仮面ライダーカブト ~赤の英雄、蒼の復讐者~   作:龍牙

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第一話

 その日は気分が良く、男は同僚との麻雀勝負で得た臨時収入で土産を買い、どことなく浮かれた歩調で家路を急いでいた。

 もう深夜と言っていい時間だから子供達も寝てしまっているだろうが、お土産に選んだのはおそろいの日記帳だ。娘達の枕元にでも置いておいて、季節はずれのサンタクロースを気取るとしよう。

 男の娘二人は近所でも評判の仲のいい姉妹だった。親の贔屓目を別にしても可愛い顔立ちをしている。きっと将来は美人になるだろう。

 来月には海に行く約束もしている。そのためにここしばらく仕事を前倒しにして進めているのだ。

 娘達が海辺ではしゃぐ姿を想像して、彼は思わず口元を緩めていた。先程までは……

 家まで後数十メートルと言った所で、男は異変に出会ってしまった。最初に現れた異変は男と全く同じ容姿をした人間が突然目の前に現れたのだった。

 それだけならば、他人の空似で済まされる話だろう……。だが、次の瞬間、不気味に笑ったと思うと目の前のもう一人の男は緑色の怪物……サナギ体のワームへと姿を変える。

「う、うわぁー!」

 サナギワームは右腕を振り上げ男に襲いかかろうとした瞬間、その爪を別の場所から飛翔してきた何かに弾かれる。

「おい、早く逃げろ」

 そう呟く新たに現れた第三者たる少年の言葉に従い、男は一目散に逃げ出していく。それでいい……再び出会わなければ、一夜の悪夢で済むのだから……。

「……兄さんが言っていた『人を傷つけなければ人類は敵じゃない』」

 彼の手の中に先程、サナギワームの爪を弾いた物…赤いカブトムシを模した機械『カブトゼクター』が収まる。そして、

「……だから……人を傷つけたお前は、敵だ! 変身!!!」

 少年はベルトのバックル部分にカブトゼクターを差し込む。

 

《HEN-SHIN》

 

 ベルトに装着された瞬間、カブトゼクターから電子音が聞こえ、みるみる内に彼の身体の周りには銀色の重厚な鎧が現れる。『仮面ライダーカブト・マスクドフォーム』へと変身したのだ。

「ハアァァァァ!!!」

 一気にサナギワームとの間の距離を詰めると、カブトはその重厚な姿に相応しいパワーで何度もサナギワームを殴りつけ、クナイガン・アックスモードで切り付ける。

 そして、クナイガン・アックスモードの刃の部分である『バヨネットアックス』を超高温化させ、クナイガンのアックスモードの持つ必殺技『アバランチブレイク』でサナギワームを切り裂く。

 

 その最後の一撃によりサナギワームは跡形も無く爆散する。

「やれやれ……明日は学校だって言うのに、ホント迷惑な連中だな」

 ベルトからカブトゼクターが外れ、少年…『天道 龍牙』の上空を飛び回るとそのまま飛び去っていく。

太陽の神『カブト』に選ばれし者『天道 龍牙』……職業:高校生兼正義の味方

同日:別の場所

「ま、待て……助けてくれ……」

 怯えた様に声を上げるサラリーマン風の男を両肩に湾曲した二本の剣を持ったクワガタをモデルとした青い戦士が一歩一歩追い詰めていく。

「ライダーキック」

 青い戦士『仮面ライダーガタック・ライダーフォーム』は無感情な声でそう呟き、ベルトに有るガタックゼクターに有るスイッチを三回叩き、ゼクターホーンを右から左へと送り、再び元の位置へと戻す。

 

『Rider Kick』

 

 

 電子音が響くと同時にガタックの全身を雷の様なエネルギーが纏い、そのエネルギーは右足へと集る。そして、

「はぁ!!!」

 

 叫び声と共に目の前の男に廻し蹴りを叩き付ける。それと同時に男は緑色の異形の怪物……サナギワームへと姿を変え爆散する。

「……排除、完了……」

 彼がそう呟くと同時にベルトよりガタックゼクターが外れ、戦いを終えたゼクターは虚空へと飛び去っていく。それと同時にガタックの装甲が外れ、現れた少年は携帯電話を取り出す。

『亨夜君、お疲れ様』

「いえ」

 着信を確認するまでもなく電話に出ると、聞こえてきた彼の上司に当たる女性の声に無感情な声で答える。

「それで……他の場所に現れたワームは……」

『今のところ無いわね。今日の所は帰って休んで貰っていいと思うわ。貴方、明日も学校でしょ?』

「はい。……それで……カブトとキックホッパーの事ですが、適合者の身元は」

『カブトの方は随分と派手に行動しているみたいだから、調べは付いているわ。その資料は自宅の方に送っておくから……』

「分かりました。明日は午後から適合者に接触します」

 亨夜と呼ばれていた少年はそう答えると携帯電話を切り、近くに停めてある青いバイク『ガタックエクステンダー』に乗る。

(……カブト……お前を始末すれば、オレはZECTの中で一つ上に上がれる。ZECTの正規のメンバーになれる)

 彼はその表情に冷酷な笑みを貼り付け、ハンドルを握る手に自然に力が篭る。彼の求める『情報』を手に入れる為に彼は、組織の中で上に向かう必要がある。

 戦いの神『ガタック』に選ばれし者『荒谷 亨夜』…職業:高校生兼ZECT隊員(アルバイト時給1000円…残業手当、深夜割り増し有り)

翌日…

「おーい、龍牙♪」

 

 龍牙は彼を呼ぶ声に気が付き、帰り支度を整えながら自分の名前を呼んだ相手を一瞥する。

「……お前か……亮也?」

 龍牙に声を掛けた少年の名前は『岡崎 亮也(おかざき りょうや)』と言う。龍牙の友人の一人であり、彼の『相棒』でもあるのだ。

「なんだか、眠そうだな?」

「……ああ。昨日は遅くなってな……よく寝てないんだ……」

亮也の言葉にそう簡潔に答えながら、龍牙は鞄の中から適当にノートを一冊取り出し、その中の一ページを破り、ノートを再び鞄に戻す。

「それより……次の……」

「……次のテスト問題の予想はこんな所だ。数学に関しては暗記が使えないから、頑張れとしか言えないけどな」

「サンキュー、やっぱり頼りになるぜ」

 一通り書き込んだメモを亮也に渡すと自分を拝んでいる彼に視線を向けながら、呆れたように溜息をつき、鞄を持って立ち上がる。

「気にするな、次のテストで赤点取られて、お前が補習を受けて戦力が削られるのは避けたいんだ」

「何だよ、その『オレは絶対に大丈夫だ』みたいな口調は」

「悪いけど、オレは普段から授業で内容はしっかり覚えてるんでな。態々慌てて勉強する必要が無いんだよ」

「露骨に『オレは頭がいいです。』とでも言いたいのか? お前は?」

「言わなくても、オレが成績いいのは知ってるだろう、亮也?」

 はっきりと言い切ってくれる龍牙に思わず黙ってしまう、亮也。それを盛大に無視しつつ、無言のまま手を振ってドアから出て行く。

「じゃあな。ふぁ……昨日は遅かったし、早く帰って寝ようかな」

 欠伸を上げながら、そんな事を呟きつつ龍牙は教室から出て行く。

 玄関を出て校門を潜り、高校の外へと出る。部活へと向かう者、学校の帰りに友人達と寄り道の相談をしながら帰る者、それは三者三様の放課後の風景である。

 龍牙の場合は非常事態に対して備えて休む為に帰路を急ぐと言う選択肢だろう。実際、彼は眠いのだ。

「ん?」

 ふと、視界の端に青いバイクに乗る龍牙の学校とは違う高校の制服を着た見覚えの無い少年の姿が視界に映る。彼の着ている物はこの近くの高校の制服ではなかったので、他の風景からは妙に浮いて感じられる。

 そんな相手が何の用だと考えながら、彼の横を通り過ぎ様とする。丁度、龍牙がその少年の隣を通り過ぎた瞬間、彼は口を開いた。

「……初めまして、『天道 龍牙』……で合っているよな?」

 突然、龍牙は自分の名前を呼ばれ思わず立ち止まる。

「お前、誰だ? どうしてオレの名前を……」

「自己紹介が遅れたな。オレは『荒谷 亨夜』……お前に話があるんだけど……時間を貰えるか?」

「悪いけど、オレは……」

 断りを入れようとした時、目の前を通り過ぎていった青いクワガタを象った機械を追っていく。

「……用件は『これ』に付いてだけどな。良いか?」

「良いだろう。話は何だ?」

 それを見て龍牙は表情を変える。亨夜の手の中に現れた青いカブトゼクターに似たクワガタを象った青い機械の昆虫…見るのは初めてだが知識としてのそれは知っている。それの名は『ガタックゼクター』。

 龍牙の了承を聞き、亨夜は周囲を見回す。

「……ここじゃ駄目だな……。流石に人が多い。あんまり、他人に聞かれたくないのはお前も一緒だろう?」

「ああ、そうだな」

「付いて来い。場所は用意してある」

 龍牙の了承の言葉を聞き、亨夜は彼に背中を向けて歩き出す。彼に案内されるまま龍牙は彼の後を付いて行く。

 亨夜に案内され歩く事数分…付いたのは公園だった。だが、平日の昼の公園にしては不自然な点が有る。人が誰もいないのだから…。

「……改めて自己紹介させてもらおう。オレは『ZECT』所属のマスクドライダーシステムの一つ『ガタック』の適合者……『荒谷 亨夜』……。よろしくな、天道龍牙」

「あんまり宜しくされたくないな。大体なんでオレの名前……いや、名前だけじゃないんだろう、知っているのは?」

「そういう事だ。まあ、それ以外のお前の個人情報は正直どうでもいい。オレ達にとって重要なのは、お前が行方不明の二つのゼクターの中の一つ、一号機『カブトゼクター』を所持していると言う事だ」

「前振りはいい。早く用件を言ったらどうだ?」

 目の前に立つ亨夜を睨みつけながらそう言いきる。自分の事を知っていて、ここまで完璧に人払いをしているのだ。相手の用件は簡単に想像することが出来る。

「……そうだな、ゼクターの適合者はどんな形にしろ、『ZECT』に所属して貰う必要がある。天道龍牙、ZECTに入れ。結構、アルバイトでも条件は良いぜ、どうせワームと戦ってるんだ。一人でボランティアで戦うより得だろ?」

 

 彼の想像通りの問い……それに対する自分の答えは既に出ている。

「……答えは『No』だ。大体、突然、正体不明の怪しげな組織に入れと言われて、はいそうですかって言って入るバカはいないだろう」

「そうか……交渉決裂だな」

 龍牙の返答を聞き亨夜は残念そうに言う。だが、龍牙は何処か演技の入った彼の言葉に白々しい物を感じていた。

「……残念とか言ってるわりには顔は全然残念そうじゃないな? それに最初から交渉なんてしてたのか?」

「ああ、ばれたか。元々交渉事は苦手でね。こっちの方が得意なんでな。」

 冷酷な笑みをその表情に貼り付け、後ろを向き二、三歩ほど龍牙との間に距離を置くと、右手を真上へと振り上げる。

「来い、ガタックゼクター!」

 

 龍牙の真横を高速で通り過ぎ、亨夜の上空を一回転すると、彼の振り上げたガタックゼクターは右手の中に納まる。

「変身!」

 

《HEN-SHIN》

 

 素早く手の中に納まった『ガタックゼクター』を亨夜はベルトへのバックル部分へと差し込む。

 

 ベルトに装着された瞬間、ガタックゼクターから電子音が聞こえ、彼の身体の周りに両肩の砲塔を持った蒼い重厚な鎧が現れる。『仮面ライダーガタック・マスクドフォーム』へと変身する。

「っ!? いきなりか?」

 右手を後ろに回し、正面に立つガタックマスクドフォームから目を放さず、一歩後ろに下がり相手との距離を開ける。

「上からの命令じゃ、こちらの申し出を断った場合はお前を抹殺しろとも出ている。最後通告だ、ZECTに入れ」

「交渉じゃなくて、今度は思いっきり力技の通告か? ……重ね重ね言うが、お前はどこの犯罪組織の回し者だ?」

「少なくても、オレのやり方がZECT全体のやり方じゃない事は確かだな。オレは交渉なんて面倒な事に時間をかける気は無いからな」

 

 そう言うと同時にガタックの両肩の大口径火器『ガタックバルカン』から嫌な音が聞こえる。そう、何かが装填される様なそんな音が。

 そして、龍牙へと向かい両肩のガタックバルカンより光弾が撃ち出される。

「っ!? 変身!」

 素早く相手に気付かれない様に呼び出したカブトゼクターを、ガタックがガタックバルカンから光弾が撃ち出されると同時にライダーベルトのバックル部分へと差し込む。

 

《HEN-SHIN》

 

 ガブトゼクターより電子音が響き龍牙の体を『仮面ライダーカブト・マスクドフォーム』の銀色の装甲が包むと同時にガタックの弾丸が着弾する。

 最初の着弾から始まり、絶え間なく連射されるガタックバルカンの弾丸……一人の人間に対して……いや、硬い外殻に守られているサナギ体のワームで有っても完全に殲滅できる程の破壊の嵐…完全なオーバーキルとなる攻撃。

 だが、

「が!」

 攻撃が止んだと同時にガタックの体が真横へと弾き飛ばされ、そのまま地面へと倒れる。

 ガタックを殴り飛ばしたのは、カブト、ガタックの両ライダーのマスクドフォームよりも細身の赤い装甲を纏った戦士。そして、顎のローテートを基点にカブトムシを思わせる『カブトホーン』が起立して頭部の定位置に収まり、電子音が響く。

 

《Change Beetle》

 

 それこそがマスクドフォームの装甲と言う殻に守られていたカブトの持つ、もう一つの姿にして、真の姿《仮面ライダーカブト・ライダーフォーム》である。

「危なかった。キャスト・オフがあと少し遅れていたら確実に死んでいたな」

「くっ、貴様!!!」

 叫び声と共にガタックは立ち上がると同時にカブトへと殴りかかる。だが、カブトはガタックのパンチを避け、懐に飛び込むとその無防備な顔面を殴りつける。

「ぐっ!」

 

 それにより、体制が崩れた所に追い討ちとばかりに胸の部分に肘打ち、そして、回し蹴りへと続ける。

「くそ!!!」

 完全に自身の主要武装であるガタックバルカンの射程外である近距離へと潜り込まれたガタックは再びカブトへと殴りかかるが、パワーと装甲で勝る分、スピードに劣るマスクドフォームの攻撃は完全にカブトに見切られ、避けられた所にカウンターを打ち込まれる。

「こいつ!」

 頭に血が上ってガタックの攻撃は次々と大振りとなる、だが、まだ冷静だった際の攻撃でも避けられていたのだ。故にそんな攻撃が当たるはずも無く、簡単にカブトには避けられている。

「いい加減に……」

ボクシングのアッパーの様な形で打ち上げられた一撃をバックステップでかわすと、カブトクナイガンをガンモード時のグリップ部分(アックスモード時の刃部分)から抜き、クナイモードにし、ガタックの胸を切りつける。

「……しろ!」

 そして、切り付けた後に頭を狙い、回し蹴りを叩きつける。

「がぁ!!!」

「……少しは冷静になったらどうだ?」

 再び地面に倒れるガタックを見下ろしながら、カブトはそう言い切る。スピードで劣るマスクドフォームでパワーと装甲に特化したライダーフォームで戦うのは、圧倒的に不利な事は理解できるだろう。

 そして、《マスクドフォーム》から《ライダーフォーム》への変身は当然ながら、ガタックも持っているはずだ。それを使わない所か、考えも付かないと言う様な今のガタックは完全に頭に血が上っているのだろう。冷静さの欠片も無い。

 元々カブトにはガタックを倒す気は無いのだ。最初から話し合いで済めばそれに越した事は無い。行き成り好戦的な態度を取られた以上、防衛策として叩きのめしはしたが、それ以上攻撃する気はない。

「……ガタック……亨夜だったか? オレにはこれ以上、お前と戦う気は無い。『ZECT』の上層部かお前の上司かは知らないが伝えておけ、『オレはオレで勝手にやるがお前達の敵になる気は無い』ってな」

 カブトの宣言を聞きながら、ガタックは立ち上がる。…………そう、ベルトのガタックゼクターのゼクターホーンに手をかけながら。

「……そうだな……。お蔭で冷静になれたぜ……カブトォ。オレは一刻も早く上に行かなきゃ行けないんだ……奴を……あいつを殺したワームを見つけ出して、この手で殺すまではな!? キャスト・オフ!!!」

 

《CHAST OFF》

 

 叫び声と共にガタックゼクターの角『ゼクターホーン』を両脇に畳み込み、全身の装甲が浮かび上がり青いスパークが駆け巡る。そして、ガタックの全身を包んでいたマスクドフォームの装甲が一斉に飛散する。

「危ない!!!」

 

 カブトは慌ててその場に伏せ、初速度、秒速2000mの速度で飛散したガタックのマスクドフォーム時の装甲を避ける。

 

 そして、そんなカブトを他所に最後に頭部左右に倒れていた『ガタックホーン』が起立し、側頭部の定位置に収まり、電子音が響き渡る。

 

《Change StagBeetle》

 

 立ち上がったカブトの目の前に立つ彼の持つ赤い装甲とは対照的な青い装甲を持ち、クワガタをイメージさせ、両肩にはマスクドフォーム時の火器とは違い二本の接近戦用の曲刀に似た武器を装備した細身の戦士。それこそが、《仮面ライダーガタック・ライダーフォーム》である。

 対峙し合うカブトムシとクワガタ…赤と青…そして、頭部の目の部分はカブトの青に対してガタックの赤とどこまでも対照的な二人の戦士。

 

 光を支配せし太陽の神《仮面ライダーカブト》……『天道 龍牙』

 戦いの神《仮面ライダーガタック》……『荒谷 亨夜』

赤き英雄と蒼き復讐者……カブトとガタック…二人のライダーの最初の激突が始まる。

つづく…

 

 

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