さて、村人たちの治療は終わった。
一度解散してもらって、亡くなった方々の葬儀をしてもらおうか。
そう思っていた矢先、側にいたアインズさんに声をかけられる。
「ゴーナイトよ、少々話せるか?」
「いいですよ。向こうで話しましょうか。では村長殿、これから葬儀を行われると思うのですが、そちらが終わり次第、またお話しさせてください」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
「失礼いたします」
村長殿と奥さんは深く腰を折って、頭を下げた。
俺は緩く手を振って応える。
それで、アインズさんの話したい事ってなんだろうな?
俺は、アインズさんに案内されるまま村人たちから離れ、森に入った。
もちろん、セバスとエードラムも一緒だ。いつの間にか俺の後ろについていた。
森の中に入ってすぐに、数人の影が見えた。
アルベド、アウラとマーレ、他は護衛の為のシモベたちが複数。
俺たちが姿を現すと、NPCたちは深く頭を下げた。
俺は皆に片手をあげる。
「面をあげよ。……アルベドとアウラとマーレも、来てくれたんだな。ありがとう。心強いよ」
感謝を込めてそう言うと、三人は微笑んだ。アルベドが、美しい形の唇を開けようとして……遮られる。
「あー、ごほん」
アインズさんのわざとらしい咳によって。
全員がアインズさんに注目した。どうしたんだろう?
アインズさんは確かめるように、話す。
「それで、ゴーナイトよ。村をどうするつもりなのだ?ナザリックの物だと、さっさと宣言した方がいいと思うぞ?領地は多いに越した事はないからな」
「……?」
「隣人というのは、建前なのだろう?」
どうしてそんな考えに至るんですかね!??
カルマ値が極悪に振り切っているからですかね?!
俺は天を仰いだ。――木々に遮られて、微かな陽射ししか見えない!
俺は空を見るのを諦めた。顔を前に向ける。
どう足掻いても支配する事になるなら、せめて、原作のように穏やかな日々を過ごさせてあげたい。
俺は賭けに出た。
「ねえ、アインズさん?」
気持ち悪くならないように、それでも甘い声を出す。
俺の雰囲気が変わったので、周りのNPCたちの目が大きく開いた。
かなり恥ずかしいと思いつつ、いや、人の命がかかっているから、と自分を叱咤する。
わざと下からアインズさんを覗き込む。
「この村全てを、俺にプレゼントしてくれませんか?お願いします」
アインズさんは顎をさすりつつ、俺をマジマジと見た。
まるで珍しいものを見るかのように。
決して、気味悪く思われてはいない、と思う。
「――どうしようか」
アインズさんは悩むそぶりを見せた。
本気っぽくは、なさそうだ。俺の反応を見ている、と思う。
俺は、胸の内に広がる羞恥を蹴っ飛ばし、さらに続けた。
「プレゼントしてくれたら、俺からも何かプレゼントしますよ」
「ゴーナイトからも?」
食いついた。
俺は、声に優しい笑みを含ませる。
「はい。できる限り、素敵なものを」
「それは何だ?」
「ここじゃ言えませんよ……ねえ……わかるでしょ?」
そして声に艶をのせる。
アインズさんに届けー!!!
艶っぽいって感じてー!!!
しばしじっと見つめ合い、サッとアインズさんが目を逸らした。
うん?どうしたんだろう?
アインズさんは困ったように言う。
「しかしな、プレゼント交換をしたくても、だ。この村は初めての収獲だ。皆で分け合うべきでは?」
「そうですね。その通りだと思います。でもでも、俺、欲しいと思っちゃったんですよ。ねえ、ちゃんとナザリックの為に有効活用しますから……お願いします」
「ふむ。どのように活用する?」
俺は指折り数える。
「まず作物を作らせます。より良い作物を作らせて、それをシュレッダーくんにかけます。そうして金貨をうませます」
シュレッダーくんとは、宝物殿にある箱の事だ。
投入したアイテムを換金してくれるマジックアイテムで、ユグドラシルではない今、唯一の金貨を得られる収入源である。
めちゃくちゃ大事な物だよ。
「ふむ、それから?」
「村を懐柔します。そうして、ナザリックは悪ではない……と情報を流してもらいます。周りとの敵対を防ぐ為です。ここはユグドラシルじゃありませんからね。レベル百以上の存在がいても驚きませんよ」
「確かに、敵は減らした方がいいな。または、敵対するまでの時間稼ぎをしてもらおうか。我々が相手の情報をかせぐ間な……」
俺はうんうん、と頷く。
「それに仲良くしておけば、定期的に情報を流してくれるようになるでしょう。恩で縛れば、嘘はつかないはずです。恐怖で縛ると嫌われますからね。嫌われたら嘘をつかれます。それなら、初めから恩を売ればいい」
「ふむ……」
アインズさんはジッと考える。
何度か俺をチラリと見て、わざとらしく息を吐く真似をした。
「はあ……仕方ない。今回はプレゼントしよう」
「ありがとうございます!」
やったー!エンリたちが、ゴブリンの軍勢を呼べるか実験できるぞ!ゴブリンたちもいい奴らだから、会ってみたかったんだよなあ!
俺はガッツポーズを決めた。
そんな俺にアインズさんは冷ややかに言う。
「――そんなにあの娘たちが気に入ったか?」
なんだ?怒ってる?
俺は冷静に返事をした。
「気に入ったというよりも、実験に使えそうなので、これから楽しみです」
「実験?」
「ええ、実験です。まずはコレから始めてみます」
俺は、ユグドラシル時代にゴミアイテムと名高かった「ゴブリン将軍の角笛」を二つ、アイテムボックスから取り出した。
「うまくいけば、軍勢が見れると思っているんです」
「……まあ、やる価値はあるか」
「ええ、当たるも八卦当たらぬも八卦……ですよ」
アインズさんは、ガパリと口を開けて、笑った。
「ふふ、そうだな」
お、機嫌治ったかな?
俺は胸を撫で下ろした。
見れば、皆の顔色に安堵の色が見える。
こうして、俺たちは話し合いを一旦終えた。
――――――
森から村へ帰ってきた俺たち。
どうやら葬儀も無事に終わったらしく、村長殿が探しにきてくれた。
それから、俺とアインズさんと村長夫婦は、村長殿の家に行く。外の護衛はアルベドに任せた。
座れる椅子が二つしかなかったので、村長殿とアインズさんに座ってもらう。
ここに配下の者が居なくて良かった。「自分がイスになります!」とか言われずに済むもの。
俺たちが質問する形で、村長殿から「この世界の常識」を学ぶ。
俺は用意していたメモ帳に、聞いた話を書き込んでいった。
……やっぱりユグドラシルとは、まったく違う世界に来てしまったらしい。
しかし、原作と同じ場所……“現地”に飛んだようだ。
つまり、ナザリック周辺の国の中じゃ、法国が一番厄介かな?
ユグドラシルプレイヤーを召喚したきっかけを知るドラゴンが統治する国も、厄介なんだよな。
今、悪に傾き過ぎているナザリックと、敵対待ったナシだろうし。
気をつけなきゃ。
やられて、飲み込まれて終わる。
俺にできる事をしないとな。
村長殿の休憩を挟みつつ、夕方まで質問を続けた。
外に出る。うん、開放感がたまらないね。
空が赤に染まる。遠い地平線の端では、すでに夜が見えていた。
「綺麗だなあ」
「そうだな」
アインズさんと並んで、空を見上げる。
自然の美しさを忘れかけていたけれど、今、こうして感じている。
嬉しかった。楽しいし、幸せだ。
何より隣にはアインズさんがいてくれるし。デートみたいでいいなあ。
そこにアルベドが並ぶ。
珍しい、いつも数歩下がった場所にいるのに。
「どうした?」
声をかける。彼女は、恭しく頭を下げた。
「ご報告します。数十の軍勢が、こちらに向かって馬を走らせているようです」
「そうか、出迎えよう」
多分ガゼフたちだろ。危険は少ないはずだ。
俺はアインズさんに「いいですよね?」と聞こうとして、止まった。
アルベドが言ったのだ。
「武器を手に向かって来た為、すでに捕らえ、広場に集めております」
「……おおう」
返事なのか、そうでないのかわからない声を出してしまった。
これはガゼフたちが悪いのか、俺たちが悪いのかな?
……俺たちかなあ?
ガゼフたちが死んでませんように、と祈っておいた。