【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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独自解釈があります


ハーマイオニーの計画

 変身術、魔法生物飼育学と、立て続けにアンブリッジの査察授業を受けた日の夜、ハリーはロンと一緒にハーマイオニーと談話室の暖炉の前で説明を受けていた。

 妙にお行儀のいいスリザリンの生徒達について。

 

「……あんまり、人に話したい内容じゃないんだけどね。夏休みに親を亡くした生徒がかなりいるのよ」

「かなりって……なんで? 病気?」

 

 ロンが聞くが、ハリーは聞くまでもなかった。カサンドラに消されたのだ。だが、ハーマイオニーもロンもそのことを知らない。

 

「『死』に消されたのよ、文字通り」

「……殺されたってこと?」

 

 ハーマイオニーは首を振った。

 

「いいえ。金色の光に包まれて、そうなったらもう消えちゃってるみたい。黒いローブを着て、物音立てずに移動する化け物よ。『死喰い人』だと思われたら消されると思ってるから……今年のスリザリンは、とっても優等生だと思うわ」

「そりゃいいや。マルフォイの憎まれ口がなくなるんなら、『死』様々だよ」

「ロン、そういうこと言うの、やめてよ」

 

 ハリーが暗い顔をして言った。

 ……ハリーにはスリザリンのことをバカにしたりなんてできなかった。だって、ハリーと同じ苦しみを味わったのだ。親を亡くすというのはどれほど辛いことなのか、ハリーにはよくわかった。

 

「あ……。ごめん、ハリー」

「いいよ。でも、ハーマイオニー……マルフォイのパパも殺されたの?」

「いいえ。マルフォイは……その、面倒見がいいから、中心になってるだけよ」

「マルフォイが面倒見がいいねぇ。信じられない」

 

 と、そんなこと言うロンだったが、腑に落ちるところはある。2年生の時にスリザリン生に対して接するマルフォイのことを見たハリーとロンは、マルフォイがただ意地が悪いだけの奴じゃないことを知っている。

 

「まぁ、たしかに信じ難いかもね。ねぇ、ハリー。少し聞いて欲しいことがあるの。計画について」

 

 おずおずと、そして意を決したように切り出したハーマイオニーに、ハリーは内心身構える。お酒か、タバコか、それともギャンブルか。どうにかして説得してやらないと。

 ハリーは未だに勘違いしたままだった。

 

「うん、それで?」

「その、今度の休みに『ホッグズ・ヘッド』でね」

 

 ホッグズ・ヘッド!? ハリーはめまいがしそうだった。ホッグズ・ヘッドはかなりアングラ寄りのバーである。客層も悪く、闇の魔法使いが普通に屯しているともっぱらの噂である。マスターも金さえ払えば客の質は問わないタイプで、ガリオン金貨を出すならたとえホグワーツ入学前の子供にだって酒を出すだろう。つまり、そういうお店に行きたいと言うことは、やはりハーマイオニーは不良になる計画を立ててるんだ。

 

「とあるクラブを、設立したいと考えてるの」

「ハーマイオニー、よく考え直して。——え? クラブ?」

 

 ほとんど反射的に口走ってから、ハーマイオニーが想像と全然違うことを言ったことに気がついた。

 

「……ええ、クラブよ? 何をどう考え直せばいいのかしら?」

「えっと、お店とか? 正直ハーマイオニーが不良になろうとしてるのかと」

「まだそんな勘違いしてたの?」

 

 ハーマイオニーが呆れ返って言う。だが、指定した店はそう勘違いしてもおかしくない店なのだ。ハリーは悪くない。

 

「いやいや、ハーマイオニー、僕だって変に思うぞ。ホッグズ・ヘッドだって? どんなクラブ作る気だよ」

「——二人とも、アンブリッジの授業はどうだった?」

 

 ハリーは顔をしかめて首を振る。

 

「最悪だよ。でも下級生の評判はそこまで悪くないけど」

 

 それがハリーにも気に入らないことだった。ハリーと同学年や高学年の生徒達の評判は地の底突き抜けていると言うのに、1年生や2年生達の評判はそこまで悪くない。2年生に至っては『やっとまともな授業になった』と言う子もいるくらいだった。大抵その子はマグル生まれだった。

 

「ええ。私も同じ意見よ。アンブリッジ先生の授業は基礎を積むにはぴったり……。でも、私たちは座学だけやってりゃいいだけじゃない。実技の練習もいるわ」

「魔法省はなんであんなに僕らに魔法を使わせたくないんだろうね」

 

 ハリーは不思議そうに言った。試験で実技を要求する割には、魔法省から派遣されてきた教師は実技をするなと言っている。妙な矛盾だった。

 

「あー……そのこと。私の予想だけど、多分、魔法省は私たちに魔法を使わせたくないわけじゃないと思うわ」

「どういうこと? シリウスおじさんはそう言ってたんだけど」

「普通ならそう思うけど。——いい、私はあの先生が嫌い。嫌いだけど、あの人はある種の天才よ」

 

 ハーマイオニーから飛び出たガマガエルを評したと思えない言葉に、ハリーとロン、二人して驚く。

 

「アンブリッジが天才? それなら僕は賢者だな。マーリン並みだよ」

「あの人は守護霊の呪文を使えるそうよ。あの人なりのやり方で習得したらしいわ」

「嘘でしょ?」

 

 ハーマイオニーの言葉に、ハリーは信じられなかった。守護霊の呪文はめちゃくちゃ難しい魔法だ。それこそハリーが一年かけて習得して……それですら早い、凄いと言われる魔法なのだ。それをアンブリッジなりのやり方……つまり、座学オンリーで理論習得だけやるやり方で習得できるものなのか? 

 ハリーが同じやり方でやろうと思ったら、死ぬまで習得できないだろう。

 

「つまり……あの人にとって理論と実践は等価なの。理論を習得すれば魔法は使える。これはあの人の中で絶対の理のはずよ。……私もよくやっちゃうけど、最初からできる人はできない人のことを理解しづらいのよ。この前の占い学での話を聞いて思ったわ。トレローニー先生も、きっと占いに適性がない人がどういう状況なのか想像もつかないんでしょうね」

 

 トレローニーも、アンブリッジも、天性のものをもっている。

 トレローニーは夢をずっと覚えていられる等、占いに関わる才能。

 そしてアンブリッジは理論だけで魔法を習得できるという才能。

 どちらも、常人にとっては理解し難いものだ。

 

「とにかく。アンブリッジ先生が『闇の魔術に対する防衛術』の教授である限り、永久に実技練習は存在しなくなる。たとえ魔法省が代替わりして私たちが望むように変わったとしても変わらないでしょうね。

 

 ——だからこそ、私たちでやる必要があるの」

「え?」

「自習よ。『闇の魔術に対する防衛術』の自習。魔法を教え合うの」

 

 ハリーは首を傾げた。

 

「教え合うって……それはいいけどさ。そんなのわざわざホッグズ・ヘッドで結成宴会する必要あるの?」

 

 ハリーの疑問はもっともだった。ハーマイオニーの言葉を額面通りに受け取るのならいつも通りに教えあって、それから場所さえ学校から貸して貰えばなんの問題もない、寂れた、薄汚れたバーに集まる理由はないのだ。

 ハリーが質問すると、ハーマイオニーは周囲をキョロキョロと見回した。それから、囁くようにして言った。

 

「備えでもあるの」

「そなえ?」

 

 ハーマイオニーはうなずく。

 

「例のあの人も、『死喰い人』も、活動を再開したわ。——私たちも、備えなきゃ。そのために実践的な……いいえ。実戦さながらの訓練がいると思うの」

「な……。だ、誰がそれを教えるって言うの?」

「ハリー、あなたにお願いしたいの」

 

 ハリーは即座に首を振った。

 

「僕、そんなことできない。知ってるでしょ? 僕は『闇の魔術に対する防衛術』の成績だって君より下だ」

「実技はそうじゃないわ。実技の成績が一番いいのは、あなたよ、ハリー」

「でも……」

 

 ハーマイオニーはさらに言い募る。

 

「大人達は私たちに無力なままでいて欲しいって願うわ。そっちの方が管理しやすいから。ええ、それはそうでしょう。でも、私たちはいつ何時も大人達に守ってもらえるわけじゃない。私なんかは……。家に帰ったら、私が守らないといけないのよ。他にも、不意な遭遇とか、危険に出くわす可能性はぐんと高くなってる。そんな状況だからこそ、少なくとも身を守るための術は知っておくべきよ。そして、実戦の経験が一番あるのは、あなたなの」

 

 ハリーはふるふると首を振った。

 

「だめ……できない」

「どうして? 今までずっと、あなたは大人にだってできないようなことを成し遂げてきたじゃない」

「僕一人でやったことなんて一度もない。ハーマイオニーやロンの力を借りたり、カサンドラに助けてもらったり。僕は何にもすごくなんかない。……ハーマイオニー、ガッカリすると思うけど、賢者の石を守った時僕はどんな簡単な魔法だって使えなかったよ。秘密の部屋の奥でも、僕は逃げてただけだった。……僕に教師役は無理だよ」

「それは、子供の頃の話よ。吸魂鬼から自分自身を守ったのはハリーよ。トライウィザードトーナメントの最終課題、ラビュリントスにセドリックと同着トップだったのは、純粋にあなたの実力よ。三校一の魔法使いと実力はそう変わらないのよ」

「でも」

「ハリー」

 

 ロンがハリーに声をかける。

 

「引き受けろよ。ハリーならやれるさ」

「……でも」

「一番経験があって一番実技が上手い奴が先生役。それだけだろ?」

「そうよハリー。あなたが適任なの」

 

 ハーマイオニーと、ロンにも言われて。ハリーはしばらく悩んで、それから頷いた。

 

「……わかった、わかったよ。でも、ハーマイオニーも手伝ってね」

「もちろんよ! ああ、ありがとう! これで最後のピースが揃ったわ! さぁ、計画も大詰めよ!」

 

 ハーマイオニーはそう言ってお礼を言うと、女子寮に駆け上がって言った。

 

「楽しそうだよな、あいつ」

「うん。……ねぇロン、本当に僕、先生でいいのかな」

「何度も言わせるなよ。いいに決まってるだろ?」

 

 

 ロンは肩をすくめてそう言った。

 

 

 週末、ハリーとロンはハーマイオニーの先導で集合場所に向かっていた。

 3本の箒を通り過ぎ、ゾンコの悪戯専門店を通過する。ゾンコの悪戯専門店の店先では、制服をきた双子が面白おかしく客引きをしていた。

 郵便局を通り抜け脇道に入ると、一気に雰囲気が怪しくなる。ノクターン横丁のようだった。

 

「そもそも……いいのかよ、その、こんな、ところ」

 

 ロンはビクビクと怯えながら足を進める。正直ゾンビが出てきてもおかしくないような薄汚れっぷりだった。

 

「ええ。校則を何度も確認したし、マクゴナガル先生にも確認したわ。自分のコップを使うように言われたのと……。誘拐とかされたらカサンドラに助けてもらえるけど、何かされるまでに助けてもらえるかまでは保証しないって言われたけどね」

「何かって何?」

 

 ロンが聞くと、ハーマイオニーはキッとロンを睨みつけた。ハリーはもう、ハーマイオニーが何を言っているのか正確に理解できる。ロンにはもう少し大人になってもらいたかった。

 

「さて……」

 

 ハーマイオニー、ロン、ハリーの三人はホッグズ・ヘッドの看板の前で立ち尽くしていた。

 特に何かがあるわけではない。なんとなく入り辛いのだ。

 

「……とにかく、人が待ってるんだよね。行くよ」

 

 ハリーは勇気を振り絞り、バーの扉を押して入る。

 場末の酒場のような店だった。小さく薄汚れた店内で、酒と肉とが混じり合ったようなキツイ匂いがする。明らかにヤバい雰囲気の店だった。

 それから客層も最悪に近いだろう。全員何が理由かは知らないが顔を覆うか隠しており、全員背格好がわからなくなるような幅広のゆったりとしたローブを着ている。『死喰い人』がこの中に混じってると言われてもハリーは驚かないだろう。

 そのなかで、制服を着たハリー達はものすごく浮いていた。

 

「本当にここでよかったの?」

「ここがいいのよ。合法とはいえ、アンブリッジ先生に気取られたら潰されるかもしれないし。あの人はルールを作れる立場にあるんだから」

 

 バーテンが店の奥から出てきた。不機嫌な顔の老人だったが、なぜがハリーは、その顔に見覚えがあるような気がしていた。

 

「注文は?」

「え、えっと、バタービール3本」

「6シックル」

「みんなの分も僕が払うよ」

「悪いわよ。ロンは……」

「あー、うん、でも正直出してくれるのは嬉しいかな。……貧乏が辛い……」

 

 ロンはうなだれながらもお金を出そうとはしなかった。おそらく、ポケットには2シックルもないのだろう。

 

「あー……。ハリー、はいどうぞ」

 

 ハーマイオニーはハリーに自分の分を渡すと、窓際の席を取った。

 

「ハリー、ありがとう。恩に着るぜ」

「いいよ、これくらい」

 

 ハリーはバーテンに近づいて、お金を払う。

 

「まいど」

 

 ハリーはペコリと頭を下げると、ハーマイオニーとロンのいるテーブルに座る。

 

「……なぁハリー、お酒頼んでみたらどうだ? 金さえ出せば相手が誰かなんて気にしないらしいぜ」

「ロン、あなたは、監督生なの忘れてないかしら?」

「別に、忘れちゃいないぜ。ハリーが注文する時ちょうど耳が塞がってて、ハリーが酒を飲む時ちょうど目が塞がってるだけだ」

「もう……」

「それで、今日は何人くらい来るの?」

「ほんの数人よ」

 

 ハーマイオニーは若干目を逸らしながら言った。

 本当に? と聞こうとした時、バーの扉が開いてどやどやと人が……たくさんやってきた。少なくとも、ほんの数人ではない。

 先頭に、ネビル、続いてディーンとラベンダーがいる。そのすぐ後ろにパーバティ・パチルとパドマ・パチルの二人がいる。その隣にはチョウ・チャンがセドリックと腕を絡めてやってきた。

 それから、あいも変わらずへんなアクセサリーをつけたルーナ・ラブグッドがいる。今日のへんてこアクセサリーは指のミイラを連ねて作ったネックレスだった。

 他にもケイティ・ベル、アリシア・スピネット、アンジェリーナ・ジョンソンのグリフィンドールクィディッチチームメンバーに、コリンとデニスのクリービー兄弟、アーニー・マクミラン、ジャスティン・フィンチ・フレッチリー、ハンナ・アボットのハッフルパフの三人。レイブンクローの男子生徒が三人、名前はたしか、アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナー、テリー・ブートだ。最後にはバイトの制服を着たままのジョージとフレッド・ウィーズリーの双子で、仲良しのリー・ジョーダンと一緒に、三人ともゾンコでの買い物をぎゅうぎゅう詰め込んだ紙袋を持って入ってきた。そして、そんな双子にしがみつくようにしてジニーが来ていた。

 

「……ほんの……数人?」

 

 ハリーはハーマイオニーをジト目で睨む。こんなたくさんの人相手に先生役するなんて聞いてない。

 

「——あー、その、最初は。ごめんなさい、ハリー。どんどん人が増えてきて……」

 

 ハリーにじっと見つめられ、申し訳なさそうにするハーマイオニーだった。

 

 ……ハーマイオニーの計画は、始動しつつあった。

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