ネクロフィリアの未熟児   作:紅絹の木

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旅立つ者

 

頑張ったモモンガさんをたくさん甘やかした後、私たちは寝室のベッドに寝転がった。心臓がーもうないんだがー壊れるほど早鐘を打つ。やる事といえばいつものお触り程度だ。それも場所が変われば非常に甘いものになる。

今は座って向き合い、左手をモモンガさんの右手に絡めながら今後の話をする。

 

「やっぱり、常識を学ぶためには町に住む必要があると思うんです」

「それには賛成です。でもどうやって住むんですか?商人にでもなるつもりですか?」

「……それも悪くありませんね。でも、今回は冒険者になろうと思います。冒険者なら常識がなくても、他国から来たからとか言えば多少納得してもらえるでしょう」

「そうですね。外国からなら仕方ないと思うでしょうね。誰と行くんですか?」

「は?貴方と行きますが?」

「私は無理ですよ。中身はからっぽの、というか魂だけのゴーストですし。兜を取ることができません。顔を見せられないなんて、人間社会で生きていくにはリスキーですよ」

「そこはほら、幻術の指輪を使えばいいじゃないですか。触らせさえしなければバレませんよ」

「私、幻術の指輪持ってません……」

 

せっかく誘ってもらったのに行けない。落ち込んでいると、肩を撫でられた。慰めるように優しく何度もさすられる。

 

「宝物殿にないか探してみましょう」

「ありがとうございます。私はモモンガさんの旅に役立ちそうなアイテムを探してみますね」

「それってゴーナイトさんの私物を使うって事ですか?悪いですよ」

「後で返してもらえるなら問題はありません。……怪我せずに帰ってきてくださいね」

「もちろんです。何かあった時は撤退を最優先させますから」

 

そこで二人はお互いを抱きしめ合った。相手の存在を確かめるように、形取るように触れ合う。そのまま静かに会話を続ける。

 

「……宝物殿に行く時は私も連れて行ってください。モモンガさんのNPCに会いたいので」

「え?あ、あー……その、いいですよ?」

「ふふ、冗談です。私は私の方で探し物しますし、会うのは今度にします。楽しみですね、あの設定でどんな風に動くのか」

「ぐう!やめてください。今から会うのが恐ろしくなりますから!」

 

 

 

結局、指輪は直ぐには見つからなかった。私の方もすぐに良いものが見つからなかったのでおあいこだ。パンドラズ・アクターがどんな風に動いていたか聞くと「会ってからのお楽しみに取っておいてください」なんて言われてしまった。それでは聞き辛いじゃないですか。

 

モモンガさん一人を旅立たせる訳にはいかないから、もう一人、プレアデスから連れていくことになった。できれば人間に好意を持ったNPCを選ぼうと話し合ったが、よくよく考えれば逆の方がいい。

人間に好意的なNPCは心配なく人間社会に溶け込めるだろう。また演技ができる者もだ。彼らは主人がおらずとも、自ら考えて人間に対し好意的な行動を取ることができる。

逆に人間が嫌いなNPCは一人にしたら、どんな行動に出るかわからない。カルネ村を訪れたときのアルベドのように、すぐに人間を始末しかねない。

 

ならば側で見守り、演技ができるほど育てればいいじゃないか。最終的に全員がそうなれば、外での活動に支障や心配事はなくなり、仕事を任せやすくなるというものだ。

 

モモンガさんは前衛をやりたいらしい。ならば後衛が必要だ。人間嫌いで、後衛で、〈伝言〉も使える人間らしい見た目のプレアデス。

ナーベラルに決定した。

 

 

とんとん描写に決まっていくかと思われたが、アルベドが立ちはだかった。

モモンガさん自らが外に出て情報を集めると宣言され、そのお供にはナーベラルが選ばれたと発表したとき、アルベドが荒れた。

強固に反対したのだ。モモンガさんと私は説得を試みたが、話し合いは平行線を辿った。その時、デミウルゴスがアルベドに何か耳打ちする事で場は収まった。

 

今度はゴーナイトの執務室で話し合いの場を設ける。

 

「あれ、なんて説得したんですかね」

「さあ……。それにしても、これで外に出て活動できますね。渡すアイテムについてはもう少し待っていただけますか?」

「いつでも大丈夫ですよ。急かしませんからね。ところで……お願いの事なんですけれども」

「お願い……ああ賭け事のことですね!何にするか決まりましたか?」

「いや、まだ決まっていないのでもう少し待ってもらえませんか?」

「いいですよ。期限は設けませんので、ゆっくり考えてくださいね」

「ありがとうございます」

 

それから数日後、モモンガさんことモモン。ナーベラルことナーベはエ・ランテルへ旅立って行った。

私はアルベドとコキュートス、もうすぐ出発するデミウルゴスと留守番だ。アウラとマーレ、シャルティアはそれぞれ外で活動している。

この留守番で恐ろしいものはたった一つ。そう支配者として決断すること。平社員だった私たちに支配者の仕事が務まる筈がない。ならば有能な部下に丸投げしてしまえばいいのだ。

 

「私はモモンガさんを助けるためのアイテムを探す。仕事に関してはアルベドに任せよう。頼んだぞ?」

「はっ!雑務はすべてお任せください」

 

それ以降、一つも書類仕事がきていない。私ー最高責任者ーがいなくても滞りなく進められているのか。それとも雑務としてすべてアルベドがやってくれているのか。わからないが安心した。モモンガさんと喜びを分かち合ったほどだ。

 

今日もぎゅうぎゅうに詰め込まれたドレスルームを片付けつつ、低級の換金アイテムを探し出す。それらをエ・ランテルで売ってモモンガさんの活動資金にしてもらう為だ。

ちなみに低級の宝石はモモンガたちからすれば道端の石ころ同然なので、誰も持っていない。あれば即座に宝物殿に送られて金貨へと変換される。というか換金アイテム自体、金貨に変わる以外に使い道がないので持っている方こそ変わっている。

 

私はメンバーの中でも特に物持ちが良すぎるから、多分まだ残っているはずだ。

 

一日中ドレスルームの中をかき回したが、見つからない。うーん?大昔に見たはずなんだがおかしいな。

 

自分の性格を顧みると、収集癖のせいでどんなしょぼいアイテムも一つは持っているはずなんだが。もしかして倉庫の方かな?だったら根気を入れて探さないと出てこないな。

 

「うむ、決めた。エアリスよ、明日は倉庫の中を調べる。大掛かりになると思うので、手の空いている者たちを集めてほしい」

「皆がゴーナイト様の様のために馳せ参じます」

 

言葉の雰囲気から数十名のメイドが押しかけてきそうで、慌てて首を振った。

 

「いや、そんな大人数でなくていいのだ。あと数名来てくれればいい。心当たりはないか?」

「プレアデスの方々が今は待機中だと聞いております」

「うん、ちょうど良いな。ではプレアデスたちに明日来るように伝えるのだ。行け」

「かしこまりました」

 

そういってメイドのエアリスは下がった。

ゴーナイトの周囲には装備できるフルアーマーから装備できない防具、装飾品、消耗品、素材など様々なものが箱に入れられて分けられている。さて、戻ってくるまでに少し片付けておこうか。片付けといっても押入れーアイテムを収納できるクローゼットやキャビネットの事ーに入れるだけだ。

 

その後デミウルゴスが挨拶に来てくれた。

無事に戻ってこれるようにと、昔ウルベルトさんと交換した装備ー手袋ーを貸した。

「持っていろ。それを返すまで死ぬなよ」

「ゴーナイト様、ありがとうございます。これ以上のお守りはございません。必ずや任務を成功させ、帰還します」

 

 

夜にはモモンガさんと定時連絡を済ませる。

ナーベラルと同じ部屋に泊まっているらしい。なんだそれ、羨ましいな!俺もモモンガさんとお泊りしたいよ。とは実際に言わない。心の内に留めておく。仕事中に不必要な私事を持ち込むのは鬱陶しいからね。

それからある女に下級治癒薬を渡したと言っていた。それは面倒でしたね。でもポーション一つで収まって場が良かったです。明日は依頼を受けるんですね。頑張ってください。

 

 

 

そして次の日。

エアリスは交代してアウクルがやってきた。そしてナーベラルとソリュシャンを除いたプレアデスが揃う。全員が整列したタイミングを待ってから声を出す。

 

「今日も換金アイテムの発見と片付けだ。これはモモンガさんとナーベラル、後に私も合流する冒険者業の助けとなる。……一緒に頑張ってほしい。よろしく頼むぞ」

「はい!どうぞお任せください。必ずやゴーナイト様のご意向に沿う結果をご覧にいれます」

「ふふ、そうかしこまらなくてもいいんだぞ。ただ一緒に探し物を見つけてほしいだけだからな」

「そういうわけにはいきませんわ。至高の御方との作業ですもの。身が引き締まります」

 

皆、気合いに満ち足りている。士気が高いのは良いことだ。

 

「……そうか。では、はじめよう。取りかかれ」

「はっ!」

 

ゴーナイトが言う倉庫とは。彼の自室、スイートルームの中でも広い部屋を物置にしているためそう呼んでいる。その様子を見たギルドメンバーは「汚部屋(おへや)!」と叫んで二度と入ることはなかった。今再び、その部屋が開かれる。

 

汚部屋はメイドたちが顔をしかめる程のゴミアイテムもあった。彼女たちから見ればただの草でもちゃんとした素材なんだよ!もうユグドラシルで取れなくてレア度上がっているから捨てないで!

俺にふさわしいかどうかで決めないでくれ。手に入るか入らないかで決めてくれ!と内心何度か叫びつつ、倉庫は足元が見えるほどには片付いた。そしてとうとう見つけた!

高さ二メートル、横一メートル幅五十センチの扉がついたアンティーク調のキャビネット。重量千キロまで入る持ち運びできないタイプのアイテム収納棚だ。移動させたいときはアイテムをすべて外に出す必要がある。この中に大量の換金アイテムが入っていたのだ。ようやく見つけることができた!

 

「皆、ご苦労さま。ようやく見つけることができた!ありがとう!お前たちの働きに感謝する!」

メイドたちの顔に晴れやかな笑顔がともった。朝から始めた作業、途中休みを入れたとはいえ夜までかかってしまった。長い時間彼女たちを拘束してしまい申し訳ない。

私は一人一人に慰労の言葉をかける。換金アイテムのついでに見つけた、ホワイトデーイベント期間限定配布アイテムのクッキー(有り余るほど数があった)を配りその日は解散となった。

 

二日目の定時連絡。

今日は街の外に出た。戦闘したと。怪我なくてよかったです!

へえ、いきなり名指しの依頼が入って、他のチームと一緒に依頼を受けたんですね。……大変そうですけれど、発見も多かったでしょう。

 

うん?仲間はギルドメンバーとNPCたちだけ?そうですよ?何をいっているんですか。

 

私たちだけがモモンガさんの最高の仲間ですよ。

 

 

〈つづく〉


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