モモンガさんとイチャイチャ……違う、戯れた後。
飲み物を飲み干したアルベドとセバスは、仕事があるので、モモンガさんの部屋から出ていった。
二人……といっても、NPC達に囲まれつつ、俺は次のやるべき事を考える。
ナザリックの隠蔽とか、消費アイテムの生産をストップと各階層の無駄なコストカットは、おそらく原作通りにできた。
細かい事は、アルベド達に任せておけば大丈夫だろう。
次だ。
転移してから三日目の夜ぐらいだったか?
夜空をデミウルゴスと見て、ナザリックの行動方針が決まる。次にマーレとアルベドにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをあげる。
四日目(?)の朝までにカルネ村を探し出し、法国の襲撃者から村人を助ける。
序盤の重要な部分は、こんなところだろうか?
原作で使われたマジックアイテムの遠隔視の鏡ならば、俺の自室に二つある。それを使ってモモンガさんとカルネ村を探せばいい。
モモンガさんに仕事があるなら、俺の創造したNPC“エードラム”を側に置こう。念の為に〈転移門〉を覚えさせておいたんだ。
ナザリックからカルネ村に移動する時は、お願いするとしよう。
いや、それとも今からカルネ村を探した方がいいか?ついつい原作通りに、と考えてしまったけれど、俺がいるせいで同じ道は辿れないんだ。
好きにやるのもアリか?
「ゴーナイトさん」
「……ん、はい。すみません。考え事をしていました。何か?」
「何を考えていたんだ?」
「――俺についているメイドと護衛の数、減らしてもらえないかなって思ってました」
「……シモベ達が、何か粗相でも?」
「違いますよう。ただね、ナザリックの最高位にいるモモンガさんと、俺が同じ扱いを受けるってのは、ちょっと違う気がしまして。命令系統がごっちゃに混ざってしまわない内に、色々決めておきませんか?」
「ふむ。……具体的にはどうしたいのだ?」
俺は簡潔に考えている事を話した。
メイドと護衛の数を減らしたい事。命令系統が混乱しないように、モモンガさんの命令を最優先にしたい事。
「あと、マーレとアルベドに指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を渡したいですね。どうでしょうか?」
「メイドと護衛の件は了承した。私も減らしたいと思っていたところだ」
視界の隅でメイド達が絶望の表情を浮かべている。待って、仕事を取り上げたいワケじゃないの。
「あー……仕事が減った分は何か、他の仕事を任せましょうね」
「何をやらせるのだ?」
「例えば、一日限定で俺たちの専属メイドになってもらうとか。専属メイドの時は、俺たちにそれぞれ付きっきりで、仕事を手伝ってもらうんです。これをローテーションでおこないます。護衛達も同じく。……どうでしょう?」
「まあ、いいんじゃないか?」
モモンガさんの返事を聞いて、メイド達の表情が、花が咲くように明るいものに変わる。
「良かった。それと休みなく働いていたら効率が落ちるので、専属として働く前日は、休みにしましょう。専属の日は、それぞれ“モモンガ当番”と“ゴーナイト当番”という名前でいいですかね?」
「ああ、それでいいとも」
そしてメイド達はキツく目を閉じた。休みなく働きたいと思っているのだろう。だが言わない。きっと発言を許可されていないから。
ごめんな。休みなく働かせたくはないから、このまま進めるぞ。
「次に命令系統の件ですが……すみません。モモンガさんにばっかり、重いもの背負い込ませてしまって」
「構わない。私も、ゴーナイトさんの言う通りにした方が良いと考えていた。――決してあなたを、蔑ろにしている訳ではないぞ?」
「ええ、わかっています。全ては、俺たちやナザリックのみんなの為に。それで、指輪の件はどうでしょう?」
「アルベドとマーレに、か。必要だろうな。だが、それは今か?」
モモンガさんが背もたれに、深く体を預ける。そして顎をさすった。考え込んでいるようだ。
俺は体をひねって、モモンガさんの方を向く。もっと見ていたいという気持ちと、俺の考えを話す為に。
「アルベドに必要なのは、当然ですよね?守護者統括としてナザリック内を駆け回るんですから」
「そうだな。緊急時に“はやさ”は命だ」
モモンガさんが鷹揚に頷く。
「では、なぜマーレにも必要なのか。……敵との戦闘を見据えて、か?」
「そうですね。それもあります。俺たちと戦うなら、敵は軍隊を用意するでしょう。あの日の侵攻のように。一対多数ならば、マーレが適任です」
「あの子以外いないだろうな。――指輪を渡す他の理由は、守護者たちのやる気を出すためか?」
「ええ、明確な目標の有無は、やる気が段違いですから」
モモンガさんが、ジッと俺を見つめる。
「今、指輪を渡すのはそれだけの理由があるから、だな?」
「その通りです。アルベドには緊急時を見越して、マーレにはナザリックを隠蔽し、敵から守った功績によって」
「どれも重要だな。よし、今日の夜に被造物である者たちを玉座の間に集めよ。そこで渡すとしよう」
モモンガさんが命令すると、メイドたちは深く頭を下げた。
そこに付け加える。
「あとさ、ここでの会話は内緒にしてね。俺との約束だよ」
ここでの会話がアルベドやデミウルゴスにバレて、深読みされたら何が起こるかわからないものね。うん。内緒にしておいた方がいいな。
柔らかく、茶目っ気を含ませて言えば、メイドたちや護衛の者たちに笑みが溢れる。
そして再び、深く頭を下げられた。
あっ!
「モモンガさん!大事な事に気づいた」
「なんだ?」
「被造物の子たち全員は、玉座の間に来られないよ。防衛の意味でも、動かせないという意味でも」
「……ああ」
俺たちは顔をしばし見合わせて、笑いをこぼす。
あはは、抜け落ちてたなあ。
その日の夜。
無事に、必要なメンバーだけが玉座の間に集合した。
アルベドとマーレに指輪は渡され、特に守護者たちが目を輝かせる。
――いつか、自分も。
そう思ってもらえたのなら、成功だな。
集いはそこで終わらなかった。
「――ここで、皆に告げておきたい事がある」
モモンガさんからのサプライズである。え?何ですか??
動揺を態度に出したら、今の雰囲気が台無しになる気がしたので、ジッと耐えて話を聞く。
モモンガさんは立ち上がり、数歩前へ。そして魔法で、自分の旗を落とした。
はえ??もしかしてー?
「私はこれから“アインズ・ウール・ゴウン”を名乗る。異論はないな?」
ええー!?なんで?!カルネ村事件前なのに、なんで!?
驚きと静まり返った静寂の中で、俺は声に出してしまった。
「モモンガさん?いえ、アインズさん??」
「はい。何か?」
「どうして、今、名前を変えられるんですか……?」
「簡単だとも」
モモ……アインズさんはガパリと口を開けて、笑う。
「私の名前を、敵か味方かを判別し、さらにはユグドラシルプレイヤーかどうか判別する為の、試金石にするのだ」
「ああ、それならば納得です。この世界に先に来ているかもしれない、さらには未来に来るかもしれない、ギルドメンバーを探す意味も兼ねているんですね」
うんうん、と何度と頷く。
「名声が高まれば、広まるのは名前だ。広く遠くまで届ける為に、名前を変えるんですね」
「そうだ。……サプライズになってしまい、すみません」
アインズさんが軽くだが、頭を下げた。
ザワリと、静かだけれど確かに騒めきが起こる。
なんでザワザワするの?
ちょっとビビリながらアインズさんと話す。
「大丈夫ですよ。ただ、今回の件は先に話を聞きたかったです」
「サプライズにしたのは、理由があるんですよ」
「それは……?」
「私の部屋で話せますか?」
「いいですよ」
「では、行こう。皆、今日はよく集まってくれた。今後とも励め」
俺も何か言っておくか。
「今日はありがとう。みんなの忠義に感謝を。――休める時にはちゃんと休むんだよ。それじゃ、ちょっとごめんね」
退室するのではなく、ある場所に向かう。
モモンガさんの旗が落ちた場所だ。そこで、彼の旗を拾う。
旗は長く大きいので、どうやって畳もうか迷ってしまった。一人では難しい。戦士職ゆえに力があるから、重くはないんだがなあ。
するとコキュートスが横から現れた。
「おお、コキュートスか」
「ハイ。ゴ迷惑デナケレバ、オ手伝イイタシマス」
「ありがとう。手伝ってほしい。では、下側を持ってくれ」
「カシコマリマシタ」
二人でササッと素早く畳み、俺のアイテムボックスに仕舞う。
これでいい。
コキュートスに向き直り、礼を述べた。
「ありがとう。助かったよ」
「役ニ立テタノデシタラ、コレ以上の喜ビハアリマセン」
「ふふ、そうか?それじゃ、みんなと一緒に励んでもらおうかな。その時は頼むよ」
「ハッ!何ナリト仰ッテクダサイ」
臣下の礼をとるコキュートスの肩に、右手をポンっと優しく乗せる。
俺もよく上司にされたんだよな。期待は重かったけれど、何も言われないよりかは嬉しかった。
だから、俺も。
肩に乗せた手を離し、コキュートスの横を抜けて、玉座の下に降りてきていたアインズさんの隣に戻る。
「お待たせしました。行きましょう」
「うむ」
今度こそ、俺たちは退室した。
――――――
それから、アインズさんの自室にて。
俺は壁ドンされています。
アレです。俺は背中を壁にくっつけて、アインズさんが俺を囲むように、両手で行手を塞ぐ……あの壁ドンです。
ときめくけれど!どうしてこうなった!?
嬉しさと困惑、好きな人が目の前にいる緊張でどうにかなりそう。
鼓動を速めていると、アインズさんに顎クイされる。
あ、顎クイ!?少女漫画でしか見た事ないやつ!!
そのまま顔が近づいてきたので、俺はたまらず「まって」と弱々しく言った。
アインズさんは止まってくれた。
「どうして?」
なぜ止めるのか、そんな疑問を含んだ声だ。
俺は逃げも隠れもできない。だから、正直に言った。
「だって、まだ、こいびとじゃないから……」
「――それだけか?」
「俺にとっては、すごく重要です」
夢なのだ。好きな人と恋人になり、その……色々する事は。
アインズさんは、空洞の目の奥、輝く紅い光を瞬かせる。
「ゴーナイト」
「はい」
「愛している」
「――はい」
ふへへ。好きな人に告白してもらっちゃった!
「俺も、その、す、好きです」
「うん?愛していないのか?」
「そうじゃなくて、その、あの、うう……」
うわーん!愛してるって伝えるの、めちゃ勇気いるー!!両想いでも、めっちゃ勇気いる!恥ずかしい!!
俺はどうにも言えなくて、それでも伝えたくて、アインズさんを抱きしめた。
優しく、心を込めて。
「好き、大好き……大好きです」
「ふふ、すまない。イジワルを言ったな。今は、それでもいいさ」
「うう、ズルくてごめんなさい」
「かまわない。いつか言わせてみせるさ」
ぐわー!カッコイイ!外も中身もカッコイイとか!
さすがアインズさん!!
抱きしめる腕に力を込めたら、アインズさんが痛く感じるだろうから。頭をぐりぐりと押し付けた。もちろん、痛くない程度に。
「これで、はれて私たちは“恋人”だな?」
「う……はい……」
「――キスはしたくないのか?」
違うんですー!
頭をゆるく振った。
「アインズさんとなら、キスも、その先もしたいです。でも、そういうのって……」
「うん?」
「三ヶ月経ったらするんですよね?」
ガクッ!
アインズさんが軽く体勢を崩した。
あれ?変な事言ったか??
アインズさんは崩れた体勢を直し、咳払いをする。
「ごほん!……ゴーナイトの考えはわかった。恋人としての歩みは、あなたに合わせよう」
「ありがとうございます!」
「うむ」
よかった!なんだかよく分からないけれど、ゆっくり進んでくれるようだ!
そこでふと、思い出した。
彼に押し付けていた頭を起こして、目を合わせる。
「ところで、アインズさん。名前を変える事を内緒にしていた理由ですけれど」
「ああ、秘密にしていた理由は……」
「理由は?」
「あなたに褒められたかったからだ」
今度は、俺が軽く体勢を崩した。
アインズさんが支えられながら、俺は体勢を直す。
「そ、それだけ?」
「そうだ。良い案を出して、あなたにまた褒められたい。私からすれば、重要な理由だとも」
「そ、そうですか……」
うう、嬉しい!アインズさんがそんな風に考えてくれていたなんて!
俺は、彼の背中に回していた右手を外した。
そしてアインズさんの頭を丁寧に撫でる。
「さすがアインズさん。スゴイ!カッコイイです!」
「ふふ、そうだろう?」
「はい!」
得意気なアインズさんの声に、俺は喜びが胸にしみ渡るのを感じた。