ネクロフィリアの未熟児   作:紅絹の木

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【1】(番外編)バケモノなモモンガ×人間味マシマシなゴーナイト

 

 

 より異形種寄りな心の持ち主となってしまったモモンガさんと。

 転生原作知識アリで、本編より人間味マシマシなゴーナイトさんの、もしものお話。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 俺には、前世の記憶がある。

 記憶の中では、この世界はライトノベルだった。

 つまり、これが転生ってやつだ!

 まあ俺は、お話の中のような華々しいチートキャラではなかったけれど。

 

 この世界では珍しくもなく、両親は俺が小学校を卒業した辺りで亡くなった。

 でも一人なら、問題なく生きていける学力を身につけさせてもらった。

 だから、俺はユグドラシルをプレイできた。

 

 できたら主人公であるモモンガさんに会いたかったので、異形種でスタートする。

 ゴーストナイトなんて面白そうだ。色んな装備が着られるのは楽しいだろうな。

 

「そうだ。ゴーストナイトだからゴーナイトにしよう」

 

 そのままな名前でも、覚えやすければいいよな!

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 まだ異形種狩りが流行る前だったので、俺はメキメキと強くなっていった。

 まあ……コミュ障で誰にも話しかけられず、ぼっちプレイしていたけれど。

 そろそろソロプレイは厳しいから、誰かに声をかけようとした。

 

 異形種も歩ける街中。

 ちょうど、一人で歩くピンクのスライムさんがいた。

 もしかして茶釜さん?俺は原作キャラに心躍り、勇気を振り絞った。

 

「あの!」

「そこのスライムさん――」

「はい?」

 

 か、被った!

 スライムさん……おそらく女性に声をかけたのは、騎士風の蟲系プレイヤーさんだった。

 うわあ、強そうな鎧……!かっこいい!

 

「失礼、被りましたね。先にどうぞ」

 

 しかも紳士だと!お言葉に甘えます!

 

「え、あ!ありがとうございます!あの、お一人ですか?遊びませんか?お、俺と」

 

 どもりながらも、声をかける。

 スライムさんは「うーん」と考えた。

 

「そちらの方の用件も聞いていいですか?」

「どうぞ」

「私も、こちらの方と同じです。私の仲間たちと一緒に遊びませんか?」

「同じでしたか〜。どうしようかな……」

 

 俺は思わず口を出してしまった。

 

「あの、俺の方はソロなので、仲間がいるこちらの……えーと……」

「あ、私はたっち・みーといいます」

「え!??」

「うわ」

「びっくりした」

「す、すみません」

 

 原作キャラだ!

 そして今季のユグドラシルのPVPチャンピオンだ!

 俺は慌ててスライムさんに言った。

 

「あのスライムさん、この人はユグドラシルの今季チャンピオンで、凄いゲームが上手な人です。選ぶならこの人がいいですよ!」

「え……あなたはいいんですか?」

「俺は、何とでもなりますから……それじゃ……」

 

 俺はぺこりと頭を下げて、二人から立ち去ろうとする。

 そこを呼び止められた。

 

「待ってください。よろしければ、あなたも私たちと遊びませんか?」

「!いいんですか?願ってもないお誘いですけど……その、いいんですか?」

「私の方は大丈夫です」

「私もいいですよー」

 

 俺は頭を深く下げた。

 

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 

 やっと遊んでくれる人ができた瞬間だった。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 あの頃、楽しかったなあ。

 

 

 

「――ナイトさん、ゴーナイトさん」

 

 誰かが、呼ぶ声がする。

 俺はぼんやりと起きた。どうやら半分寝ていたらしい。

 

「んあ……モモンガさん、おはようございます」

「おはようございます。そろそろ起きませんか?ここで最後を迎えるのもいいですが、できたら玉座に行きたいんですけど……」

「んん!行きましょう!起きます!」

 

 俺は立ち上がった。モモンガさんも立ち上がり、並んで円卓の間(会議室)を出た。ギルドの証であるモモンガさんの専用の武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持って。

 

 

 

 

 ユグドラシルのサービス最終日の今日。

 十三年ほど続いたゲームは、終わりを迎えようとしていた。

 そして結局、俺以外のギルドメンバーは残らなかった。かなり仲良くなったギルメンもいたんだけど、やっぱり皆それぞれ引退する理由がある。

 飽きたり、仕事が忙しくなったり、家庭を持ったり……本当、人生って色々ある。

 

 ま、俺はモモンガさんと遊ぶ方が楽しいけどな!

 

 第九階層から第十階層へと降りいく。

 途中で家令のセバスと、彼の部下であるプレアデスたちを連れて歩いた。

 NPCである彼らとも、これでお別れ……ではない。

 

 原作通りならば、俺とモモンガさんは拠点であるナザリックと共に、異世界へ転移する。

 新しい世界で、このゲームアバターの姿で、NPCたちと一緒に、またモモンガさんと遊ぶのだ。

 それは、とても素晴らしいものに思えた。

 

 でも、転移しなくたっていいんだ。

 モモンガさんと遊ぶって事が、大事だから。

 

 むしろ他のギルメンはいなくて良かったかも。

 頭がたくさんあったら、命令とかこんがらがるし。対立もするだろう。

 万が一、空中分解なんてしたら、モモンガさんが悲しむだけだ。

 

「思い出は思い出のまま……ってね」

「ん?何か言いました?」

「何でもないです。それより、新しいゲーム楽しみですね!しばらくはユグドラシルロスで楽しくないだろうから、早めにユグドラシルIIとか出してくれたらいいのに」

「ふふ、そうですね。俺も、ゴーナイトさんと遊ぶユグドラシルIIは、楽しそうだなって思います」

「それは良かった!」

 

 

 

 そうこうしているうちに、玉座の間に到着した。

 セバスたちは玉座の下で並ばせる。俺とモモンガさんは玉座の方へ。

 

 玉座にはモモンガさんが座る。

 うんうん!座ると魔王って感じで、かっこいいよな!

 俺はモモンガさんから見て、左側に立った。右側にはすでに先客がいて、NPCのアルベドがいる。

 

 モモンガさんと思い出話に花を咲かせて……俺は焦った。

 あれ?モモンガさーん?アルベドのテキスト変更はまだですか?

 

 全然してくれないので、残り十分をきった辺りでモモンガさんにアルベドのテキストを読むよう促した。

 そして俺が頼み込む形で、アルベドの最後の文を消してもらう。

 

「それで、空欄にはなんて記入するんですか?」

「モモンガを愛している」

「は?」

「“モモンガを愛している”と書き込んでください」

「ふざけてますよね?」

「九割真面目に言ってます。主従モノ、いいゾ……!」

「それたまに言ってますね」

「鳴き声なので」

 

 モモンガさんが吹き出した。

 

「鳴き声って!あはは、何ですかソレ」

「俺の事はいいですから、早く!俺にギルド長とNPCトップの恋を見せつけてください」

「ええ〜……しょうがないなあ。――はい、記入しましたよ」

「イェーイ!ありがとうございます!」

 

 これでアルベドは、モモンガさんの為に頑張って働いてくれるぞ!

 ファイト!モモンガさん!異世界に行ったら謝るね!

 

 残り数十秒となった。

 モモンガさんは前を向いて、ちょっと照れくさそうに言った。

 

「ゴーナイトさん、これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、もっともーっと遊びましょうね!モモンガさん!」

 

 

 

 

 00:00:00

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 00:00:10

 

 

 

「……お?」

 

 転移、できたか?

 何度か瞬きをして、玉座の間を見回す。

 

 さっきまでと同じ光景が広がっている。

 だが、違う。

 ゲーム画面ではない、本物が目の前に広がっている。

 

「あー……何でしょう。強制ログアウトしませんね。モモンガさん」

 

 大はしゃぎしたい気持ちを抑えて、できるだけ落ち着いた声を出す。

 落ち着け、はしゃいだらやべー奴に思われるぞ!

 “愛しい”モモンガさんは言った。

 

「まあ、いいんじゃないか?」

「え?」

「それよりも……」

 

 モモンガさんの腕が伸びて、俺の手を掴んだ。

 その時、ピリリとした痛みに襲われる。

 

「いたっ」

「む……すまない。パッシブスキルを切り忘れたようだ」

「だ、大丈夫です」

 

 ちょっとヒットポイントが減った気がするが、僅かなものだ。気にするほどではない。

 それよりも、何だかモモンガさんの様子がおかしい。

 普段の彼じゃなくて、魔王ロールをしている時みたいだ。

 

「――うむ。今度は大丈夫だ」

「あ……」

 

 手を握られる。それは艶やかに動いて俺を誘う。

 ――嬉しい。いや、でも!

 

「ま、待って。ユグドラシル的にはこういう接触はマズイというか……」

「問題ないようだぞ?」

 

 確かに、待てど暮らせど警告が来ない。

 これは本当に異世界へ転移できたか?

 それを確かめる為にも、セバスたちに外を調べてもらわないと。

 

「あの、モモンガさん。やっぱり何か起きています。調べたいので、一旦、お願い……待って……」

 

 後半は声が震えて聞こえにくかっただろう。それでもモモンガさんは、手を離してくれた。

 安堵した心地と、寂しいという気持ちに襲われた。

 ……?何か変だな?でも、今はここがどこか調べる方が先だ。

 

「他でもないあなたの頼みです。聞き入れましょう」

「ありがとうございます。それじゃあ、えっと、セバスたちに命令してもいいですか?」

「許可します」

「では……セバス、及びプレアデスたちよ。玉座の下へ」

 

 モモンガさんが魔王ロールならば、こちらは騎士ロールをして遊んでいた。ちょっとした演技ならば、できるぞ。まあ本職の方には敵わないけれど。

 ……たっちさんに憧れて始めたんだよな。懐かしい。

 

「「御意」」

 

 いくつもの声が重なり、彼らは玉座の下に整列する。

 そして俺は、原作をなぞるように彼らに命令を下した。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 セバスには知的生命体との交渉を、その供に魔法的伝達手段を持つエントマを選んだ。

 もう一人、ナーベラルが魔法的伝達手段である〈伝言〉を使えるが、外交には向かない性格なので今回は見送った。

 

 次に、アルベドに各階層守護者たちを呼んでもらう。

 原作でも呼ばれた、シャルティア、コキュートス、デミウルゴスの三名である。

 集合場所は第六階層な!

 

 もちろん、威厳ある話し方で伝えたよ。

 ふふ、できたらもっとフランクに話したいなあ。この話し方疲れるよ……原作のモモンガさん、よく続けられたな。

 うーん、俺もアンデッドだから疲れ知らずで、できるはずなんだけど?

 俺のパッシブスキルとか、アンデッドであるメリットがどう働いているのか、要検証だな。

 

 ともかく、次はモモンガさんと第六階層に行くぞ!

 アルベドが部屋を出たタイミングで、フッと息を吐き肩の力を抜く。

 モモンガさんの方を振り向く。

 

「お待たせしました。じゃあ俺たちは第六階層に行って、先に守護者たちを待ちましょう」

「わかった」

 

 だが、モモンガさんは動かない!

 漫画なら、俺の周りにハテナが浮かんでいるはずだ。

 

「えーと、モモンガさん?」

 

 彼はスッと手を伸ばしてきた。

 あ、はい。気づかなかくてすみません。

 俺は伸ばされた骨の手に、自分の手を重ねた。

 

「お手をどうぞ。魔王様」

「うむ」

 

 立ち上がってもモモンガさんは手を離してくれないので、内心喜びつつ、俺たちはそのまま玉座の間から部屋を出た。

 やっぱり、何かモモンガさんの様子がおかしいぞ?

 

 

 

 

 

 

 玉座の間から出てすぐに、拠点内の特定の場所に自由に転移できる“リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”を起動した。

 第六階層の円形劇場の廊下に転移する。

 廊下の奥から光が差し込んでいる。そちらに向かって歩こうとして、やっぱりモモンガさんが動かない事に気づく。

 

「モモンガさん、もしかしてずっと俺と手を繋ぎたいですか?」

「ええ」

 

 ガパリ、とモモンガさんの口が開く。

 もしかして笑顔でいらっしゃる??

 そして今まで動かなかった事は、俺から「手を繋ごう」と言わせる為だったの??

 

「え、かわい」

「ゴーナイトさんの方が可愛いですよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺としてはカッコいいと言われたいのだが、モモンガさんの言葉ならストンと胸に溶けていく。

 俺はモモンガさんと手を繋いで、廊下を進みつつ言った。

 

「あの、モモンガさん。俺、モモンガさんとずっと一緒にいたけれど、まだまだお互いに知らない部分があると思うんです」

 

 モモンガさんは耳を傾けてくれる。

 俺は続けた。

 

「だから手を繋ぎたい時は、教えて欲しいです。さっきみたいに手を伸ばすとか……そうすればスムーズに手を繋げられるから。それと、俺もモモンガさんから“手を繋ごう”と言われたいので、たまに言ってもらえたら嬉しいです」

「そうでしたか。じゃあ、その通りにします」

「はい。よろしくお願いします」

 

 廊下の奥。

 巨大な格子の前に立つと、それは天井へ上がった。

 潜ると、広場に出る。

 俺はそっと、手を離した。

 

「仕事が始まるから、また後で」

「……あなたがそう望むのなら」

 

 うう!名残惜しい!でも今は我慢だ……。

 円形劇場の中の広場、愚かな侵入者たちが倒れゆく様を見せてもらう場所。

 貴賓席から飛び出して、こちらに走ってくる子供がいる。

 双子の片割れ、姉のアウラである。

 ……その後ろにマーレも見えた。

 

 あれ、原作と違う気がする。二人一緒にモモンガさんの所へ来たかな?

 細かい内容は、三十年近く前のことだから忘れちゃったよ。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 第六階層から円卓の間へ、転移する。

 巨大な、それでいて豪華な両扉の前で、俺は愕然としていた。

 

「え……?守護者たちって、もっと、こう……自然体じゃなかったか?」

 

 思い出すのは、先程の守護者たちの様子だ。

 笑顔よりも、緊張で身を強張らせる守護者たちを見て、違和感が拭えない。

 確か、原作では初登場という事もあって、守護者たちの個性が光っていたハズだ。例えば、シャルティアならば廓言葉を使う。あの可愛らしい声で……少々間違った廓言葉の使い方をする……そんな「ありんす」が聞けると思ったのに。

 

「普通の言葉遣いだった……。なんで?」

 

 ――絶対に間違っては、ならない。

 そんな決意がハッキリと見えていた。忠誠の儀が始まる前も、後もそんなカチコチとした様子だったのだ。

 忠誠の儀が始まる前の、和やかムードはどこにいった?

 

「どうかしたか?ゴーナイトさん」

「あ、モモンガさん」

 

 一緒に転移してきたモモンガさんが、俺の顔を覗き込む。

 もっとも、俺は本体が魂(ゴースト)であり、この鎧には乗り移っているだけだから、人間のような肉体の顔なんてないのだが。

 とにかく、モモンガさんは俺を心配そうに覗き込んだんだ。

 

「いえ、守護者たちの緊張具合が気になりまして……なんだか、俺たちを怖がっているような感じがしませんでしたか?」

「――気に入らないか?」

「は?いえ、そうではなくて。怖がらせているのなら、誤解を解きたいな、と思うんです」

 

 さらに違和感が強くなった。

 モモンガさん、なんだか今日は変だ。

 敵ならばともかく、仲間に向かって「気に入らない」なんて言葉を使う人だったか?

 俺の疑問を他所に、モモンガさんは首を傾げる。

 

「恐怖の何がいけない?」

「――ぇ」

「支配にはちょうど良いだろう?」

 

 骸骨はガパリと口を開けた。

 つまり、眩しいほどの笑顔で言ったのだ。

 俺は、今度は言葉を失うほど、驚いた。

 

 

 

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