」
「気になるんだ。ダメか?」
こてりと、頭を傾けるとモモンは呻いた。
「ぐ……相手を困らせるものではない。さあ、今夜は早めに休もう」
「わかった。すみません、失礼しました」
ぺこりと頭を下げる。
相手方も、頭を下げた。ちょっとだけ引きつった笑みを見せている。
就寝の挨拶を済ませて、帰ろうとした。
モモンが一緒に来ない。
「モモン?」
「先に行ってくれ。ちょっと、連絡事項を思い出した」
「そうか、わかった」
俺は先にナーベが待つ、魔法の簡易テントの中へ入った。
――――――
ゴーンが簡易テントの中へ入ったところを見届けてから、私はワーカーの男性に向き直る。
「あの、それでモモンさん。連絡事項とは……?」
「それは嘘です。ここに残りたくて、ね」
「そ、そうですか」
「先ほどは、噂の続きを言わないでくれて感謝する」
「……モモンさんは、噂の続きをご存知なのですか?」
「ああ。……ゴーンの事だろう?――すべて嘘なので、忘れてほしい」
「わ、わかりました」
俺は男の態度に満足して、頷いた。
「では、失礼する」
相手の返事を待たず、簡易テントへ足を向ける。
ゴーンの噂……遊び歩いているだとか、アダマンタイトとしての力はないだとか……根も葉もない噂だ。
ゴーンを陥れたいのか、はたまたチーム漆黒の評判を落としたいのか。それはわからないが……。
「(――俺の恋人を傷つける奴は、許さない)」
今、恐怖公が情報を収集している。
噂の根元を枯らすには、もう少しだけ時間がかかる。
歯痒かった。
――――――
一行が遺跡(ナザリック)の近くに到着した。
その深夜、ワーカーの皆さんは遺跡に潜入。
冒険者である俺たちはキャンプの警備にあたる。
そう……他の冒険者たちは、ね。
俺たちはこれから、ナザリックに帰還しワーカーたちの相手をする。
その為に、先に休憩をもらったのだ。
チーム漆黒はテントへ向かう。
皆のテントから少し離れた場所に、俺たちのテントを設置した。
中の音を漏らさない、そんな魔法のテント。
決して広すぎず、対して防衛魔法もかかっていないマジックアイテム。だが、この世界では貴重品で、かなりいいお金になるようだ。
国ができたら、その特産品にこういうテントを作り、販売したらいいんじゃないかな?
すでにテントの奥では、モモンの変わりにパンドラズ・アクターが、俺の変わりに被造物のドッペルゲンガーであるエードラムが、それぞれに変身していた。
自分の目で、モモンや俺が跪く姿を見るのって新鮮だなあ。
「ご苦労。では、これから私たちはナザリックへと帰還する。それまでの間、何かあった場合はナーベ……いやナーベラル、お前の方で上手く対処せよ」
「かしこまりました。アインズ様」
「それと、何かあれば即座に連絡を頼んだぞ」
「それじゃあね。皆、後をよろしく」
全員が深く頭を下げたのを見てから、モモンガさんが作ってくれた〈転移門〉をくぐる。
そして、ナザリックの心臓部である玉座の間、その前の部屋へと転移した。
外からナザリック内へと転移は障壁があってできない。しかし、俺たちはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備している為、それらに邪魔されず、ナザリック内へと転移できた。
アルベドに案内されて、玉座から侵入者たちを監視した。
――玉座の前……そこにはテレビのモニターのように画面が表示される。そして侵入者たち……ワーカーたちの姿をうつしている。
あーあ、俺たちの物に手を出しているよ……。そうなるように仕向けたとはいえ、腹は立つ。
玉座にはモモンガさんが、その左には俺が立っていて、右にアルベドがいる。
やがて、階層守護者たちも集まってくるらしい。賑やかになるな。
「さて、剣の練習台は……」
「老人とは手合わせをした。あのチームは練習台に向いていない。軽く手を合わせた彼らもいらない……。そうなると、フォーサイトですね」
「確かそんな名前でしたか」
「チームの雰囲気も良いですし、アインズさんが望む殺し合い、できると思いますよ」
「だと、良いんですがね……」
深く息を吐くモモンガさん。
俺は、彼の頬を優しく撫でた。
「……なんです?」
「慰めたくて」
「それなら膝枕してくださいよ」
「全部終わったら、ちょっとだけのんびりしましょうか」
「よし!」
やる気が入ったモモンガさんを見て、俺は「現金だなあ」と笑う。