時は数日前へと遡る。
数日前に起こった珍しくも無いはずの一件の自動車事故…カーブを曲がりきれずにそのまま崖から転落。運転手は病院に運ばれた後に死亡と言う事故。
そう、本来ならそう処理されてしまう筈の事故だった…はずなのだ。
「バイク事故…確か、この近くで起きた程度の事は知ってますけど…それがなにか?」
渡された資料をテーブルの上に投げ出して亨夜は興味無さ気にそう答える。
「ええ…次にこの二枚の写真を見てもらえる?」
「?」
何故と思いながらも渡された二枚の写真を見比べる。偶然撮られたと思われる写真とその写真に写っている人物の写真と言う二枚。二枚の写真に写る人物には違いは見られない…一枚目の写真は写りがあまり良くは無いが、なんとか二枚の写真に写っている人物が同一人物であると言う事が明らかに見て取れる。
「…だから、これがどうかしたんですか?」
「…一枚目の写真は数日前の自動車事故の被害者で、もう一枚の写真は先日前に撮られた物よ。」
その言葉で亨夜は目の前の女性…ZECTの自分の直属の上司の言いたい事が大体理解できた。
「なるほど…この男はワームですか? それで、この写真の男を始末すれば良いんでしょう?」
「…そう簡単にいけばいいんだけどね…。実は…。」
女性は亨夜に対して事情を説明し始めた。二枚目の写真は何でも最初に見せられたバイク事故の現場近くで撮られた物であり、ワームで有る可能性が高い写真の人物が犯人である可能性があるそうだ。更に同様の事故現場で同一人物が何度も目撃されている。だが、
「…なるほど、このワームは何らかの目的を持って、擬態した相手の知り合いを殺して廻っている可能性が有ると言う訳ですか? 仲間を擬態させるでもなく。」
向こう(ワーム)の事情など知った事ではないが、相手の動きを捉えるための材料になるのなら、存分に思考の材料の中に入れて置こうと考え、情報に目を通していく。
(まったく…連中も分かり易く動いてくれれば、楽な物を…。)
相手にどんな目的があるにしろ、相手がワームで有る以上始末するのみと結論付け、亨夜は写真だけを持ってその場を立ち去っていく。
目的はただ一つ、ワームの始末。前回のカブトの勧誘又は始末と言う任務を果せなかった以上、そのミスを補う為に一体でも多くのワームを倒す事。
龍牙SIDE
龍牙の自宅…紅茶の入ったカップを一つは夕美の前へと、一つをそのまま口へと運ぶ。
「飲まないのか? 体が温まるぞ。」
「……いい、要らない……。それより、あれは……あの化け物達はなに!? 貴方は何者なの!?」
夕美の口から出たのは叫び声。それは、自分の巻き込まれた異常な現実の事が何も分からないとでも言う様な叫び声。
「………あれは…ワーム…。分かりやすく言えば…『擬態能力を持った正体不明の(宇宙?)生物』と言った所か?」
「…なにそれ…?」
龍牙は巻き込まれた彼女に対して、言葉を選びながら『ワーム』について説明するが、当の夕美からはそう言葉を返される。当然と言えば、当然なのだが。
「言葉通りとしか言えないな。そして、オレのあれは……『マスクドライダーシステム』…ワームに対抗する為に作られたシステム…。『仮面ライダー』に変身する為の特殊戦闘システムの総称だ。オレが変身した姿の名は『カブト』。オレはそれの資格者。こんな所か? 他に聞きたい事は…?」
「無い。」
一言で簡潔に答えられてしまうとそれ以上は言い返し様もない。本来なら、ワームの事など知らなくてもいい事なのだ。必要以上に多くの事を教える事も無いだろうと考え、言葉を止める。
「「…………………。」」
(…なんか、気まずい…。)
二人の間に長い沈黙が流れる。実際、それほど長い時間は立って居ないが丸で時の流れがクロックアップしたかの様に遅く感じてしまう。
「…ねえ…。」
「どうした?」
「…よく分からないけど、なんでワームとか言う化け物は私に似てたの…あれが貴方の言ってた擬態能力って奴なの? あれは私を殺そうとしてたの? それに…あいつは…なんで…私の…。」
元々それほど明るい響きの無かった夕美の口調がより暗く、沈んだ物へと変わっていっているのが感じ取れる。
「…その通りだ。ワームは人間に擬態して人間社会に入り込み、密かに繁殖を続けている。擬態した人間を殺して入れ代わっている様だ。…擬態した人間は近しい人間にも簡単には分からないほど高度に化ける事が出来る。何故だと思う?」
「分からない。」
「一つは外見からは想像も出来ないほどの高度な知性。そして、もう一つ…それが最後の質問の答えになる。擬態した人間の持っていた『記憶さえも』完全にコピーする事が出来る。だから、ワームに入れ代わられると言う事は『自分』と言う『存在』を奪われる事を意味しているんだ。擬態した人間を殺すのは入れ代わったと言う事を悟られない為と言う事が考えられる。」
「…そう…別に…私の存在なんて…取られても良かった…死にたかったのに…。どうして、邪魔したのよ!?」
感情に任せた叫び声と共に振り下ろされた拳を一瞥もせずに手首を掴んで受け止める。
「…死にたかったね…。何が有ったかは知らないけど…自殺趣味でも有るのか? 手首の傷はその痕か? 死にたいなら、手首じゃなくて首にしろ、確実に死ねる。それから、なるべくカップは倒さないでくれ、洗濯するのは大変なんだ。」
「うるさい…うるさい! 貴方に私の何が「お前の事は何もわからないが…生きたいのに、死んでいった奴等の気持ちだったら良く分かるぞ。」…どう言う意味?」
夕美の疑問に対して龍牙は軽く息を吸い込んで呼吸を整えると、口を開く。
「渋谷隕石…オレはそれの生き残りだ。」
『1999年10月19日』…東京の渋谷区に落下した隕石を指す言葉。新しく教科書に記される事となった近代の事件とも言える物だろう。だが、多くの者は知らない事だが、それと同時に渋谷隕石はワームをその内に内包していたのだ。
隕石の直撃と言う災害と、その後のワームの発生と言う第二時の災害を起こした現在進行形で起こっている、今世紀最大の大災害である。
「…ごめん…。」
「気にしなくて良い。」
亨夜SIDE
ヘルメットとクワガタをイメージさせるマークの入ったライダースーツを着て、亨夜はクワガタをイメージさせる蒼いバイク『ガタックエクステンダー』を走らせる。
「…資料によれば事故の現場はこの近くのはずだ…。」
バイクを停め、亨夜は周囲の様子を油断無く探る。ここ最近の事故の影響か、暗い夜の道路を走る車やバイクの数は驚くほど少ない。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』
そして、場所を変えて他の所を見回って見ようとした時、ブレーキ音と何かがぶつかる様な衝撃音、そして、男の悲鳴が聞こえてきた。
「出たか?」
声の聞こえた場所へとガタックエクステンダーを走らせる。
「…い・・生きてたのか? 待て、待てよ…すまねえ、あれは…オレはやりたくてやった訳じゃ…。」
「…死ね…。」
倒れて許しを請う男と対峙している男の身体が滑り落ちる様に溶け出していき、鈴虫に似たワーム『ベルクリケタスワーム』へと姿を変える。そして、その手を振り上げ、無慈悲にもそれを振り下ろす。
「見つけたぞ、ワーム!」
殺さない程度に男を痛めつけていたベルクリケタスワームが男にトドメを刺そうとした瞬間、丁度その場へと着いた亨夜がそう叫び右手を振り上げ、
「来い、ガタックゼクター!」
ガタックゼクターを呼び出す。右手に収まったそれを振り上げ、ベルトのバックル部分へと近付けていく。
「変身」
《HEN-SHIN》
亨夜の身体を蒼い装甲が包んでいき、《仮面ライダーガタック マスクドフォーム》へとその姿を変える。
「邪魔すんじゃねぇ!」
襲いかかってくるベルクリケタスワームに対してガタックは更にガタックエクステンダーを加速させ、そのまま跳ね飛ばす。
「く、くそ!」
「待て、逃がすか!!!」
二流の悪役の捨て台詞とでも言う様な台詞を残してクロックアップを利用して逃げ出していくベルクリケタスワームを追い掛ける為に《キャストオフ》しようとした時、別のワーム、ホタルをイメージさせるランビリスワームが亨夜の前に姿をあらわす。
(チッ、余計な邪魔が入ったか。まあいい…せめてお前だけでも始末させてもらう。)
心の中で舌打ちしつつ、そう考えベルトのガタックゼクターのゼクターホーンへと指をかける。
「キャスト・オフ!」
《CHAST OFF》
素早く、ガタックゼクターのホーンにふれ、全身の装甲を分離させ、《仮面ライダーガタック ライダーフォーム》へと変身する。
《Change StagBeetle》
ガタックがライダーフォームへと変身し、両肩のガタックダブルカリバーを手に取った瞬間、ランビリスワームの全身が発光し始める。
「なんだ?」
その眩しさに思わず目を覆ってしまう。そして、再び目を開けた瞬間、
「うそだろう…?」
ガタックの周囲を取り囲んでいたのはランビリスワームの大群だった。しかも、個々の固体に外見上の変化は全く存在しておらず、全く同じ固体が複数存在していたのだ。
「チッ!」
舌打ちして一斉に襲いかかってくるランビリスワーム達を迎え撃つべくガタックダブルカリバーを振るう。
先ずは正面に居るランビリスワームの身体に『×』を描く様に切り裂き、横から襲いかかってくるランビリスワームの身体を蹴り、後ろに下がらせ後方のランビリスワームへと肘打ちを打ち込む。
(手応えは有る…幻って訳じゃないな。でも、どう言う事だ…? 奴ら、なんでクロックアップしてこない?)
両腕に有る確かに手応えが周囲にいる大群のランビリスワームが確かに実態を持っていると認識させる。だが、それ以上に…何故、奴等はクロックアップをしてこないのか? そんな疑問が浮かんでくる。
(…考えるだけ無駄か。纏めて一掃する。)
ランビリスワームの攻撃を避けながら、ガタックはゼクターのボタンを連続で押していく。
《1》《2》《3》
そして、反対側に倒れていたゼクターホーンを元の位置へと戻し、再び倒す。
「ライダーキック。」
《Rider Kick》
電子音が響くと同時に頭部のガタックホーンから、右足へとエネルギーが流れて行く。
「破ァ!!!」
正面にいるランビリスワームへと飛び蹴りを叩き込み、その反動を利用して無理矢理軌道を変えて、回し蹴りへと変える。
ガタックのライダーキックが周囲を取り囲んでいるランビリスワームを薙ぎ払った瞬間、ランビリスワームの姿が揺らぎ、サナギ体のワーム『サリス』へとその姿を変えて爆散していく。
「…幻術か…。つまり、オレは態々、サナギ如きに無駄な時間を取らされた訳か? 糞!!!」
怒りに任せて壁に拳を叩きつけた瞬間、襲われた男にまだ息が有る事に気がついた。
「……まだ息が有るか…。」
実際、ワームの行動パターンは解っていない。擬態した相手の知り合いを襲っている様だが、手かがりと言えばその程度なのだ。そして、目の前には…先ほどまで襲われた男がまだ生きている。彼に聞けば有力な情報が手に入るのではないかと考える。
「…今は情報を仕入れた方が良さそうだな。」
ガタックは男に近づいていくと、そのまま変身を解き、ポケットの中から携帯電話を取り出して電話を掛ける。
「…田所さん、亨夜です。ワームには逃げられましたけど、襲われていた男にはまだ息が有ります。あのワームについて、貴重な情報を手に入れる好機(チャンス)を逃す手は無いので、処置をお願いします。」
龍牙SIDE
「…ありがとう…助けてくれて…。」
微かに微笑を浮かべながら夕美はそう呟いた。
「…気にするな、オレがしたくてした事だ。」
「…でも、ありがとう。私に優しくしてくれる人なんて…居なかったから…。私のお父さんとお母さんも渋谷隕石に死んじゃったから…。それから、親戚に引き取られて…そこでも、冷たくされてて…学校でも虐められてたの…。」
「ッ!? ………。」
表情にこそ浮かべていなかったが、龍牙は思わず驚いてしまった。彼女も自分と同じく、渋谷隕石によって両親を失っている事に…。だが、考えて見れば当然だろう…あの災害では多くの人々が命を落としているのだ。
龍牙は搾り出すような夕美の言葉を黙って聞いていく。
「…実は…自殺しようとしたのはこれが最初じゃないんだ…。何度も、手首を切った事も有るけど、何時も手当てが間に合って死ねなかった。…助けてくれた叔父さん達なんて言ってたか分かる? 『世間体が悪くなるから、勝手に死ぬな』だって、『世間体を気にしてお前を引き取ったけど、引き取るんじゃなかった』だって…。」
「…勝手な話しだな…。」
「うん。今は高校に入学して離れて暮らしてるけど…。今度は学校でも虐められてて………誰かに優しくされたのって、これが始めてなんだ。だから…ありがとう。」
「…兄さんが言っていた『優しさに理由は要らない。誰かを助けるのに理由は要らない。』ってな。」
「…うん…。ねぇ…龍牙のお兄さんってどんな人…?」
夕美の言葉に視線を天井へと向ける。
「…兄さんはオレの本当の兄さんじゃない。渋谷隕石の一件で両親が居なくなったオレを引き取ってくれた人だ。一言で言えば…兄さんは立派な人さ…尊敬している…誰よりも…。…それで…もう遅いし、家まで送っていくけど…?」
「ありがとう、龍牙。」
そう言って彼女が立ちあがった時、彼女のポケットから一枚のカード状の何かが落ちた事に気がついた。
「…病院の…?」
「うん。…定期的にカウンセラーの先生に見てもらう事が…叔父さん達から『勝手に死なないように』って出された一人暮しの条件だから…。それで、明日行く事になってるの。」
儚げな笑顔を浮かべながら答える夕美に龍牙は少しだけ安心する。以前の自分がそうだったように…かつての兄のように傷ついた人を支えたいと思う。
「…そうか。またワームに襲われない様に明日も送っていこうか?」
「…ありがとう…龍牙。」
「それで…場所は…。」
亨夜SIDE
自宅、夕食後、亨夜は自室の机の上に広げた資料に目を通していく。
「…事故死…? いや、死亡が確認されたのは、病院か…? ワームがあの男に擬態した経緯から…行動が解ればいいと思ったけど、ちょっと難しそうだな。やっぱり、有力な情報は助けた被害者か…。」
そう結論付け、亨夜は読み終わった資料を封筒へと戻し鞄へと仕舞う。その中で一枚の資料に目が止まる。
「…あの男が運び込まれた病院…たしか…。」
「「平坂総合病院か…。」」
奇しくも全く違う場所で同じ時、示し合わせたのでもないのに龍牙と亨夜…二人の戦士の声が重なったのだ。
結びつく点と線…二人の戦士の宿命の糸は更なる関係者を巻き込みながらここに交わろうとしている。