ワーカーのチームリーダーが、嘘をついてしまった。
アインズさんに言ってはいけない、許されざる偽りを。
「――アインズによろしくと言っていましたね」
その瞬間、俺たちは腹を抱えて笑った。
なんと愚かな事か!盗人の言葉を信じるなんて、バカのする事だ!
俺たちはバカだったのだ。
そして次の瞬間、笑いは消えて耳が痛いほどの静寂が訪れた。
俺は突き放すように言った。
「もう、いいよ」
もう、お前たちを生かしたりしない。
そんな意味を込めて発した。
それを聞いたアインズさんが、あっけらかんと言い放った。
「練習しないで、殺しちゃいますか」
「それは、もったいないですよ」
「でも、あなたを傷つけたし……」
そこでアインズさんはギロリとワーカーたちを睨む。
ワーカーたちは震え上がった。ように見える。
俺はそんなものを無視して、アインズに強請るように言った。
「せっかく、みんなが俺たちのために用意してくれた場なんですよ?有効活用しましょ?」
「あなたがそう言うなら。……はあ、聞いていた通りだ盗人共。私の大切な人に感謝しろ。少しの時間だけ生かしておいてやる」
アインズさんは――俺たちのレベルから言うと大したものではない――漆黒の剣と円形の盾を装備した。
それを合図に、俺は何も手に持たないまま、アインズさんの後ろへと数歩下がる。
ワーカーたちも構えた。
そして戦闘が始まる
……いや、模擬戦かな?
俺とアインズさんは、うまく連携できていたと思う。
なぜなら、ワーカーたちはアインズさんを戦士、俺を魔法詠唱者と勘違いしていたから。
戦士職である俺が唱えられる魔法なんて僅かだけど、今回はうまく騙せたみたいだ。
そして決定打に欠ける頃、アルベドが進言するのだ……「慈悲を与える時間は終わりにするべきだ」と。
確かにその通りだった。
「じゃ、ここからは元の職で戦いましょうか」
「ええ、そうしましょう」
「何を……」
ワーカーのチームが、戸惑いながらこちらの様子を窺う。
アインズさんは嗤った。
「言葉にした方がわかりやすいか……来い、ニンゲン……遊んでやろう」
同時にアインズさんの手から剣と盾が地面に落ちて、フッと消える。アイテムボックスに入ったのだろう。
それに驚いたのか、ワーカーたちの顔がサッと青くなって――。
「――魔法詠唱者?!」
あ、そっちか。
アイテムボックスに装備品が入った事に驚いたわけではなくて、アインズさんが魔法職だった事に驚いたのか。
そりゃそうだよな。戦士がいきなり命ともいえる剣を落としたら、驚くよな。
じゃあ、俺が剣と盾を装備したら、もっと驚くのかな?
モモンガさんが後ろに、俺が前に出る。俺の手には愛剣ではなく、ステータスダウンの効果がある剣と盾が、装備された。
ワーカーたちは息を呑んだ。そして各々の武器を構えた。
だがワーカーの一人、確かアルシェだったかな?魔法詠唱者が仲間たちに伝える。
「みんな聞いて!少なくとも、アインズという奴は魔力系魔法詠唱者じゃない!」
「――え?どういう事だ?」
俺は半ば、素の状態で質問する。
アルシェは断言した。
「そいつからは、魔法の力を感じない!」
「ああ……探知系の魔法を使っているのか。ほら、これでどうだ?」
アインズさんは、装備していた指輪の一つを外した。
そしてアルシェが、吐いた。
ええ……失礼だろ……。
俺はアインズさんに見せまいと、彼とアルシェの直線上に立った。
そしてアルシェは苦しそうに吐きながら言う。
勝てるわけがない、と。
その言葉を聞いて、俺は胸に燻っていた気持ちが晴れるようだった。
アルシェが仲間の神官、ロバーデイクの魔法で持ち直すところを確認してから、俺は和やかに言った。
「じゃあ、始めようか」
アインズさんのバフが、俺にかけられる。
前衛であるヘッケランに一気に迫り、相手が目を見開いて動けない間に、峰打ちを。
ドサリ、と彼は倒れた。
屈んで彼の口辺りに手を当てる。
……うん、生きてるな。だが、目は閉じられている。
立ち上がって、またアインズさんの前に立った。
「ヘッケラン!」
ワーカーたちは持ち場から動かない。俺とアインズさんから視線を外さない。
「峰打ちだよ。本当はレベリングに使うものだけど、こうやって使うのも悪くないな」
「ヘッケラン!くっ……私たちを解放しなさい!でなければ、地上最強の戦士たちがここに突入するわ!」
「?強者の影は周辺になかったはずだが……?ねえ、アインズさん」
「そのように報告を受けています。間違いないな、アルベド」
「はい。間違いなくおりません」
それでもワーカーチームのレンジャーであるイミーナは叫ぶ。
「嘘じゃないわ!地上にはモモンと、ゴーンが来ている!」
「も、申し訳ありません!確かにいらっしゃいました!お許しください!」
「あー、気にせんでいいぞ、アルベド。漆黒のモモンとゴーンか。あれはなあ……」
「残念だが、あのチームじゃ俺たちに勝てない。そして、それらは交渉材料にならない。諦めろ」
絶望の淵に立っているのに、それでもワーカーチームは仲間割れを起こさない。
ここは外だからと、一番若いアルシェを逃がそうとする。
逃げも一興だと、アインズさんはアウラに出口を開けに行かせた。
「妹さんがるんでしょ?なら、私たちを見捨てていきなさい!」
仲間の言葉に、アルシェはとうとう上空へ逃げ出す。
〈飛行〉の魔法を自らにかけて、飛んだのだ。
アインズさんはシャルティアに狩りに行かせた。
ああ、どちらにしろあの娘は助からないだろう。
――姉妹と聞いて、エモット姉妹を思い出す。
あの姉妹は助けてやれたが、うん、今回は無理だな。
――――――
全てのワーカーを始末し、地上で冒険者の仕事も済ませた後。
俺は長く美しいナザリックの廊下を、ぼんやりと歩く。供にはメイドが一人、ついているだけだ。
やがて、恋人が待つ部屋に到着した。
後ろを振り返り、メイドにしばらくの間下がるように命令する。
メイドが下がっていく後ろ姿を見届けてから、俺は室内に入った。鍵をかける。
「お帰りなさい、ゴーナイトさん」
「ただいま、アインズさん」
恋人は応接用のソファにいた。
だから俺もソファに行き、アインズさんの隣に座る。
するりと、俺の左手とアインズさんの右手が重なった。たまらなくなって、俺はアインズさんを優しく抱きしめる。
そんな俺に対して、アインズさんは驚かなかった。むしろ、頭を撫でてきた。
「よしよし、どうかしましたか?」
「アインズさんと、もっと触れ合いたくなりました。アインズさん、ずっと我慢していたでしょう?癒してあげたい……」
アインズは、ガパリと口を開けて笑った。
本当に嬉しそうに。
「ベッド、行きましょう」
「はい」
体の半分を密着させたまま歩き出し、俺たちは寝室へと入る。
今は、俺の中をアインズさんでいっぱいにして欲しい、と思うのだ。