【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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教育令:組織解体

 週末が終わって、また授業の日々が始まる.ハリーはグリフィンドールの掲示板にたくさん人が集まっているのが見えた。いつもはフィルチの校則の備忘録だったり、古本譲りますという広告や悪戯双子の新商品人体実験者の募集広告など、たくさんの広告が貼られている。だが今はそれら全てを押しのけるようにして大きな紙がバンと張り出されていた。

 

「ジニー」

 

 ハリーは輪から外れて気難しい顔をして腕を組んでいる自分の彼女に近づくと、にこやかな表情で声をかける。

 

「あら、ハリー。おはよう」

「おはよう。どうしたの?」

「どうもこうも……アンブリッジ先生が対策を打ってきたわ」

「……え?」

 

 ハリーは慌てて、掲示板に貼られた大きな紙を見る。そこにはとんでもないことが書かれていた。

 

『ホグワーツ高等尋問官令

 

 ホグワーツ高等尋問官、ドローレス・アンブリッジ教授がここに告示する。

 

 ・学生による組織、団体、チーム、グループ、クラブなど(以下学生組織)は、ここにすべて解散される。 なお、学生組織とは、定例的に三人以上の生徒が集まるものと、ここに定義する。

 

 ・学生組織は、ホグワーツ高等尋問官 ドローレス・アンブリッジ教授(以下高等尋問官)に申請をすることで結成できる。

 

 ・学生組織は、高等尋問官の承認なしに存在してはならない。

 

 ・高等尋問官の承認なき学生組織を結成し、またはそれに属することが判明した生徒は退学処分となる。

 

 以上は、教育令第二十四号に則ったものである。

 

 高等尋問官 ドローレス・ジェーン・アンブリッジ』

 

 ……え? 

 ハリーはポカンとなった。

 学生組織の解体? 

 

 ……? 

 

 ハリーは何が起こってるのかさっぱりわからなかった。なんで気取られたのかさっぱりわからなかった。

 

「ハリー!」

 

 呆然としていると、クィディッチチームリーダーのアンジェリーナが声をかけてきた。

 

「おはよう、アンジェリーナ。これ……もしかして『アレ』がバレたのかな」

「そんなことはどうでもいい!」

 

 アンジェリーナは大声で叫んだ。悲鳴みたいだった。

 

「ハリー! 命令だ、これから先、私が『いい』と言うまで絶対に、アンブリッジと衝突するな! 靴を舐めろと言われたら舐めるくらいの気概でいろ!」

「やだよ! なんであいつの靴舐めなきゃいけないんだ!」

「クィディッチチームも、解体された」

 

 ハリーは目を見開いた。

 

「クィディッチチームが……?」

「例外はないだろう。再結成ができるまでの間、キミには……いや、キミだけじゃない。チームメンバー全員には大人しくしていてもらう。これは決定事項だ」

 

 アンジェリーナはそう言い残すとドスドスと去っていった。同じことを他のチームメンバーに宣告しに行くのだろう。

 

「……ジニー、知ってる? こういうのって、ディストピアっていうらしいよ」

「そうなの? へぇー」

 

 本当は少し違うのだが、似たようなモノであることには変わらなかった。

 

 ——

 

 くあぁ、とカサンドラはあくびをした。職員室の暖炉の火が暖かい。

 ソファに腰掛けてカサンドラはヒートアップする二人をちらりと見る。

 

 ……衝突するアンブリッジとマクゴナガルの二人を。

 

「——ですから! このようなものは『教育』令とはいいません! 我々教師は支配者ではないのですよ!? 何を考えているのですか! 早く撤回するべきです!」

「ェヘン、ェヘン。マクゴナガル先生。失礼ですが、その、どのような権限があって、魔法省の決定を覆すよう命令なさっているのかお聞きしても?」

「権限などありません! ただひとりの先生として、この教育令は問題だと言っているのです! 魔法省は専門家の意見を聞く気はないのですか!」

「マクゴナガル先生。

 

 私も、その専門家ですよ?」

 

 マクゴナガルは歯噛みしたような表情を作る。

 アンブリッジはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたまま、カサンドラの方に視線を向けた。

 

「カサンドラはどう思いますか?」

「ん? 私の意見なんて聞いたってしょうがないだろう? ただの警備員だ」

「しかし、わたくしはあなたの意見も聞いてみたいのです」

 

 アンブリッジは再三、カサンドラに確認を取る。誰だって死にたくはない。闇から闇に消されるなんて冗談ではなかった。

 

「意見、意見か。アンブリッジ、お前はどういう独裁者になりたいんだ?」

「は? 独裁とはどういうことです?」

「スターリン、ヒトラー、ポル・ポト……毛沢東。名だたる独裁者達の末席になりたいようだし、好きにすればいい」

 

 それきり、カサンドラは黙った。

 

「……その通りですカサンドラ! アンブリッジ先生、わかりますか、あなたがどのような思惑であれを告示したのかは知りません。しかしアレは誰がみても自分の権力を増大させようとしているようにしか見えないのです!」

「わたくしは、ホグワーツの改革にはもっと権限が必要だと魔法省大臣に申し上げておりますわ。それくらい問題は根深いのです」

「……! 

 アンブリッジ先生、ホグワーツが抱える問題の大部分は教師側にあります! 学生の権利を制限する理由にはなりません!」

「なります。わたくし、とある情報を掴んだんですよ? あのポッターが、違法な集会を計画していると」

 

 カサンドラはここで初めて、興味をアンブリッジに向けた。

 

「ハリーが? 違法な集会だと?」

「はい。なんでも、『闇の魔術に対する防衛術』の自習と称して、武力を身につけるようですわね」

「……『闇の魔術に対する防衛術』の、自習?」

 

 カサンドラは拍子抜けしたかのような表情になって、それからほう、とため息をついた。

 

「全く。ビビらせるんじゃないぞ。てっきりヤバイことに手を出すつもりなのかと心配になったじゃないか」

「何を言うのですか? 学生が、教師に無断で呪文の練習をしようとしているのです!」

「それの何が問題なんだ。私はてっきりドラッグパーティとか、あるいは乱交パーティとか、そういうのを計画してるのかと」

「カサンドラ! あなたポッターがそういうことをするタイプではないことくらいわかっているでしょう!」

 

 あまりに下品な例えに、マクゴナガルが声を荒げた。カサンドラは肩をすくめて飄々としている。

 

「まぁ、非行ってのはどう転ぶかわからんからな。で、それらと比べてどうなんだ? 何が違法なんだ」

「それは……。何度も言いますが、彼は例のあの人が帰ってきたと性懲りもなく喧伝しているのです。だからです」

「妙だな? それなら名指しで罰を与えりゃいい。……なんでお前がそれを知ってるか、って話になるからか?」

 

 カサンドラが指摘すると、マクゴナガルはハッとなった。

 

「そうです! あなたどうしてポッターがそんなことをしていると知っているのですか? ——まさか、学生を間諜に仕立て上げているのではないでしょうね!?」

「そんなことしませんわ! 偶然、耳にしただけですわ」

「——ならいいのですが。アンブリッジ先生、この際だから忠告しておきます。もう政治闘争はおやめなさい」

 

 マクゴナガルの言葉に、アンブリッジは驚いたような顔をした。

 

「……わたくし、政治闘争なんてしているつもりはありませんわ」

「いいえ。最初は実力不足かと思いましたが。

 あなたの授業、準備期間がかなり短く済むようになっていますね。空いた時間で何をしているのですか?」

「プライベートに口を出される謂れはありません」

「授業の質が低いと評判なんです。わかりますか、アンブリッジ先生。あなたは自分が魔法省から来た高等尋問官のおつもりかもしれませんが。それ以前にあなたは『闇の魔術に対する防衛術』の教授なのですよ? あの不真面目なポッターが自習するための組織を立ち上げようとすることの意味をもう少しよくお考えになったらどうですか?」

 

 マクゴナガルの中でもハリーは『不真面目』に分類されるらしい。まぁ無理もない。1年先の時からトラブルばかりで成績も良い方ではない。少なくとも自習をするタイプではないのは間違いない。

 

「……! わたくしは、高等尋問官です」

「それがどうかしましたか。私は『ホグワーツの新任教師』に先輩として忠告しているのです」

「わたくしにはわたくしのやり方があるんですわ。……失礼します!」

 

 アンブリッジはそう言うと、職員室から出て行った。マクゴナガルはため息をついて、カサンドラの近くのソファに腰掛けた。

 

「先輩も大変だな」

「全くです……。ホグワーツを政治闘争の場にするなど言語道断です」

「まぁ……既存組織の解体、再結成の申請は自分に……。生徒達は否が応でもアンブリッジが権力者だと認識するだろうな。あいつが男じゃなくてよかったな。女子生徒に承認の代わりに体を要求してただろうな」

「嫌な想像をさせないでください! ……ああ、全く……。学生の頃から、全く変わってない……」

「学生ねぇ。あいつの学生時代はどんな感じだったんだ?」

 

 カサンドラは興味深そうに聞いた。独裁者の幼少期なんて、滅多に聞ける話ではない。

 

「……今とそう変わりありませんよ。スリザリンで自分の権力が強くなるよう精力的に活動していました。スリザリンは純血思想があったために上から三番目くらいに収まりましたが……。他の寮なら、『アンブリッジ時代』なんて呼称がされていた可能性はあります」

「あいつスリザリンなのか。の割にはスリザリンからも嫌われてるみたいだが」

「彼女は好かれようとは思っていませんよ。むしろ、嫌がりながらも自分に従う様を見て笑みを深くするタイプです。……彼女は嗜虐癖もありますからね。カサンドラも気をつけてください」

「ああ。生徒を拷問するような真似を見つけたら、消えてもらうことにするよ」

 

 カサンドラがそう言うと、マクゴナガルはため息をついた。

 

「……できれば、やめていただきたいですね。今アンブリッジが消えれば、ホグワーツは独立性を維持できません」

「だが、生徒が拷問されるような暗黒時代が来るよりマシだ」

 

 カサンドラが断言すると、しばらくマクゴナガルは考えた様子だった。そして、はぁ、とため息をついた。

 

「まったくもってその通りです。……どうしてこんなことに」

 

 さすがのマクゴナガルも参っているようだった。彼女は教育者として優秀だがあくまで教師なのだ。政治家でも、政争に明け暮れたわけでもない。腹芸は苦手だし勢力争いも不得手だ。今まではそれでもよかったのだが。

 

「まぁ……ホグワーツも変わる時が来たと言うことだ。変わらないものはない。大事なのはどう変わるかだ。アンブリッジの独裁を許すのか、それともまた別の変化をするのか」

「……カサンドラはどう思いますか?」

「それこそ、私の意見なんてどうでもいいだろう? 何せ、ハリーの卒業と同時にいなくなる人間だぞ」

「……それもそうですね」

 

 マクゴナガルは立ち上がった。次の授業がある。

 

「カサンドラ、申し訳ありませんがポッターをよく見ておいてください。校内で『訓練ごっこ』をする分には問題ありませんが、校外に出るなら護衛が必要です」

「わかってるよ。……頑張れよ、マクゴナガル」

「それはあなたもですよ、カサンドラ。アンブリッジがあなたをよく思っていないのはご存知でしょう?」

 

 カサンドラは肩をすくめた。

 

「まぁな。でもまぁ、なんとかなるよ」

 

 カサンドラはかなり楽観していた。なにせアンブリッジは教育にメスを入れるという名目で来ているのだ。教師じゃなく警備員の人事は校長が握っている。つまり、カサンドラがどうこうなる可能性は低いのだ。

 

 ……今はまだ。




次回更新は諸事情のため1月13日とさせていただきます。
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