ネクロフィリアの未熟児   作:紅絹の木

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ジェラシー

 

 

あれからゴーナイトさんと一時間ほど弄りあった結果、足りないものがあると理解する。物だ。わかりきっていた事なのに、それが判明してお互いに笑いあった。

 

「どうしますか?流れ星の指輪の力で肉付けできないか、試してみますか?」

「ランダム性がある中で、ピンポイントで願いが叶うとは思えません。というか、肉付けしたいんですか?その……」

「もちろん」

 

ゴーナイトさんは耳元で甘く囁く。

 

「モモンガさんと、もっとシタいですからね」

 

 

 

あれから二日後。

「むう」

モモンガに肉がついていたら、顔は赤く染まっていたことだろう。

自室のドレスルームにて、壁一面鏡張りの真ん中に立つ。横にはナーベラルがいた。モモンガの呟きを聞いた彼女は一歩前に進み出た。

 

「モモンガ様、何かお困り事でもございましたか?」

「いや、なんでもないとも。気にするな」

 

これだ。モモンガは内心でため息をついた。どこへ行っても部下が付いてくる。何をしていても彼らがいる。中々一人になれないモモンガはフラストレーションが溜まり、精神的に体が重くなっていた。どこかで一人になりたい。ならなければ、彼らの前で無様に爆発するだろう。

モモンガはすぐに行動に移すことにした。

 

 

 

一方、ゴーナイトは。

自室のベッドの上で転がっていた。今日の装備は装飾が少なく、シーツを傷つけないタイプの物だ。ちょっと暴れるくらい、どうという事はない。だから転がる。ただし静かにだ。じゃないと、扉の向こうで待機しているメイドや護衛のシモベに気づかれてしまう。そうなれば、この一人の時間は失われてしまうだろう。

ゴーナイトはパタリと、転がるのをやめて仰向けになる。ぼんやりと天蓋を眺めて、己の行動を思い出してはまた悶えた。

 

「恥ずかしい……!」

 

なぜあんなにもモモンガに積極的になれたか。それは自分がモモンガを愛しているからだ。モモンガが自分を愛しているからだ。

自分という人間は、友人だった頃から相手に尽くし、感情のまま行動を起こすタイプではあった。その結果があれだ。

 

モモンガに尻を触られて、くすぐったかった。もどかしくて、さらに触れて欲しかった。だから、円卓で積極的にモモンガさんに触れてもらおうと。自分から彼の手を誘導した。

 

飢えは満たされない。渇きは潤わない。

 

ならば、さらに求めるしかない。

それがどれほど羞恥に塗れていても。

 

「もっと、もっとシタいよお。モモンガさん……」

 

マッチの火よりも微かな火が、欲が消えない。疼く。じわじわとその周囲を焦がしてやまない。苦しい。解放されたい。

 

ゴーナイトはアイテムボックスから流れ星の指輪を取り出す。サービス最終日にガチャを回してやっと当てたアイテム。それをジッと見つめて、ため息を吐く。モモンガに言われた通り、ピンポイントで願いを叶える事は難しいだろう。ゴーナイトは再び指輪をアイテムボックスへとしまった。

 

ベッドで横になっていても眠気に襲われない。自分がアンデッドになってしまったからだろう。ここ最近夜中が暇だ。何か暇つぶしになる物は……そうだ。図書館に向かおう。理想の上司になるための振る舞いの参考になるビジネス書ぐらい置いてあるだろう。

 

ベッドから起き上がり寝室を出る。扉を開けた先、右手側に執務机があり、さらにその先に応接用のソファとテーブルが置かれている。そのソファの一つにメイドが座っていた。彼女は立ち上がり主人を待つ。俺はなるべく堂々とした所作で、彼女の隣まで歩く。見上げると隠密を得意とするモンスターが天井を張っていた。

彼らにも聞こえるように声を張る。

 

「気が変わった。これから図書館に行く。付いて来い」

『かしこまりました』

「では、お召し物を替えさせていただきます」

「いや、マントを羽織っていくから、着替える必要はない」

 

ゴーナイトはマントの中でも豪華に見える、聖遺物級のアイテムを取り出した。首元はフサフサでボリュームたっぷりのファーが付いた深紅のマントだ。

それをメイドに差し出して、着せてもらう。うん、これで人前に出られるくらいにはなってんだろ。

 

「では行くぞ」

『はっ』

 

私を入れた計八名で自室を出て、図書館へ向かう。

はじめは、護衛の人数はもっと多かった。計三十名くらいはいた。あれなんていうんだっけな。儀仗兵だっけ?鬱陶しいからそれらしい理由をつけさせて、すぐにやめさせた。おかげで人数が減ってストレスフリーだ。連動してモモンガさんのところの儀仗兵も減ることになり、愛する彼に感謝された。生活圏を侵される圧力が少なくなって嬉しいです、と。

自己中心的な考えから行動したんだが、モモンガさんの役に立てて良かった。

 

 

 

最古図書館。

ティトゥスに挨拶を済ませてビジネス書がある本棚へ向かう。付き添いには司書Dがいる。護衛は外に待たせてあった。メイドは一時間の休憩をやって、今は側にいない。

 

「理想の上司、これはいるな。部下とのコミュニケーション方法、これも必要。本ばかりじゃ面白くないからな、映像データを少し借りていくか」

「ご案内いたします」

「ああ、頼むぞ」

 

映画やドラマのコーナーから王様が出てくる作品をピックアップしていく。漫画も視野に入れるか悩んでいたところ、〈伝言〉が入った。

 

「はい、ゴーナイトです」

『ーーー夜分遅くにすみません。モモンガです。今よろしいですか?』

「大丈夫ですよ。何かありましたか?」

『ちょっと報告しておきたい事がありまして……』

「あの、よろしければ会って話しませんか?二日ぶりですし」

『え?あ、そうですね。で、では、俺の部屋で会いませんか?』

「わかりました。すぐにそちらに向かいますね。それじゃ、後で」

 

〈伝言〉を切る。ゴーナイトは胸が高鳴り、足が軽やかにステップを踏む。

二日ぶりにモモンガさんに会える。早く会いたい!探し物はここまでにしよう。

 

「司書Dよ、今日はもう帰る。案内ご苦労であった」

 

司書Dは深々とお辞儀をした。

 

 

 

モモンガさんの部屋に到着し、護衛とメイドを帰した。いつ自室に帰るかわからなかったからだ。当然、彼らは私を待つと言って聞かなかった。だが、お前たちを待たせたままではゆっくり話もできないと言うと、しぶしぶ言うことを聞いてくれた。

 

中に入ると、モモンガさんが人払いをしてくれた。全員が出て行き、扉の外に気配がなくなってから、モモンガさんとソファに座った。

 

「隣に座っても?」

「どうぞ」

 

腰掛ける彼のすぐ隣、膝がくっつくほど近くに座った。マントをさっさと外し、モモンガさんとは反対方向に投げておく。

露わになったゴーナイトの装備は、普段と比べればとても薄着だった。シャツにズボン、胸当てに腰当て、ひじ、脛当てと、鎧部分の方が少なかった。

 

本来、ゴーストナイトというのはフルアーマーに憑依する悪霊のアンデッドモンスターだ。なぜゴーナイトは、フルアーマー以外に憑依できるのか。課金したからだ。課金する事でローブにも、こうしたシャツとズボンを着用できる。ただし、フルアーマーに憑依した時よりもステータスが大幅にダウンする。そのため、戦闘時には不向きであった。

 

こういった、触れ合うときにはちょうどいい。

鎧よりも薄い布地の方が、モモンガさんの手を感じられる。

モモンガの左手がゴーナイトの右太ももを撫でた。形をなぞるように触れるやり方はゴーナイトが教えたものだ。こちらから何かしらアクションをせずとも、触れてくれる事が嬉しい。

ゴーナイトはさらにモモンガへ身を寄せて、右半身を密着させた。

 

それから数十分は、じゃれ合いが続いた。互いに際どい部分にタッチし、撫でる。時々言葉を交わしては、また触れ合う。

 

「え、一人でナザリックの外に出たんですか?」

「いや、デミウルゴスと一緒です」

「そうでしたか。……ふうん」

「なんですか?」

「いや、なんか。胸がもやもやするなあって思って」

「……やきもちですか?」

 

そうじゃないと言いたかった。そんな心の狭い奴ではないと。でも、反論できないほどモモンガを独占したい気持ちもあった。だから素直に頷く。

 

モモンガは、まさか頷かれるとは思っておらず驚いた。そして体の底からじわじわと喜びが込み上げてくる。

両腕を伸ばし、ゴーナイトの肩を抱いた。ゴーナイトはおずおずと体重を少しだけモモンガに預ける。

 

「……外に、デミウルゴスと出かけて、しばらく星を眺めていたんです。とても綺麗でした。次は一緒に見ましょうね。……すると、地面が波打っていて、その原因はマーレでした。ナザリックの壁に土をかけていてくれたんですよ。だから、マーレを激励して、その働き見合う物をあげました。その、指輪です。」

「なんの指輪ですか?」

「これを。合流したアルベドにも必要だと思ってあげました」

 

彼の指を一本独占する、アインズ・ウール・ゴウンでも最も重要な指輪だ。

驚いて顔を上げて、彼の方を向く。至近距離で輝く紅い瞳が綺麗だと思った。

 

「え、リングをあげたんですか?」

「はい。階層守護者には必要だと思いましたので。ダメでしたか?」

「いえ、そんな事はありません。驚いてしまいましたけれど、モモンガさんの考えには賛成ですから」

 

いつか、持たせるべきだと思う。ならば、今渡しても問題はないはずだ。

ゴーナイトは一人で納得する。モモンガはゴーナイトが怒っていないことに安堵した。

 

「報告はそれだけで……あっ!」

「なんですか?」

「いやー!その、もう一つ言ってなかった事が、ありまして」

「?なんでしょうか?」

「その、アルベドの設定を変えちゃいまして……」

「……ありゃ」

「その、ビッチであるから、そのお……モ、モモンガを愛してるって」

「はああ!??こんの、浮気者!!」

 

自分からモモンガを引き剥がして、隣に投げていたマントを、今度はモモンガの方へ投げる。

 

「いや、浮気者って。あの時はまだ両思いじゃなかったでしょうが!冤罪ですよ!」

「それは、そうですけれど!でも、だって、じゃあ今、アルベドはモモンガさんの事が好きなんでしょう!はあ!?あんな美人じゃ私に勝ち目ないじゃん」

「勝ち目って……あまり気にしなくてもいいと思うんですけど」

「どうしてですか?」

「だって、俺たち両思いですよ?」

「たしかに、そうですけど……。モモンガさん、美人好きでしょう?」

「はい」

「くっそ!」

「怒らないでください!あと、その事で相談に乗って欲しいんですよ。タブラさんに申し訳なくて……」

「タブラさんが怒るかもしれないって話ですか?私、あの人とあんまり仲良くなかったんでわかりませんよ……」

 

タブラさんとの思い出を掘り起こしてみるが、少ない。それにアルベドやNPCに関して話している場面に出くわした事もないので、設定の改変について怒るのか、わからない。

 

モモンガさんは、俺が投げたマントに顔を埋めた。

 

「うう、そうですか。あー……どうしましょう」

「どうするも何も、帰ってきたら素直に謝りましょうよ。それしか方法はないんじゃないですか?」

「そうですよね。そうします」

 

モモンガが甘えるように、しなだれかかってきた。実際甘えているのだろう。

ゴーナイトは振り払わなかった。

甘えられて嫌な気持ちではなかったし、優越感に慕っていたからだ。

 

「(モモンガさんが、こんな姿を見せるのは俺だけだよな?)」

 

そうであって欲しいと、ゴーナイトは思う。

 

 

 

〈つづく〉

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