【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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秘密の部屋編、開始します。


ハリー・ポッターとスリザリンの継承者
二年目の顔合わせ


――1992年7月。ロンドン、カサンドラ探偵事務所

 

 カサンドラは自宅として兼用している事務所で、去年度の資料を作っていた。ホグワーツでの仕事ぶりを書き留めたり、生徒たちに使われた呪文だったり、クソッタレ魔法使い、ヴォルデモートが使っていた呪文だったりをまとめたり、ここ100年で起きた不可解な事件を調べ、魔法使いの関与がないかを調べていた。カサンドラは半分仕事中のつもりなのでスーツ姿だが、もう半分くらいは休暇中のつもりでもある。事務室のコンポからはお気に入りのベストアルバム、去年発売のCD、マイケル・ジャクソンの『デンジャラス』が流れている。

 

「黒か白かなんて関係ない、か」

 

 カサンドラはため息をつく。彼女は人々が黒か白かを気にする前から生きてきて、どういう理屈で明確に分けるようになったのかまで覚えている。

 

「――純血主義か」

 

 もう黒か白かなんてのは時代遅れで、このままマイケル・ジャクソンをはじめとするアーティスト達が啓蒙を続けていけば、20年もすれば人々から人種なんて意識は薄れていくだろう。だが、魔法界は未だに生まれで明確に差別をしている。

 そもそも――魔法使いがマグルに比べて優秀であるという意識から改革しないとどうにもならないのでは? なんて取り止めのないことを考えていると、事務所の扉が開いた。客か。

 

「いらっしゃい。傭兵か? 探偵か?」

「どちらでもありません」

 

 そのしわがれた声に顔を上げると、緑色のローブを着た老婆が立っていた。しわくちゃの顔を澄まして、ひっつめにした髪は厳格を絵に描いたような女性である。老いてなお、気品と上品な美しさは変わらず彼女の中に存在する。

 

「おお、マクゴナガルか。まさかいつもその格好なのか?」

「あなたこそ。随分とマグルらしい格好ではないですか」

「マグルだからな。だがまぁ。

 

 ――脱いでしまえば魔法使いもマグルもない。この事務所は私の自宅も兼ねててな。休暇中で暇だろう? 少し休憩していくか?」

 

 マクゴナガルはポカンとカサンドラを見た。それから、理解できないものを見る目でカサンドラを見た。もっといえば化け物を見る目でだ。

 

「あ、あなたがもし私の寮生ならば200点を減点することも辞さなかったでしょう。この年になって誘惑されるとは思いもしませんでした。趣味の悪いからかい方はやめなさい」

「からかう? 私が冗談で誘ったと思っているのか?」

 

 カサンドラが身を乗り出すと、マクゴナガルは胸の前で手を交差させて拒絶の意を示した。こんな少女じみた仕草、何十年ぶりにしたことだろう。

 

「思っていないから怒っているのです! どういう嗜好をしているのですか。――まさか生徒に声をかけてはいないでしょうね」

「そこは弁えてる。だが契約に恋愛を禁止するとは書いていなかったな。もちろん、生徒に対する恋愛もだ」

「今度ダンブルドアに言って変えさせます」

「おいおい。冗談だろ?」

 

 カサンドラはほほ笑むが、マクゴナガルは厳しい表情を変えなかった。お手上げだとばかりに肩をすくめると、改めて事務室の椅子に座る。

 

「――それで、何か用か? まだ新学期には時間があるが」

 

 マクゴナガルはため息をつくと、本題に入る。

 

「今年の新任教師が赴任するので、顔合わせです」

「ああ、ついに私も先輩か。闇の魔術に対する防衛術だったか? 去年度の教師は最高の人材だったな。何せ闇の魔術のエキスパートだ。欠点は――そう、使うばかりで防ぎ方を教えてくれなかったことくらいか」

「本当に、遺憾なことです。あなたとハリー、死んでもおかしくはなかった。どちらもです! 二人とも生き残れたのは奇跡です」

 

 カサンドラは肩を竦める。

 

「確かにな。支度する。そうだ、着替えた方がいいか? その場合、できれば手伝ってほしいが」

「そのままで! 結構です!」

「了解だ」

 

 カサンドラはほほ笑むとホグワーツ用仕事道具一式が入ったトランクケースを手にもった。中身の9割は武器、防具だ。

 

「付き添い姿現わし、だったか?」

「ええ」

 

 カサンドラがマクゴナガルのローブをつかもうとすると、彼女はカサンドラから一歩距離をとった。

 

「……マクゴナガル?」

「――あなたが悪いのです。仕方ありません」

 

 ひゅる、と音がすると、マクゴナガルの代わりに小さな猫がいた。変身したのだろうということは理解できたが、その変身技巧がいかにズバ抜けて上手いかまでは理解できなかった。カサンドラは猫の背に手を当てる。

 

 パシン、と音がして、カサンドラは移動した。

 

――1992年7月、ホグワーツ職員室

 

 カサンドラが姿現しをすると、猫がするりとカサンドラからたっぷり十歩分離れて元の姿に戻った。職員はもう勢揃いしていて、カサンドラとマクゴナガルが最後だったらしい。職員室は去年度の時と違い、中が少しだけ広い。寮の談話室程度の広さだったのが、ちょっとした講堂のように広くなっている。その中心に、教員全員分のふかふかソファがぐるっと円を描くように用意されていて、各教員はゆったりと座っていた。教員と教員の間はたっぷり5メートルは離れており、ひそひそ声がカサンドラのところまで聞こえてくる。どうやら『ソノ―ラス――響け』の呪文がこの空間にかかっているらしく、わざわざ演説するような声で話さなくてもコミュニケーションができるようになっている。ダンブルドアも同じように円の中の一つに席があり、ゆったりと座り、カステラを食べている。魔法会議の開始前で結構騒がしい中、カステラを食べ終えたダンブルドアが疑問を呈す。

 

「ミネルバ。なぜ猫の姿で姿現しを? 危険じゃろう」

「恐るべき誘惑をする人がそばにいて身の危険を感じたので、やむを得なかったのです」

 

 その言葉を聞いて同じ被害者のスネイプはだいたいの事情を察した。

 

「カサンドラ! 貴様何を考えているのだ!」

「あのな。スネイプ。本物の美しさってのはいくら歳を取ろうと変わらないものだ。彼女を見てみろ。理想の年の取り方だ。ならば服の下も理想かどうか、確認したくなるのが人の性というやつだ」

「貴様本当に我輩達と同じ人間か!?」

 

 カサンドラもまさか魔法使いとマグルを超越して人間かどうかを疑われるとは思わなかった。

 

「おや、スネイプ。あんたはマクゴナガルが美しくないと? 醜く老いさらばえた醜女だと?」

 

 スネイプは立ち上がりつかつかとカサンドラに駆け寄る。

 

「我輩、そのような誘導尋問に引っかかるような間抜けではない! それとも今年度を迎える前に首になるか?」

「そりゃ困る」

「いいか、去年も申し上げたが。あまりにも慎みがないようならば、私は持てるすべてを使ってでも貴様をホグワーツから追い出す! 必ずだ!」

 

 ふん、と踵を返すと、スネイプは元いたところに戻り、どっかりと座った。

 

「――少し、悪戯がすぎたようじゃの、カサンドラ」

「以後気をつけるよ」

 

 だが、カサンドラは口だけである。美人がいて誘惑しないなど古代ギリシャ人の名折れである。イタリア人みたいなことを考えながら、カサンドラは空いているソファに座る。想像以上にふんわりとカサンドラを受け止めたソファの感触が心地よく、カサンドラは事務所の椅子の買い替えを考える。

 

「なら、良しじゃ。

 うぉっほん! さて、今年も新たな先生を迎えて、スタートを切るとしようかの」

 

 そう言って始まった会議だったが、全員がそろっているのに、ソファにまだ一つだけ空きがある。

 

「では紹介しよう。今年の『闇の魔術に対する防衛術』の先生、ギルデロイ・ロックハート教授じゃ」

 

 がちゃり、と職員室の扉を開けて入ってきたのは、えらく二枚目な男だった。貴族然とした豪奢な服装に、左肩の肩口から伸びるマントは、カサンドラにイタリアのアサシンを思い出させた。金髪にチャーミングな笑みを携えて、大仰な仕草で一礼をする。その所作は堂に入っており、イタリアの貴族ですと言われても信じてしまいそうになる。すらりと通った鼻に、きらりと光る白い歯が特に印象的だ。

 

「ご紹介に預かりました。私の名はギルデロイ。ギルデロイ・ロックハートです。私がかつて何を成してきたのかは……絶賛好評発売中の書籍をご覧ください。魅惑の冒険を記した書物です。必ずや先生方も満足できるかと」

「ロックハート先生はたくさんの魔女からの推薦でな。応募も他に……まぁなかったわけではないが、候補の中では最も実力のある先生じゃ」

 

 カサンドラはギルデロイをまじまじとみる。体つきは悪くない。ヒョロっとしたイメージの男が多い中、ギルデロイはある程度は筋肉質だ。カサンドラには及ぶべくもないが。多くの女性が熱狂するのも理解できるというものだ。

 チャーミングなスマイルも悪くない。カサンドラは笑顔が好きだ。いつも鬱々しいやつよりかは、よほど。スネイプとギルデロイを並べると、光と闇という感じだ。おそらくスネイプ本人に言うと呪文が飛んでくるかもしれないが。ダンブルドアに紹介されたのに合わせて、各教員が自己紹介をしていく。去年と同じ流れだ。カサンドラは隣の呪文学の教授、レイブンクローの寮監であるフリットウィックが自己紹介を終えると、立ち上がって軽く一礼をした。

 

「よろしく。私はカサンドラ。本業は傭兵だが、今はホグワーツの警備員だ」

「知っていますよ、ワシ使いの警備員! マグルにしては強いと評判ですよ。まあ、私ほどではないでしょうが」

 

 その言葉を聞いたマクゴナガルは嘆息する。ホグワーツから一歩外を出れば、カサンドラの評価はそんなものだ。ハリー・ポッターの影に隠れてカサンドラの栄光は遮られてしまっている。カサンドラが本当にその程度ならば、ハリーはとっくに始末されているだろう。

 

「お褒めに預かり光栄だ。去年、生徒達はまともな授業を受けていない。授業をしていたのがヴォルデモートの下僕だったからな、奴に都合のいいように知識を改ざんされている可能性もある。まずは生徒の知識を知るところからはじめるといいんじゃないか?」

 

 臆面もなく例のあの人の名前を言ったことで、ギルデロイの顔が引きつる。

 

「例のあの人の名前を……。ま、まあ。マグルですからね。例のあの人の脅威を知らなくても、無理はない。それに、助言は結構! 私には私なりのやり方というものがありますので!」

「そうか。まぁ、所詮、素人意見だ。気にしないでくれ」

 

 カサンドラは特に気にした風もなく、握手だけして元の位置に戻る。

 

「さて、今年の注意事項をいくつか伝えておかねばな。今年は何も去年のように生徒達に危険が迫っているということもない。なのでカサンドラ、そこまで気を張って警備をする必要はない。それよりも生徒たちの内面の異常を、出来る限り気にかけておいてほしいんじゃ」

「別にそれは構わないが。はっきり言って魔法関係の質問や相談には答えられないぞ?」

 

 ダンブルドアは頷く。

 

「まこと、道理じゃな。その時は遠慮なく他の先生方に振ってやってほしい。他の先生方も、カサンドラからの依頼は極力叶えてやってほしいのじゃ」

 

 先生たちが頷いたところを見て、ダンブルドアは満足そうに頷いた。

 

「うむ。さて、本年度も注意事項はたくさんある」

 

 それからも注意事項は続き、連絡事項の伝達が終わる頃にはすっかりと日が暮れていた。

 

 顔合わせが終わると、各教員が雑談タイムに入る。もう数分経っているのにいまだ一人も部屋から出ていかない。カサンドラも他の教員たちと話してもよかったが、まだ事務所に残してきた仕事がある。少々気まずいが早々にロンドンに戻りたかった。マクゴナガルにでもテレポートさせてもらうか、と考えたカサンドラは立ち上がる。そんな彼女を、ギルデロイが呼び止めた。

 

「カサンドラ。このあと少し時間はあるかな」

「ああ。どうしたんだロックハート先生」

「いや、何。あなたの予定を確認したくて」

「ふむ。いつだ?」

「来月半ば。私がいかに偉大な魔法使いか……それをあなたに知ってほしいんです」

「自慢話は嫌いだな。人は行動だ」

「では! 私の功績の結果はいかがですか?」

 

 カサンドラは楽しそうに笑った。

 

「そこまで言うんだ。私を唸らせられるほどの『結果』を見せてもらえるんだろうな?」

「もちろんです。退屈はさせませんとも。――今日は夜も遅い。今からマグルのところに戻っては、危険ではないですか? 是非、私の部屋に泊まっていってください」

 悪くない文句だったが、顔の出来に比べれば拙い。

 

「残念だが、次に親密になるとしたら結果を見せてもらってからにしよう。そっちの方がお互いにいい。だろう?」

「え、ええ。そうですね。では、私はこれで失礼します。詳しい日程は、また手紙を書きます」

「ああ。楽しみにしているよ、ロックハート」

 

 ロックハートは白い歯をキラリとさせて、部屋から出ていった。さて、久々に燃えるロマンスができればいいなと考えながらマクゴナガルに向かって歩こうとしたところで。

 

「帰ろうとしているところを悪いがの、カサンドラ。残念じゃが続きがあるのじゃ」

 

 ダンブルドアが呼び止めた。カサンドラは脱力すると、気怠そうに踵を返し、再びふかふかソファのお世話になることにした。

 

「うむ。では、注意事項をもう一つ、追加で言っておこうかの」

「待て、ギルデロイを呼んでくる」

「その必要はないんじゃよ」

 

 立ち上がろうとしたカサンドラを、ダンブルドアが止めた。

 

「なぜだ? 書類にするにしても、人伝いに伝えるにしても、あいつはまだすぐそこにいるんだぞ? しかも、新人だ。もっと気遣ってやるべきだと思うが」

「そのギルデロイに注意しろと言いたいのじゃ」

 

 ポカン、とカサンドラは目を丸くした。そして、呆れたようにため息をついた。

 

「嘘だろ? 今度はなんだ? あいつがヴォルデモートの化身なのか? それとも忠実な下僕なのか? あるいは、去年度みたく両方か?」

 

 2年連続で問題のある教員を雇うことに、カサンドラは心底呆れていた。ダンブルドアとしても――それどころか、ここにいる教員全員が似たような気持ちを抱いていた。

 

「幸いなことに、そのどれでもない。じゃが、要注意人物であることには違いない」

「どう注意したらいいんだ? ヤツの後頭部はさっきみたが、何にも張り付いてなかったぞ」

 

 ダンブルドアは悪戯っぽく笑った。

 

「これからの新人教員は毎回後頭部を確認されるのかのう」

「今年度の終わり方によったら、また確認事項が増えそうだな」

 

 まこと、そのとおりじゃ、とダンブルドアは言った。

 

「漫才はその程度にしていただきたい。例のあの人の配下ではないというのならば、彼は一体どう注意するべきなのですかな?」

「セブルスの疑問も当然じゃな」

 

 ダンブルドアがちょい、と杖を振ると、彼の背後に大きな本が山ほど現れた。表紙を表にして、さながら見えない壁に本が掛かっているにも見える。カサンドラにはそのタイトルがよく見えた。

『トロールとのとろい旅』

『ヴァンパイアとバッチリ船旅』

『グールお化けとのクールな散策』

 などなど、児童書のようなタイトルが勢ぞろい。今年の幼児向け絵本の紹介かとカサンドラが思っていると、周囲の表情が苦いものになっていることに気づいた。

 

「彼の著書じゃ」

「――冗談だろ? マグルの児童書だってもっと気取ってるぞ」

「重要なのはタイトルではない。内容じゃよ」

 

 カサンドラは首をかしげている。

 

「彼はこれらの冒険がすべて自分が行ったものだと喧伝し、それが事実と人々が認識しているからこそ、彼は人気なのじゃ」

「……これほどの本が書けるほどの冒険を彼が? とても信じられません」

 

 マクゴナガルの評に多くの教員がうなずいていた。

 

「ダンブルドア、そんなに変か? その『小説』が。かなり古い……そう、今から大体300年くらい前にも同じような手法で人気を博した小説家がいたぞ」

「『ロビンソン・クルーソー』は知っておるよ。じゃがワシが言いたいのはここに描かれた冒険が間違いなく事実……すくなくとも、登場人物に違いはあれ、実際に起こったことであるということじゃ」

 

 カサンドラは首を傾げた。他の教員も同じように疑問に思っているらしい。

 

「それでは何が問題だというのですかね、校長先生」

 

 カサンドラの隣のフリットウィックが聞いた。

 

「簡単じゃ。これらに描かれている冒険を成し遂げたのが『別の人間』であるということじゃよ」

「つまり、誰かの手柄をかすめ取ったということですか?」

 

 薬草学の教授にしてハッフルパフの寮監、スプラウトが嫌悪感をにじませていった。

 

「さよう。じゃが、なぜかすめ取られた本人は誰も声を上げないのか……。詳しくはわからぬ。おそらく、ロクな手段ではあるまい。ゆえに、注意をするように促すのじゃ。つまり、ベッドの上で仲良くなるような真似はやめてほしいのじゃよ」

「……わかった。わかったよ。あいつとは寝ない。それでいいんだろ?」

 

 視線が集中したカサンドラはいたたまれなくなってそう言った。

 

「うむ。皆の者も、彼にはよくよく注意を向けるように。では、解散」

 

 今度こそ、会議が終わった。

 

 ――

 

 付き添い姿現しでロンドンに帰ってきたカサンドラは、警戒を隠さないマクゴナガルに会議中感じていた疑問をぶつけた。

 

「なあ、なんで問題がある人間を採用したんだ?」

「……そんなに奇妙に思えますか」

「私がホグワーツの校長なら、疑惑のある人間を雇い入れたりはしないな」

 

 マクゴナガルはため息をついた。確かにそうだ。だが、カサンドラとは前提が違うのだ。

 

「……校長先生がロックハート先生は応募の中で最も優秀だったとおっしゃったのは覚えていますか?」

「まあな。だがあれはロックハートがいたから……リップサービスというやつじゃないのか?」

「事実だとしたらいかがです?」

 

 カサンドラは不思議に思って、首を傾げた。

 

「そんなことがあり得るのか? 他人の手柄をかすめ取る奴に実力のある奴なんていないだろうに。実力があれば、かすめ取る必要もないんだからな」

「ロックハートの採用には私も関わりました。対立候補はスクイブ、殺人鬼、闇の魔法使いの三人です」

「……なんでそんな人材不足なんだ? 英雄の元で働けるとなったら、ほっといても人材が集まってくるものだろう?」

 

 カサンドラが聞くと、マクゴナガルは首を振った。

 

「闇の魔術に対する防衛術には、ジンクスがあるのです」

「――私たちは人材採用について話していたんだよな?」

「ええ。闇の魔術に対する防衛術の教師は一年以上続けることはできない、というものです。40年ほど前からずっとです。そのジンクスの発端となったのが、例のあの人が呪いをかけたからだというものだから、応募してくる人材が……その」

「わかった。もういい。だがなぜ『偉大なる』ヴォルデモートがたかが学校の科目に呪いをかけたんだ?」

「教師志望だったのです」

 

 カサンドラはぽかんとした。

 

「……あいつが? 教師志望?」

「ええ。学生時代からの夢だったらしいのです」

 

 カサンドラはヴォルデモートが教師になっている姿を幻視する。

 

『小テストだ。間違えた者には罰として『磔の呪文』だ』

『さあ、いまから私が使う魔法を防いでみるがいい。失敗すればお前の友達は死んでしまうぞ?』

 

 ――悪夢だ。

 

「あいつは……自分の性格で教師が務まるかどうか、本当にわからなかったのか?」

「そこまではわかりません」

「というか、去年度は夢がかなっていたじゃないか」

「まあ、半分は叶っていたんでしょうね。そういう理由で、昔から闇の魔術に対する防衛術の教師はロクな人材がいないのです。……それこそ、あなたが教えた方がはるかにましと言い切れるほどに」

 

 カサンドラはうげ、という顔をした。

 

「教師なんてしないぞ。去年一年ずっと教授を見ていたが、いつも授業の準備に忙しそうだったじゃないか」

「教師とはそういうものです」

「尊敬するよ。だが、それとこれとは別だ。それに、私が防衛術を教えるとしたら、教室は中庭になる」

「なぜです?」

「ひたすら体力づくりをさせるからだ。『守る』ことは攻撃するよりはるかに大変なんだ」

 

 何せ、彼女はスパルタ人だ。スパルタという国がどのように人を育てるかは、『スパルタ教育』の意味を調べればわかる。

 

「……ええ、けしてあなたを教師にしないよう、ダンブルドアに言っておきましょう。では、失礼します」

 

 パシン、と大きな音を立ててマクゴナガルが消えた。

 

「……もしかして今のは冗談じゃなかったのか?」

 

 実は半分決まりかけだったとカサンドラが知ったら、どんな反応をするだろうか。

 




二年目は誘惑選択肢多めかもしれません。
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