仮面ライダーカブト ~赤の英雄、蒼の復讐者~   作:龍牙

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第四話

龍牙SIDE

 

 

「…………。亮也、何の用だ?」

 

 

放課後の時間帯、龍牙は自分へと妙な視線を向けてきている亮也へと視線を向けそう言い切る。

 

 

「いや、お前…昨日、女の子と一緒にいたよな~…って、思ってな。」

 

 

「…どう言う…って、見てたのか!?」

 

 

『どう言う意味だ?』と聞き返しそうになった時、亮也の言葉に思い浮かぶ物が有って、逆にそう言って(素直に答えて)しまう龍牙で有った。

 

 

「ああ、思いっきり。」

 

 

さて、昨日夕美に会った時の事と、今の亮也の言葉を重ねて考え居るとある結論へと到達する。

 

 

「…おい、亮也…。お前、近くに居たなら手伝え。」

 

 

学校と言う場所も有り、周囲を気にしながら、最後に小声で『お前も一応、ゼクターの資格者なんだからな』と付け加えておく。

 

 

「なんだ…ワームでも出たのか?」

 

 

「…お前、昨日の事、何処から見てて何処から見てないんだ?」

 

 

「いや、オレは夕方頃お前が女の子と一緒に歩いているのを見ただけだ。って、その様子だと…本当に出た訳だな。」

 

 

「ああ。」

 

 

亮也の言葉へと即答する。実際、夕美を助けた時から見ていたのかと予想したのだが、結局は帰りに彼女を送っていった時の所からしか見ていなかった様だ。

 

 

「…悪かったな、手を貸せなくて。」

 

 

「気にするな。そんな事より、昨日はワームより厄介な奴に会った。」

 

 

「ワームより?」

 

 

「ZECT所属のライダー…『ガタック』とだ。オレに『ZECTに入れ』だそうだ。」

 

 

「…ZECTのライダーか…? 確かに、下手すればワームより厄介だな。それに『ガタック』って、お前の兄さんが言ってた…『ゼクター五号機』の事だよな?」

 

 

「ああ。それに連中はまだお前の事には気付いていない様だ。悪いが、暫くの間、お前は目立たない様になるべく変身しないで貰えるか?」

 

 

龍牙の言葉に亮也は何処か面白そうな笑みを浮かべる。

 

 

「へー…って事はお前は大きく動くつもりなのか?」

 

 

「ああ。先日の彼女を襲ったワーム…奴の狙いが偶然なのか、意図的なのか…少し、調べて見ようと思ってな。」

 

 

偶然でないのなら、別のワームにも狙われる危険性が有る上に、彼女の周辺の人間がワームと入れ代わっている可能性もある。彼女の安全の為にその辺の調査は確りとしておくべきと言う考えへと至った。

 

 

「おいおい、いいのか?」

 

 

「今更そんな事、気にしてもしょうがないだろう、こっちはもう連中に目を付けられてるんだ。」

 

 

そう、自分達にして見れば現状で正体を知られていない亮也の存在は、『ZECT』に対して有効な手札で有り、使い所を間違わなければ、効果的なカードとなる。

 

 

故に相手に気取られない為に、亮也の存在は暫くの間はZECTに対して隠し続ける必要が有る。自分を含めて、此方には相棒である亮也以外には手札はないのだから、使い所を間違える訳には行かない。

 

 

それに対して既に存在を知られている自分は自由に動く事が出きる。だから、今回の一件は自分だけで行動すべきと考えての結果だ。

 

 

「まあ、オレの手が必要な時は何時でも言ってくれよ、龍牙。」

 

 

「ああ、その時は遠慮しない。」

 

 

そう告げて龍牙は鞄を持って教室を後にしようとする。

 

 

「それで、今日はどうするんだ?」

 

 

「ああ、夕美と約束してな…。」

 

 

龍牙のその言葉を聞くと亮也は楽しそうな笑みを浮かべる。………それはもう、心の底から楽しそうに。

 

 

「へー…約束ねぇ。しかも、もう名前で呼ぶなんて…。」

 

 

「っ!? ちょっと待て、亮也!!! それはどう言う意味だ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亨夜SIDE

 

 

「なるほど…つまり、あのワームの目的は擬態した相手の復讐…。つーか、擬態主の生前の恨みに支配されたって訳ですか? 決まりました、今回確保した被害者囮にして、あのワームがまた出て来た所でさっさと始末しましょう。」

 

 

報告書を読みながらあっさりとそう結論付ける。実際、今回の被害者達相手では同情所か、助け様と言う意欲さえも浮かんでこない。

 

 

「ちょ、ちょっと、亨夜くん。」

 

 

「…喧嘩で袋叩きにして死んだと思って河に捨てて…。何処で擬態されたかは知らないですけど、そんな連中が殺された所で心は痛みません。寧ろ、始めてワームに味方したい気分になりました。喧嘩になった経緯なんて知りたくないですし。」

 

 

基本的に過去の影響からか、『ZECT』の中でもワームに対する敵愾心(てきがいしん)が強い亨夜では有るが、それ以上に亨夜に有るのは『復讐心』の三文字のみ。ただ…今回はワームの行動原理も恨みなのだ。

 

 

(…強い恨み…それも直接の死因になったんだからな…。…だけど、それなら余計に分からない事が有る。)

 

 

そう、亨夜の中に生まれた疑問…それは今回のワームが男に擬態した場所である。今回確保した被害者からワームが擬態した人間の事が分かり、その男の事がある程度分かったのだが…問題はそこなのだ。

 

 

(…今分かっている最後の足取りは病院か…。退院してからの足取りは不明…。バカらしい…敵の狙いが分かったんだ、奴らが何処で擬態したかなんて考える意味はない。)「確か、今回狙われている人間には最後の一人がいましたね?」

 

 

「ええ、でも、それはまだ調査中で…。」

 

 

「解りました。では、結果が出たら連絡を下さい。」

 

 

亨夜がそう言って帰ろうとした時、部屋のドアを開けて黒いスーツの男性が入ってくる。

 

 

「二人共、今、警察から連絡が有って最後の一人の居場所がわかった。」

 

 

「田所さん、本当ですか?」

 

 

「ああ。だが、警察が保護に向かった時には、部屋には誰も居なかったようだ。」

 

 

「………。まさか、もうワームに…?」

 

 

田所の言葉に少しだけ考え込むと考えられる可能性をあげて見る。

 

 

「いや、部屋から荷物が持ち出されていた事や形跡から考えて、自分の意思で出て行った様だ。荒谷、悪いが至急現場に向かって貰えるか?」

 

 

「解りました。…ただ、遅くなりそうなので、自宅の方に連絡したいので、少々時間を頂けますか?」

 

 

「ああ。その間に此方もマシンの方を用意しておく。」

 

 

「解りました。」

 

 

亨夜は田所の言葉に返事を返して、ポケットの中から携帯電話を取り出し、ヘルメットを持って部屋から出ていく。彼の背中をガタックゼクターが追いかけて飛んでいく。

 

 

(…あのワーム…今度こそ、逃がすか…。)

 

 

表面的には冷静だが、内心怒りで気が狂いそうなほど亨夜は苛立っていた。

 

 

それもそのはずだ。現在追っている一体目のワームには逃げられ、後から現れたニ体目のワームには幻覚を見せられて逃してしまったのだ。結局、倒したのは必殺技を使っていながらサナギ体のワーム数匹と言ったレベル。今までの彼の成果から考えれば少ないとしか言いようがないだろう。

 

 

(…今回の奴らも違う…『奴』じゃない。)

 

 

自分の母と妹を殺し妹の姿に擬態したワームの姿は幼い日の記憶とは言え確りと記憶に残っている。先日見た二匹のワーム達はそのどちらも自分の記憶の中に有るワームとは一致しない。だが、

 

 

(…だけどな…お前達にはオレの『糧』になってもらう…。)

 

 

全ては家族を殺したワームをこの手で倒す為…その為の『過程』なのだと思えば思うほど、その苛立ちは大きくなってしまう。自分にはこんな所で脚踏みをしている暇など無いのだから。

 

 

通路の壁に背中を預け、携帯電話の番号を押していく。

 

 

「…もしもし、ああ、美由紀。今日はバイトで少し遅くなりそうだから…夕飯? 悪いけど、爺ちゃんと先に食べててくれ、多分、間に合いそうもないから。」

 

 

亨夜は自身の心を覆っていた仮面を外して言葉を繋いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

ガタックエクステンダーを走らせながら、亨夜は頭の中に出る前に見せられていた地図を思い浮かべる。一人はZECTに保護された今、ワームの最後のターゲットとなっているであろう男の自宅の位置。既に男が逃げ出している以上そこに行っても意味はないだろうが…。

 

 

(やれやれ、条件はワームと同じだろうけどな、お互いに居場所も解らない人間を探すなんて…どう考えても向こうが有利だろう。せめて、スタート地点にはたどり着かないとな。)

 

 

要は砂場に落した一本の針を探すような物。それでも手掛かりがないとは言え、今は探すしかない。実際、その男が犠牲になってしまったら、次は自分達が保護した男を囮にするしかないのだ。…亨夜としては別にそれでもいいと考えているのだが。

 

 

「…向こうが事を起してくれれば楽なんだろうけどな。」

 

 

そんな物騒な事を考えながら、そう呟き亨夜は僅かにガタックエクステンダーのスピードを上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、危ない奴だな。」

 

 

猛スピードで走るバイクを見送りながら、カブトエクステンダーの上で龍牙は呆れた様にそう呟く。今は夕美を病院から自宅まで送った帰り道なので今は彼一人なのだ。

 

 

「っ!? ワーム?」

 

 

次に彼の視界の中に飛び込んできたのはバイクに乗って疾走しているベルクリケタスワームの姿だった。

 

 

「…やれやれ…目の前にワームが居るのに見逃す手はないな。」

 

 

カブトエクステンダーを反転させ、龍牙は空へと向かって手を伸ばす。

 

 

「来い、カブトゼクター!」

 

 

虚空より飛来してきたカブトゼクターを受け止め、それを素早くベルトのバックル部分へと指し込む。

 

 

「変身!!!」

《HEN-SHIN》

 

 

龍牙の力を与える言霊ともにカブトゼクターの電子音が響き、龍牙の全身を銀色の装甲が包み込み、彼の姿を《仮面ライダーカブト マスクドフォーム》へと変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『亨夜くん、ワームの姿が確認されたわ。ワームの目的の男性も逃走中だけど…。』

 

 

「っ!? やっぱり、先を越されたか。それで…場所は?」

 

 

停車させたガタックエクステンダーの上でワーム発見の連絡を聞き、亨夜はそんな感想を洩らす。だが、それはまだ想定内での事、ワームに先を越されると言うのは有る意味、当然の結果なのだ。

 

 

「それで…ワームの位置は?」

 

 

『E地区を南に移動中よ。』

 

 

「解りました。オレの位置なら頭を押さえられるはずです。」

 

 

そう答えると電話を切り、右手を虚空へと伸ばす。

 

 

「行くぞ、ガタックゼクター!!!」

 

 

虚空から現れるガタックゼクターを掴み取り、彼はベルトへとガタックゼクターを指し込む。

 

 

「変身!!!」

《HEN-SHIN》

 

 

亨夜の体を青い装甲が包み込み、彼の姿を青い重厚な装甲が包む《仮面ライダーガタック マスクドフォーム》へと変える。

 

 

「やっと見つけたぞ…ワーム。」

 

 

ガタックのマスクの向こう側で邪悪な笑みを浮かべながら、亨夜はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁあ!!!」

 

 

男の乗っていたバイクが倒れ、男がバイクから振り落とされ、壁へ激突したバイクからはガソリンが洩れる。

 

 

「ひぃ、ひぃ…ま、待ってくれ。」

 

 

自分に近づいてくるベルクリケタスワームに対して命乞いをする様に怯えてた様子を見せるが、ベルクリケタスワームはそれに構わず、近づいていく。

 

 

「ま、待ってくれオレはやりたくてやった訳じゃ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

命乞いの言葉を繋げていく間に事故を起したバイクから飛び散る火花が洩れていたガソリンへと引火し、男が炎に包まれる。

 

 

「あと一人…。」

 

 

そう呟き、ベルクリケタスワームが立ち去ろうとした時、バイクのエンジン音と共に猛スピードで迫ってきたガタックエクステンダーがベルクリケタスワームを跳ね飛ばす。

 

 

「ぐ…お前…また邪魔を…。」

 

 

「今度は逃がさねえよ、害虫(ワーム)。」

 

 

ガタックエクステンダーを止めそう宣言し、ガタックエクステンダーから降りる。

 

 

ガタックがマスクドフォームからライダーフォームへとキャスト・オフしようとして、ゼクターに触れた時、何処に隠れていたのか、新たにベルクリタスワームを助ける様にランビリスワームと数匹のサナギ体のワームがその姿を表す。

 

 

「またか。」

 

 

「おい、お前…亨夜だったか?」

 

 

背中へと掛けられた声に気がつき、後を振りかえると後にはゆっくりと近づいてくるカブトの姿が有った。

 

 

「カブト。」

 

 

「随分と大変そうだな、手助けはいるか?」

 

 

「チッ! 確かに確実に奴らを倒したい…手を貸せ。」

 

 

「…任せろ。」

 

 

優先すべきはワームの撃退と結論付け、共闘を決めたカブトとガタック…二人の仮面ライダー達がゼクターのホーンに触れ、逆の方へと移動させる。

 

 

「「キャスト・オフ。」」

 

 

 

 

()()()()() ()()()()

 

 

 

 

その瞬間、全身を包んでいた装甲が浮き上がり、全身を覆っていた装甲が弾け飛ぶ。

 

 

赤と青を主体としたボディ…頭部の仮面には瞳の様に青と赤の染められたカメラ部分を持った二人の仮面ライダーの昆虫を思わせる『カブトホーン』と『ガタックホーン』が定位置へと移動する。

 

 

 

 

《Change Beetle》

《Change StagBeetle》

 

 

 

 

同時に電子音が響き渡り、重厚なマスクドフォームからライダーフォームへと姿を変えた二人の仮面ライダーがその姿をあらわした。

 

 

それと同時にニ体の成体となったワーム達が力を溜めるような動作をし、それを確認した二人のライダー達も腰のベルトへと手を伸ばす。

 

 

「手前の方を頼む。奥のはオレが始末する。」

 

 

「解った。」

 

 

 

 

()()()()()() ()()()

 

 

 

 

電子音が響き渡り、ニ体の成体のワームと二人のライダーが加速状態に入った瞬間、サナギワーム達は通常の体感時間では一瞬で…爆散していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランビリスワームの攻撃を捌きながら、カブトは逆にカウンターを一つ一つ正確に叩き込んでいく。

 

 

「………。」

 

 

カブトの一撃によって吹き飛ばされ、倒れたランビリスワームが立ち上がった瞬間、ランビリスワームの全身が発光する。

 

 

「なんだ?」

 

 

その光を直視したカブトは思わず目を覆ってしまう。そして、目を開いていくとまったく同一の姿形・体色をした無数のランビリスワームが存在していた。

 

 

(…同一固体…? いや、違う…これは…。)「幻覚か? 厄介な能力だな。」

 

 

周囲を囲むランビリスワームを一瞥し、カブトはそう呟き、ランビリスワーム達を迎え撃つべくランビリスワームの群の中へと飛び込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「破ァァァァァァァァ!!!」

 

 

ガタックのラッシュがベルクリタスワームの体へと叩き込まれていく。

 

 

「がぁ。」

 

 

「せい!!!」

 

 

素早く肩から片方のガタックダブルカリバーを抜き放ち、ベルクリタスワームへと斬撃を浴びせる。

 

 

「な、なんでお前は邪魔するんだよ?」

 

 

「…………。」

 

 

ヨロヨロとした足取りで立ちあがりながら、ベルクリタスワームはガタックへと向かって喋り出す。

 

 

「あいつ等は、オレとあいつを殺したのに、何で奴らばかり…。」

 

 

(ああ…こいつは…。)「黙れよ、化け物。」

 

 

その言葉で『復讐者』は全てを理解する。目の前のワームもまた自分と同じ理由でこんな事を続けていたのだと。だが、ベルクリタスワームの言葉を切り捨てるように宣言された言葉が突き付けられる。

 

 

「借り物の記憶で咆えるなよ。仇だろうが復讐だろうが、それは全部お前には何の関係もない事だ。お前にそんな『復讐』の権利は無いんだよ、『化け物』。」

 

 

残すガタックは残されたガタックダブルカリバーを抜き、ベルクリタスワームとの距離を詰める。

 

 

「…うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

 

「どうしても復讐したいなら、オレを倒してでもするんだな、化け物が!!!」

 

 

両腕を弾くように振り上げられたガタックダブルカリバーがベルクリタスワームのガードを弾き、無防備な体へと斬撃が次々に叩き込まれていく。

 

 

「返してもらうぜ…お前が奪った…『記憶』を。」

 

 

そう呟き、ガタックは『プラスカリバー』『マイナスカリバー』の二本を交差させ、鋏のような状態へと変える。

 

 

 

 

《Rider Cutting》

 

 

 

 

電子音が響き渡ったと同時にベルクリタスワームの体を挟み上げ、ベルクリタスワームの体を上空へと持ち上げる。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

ベルクリタスワームの絶叫と共にベルクリタスワームの体は爆散する。

 

 

 

 

《Clock Over》

 

 

 

 

クロックアップの終了を告げる電子音が響き渡り、周囲の時が動き出していく。

 

 

「…醜いな…。これが復讐者の末路の一つか。」

 

 

自嘲する様にガタックはそう呟く。

 

 

「………これも…オレを待っている未来か。…………どうでもいい、オレにはそれ(復讐)以外の未来なんて…必要無いんだからな。」

 

 

憎悪をこめた瞳で今までベルクリタスワームが存在していた場所を一瞥するとそれ以上は何も無いとばかりにそこから立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

ランビリスワームの幻影を逆手に持ったクナイガンで切り裂いていく。ガタックへやったようにサナギのワームに自分の幻影を与えると言う戦法はクロックアップした状態では出来ないようであり、幻影もたった一撃で消え去る程度の物であったのだが…。

 

 

「…逃げられたか…。」

 

 

全てのランビリスワームの幻影を切り裂いた瞬間、既にその場に残っていたのはカブトだけであった。倒した手応えは無い…故に逃げられたと考える。

 

 

「やれやれ…あの程度の幻影で逃げられるなんて…オレも未熟だな。ん?」

 

 

周囲に視線を向けてみると、空中に浮いている一枚の紙に気がついた。その瞬間、

 

 

 

 

《Clock Over》

 

 

 

 

クロックアップの終了を告げる電子音が響くと同時に停止していた時が動き出し、浮いていた紙は地面へと落ちる。

 

 

「…あのワームの落し物か?」

 

 

そう言って落ちていた紙を拾い上げる。

 

 

「…診察券だって? それも…『平坂総合病院』の…。」

 

 

何故、こんな所にそんな物が落ちているのかと言う疑問が沸いてくる。そもそも、つい先日ワームに狙われた夕美もこの病院にカウンセリングを受けに行っていた。妙にここ最近のワームの動きにこの病院の名前が出てくるのか疑問に思ってしまう。

 

 

(…まだ二度目だ…単なる偶然という可能性も有る。)

 

 

「おい、龍牙。」

 

 

思考の中に意識を向けているカブトへガタックの声が届く。

 

 

「もう一匹のワームはどうした?」

 

 

「残念ながら逃げられた。奴の幻術は厄介だ、お前も気を付けるといい。」

 

 

「…そんな事はわかっている。」

 

 

「…お前も逃げられたのか…。」

 

 

「っ!? うるさい!!!」

 

 

図星を刺されて感情を露にするガタックへと先ほど手に入れた診察券を投げ渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「ワームの落し物の可能性が高い。お前にも教えておこうと思ってな。」

 

 

受け止めた診察券へと視線を向けるガタックに対して背中を向けて手を振りながらカブトはその場を立ち去ろうとする。だが、

 

 

「…またこの病院の名前が…。」

 

 

ガタックの呟きが聞こえてくると一瞬だけ動きを止める。ガタックの言葉から推測すると、彼もまたあの病院の名前に心当たりが有るようだと推測できる。

 

 

(…これで三度目。どうやら、偶然じゃないみたいだな。…やっぱり、あの病院の事を、少し調べて見る必要もありそうだな。)

 

 

心の中でそう呟きながら、カブトはその場を立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び出会った英雄と復讐者、肩を並べ戦うその様、赤き太陽と蒼月の如きその姿、この時の共闘は彼らの未来に何を与えるのか?

 

 

 

 

 

 

つづく…

 

 


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