「我が名はアインズ・ウール・ゴウンだ」
モモンガは今日から、外においてはアインズ・ウール・ゴウンとなった。
ゴーナイトには考えがあった。
「名前を広げたいんですよ。仲間たちにアインズ・ウール・ゴウンはここだよーってわかりやすく伝えるために」
「はあ」
「高まる名声。その中で、何が一番広がりやすいかって言うとやっぱり評判と名前でしょ。だったら唯一無二のギルド名、アインズ・ウール・ゴウンを人々に広げてもらった方が、仲間たちも気づきやすいと思うんです」
「なるほど?」
「それにプレイヤーと現地人を見分ける判断基準になるでしょ?反応すればプレイヤーの可能性がある。なければこの世界の住人とか」
「なるほど」
「理解していただけたようで嬉しいです」
「でも、俺がこの名前を名乗ってもいいんですか?皆の名前なのに」
「むしろ皆を見つけるために名乗ってほしいんですけれど、アルベドはどう思う?」
「……そういう理由があれば、よろしいかと思われます」
「アルベドもこう言っていますし、どうか、よろしくお願いします」
ゴーナイトはモモンガに向かって頭を下げた。モモンガは頭を上げるように言う。
「はい。頼まれました。それにしても、デス・ナイトだけで倒せるとは、幸運でしたね」
「さすがは愛しのーー至高の御方が作られたアンデッド。素晴らしい働きでございます」
「愛しの……」
「何かございましたか?ゴーナイト様」
「いや、何でもないぞ。そうですね、ここら辺の人間は弱いのかもしれませんね」
二人してハイタッチしたいほど喜びたかったが、アルベドの手前、それは遠慮しておいた。
さて、村に入る前にやるべき事がある。
それはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのエフェクトをカットしたり、モモンガの骨部分を隠したり、ゴーナイトの周囲を漂う黒い霧をカットしたりすることだ。
これで邪悪なアンデッドから、不気味な集団にレベルダウンしたはずだ。多分。
最後にモモンガとゴーナイトがお互いを確認することで終了する。うん、大丈夫だろう。そんなに怖くない。
彼らは村の中に入っていった。
四名の騎士をわざと逃し、村人たちに安全だと言う。
場所は変わって、村長宅。
アルベドは外で待機させて、私とモモンガさんの二人だけで中にお邪魔する。家の中は機械類が一つもない、私たちから見ればとても新鮮な家だった。あまり見ては失礼にあたると思い、視線はやや下の方ー机の上に置いた手の甲ーで止めている。
「今、白湯をお持ちしますので」
「いえ、喉は渇いておりませんので結構です。それよりも、広場で話したとおり金銭についてお話をしましょう」
モモンガさんも私もアンデッドなので喉は乾かない。だが、思い出す。この人たちは人間なのだから喉が渇いているかもしれない。
「お二人は喉、渇いていませんか?水不足は病気になりますからね。適度に飲んでください」
「では、ちょうだいします」
村長と奥さんは水を用意し、それを静かに飲み干す。一息ついたところで話し合いが再開した。
結論を言うと、金銭は村の復興のためにも使うので、さほど出せないとのことだった。
ならば、とモモンガさんがあれこれ交渉した結果。村長さんたちは、私たちに情報を提供する事、提供した事を誰にも話さないと約束させた。
村長さんは固く約束してくれた。
命を救った恩があるとはいえ、見ず知らずの俺たちに誠意を持って対応してくれた、彼ならば信じられる。
村長さんがもたらした情報は私たちを混乱させた。どこだよリ・エスティーゼ王国って。全然ユグドラシルと関係ないじゃないか。全く別の世界に来たのかもしれないと、モモンガさんと話したことはある。でも、覚悟はしていたが、衝撃を殺すことはできなかった。頭の中がぐわんぐわんと大きくうねっているようだ。
机に手を置いて体を支えることで、何とか保つ。
それに、多分モモンガさんも同じ考えだと思うけれど、騎士を逃したのは惜しかった。彼等の内一人でも捕まえて情報を得ればよかった。騎士といえば身分が高く、教養もあるはず。村長が知らない国家間の事情さえも把握しているはずだ。
モモンガさんはさらに熟考している。
何を考えているだろうか。もしかして、他のプレイヤーの可能性かな。もし他のプレイヤーが来ているなら戦闘になる可能性の方が高い。アインズ・ウール・ゴウンはPKを是とする悪のギルドだったから、恨みを買いまくっている。避けるにはどうするべきか、衝突した場合の策も考えているんだろう。
戦闘になる場合、どれだけのレベル百プレイヤーが押し寄せてくるかわからない。ならば戦力は拡大させるべきだ。そしてこの世界についてもっとよく知るべきだ。
話は周辺にいるモンスターについて移る。
ほう、こちらにもドワーフ、エルフ、ゴブリン、オーガ、オークがいるんだな。それに森の奥には『森の賢王』と呼ばれる魔獣がいると。強いのかな?どれだけ賢いんだろう。
そういった人間の生活を脅かす存在、特にゴブリンやオークたちを報酬次第で退治してくれるのが冒険者らしい。冒険者がリアルにいるのか!ちょっと楽しみだな!最寄の城塞都市、エ・ランテルに冒険者ギルドがあるようだ。行ってみたいな!村長さんの話はとても有益だったが、曖昧な部分も多い。エ・ランテルなら、さらに詳細な情報が得られるだろう。
それにしても冒険者か!本の中でしかなかった職業が、今はリアルなんだ。ちょっと楽しみだな。私も人化の指輪を装備すれば、肉体の幻影は得られるわけだし、街に出かけられないかな?
頭の隅でそんなことを考えつつ、モモンガさんと一緒に村長さんの唇を見る。口動きのと聞こえてくる音がまるで違った。異世界って感じだな。もう頭パンクしそうだから休憩入れませんかね?
その時、木でできた薄いドアの向こうから足音が近づいてくる。足音と聞こえてくる間隔から急いでいないとわかった。
「誰かいらっしゃいますよ」
「は?」
同時にノックの音がした。村長は少し驚いた様子でこちらを見てくる。いや足音が聞こえたものですからね。
村長さんは私たちに「出ても良いか」と尋ねる。
「どうぞどうぞ。こちらも少し休憩が欲しかったところです。ねえ、ゴーナイトさん」
「ええ。ですから、出てくださって構いませんよ」
「申し訳ありません」
村長さんは軽く頭を下げると立ち上がり、ドアの方へ歩いて行った。ドアを開けると一人の中年男性がたっていた。彼が言うには、葬儀の準備が整ったらしい。
話は一時中断ということになった。
その後、死者の葬儀を見届けたり、なぜかこの村を襲撃すると勘違いしていたシモベたちを帰したりした。
時刻は夕方になろうとしていた。遠い地平線に太陽が沈み、夜の帳が下りてくる。ユグドラシルでしか見られなかった、太陽の動きで時間がわかる。なんとも不思議で、感動的な光景だった。
「モモーじゃなかった、アインズさん見てください。夕方ですよ。空が赤くて綺麗ですね」
「ええ、とても綺麗ですよ」
「?私に映った赤色なんて赤黒いでしょう。空を見てください。まるで赤い海ですよ。凄いなあ」
「ゴーナイト様は夕日を見たことがないのですか?」
「あー、なんと言えばいいのかな。ユグドラシルで見た以来、かな。なんとも懐かしい気持ちになる」
「左様でございましたか」
「さて、やるべきことも終わりましたし、撤収しますか」
「了解です。一言、村長さんに声をかけてから帰りましょう」
「承知いたしました」
「……どうした、アルベド?調子でも悪いのか?」
「いえ、そのような事は。ただ……」
「人間が嫌いか?」
「はい。踏み潰せたらどれ程綺麗になるか……いえ、一人を除いてですけれど」
「そうか。しかし、ここでは冷静に優しく振る舞え。演技というものは重要だぞ」
アルベドは頭を下げた。
ゴーナイトとモモンガはアイコンタクトを取る。外で活動するにも、アルベドを筆頭にこんな調子ではうまくいかない。外で活動させるNPCはきちんと選別しないといけないな、と。
一行は村長がいる広場へ向かう。彼は数人の村人に囲まれていた。その表情には緊迫感が浮かんでいる。やれやれ、また厄介ごとかな。
「ーー行きましょう。こうなったら最後まで関わりましょう」
モモンガを先頭に村長へ近づく。俺たちを見ると、村長はあからさまに安堵の表情を浮かべた。
「ーーどうされましたかな」
「おお、アインズ様、ゴーナイト様!実は村に馬に乗った戦士風の男たちが向かってきているそうです」
「なるほど。では、生き残りの村人たちを一番大きな家屋に集めてください。デス・ナイトに守らせましょう。後は私が対処します」
村人たちは村長宅に集められ、その扉の前にデス・ナイトが配置された。村長は私たちと一緒に村の広場にて、戦士風の男たちを待つ。
村長さんの緊張を解くため軽口を叩く。彼は少しだけ頰を緩ませて、それから瞳に力を入れた。覚悟を決めたのかもしれない。
やがて、戦士風の男たちがやってきた。
見た目にも装備にも統一感はない。だが見事に統率がとれている。
「正規軍ではないのでしょうか?」
「まだわかりません。歴戦の戦士集団にも装備がバラバラの傭兵集団にも見えます」
戦士たちは整列すると、その中から一人の最も屈強な戦士が馬に乗って前に出てきた。
彼はリ・エスティーゼ王国の王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと名乗った。なんでもこの近隣を荒らし回っている帝国の騎士たちを討伐するために、王命を受けてやってきたらしい。
「王国戦士長……」
「どのような人物で?」
「商人たちの話ですが……」
なんでも王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士たちを指揮する人、と。ふうん、偉い人が出てきたもんだな。
モモンガさんがこの村を救った人だと判明すると、彼は馬から降りて頭を下げた。
「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」
ザワリと空気が揺らいだ。
王国戦士長という特権階級の人物が、身分が不確かなモモンガさんに頭を下げることは驚きだろう。俺も、見ず知らずの不審者たちにお礼を言うなんて、と驚いている。それなのにガゼフはわざわざ馬を降りて頭を下げた。彼の人柄だろう。誠実で人が良さそうだな。
話の流れで、俺たちは旅の冒険者となった。そして仮面も外せないとやんわり断る。
「そちらの騎士殿もかな?」
「はい。私も外せません。……まだ終わっていないようですから」
「なに?」
「この村の周囲に複数の人影があります。村を囲むような形で迫ってきていますね」
「なんだと?あなたは一体?」
「このクローズド・ヘルムのおかげですよ。敵を察知できるんです」
嘘だ。これは俺のパッシブスキル〈生命探知〉のおかげだ。スキルや魔法で隠されない限り生者を感知できる。
程なくして、彼の部下らしき人物が報告をあげた。
周囲に複数の人影あり、と。
〈つづく〉