1992年 8月 ロンドン カサンドラ探偵事務所
『ハリー・ポッター、未成年魔法使用に関する制限事項法令違反! 英雄は魔法を玩具にしているのか否か!』
カサンドラは定期購読している『日刊予言者新聞』の見出しを見て、魔法界の話題の無さにため息をついた。昨日の一面記事は『ギルデロイ・ロックハートの最新自伝『私はマジックだ』発売記念イベント開催決定!』だ。繰り返すが一面記事だ。平和すぎる。それを思うと、確かにあの伝説的英雄、赤子の時にヴォルデモートを倒し、11歳の時にも彼の邪悪な企みを打ち破ったハリー・ポッターが法律違反をするというのは凄まじくセンセーショナルなのはわかる。
「彼の家庭環境をすっぱ抜いた方が話題性は高いだろうに」
だがそうなったら、ひょっとしたらマグル対魔法界なんてことになるかもしれない。一月もあれば皆殺しにされるだろうが、その時カサンドラはどっちに着くのだろう。
――考えたくない。
カサンドラは新聞を放り出し、今朝届いた手紙を確認する。ハーマイオニーからの手紙には古代ギリシャについての質問がびっしりと書き込まれていた。彼女の知識欲は順調に育っているらしい。あれでバルナバスのように気の利いたことが言えるようになればホグワーツのマドンナになることだってできるだろう。
他にも何人かから手紙が届いており、カサンドラは一つ一つ心を込めて返事を書く。古代ギリシャ時代は筆不精だったが、今の時代そうも言っていられない。
最後に、ロンから届いた手紙を確認する。日付は昨日のものだ。
『超優秀な警備員、カサンドラ様
カサンドラ、元気? こっちは元気だよ。フレッドも元気。今日も『あべこべシュガー』のせいで塩辛いケーキが出来ちゃったから、罰として双子でホール丸ごと食べさせられてる。でもカサンドラってそんなにフレッドと仲良かったっけ? フレッドが自分のことも書いてくれって必死に頼み込んでくるんだ。フレッド、もしかしたらカサンドラに気があるのかも。それに、ママも様子が変なんだ。カサンドラを是非家にご招待しなさいって、口喧しくって仕方ないんだ。カサンドラは長生きだってきいてるけど、まさかママと友達だったりしないよね? とにかく、来るならそう返事をお願い。パパが迎えに行くよ。できれば、ウチの騒がしさをカサンドラにも体験してほしいかな。お返事待ってます。
追伸・ハリーから手紙の返事が来ないんだ。カサンドラは何か知らない?』
――ハリーから返事が来ない?
カサンドラは不思議に思う。ハリーは友人からの手紙の返事を書かずにいられるようなタイプではないはずだ。みすぼらしい部屋で寝食を惜しんで手紙を書いている姿が容易に想像できるほどだ。
彼女は改めてここ数日の手紙を確認する。ホグワーツ関係、仕事関係、ペンフレンド……しかし、ハリーからの手紙は一つもない。
調べるか?
カサンドラの決断は早かった。ロンへ招待を受ける旨の返事を書いて伝書ワシのイカロス5世に渡すと、カサンドラはジャケットを着て事務所から出る。
ハリーの様子を確認しなければ。
――1992年、8月、プリベット通り
ロンドンからいくつか電車を乗り継ぎ、カサンドラはハリーの実家までたどり着いた。少し歩いたが、今日はまだ涼しいので汗はそこまでかかない。ごく普通の一般家屋のインターホンを押す。しばらくすると、でっぷりと太った男性が出てきた。彼こそがハリーの養い親、バーノン・ダーズリーである。普通であることに偏執的なまでにこだわる一家の大黒柱である。
「あー、どちら様ですか? 我が家になんの御用で?」
「私はカサンドラ。ロンドンで探偵をやっている」
「……探偵がうちに何の用です? まさか殺人事件の捜査とか?」
カサンドラは苦笑する。
「いや、ホームズみたいなのは創作だけだ。普通の探偵は素行調査とか、浮気調査とか、まぁ地味で根気のいることばかりが仕事だな」
「なら、なおさらなぜ?」
「私が用があるのはこの家にいるハリー・ポッターだ」
その名前を出した瞬間、目の前の男性は眉を吊り上げた。
「なんだと? 貴様も! あの変人どもの関係者か!? ならとっとと小僧をどこかへと連れて行ってくれ! あのガキ、商談をめちゃくちゃにしやがったんだ!」
これはめんどくさそうなタイプだな。カサンドラは瞬時に演技をすることにした。
「変人どもってのが誰を指してるのかは知らん。私はストーンウォールの学生から依頼を受けただけだ。同級生となるはずだったハリーが去年一年、一度も学校に来ていないってな」
男は顔を引きつらせた。
彼のイデオロギー、自分が、そして自分の家族は『どこに出しても恥ずかしくない普通の家』であるということを、自分から投げ出したということに気付いたからだろう。
「それで、ハリー・ポッターはこの家にいるらしいな。なぜ去年学校に行かせなかった?」
「失敬なことを言うな! ――ハリーは別の学校に通わせることにした、それだけだ」
バーノンはハラワタが煮え繰り返るような想いを抱いていた。いくら児童虐待の疑いを躱すためとはいえ、ホグワーツを一瞬でも学校だと認めるようなことを言わねばならんとは!
「そうか。ならいいんだ。友人から手紙を預かっている。手渡してもいいか?」
「いや、私が小僧に渡しておく」
「それはできない。直接手渡すことが依頼の条件なんだ。たとえ学生相手でも、それを条件に追加料金を貰ったからな。違えることはできない」
「それはお前の都合だろうが! ハリーには会わせん」
「待て待て。なぜそんなにも隠したがる。よほど大事なのか?」
「私が!? ヤツを!? 大事に思っているだと!?」
処置なしだな、とカサンドラは首を振る。
「なぁ、落ち着いてくれ。私は友達が心配なだけの子供の望みを叶えてやりたいだけなんだ。ハリーの無事な姿を確認して、手紙を渡す。この二つのやりとりであんたに不都合があるとはとても思えない」
「それは……クソッ。わかった。わかった! ハリーだな。待っていろ」
「ああ、ありが――なに??」
カサンドラは思わず上空を見た。
そこにはなぜか、どう言う理屈か、車が空を飛んでいるのだ。
(――誰だ?)
「あの――小僧め!」
バーノンは激昂するが、車が飛んでいる光景は変わらない。
(これ、法律的に問題ないのか?)
カサンドラが首を傾げているうちに車が前に進み、カサンドラの真上にやってきた。運転席から、フレッドの顔が見えた。
「やあカサンドラ! 空のドライブはどうだ!」
フレッドのセリフはカサンドラにも、そしてバーノンにも聞こえた。カサンドラとバーノンはお互い顔を見合わせた。
「……」
「――」
沈黙を破ったのは、カサンドラだ。申し訳なさそうに、告げる。
「あー、すまん、全部嘘だ」
「き、きき、貴様!!! ペチュニア! ダドリー! ヤツが、ヤツが逃げるぞ!」
正気を失って叫ぶバーノンに肩を竦めると、カサンドラは右手を空に向け、アサシンブレードの機構に仕込んだフックショットを空に浮く車の底に突き刺す。
「出せ!」
「おうよ!」
ロープを巻き取り、空に飛び上がる。車が進み、空高く上がっていく。懸垂の要領で車の後部座席に乗り込んだカサンドラは、随分やつれたハリーと再会した。同じく後部座席には双子の片割れ、ジョージが鳥籠を押さえている。
「休暇は楽しんでるか?」
「これから楽しむんだよ、カサンドラ」
「まぁ、ともかくこれで依頼達成だ」
「誰の?」
「架空のお友達」
「?」
カサンドラが車に乗り込むと、車は透明となり、完全に見えなくなる。
「フレッド、こいつは法律的に大丈夫なのか?」
「カサンドラ、もう傷はちっとも痛くないんだ」
どうやらアウトらしい。
「傷?」
「気にすることじゃないぜ、ロニー坊や。それにしてもカサンドラ、さっきのアレなんだ?」
「ロープランチャー。まぁ、マグルの技術だ。100年くらい前の」
「ホグワーツで使ってたか?」
「ああ。尖塔の上に登ったりしてたぞ」
「マジかよ。クールだなカサンドラ。それで、ロニー坊やからの手紙は読んでくれたか?」
バサバサとイカロス5世が助手席に座るロンのところにやってきて、足に挟んだ手紙を渡した。
「ああ。その手紙にも書いてあるが、ご招待を受けることにしたよ」
「そりゃいい! パパはマグルと合法的に魔法の話をしたくって休み中そわそわしてたんだ!」
「そうか。ただ、私はちょっと人と違うぞ? 何せ一年ホグワーツにかかわったからな。他にはまぁ、生まれた年とかが」
カサンドラが言うと、ロンが頭だけ振り返ってきいてきた。
「ハーマイオニーから聞いたよ、紀元前480年代だって? 昔から魔法使いに関わってたの?」
「いや、そもそも魔法という概念自体あったかどうか」
そういう意味でいうならおそらく最も魔法使いっぽいことをしていたのはカサンドラだろう。
「わーお。ホグワーツ創始者よりも年上がホグワーツで働いてるなんて本当に驚きだよ」
「それはいいんだが、なんでこんな強行軍を?」
「だってどう考えてもおかしいだろ!? あのハリーが夏休み中手紙の一枚も返事をよこさないなんて! だからフレッドとジョージを焚きつけてハリーを拐うことにしたのさ!」
「で、二人はなんで付き合ったんだ?」
フレッドはハンドルを叩いた。
「もちろんこいつに乗るためさ。ハリーを迎えにいくためって言えば、ママも怒らないからな!」
「いや……怒るんじゃないか?」
まぁ、ハリーを助け出すためだったのね、それじゃあしょうがないわね。
――で済ます女性ならダンブルドアがカサンドラに勝るとも劣らぬ胆力なんて表現しないだろう。
「まあ、いいのさ。友達を牢獄から助け出せたんだからね!」
ロンの言葉は多少乱暴だったが、概ね正しい。
――車は空を飛び、ロンの家まで駆け抜けた。
1992年 8月 隠れ穴
フレッドとジョージ、ロンの三人は車の着地、そして格納に関して10の言い訳と20のパターンシミュレーションをしていたが、家の前の大通りに車を着地させた瞬間にそのすべてが無駄になったことを悟った。
なにせ、ウィーズリーの家、『隠れ穴』の入り口には鍋とお玉をもって怫然とした表情で立つふくよかな女性が立っているのだ。どんな言い訳も、演技も、現行犯を押さえられては意味がない。
「……カサンドラ、先に降りてくれないか。ハリーもだ」
「まあ、それが一番『マシ』だろうな」
カサンドラは肩をすくめると車から降りる。ハリーも同じように降りた。大きなトランクと、ヘドウィグの入った鳥かごを持って、所在なさげにしている。ゆっくりと2分経った頃、助手席からロン、後部座席からジョージ、運転席からフレッドが降りてきた。覚悟を決めるのに2分かかったらしい。
「フレッド! ジョージ! ロン! あなたたち!」
つかつかと女性が歩いてくる。カサンドラは庇ってやってもよかったが、怒れる女性の邪魔をするということは、ケルベロスの邪魔をするくらい愚かなことなのだ。庇うどころか道を空けるように脇へと移動した。
「朝起きてアーサーの車がガレージになかった時のママの気持ちをあなたに教えてあげたいわ! 書置きも! 言伝も! なんにもなしで車とあなたたちが消えてる! どんなに心配したか! 運転なんてしたことないあなたたちが事故を起こした時のことを考えたら、胸が張り裂けそうだったわ! ええ、ハリーを助けたかったのよね、分かるわ!! それに比べたら、自分の父親の仕事がなくなるかもしれないことは、全然全く、問題ないわよね!」
「ごめんなさい」
いたたまれなくなって、ハリーが謝った。
「……あなたがハリー・ポッターね。うちのロンと仲良くしてくれてありがとう。でも、私はあなたには怒ってないのよ」
烈火のごとく怒っていた時とは全く違う、猫なで声だ。
「でもママ! 俺たちは間違ったことをやったとは思ってない! ハリーの部屋の窓には鉄格子が嵌ってたし、聞けばハリーの部屋は外から鍵がかかるんだ!」
それを聞いたカサンドラは、眉をひそめた。
「ハリー、私に任せてみるか? 魔法使い、マグル関係なくそれは虐待だ。児童虐待を最後に扱ったのは20年前だから伝手はないが……手続きは覚えている。おそらく孤児院の生活になるだろうが……」
「ん……ありがとうカサンドラ。でも、いいよ。孤児院よりはきっとマシだから……」
そうか、とカサンドラは返した。歯がゆい。どんな保護も、本人が拒絶すれば無駄になってしまうのだ。
「――カサンドラ? あなたが、カサンドラなの?」
「ああ、私はカサンドラ。ロンドンで探偵をやってて……まぁ、今はホグワーツで警備員をやっている」
「そんな。失礼だったわ。ごめんなさいね。私はモリー・ウィーズリー。去年はフレッドが本当に、本当にお世話になって……」
「まあ、気にするな。職務のうちだ」
「素晴らしい職業意識なのね。さあ、ハリー、カサンドラ。ぜひ一緒に昼食にしましょう」
カサンドラを見た女性、モリーは三人のことを忘れることにしたようだ。カサンドラはうなずいて、歩き出す。
「招待ありがとう、モリー」
「いえいえ。ロンもフレッドもジョージも、暇があればあなたの話をしていたのよ。とても優れた警備員がホグワーツにいるって」
「そいつはうれしい。マグルがホグワーツで働いて上手くできてるか不安だったんだ」
「まあ。少なくとも私たち夫婦はあなた以上に生徒を考える人はいないと考えてるわ」
真正面から褒められて、カサンドラはくすぐったい思いをする。
ハリーとカサンドラを連れて歩き出したモリーは、しばらく歩いてから、しょんぼりとうつむくウィーズリー兄弟のほうへと振り返った。
「さあ、あなたたちも昼食にしましょう。車をガレージに戻してから、ね」
「あ、ああ! すぐしまうよ、ママ」
モリーは子供の扱いがうまいな、とカサンドラは思った。
――1992年 8月 隠れ穴 リビング
隠れ穴の台所はお世辞には広いとは感じなかった。つまり、何人も兄弟がいる家族の家にしては、という意味だが。しっかりときれいに拭かれた木製のテーブルと椅子があり、カサンドラはモリー直々に椅子を引いてもらった。まだ昼食は準備中らしいが、カサンドラはここで大人しくしていろということらしい。台所に視線を向けると、業務用かと思うほど大きな鍋を、同じく大きなお玉が勝手にかき混ぜている。その隣の流し場では皿洗いが全自動で行われている。皿の動き、スポンジの動きはさながら人が皿洗いをしているときのようで、透明人間が皿を洗っているといわれても信じるだろう。キッチンのそばにある本棚には料理に関する本が何冊もある。
「カサンドラ、ハリーも、支度ができるまでそこで座っていて頂戴ね。フレッド、二人にお茶を……あら、珍しい」
「まあ、これくらいはな。どうぞ、カサンドラ、ハリー」
「ああ。ありがとう、フレッド」
「ありがとう、フレッド」
てきぱきとフレッドはハリーとカサンドラの前に飲み物を置いたが、この機敏さは普段のそれではないらしい。カサンドラは苦笑しながら紅茶を飲む。まあ悪くはない。カサンドラは出してもらったお茶を品評するような真似はしないのだ。
「それにしても! 全く、あなたたちときたら! 何をどうしたら法律と校則をいくつも破りながらハリーを強奪するなんて考えになるのかしら! 全く……」
モリーはカサンドラとハリーへのお客様対応をいったん保留にして、悪ガキ三人へのお説教を再開することにしたようだ。
それにしても、とカサンドラはほほ笑む。どうやらフレッドはすっかり悪ガキにもどったらしい。モリーにしたらたまったものじゃないだろうが、カサンドラとしてはうれしかった。あのまま後悔と罪悪感に塗れて生きるなんて、不幸が過ぎる。
「いいかしら、私はその気持ちに怒ってるんじゃないわ。わかるかしら! 空飛ぶ車で行く必要はなにもなかったということを言いたいのよ!」
絶好調だ。この様子ならしばらくは止まらないだろう。だが、まあ仕方ないだろう。未成年の魔法使いが魔法を使うだけで一面記事になる魔法界で、空飛ぶ車を透明にしてマグルの家に突撃したのだ。軽い罪ではないだろう。
「そういえばハリー。何があったんだ? その、魔法を使ったんだろう? 新聞に出ていたぞ」
「新聞に? 僕が!? でも僕じゃないんだ! 屋敷しもべ妖精のドビーが」
「……まて、ハリー」
「何? まさかカサンドラも屋敷しもべ妖精があの家に来るわけがないって思ってるの? 手紙を引き留めたりしないって?」
「いや、屋敷しもべ妖精ってなんだ?」
「嘘だろカサンドラ? 屋敷しもべ妖精ってのは」
「ロン! あなたにおしゃべりする余裕があるとおもっているの!? ちゃんと反省しているのかしら!」
「あー。ごめん、ママ」
「まったくよ!」
ほんのわずかなおしゃべりも、今のモリーは許す気はないらしい。
「……ハリー」
「ああ、うん。僕もよく知らないんだけど、魔法使いの命令を聞く種族、らしいよ」
「なんだそれ? ……また今度教員の誰かに聞いておくよ」
「うん、それがいいよ。僕もハーマイオニーに聞くし」
どうやらハリーは『自分で調べる』という選択肢がないらしい。カサンドラも人のことを言えないが。
「それにしてもまたトラブルか」
「みたいだね。嫌になるよ」
ずいぶん辟易しているらしい。
「今年のホグワーツは危険なんだってさ。心当たりある?」
「なんだと? 校長直々に特に危険はないからのびのびやれとお達しがあったぞ」
「んー、ということはホグワーツが危険にさらされるってことなのかな」
「ならば、私にまかせておけ。外敵にホグワーツをやらせはしない」
「……うん、信じてるよカサンドラ」
ならいい、とハリーを撫でる。恥ずかしいようで、照れた様子で手を振り払った。
それからカサンドラはハリーと雑談をする。――その間もモリーのお説教は止まることをしらなかった。
すると、階段から誰かが降りてきた。
「ママ、また双子がなにかした……の……」
小さな女の子だ。11歳ほどだろうか。その女の子はリビングで座るハリーの姿を見ると目を見開いて、石化したように固まった。そして、物凄い勢いで踵を返すと階段を駆けあがってドタドタと音がする。
「ジニーはハリーにあこがれてるんだ。全く。ミーハーなんだから」
ロンが言うと、ハリーは肩をすくめた。髪はぼさぼさ、服もパジャマでお世辞にも繕った装いではなかったが、当のハリーにしてみればまんざらでもないらしい。ロンもハリーに声をかけてもお説教が再開されなくなる程度には許されたらしい。しばらくすると、お出かけ用の服を着て髪をとかして魅力が三割増しくらいになった少女、ジニー・ウィーズリーが降りてきた。ゆっくりと、まるで女優のように優雅な歩き方までする徹底ぶりだ。その様子にカサンドラは微笑ましく思う。
「え、えっと、私、ジネブラ・モリー・ウィーズリー。是非、ジニーって呼んで」
「うん。僕はハリー。ハリー・ポッター。よろしくね」
ハリーが手を差し出すと、ジニーは照れたように頬を赤らめさせて、握手に応えた。
「よ、よろしくハリー。えっと……」
「カサンドラだ。ホグワーツの警備員をやってる」
「あなたが! ママがいっつもすごいすごいって言ってる人ね。よろしく!」
朗らかな、まぶしい笑顔で差し出された手を、カサンドラは同じようにほほ笑みながら握った。
「ああ。よろしく。ジニーは今年からホグワーツか?」
「ええ。そうなの。ホグワーツではよろしくね」
「ああ。何かあればすぐに言ってほしい。危険なことならばすぐに対処する」
「トロールを倒したって本当なの?」
キラキラした目でジニーが聞いてくる。
「ああ。私の敵じゃなかった」
「すごい! 魔法使いだと、本当に熟練の人じゃないと気絶させるのも難しいのに!」
ジニーは楽しそうだ。
「ジニー。おはよう! 挨拶も忘れちゃうなんてママは悲しいわ」
「ごめんママ! おはよう! 配膳手伝うわ」
「いいのよジニー。ここにいる悪ガキが三人も、手伝ってくれるらしいから」
「もう。私にかかれば三人より上手くできるのに!」
大人ぶって頬を膨らませる姿を眺めていると、家の扉が開いて、男性が一人入ってきた。赤毛で、くたびれたスーツを着ている。
「ただいま、モリー。昨日は帰れなくてすまない。……おや、君はハリー・ポッターかい? それにあなたは……もしかして、カサンドラ?」
「はい」
「ああ」
「おお! 私はアーサー・ウィーズリー。カサンドラ、あなたにはどうしてもお礼が言いたかった。息子を救ってくれて本当に、本当に感謝している」
「気にするな。私は仕事をしただけだ」
アーサーが手を差し出してきたので、カサンドラは立ち上がって握手に応じる。
「そうか! 本当に素晴らしい女性だ。カサンドラさえよければ一緒に
「それはいい。ただ、昼食をごちそうになってからにしよう」
「それはもちろん。モリーの料理は絶品だ。きっと気に入る」
その時、モリーが振り返った。
「おかえりなさい、あなた。今お昼ご飯の支度ができたところよ。さ、いただきましょうか」
それからカサンドラとハリーはウィーズリー家の昼食を一緒にいただいた。
ウィーズリー夫婦にフレッド、ジョージの悪戯双子に、ロン、それから今隠れ穴に住んでいる兄弟の中で最も年長のパーシー・ウィーズリー。一番下の末妹、ジニーを加えた9人で食卓を囲むことになったわけだが、その騒がしさはホグワーツの大広間にも引けを取らないほどだった。
カサンドラのアサシンブレードは最新式、つまりシンジケートの時のです。