【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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自伝『私はマジックだ』 著:ギルデロイ・ロックハート


ダイアゴン横丁のサイン会

――1992年8月 ダイアゴン横丁

 

 カサンドラはウィーズリー一家を探してダイアゴン横丁を歩いていた。ローブだらけの集団の中でスーツを着た人間は相当珍しいのか、人混みが向こうの方から避けていく。賞金首になっているときのギリシャ市民みたいな反応に、思わずクスリとなってしまう。店の看板を眺めてみると、去年と変わらず混とんとしていた。ノクターン横丁はまるでイギリスのスラムみたいな雰囲気だったが、こっちは大通りみたいな雰囲気だ。ただし、今から二百年前くらいの。馬車が通っていないことが不思議なくらいだ。ダイアゴン横丁自体もそこまで広いわけでもないので、歩いていればいつか会うだろうという軽い気持ちで散策する。すると、集団の中で頭一つ大きい存在が見えた。ハグリッドだ。

 

「おーい、ハグリッド」

「おお、カサンドラか。元気だったか?」

 

 ハグリッドに近づくと、人混みが割れて、人混みに隠されていたハリーが見えた。

 

「そっちこそ。ホグワーツの森は平和か? それに、ハリー? どうしたんだ」

「もちろんだ。ハリーはノクターン横丁に間違って移動したらしくてな。保護したんだ」

「ああ。私もそこに行った」

「なんと? 大丈夫だったか?」

 

 カサンドラは苦笑する。

 

「大丈夫も何も、ただの商店街だ。何も心配はいらないだろう? まあ、子供に近づいてほしい場所じゃなかったが」

「カサンドラ!」

 

 ん? とカサンドラはハリーに顔を向ける。

 

「どうしてマルフォイのお父さんと楽し気に話してたの?」

「ダメだったか?」

「それは……マルフォイのお父さんだよ?」

 

 カサンドラはハリーの頭を撫でる。もう、と恥ずかしがってカサンドラの手から逃れた。

 

「ごまかさないでよ」

「いや。そういうつもりじゃなかった。まあ、私もルシウスも大人なんだ。まさか天下の往来でやり合うわけにもいかないだろう? 理由もないしな」

「だが、気をつけろよ、お前さん。ルシウスは死喰い人(デスイーター)だ」

「ヴォルデ……ああ、もう。例のクソッタレ魔法使いの手下か?」

「ああ。服従の呪文にかけられていたと主張して罪を逃れた」

「ふうん……そうなのか」

 

 カサンドラはルシウスの姿を思い出す。確かにいかにも悪そうな感じの男だったが……悪の魔法使いというよりも、貴族であることを優先しているように見えた。

 

「ああ。さて、ハリー、ウィーズリー一家はどこにいるんだろうな」

「多分フローリッシュ&ブロッツ書店だよ。すごい量の教科書が指定されてて。ほら、見てよカサンドラ」

 

 ハリーはカサンドラにホグワーツから届いた手紙を見せた。基本呪文集や二年生の歴史の教科書など、基本的なところは去年と変わらないらしい。大事なのは最後のシリーズ。

『泣き幽霊バンシーとのナウな休日

 グールお化けとのクールな散策

 鬼婆とのオツな休暇

 トロールとのとろい旅

 ヴァンパイアとのバッチリ船旅

 狼男との大いなる山歩き

 雪男とゆっくり一年』

 カサンドラは顔を引きつらせる。

 

「これが……教科書?」

「今年の先生はきっとギルデロイ・ロックハートのファンだよ。魔女に大人気なんだって。まさかカサンドラまでそうだなんて言わないよね?」

「まあな」

 

 ()()()()()()ことを知ったらショックを受けそうだな。なんてことを考えながら三人は書店へと足を運び……驚愕する。この時期は学生で込む書店だが、今日はどういうわけか大人の魔女が列を成して書店に押しかけているのだ。

 

「……転入生か?」

「どうみても卒業してるでしょ……」

 

 カサンドラは列をきょろきょろと眺め、そして目的の人物を見つけた。

 

「モリー、アーサー」

「あら! カサンドラ。それにハリー。心配したわよ。今フレッドとジョージが探しに行ったわ。もうそろそろ戻ってくると思うけど……」

「それはいいんだが、この列はなんだ?」

 

 カサンドラが聞くと、モリーは信じられないというような顔をした。

 

「まあ! なんてことでしょう! ギルデロイ・ロックハートを知らないなんて!」

「そうよ、カサンドラ、私も本で読んだわ。彼は素敵よ!」

 

 聞こえてきた甲高い子供の声に、カサンドラはげんなりとした。

 

「まさかお前まで入れ込んでるとは思わなかったぞ、ハーマイオニー。元気だったか?」

「ええ。『入れ込んでる』なんて表現してほしくないわ。私は、純粋に彼の冒険に敬意を払っているだけよ!」

「悪かった。ハーマイオニー」

 

 お手上げとばかりに肩をすくめると、ハーマイオニーのそばにいた男女がおずおずとカサンドラの前に出てきた。

 

「私はメネラオス・グレンジャー。それと、妻のヘレンです」

「ヘレン・グレンジャーです。カサンドラさん、去年は娘がお世話になったようで」

「ああ、よろしく。私はカサンドラ。ホグワーツの警備員だ。別に特別なことはしていない。ただ仕事をしただけだ」

 

 ハーマイオニーの両親と握手をしたカサンドラは、嬉しそうに顔をほころばせる二人の様子を怪訝に思う。

 

「どうしたんだ? その、私はただの警備員だ」

「とんでもない。私は年長者は尊敬します。それが、その、『とんでもないくらい』の年長者ならなおさらです」

 

 どうやらハーマイオニーは親にずいぶんと話しているらしい。秘密にしているわけではないので、特に怒ったりはしないが、賢者のようなことを期待されても困る。

 

「あー、なるほど。だが、私はこうしてごく普通の人間だ。それよりも、魔法界はどうだ?」

 

 恥ずかしくなって、カサンドラは話題を変える。

 

「ええ、素晴らしいです。不思議と、神秘に満ちています。ウィーズリーさんもとても素敵な人で、本当によかった……去年はトロールやらケルベロスやらの名前が娘から出てきて、本当に、心配で死んでしまうかと思いました」

「トロールに関しては危なかったが……まあ、私が始末した。ケルベロスの件に関しては、あんたからもよく言い聞かせておいてくれ。ケルベロスの邪魔をすれば、そいつの代わりに冥府の門番をする羽目になるとな」

「ええ、本当に……。全く。確かに友達ができてほしいとは思いましたが、神話の生き物を出し抜くようなことはしてほしくありませんでしたよ」

 

 カサンドラは恥ずかしくて顔を赤くしているハーマイオニーの頭を撫でた。

 

「今年はケルベロスもトロールもいないが、危険なことはしないでくれよ」

 

 恥ずかしそうにしながらも、ハーマイオニーはカサンドラの手のひらを受け入れている。若干嬉しそうだ。

 

「わかってるわ、カサンドラ。去年はごめんなさい」

「いいんだ。お前が生きてるならそれで」

 

 ハーマイオニーを気のすむまで撫でると、モリーの顔が若干怒りの表情にシフトしていることに気づいた。カサンドラは何がスイッチだったんだと思いながらも一歩離れる。

 

「あ、あの、ミスタ。()()()()()とおっしゃいませんでしたか? そのケルベロスを、()()()、どうしたっておっしゃいました?」

 

 カサンドラはロンを見た。すごい勢いで顔を背けたロンを見て、カサンドラはモリーが怒りそうになっている理由を察した。

 

「ええ。学年末に聞かせてもらったんですが、はは、大事な秘宝を守るため、友達と一緒に校則で禁じられた部屋に入って、その奥にいたケルベロスやたくさんの罠を突破した話をしてくれたのですよ。本当に、規則規則で周囲と合わなかった娘が……本当に、よかったです。危険は避けてほしいですが」

 

 メネラオスとしては微笑ましいエピソードを語ったつもりだろうが、モリーにとってしてみれば、そう、『証拠』が手に入ったようなものだ。

 

「ロン! あなた、そんな大事なことを親に黙っていたんですか!」

「だ、だって信じないだろ!?」

「校長先生から秘密を守るために貢献したと直々にお手紙があったわ! 凄い貢献をしたと! まさか! あの手紙が! 『あまり怒らないでやってほしい』という意味だったとは思いもしなかったわ!」

 

 道の往来でお説教モードになったモリーにカサンドラは、処置なしとモリー達から視線を外し、書店のほうに視線を向ける。『ギルデロイ・ロックハートサイン会会場』の立て看板が見えた。

 

「あー、モリー。ロックハートに聞かれたら()()じゃないか?」

「……まあ! そうね、ありがとうカサンドラ。やだ、私ったら」

 

 一気に鎮火したモリーにあきれていると、ロンがゆっくりと忍び寄って、小さくカサンドラに言った。

 

「ありがとう、カサンドラ。僕、ロックハートの本嫌いだったけど、ちょっとだけ好きになった。ほんのちょっとだけね」

「そりゃよかった」

 

 カサンドラはそれからウィーズリー夫妻、グレンジャー夫妻、グリフィンドール三人で楽しくおしゃべりして列を待った。そして、書店の中に入るくらいまで列が動いたところで、キラキラとしたスマイルを絶やさないロックハートが一行にも見えた。ロックハートはカサンドラを見つけると、嬉しそうな表情をして、カサンドラのほうへと歩いてきた。

 

 

「やあカサンドラ! まだ手紙に書いた日は先でしたが……これこそが見せたかった光景です! 私の功績の結果はどうかな? 魔法界中が、この私に熱狂しているのですよ! これ以上なく、証明できたと考えているのですが、いかがですかな?」

「確かに、これほどの人気を獲得するのは……そして維持するのは類稀な才能が必要だろうな。口だけじゃないようで何よりだ。だが、私は途中で仕事を放り投げるやつと仲良くすることはない」

「それはそうですとも! これはただのあいさつですよ。……おや? あなたは、もしやハリー・ポッター!?」

 

 ハリーに気づいたロックハートは有無を言わさず彼の腕をひっつかみ、サイン台のところまで連行していってしまった。

 

「さあ、皆さん! 今日はなんと素晴らしい一日なのでしょう! 記念日にしたいくらいです! ()()ハリー・ポッターが私の本を買いに、書店にやってきたのですから! それも、ちょうど私が最新自伝『私はマジックだ』の発売記念サイン会を行っている最中に! この奇跡を祝して! 英雄、ハリー・ポッターは、栄光を手にするのです! つまり、最新自伝『私はマジックだ』と、私が今までの、冒険自伝を、全て! プレゼントいたします!」

 

 パシャパシャとフラッシュがたかれる。何十もだ。

 

「ほら、ハリー、笑って」

「え、ええ……?」

 

 ぎこちなく、ハリーは仕方なくほほ笑みを作り、ロックハートと握手した。さらに激しくフラッシュがたかれる。

 

「そして、今ここに宣言しましょう! 私は、今年の『闇の魔術に対する防衛術』の教師に就任したことを! ええ、おっしゃらないで。確かに、ホグワーツにはくだらないジンクスが存在することは知っています。しかし、そのジンクスは今年で崩壊します。何せ、この私が担当教師になるのですから!」

 

 凄まじい自信だ。カサンドラはほほ笑みながらその様子を見る。

 

「……ねえカサンドラ、ロックハートが教師になること、知ってたの?」

「ん?」

 

 ロンが聞いてくる。

 

「まあな。だが、職務上のことをペラペラ話すわけにもいかないだろう」

「マグルってみんなハーマイオニーみたいなんだね」

 

 それは、魔法使いが適当すぎるだけだと思うが。周りに魔法使いが山ほどいるここでその言葉を言うことはなかったが。

 

「でも、本当ならすごいことよ! ロン、今年のホグワーツは去年よりも守りが強固よ! なにせ、カサンドラにロックハート先生がいるんだもの!」

「あー、うん、そうだね」

 

 ロンはげんなりとしている。まあ周囲の女性がみんな一人の男の名前を叫んでいるのだから面白くはないだろう。カサンドラは困惑気味なハーマイオニーの母親、ヘレンにそっと近寄る。

 

「有名人らしいが、どう思う?」

「私は……マイケル・ジャクソンのほうが素敵だと思うわ」

「奇遇だな。私は『ブラック・オア・ホワイト』が好きなんだが……」

「ああ、素敵ね……。私、『ヒール・ザ・ワールド』も好きなの」

 

 カサンドラはハリーがもみくちゃにされて戻ってくるまで、ヘレンと好きなアーティスト談議に花を咲かせていた。

 

「……ひどい目に遭った」

「おや、ポッター」

 

 へとへとのハリーに、さらに受難が待っていた。書店の入り口からやってきたドラコ・マルフォイが挑発的な笑みを向けて、ハリーに突っかかってきたのだ。どうやら父親のお話は全く彼の心に響かなかったらしい。

 

「お偉い、有名人のポッターは書店に行くだけで一面記事で、著者直々に本をプレゼントしてくれるらしいな」

「うらやましいならそう言ってよ。代われるなら代わってやりたいよ。それに、マルフォイ。僕がさっき『ひどい目に遭った』って聞いてなかったの?」

「そういうポーズなんだろうさ。え? 次はなんだ、この記者団を引き連れて、買い物に行く先々で記者会見か?」

「記者の人たちだってそこまで暇じゃないと思うよ」

 

 日刊予言者新聞の記事の内容を知っているカサンドラは、それもあり得ると思ったのだが、ハリーはため息交じりにそう言うだけだった。

 

「それに、ハリーがこんなのを望んでるなんて本気で思ってるの!?」

 

 ジニーが怒った様子でマルフォイに言い募る。マルフォイはその言葉を一切無視して、ハリーをせせら笑う。

 

()()()ガールフレンドができたようで何より。結婚したらお前はみすぼらしいウィーズリーの家で暮らすのか?」

「マルフォイ。彼女は関係ないだろう」

「ふん。……その馬鹿みたいな傷があるからって有名になるなんて、ずいぶんとお偉い身分――」

 

 絶好調でハリーをいびっているドラコの肩を、ステッキの頭が叩いた。

 

「これ、ドラコ。失礼するでない」

 

 ぐい、とステッキで息子を脇にやるあたり、今日一日でドラコの評価はダダ下がりしたらしい。裏切られたような表情をドラコはしているが、信頼を先に裏切ったのはどっちなのか。

 

「初めまして。私はルシウス・マルフォイ。……彼の父親だ」

 

 語尾に『一応だがね』とつきかねないほど冷たい自己紹介だった。

 

「え、っと。初めまして。ハリー・ポッターです」

「さっきぶりだな、ルシウス」

「ああ。もう二度と会うことはないよう願っていたのだがね」

 

 ルシウスはハリーに手を差し出す。ハリーはほんの一瞬応えるかどうか迷ったが、できるだけ友好的に見えるように、ほほ笑んで握手を返した。

 ぐい、とルシウスはハリーを引き寄せ、長めの前髪をどかして、ハリーの額に刻まれた傷跡を晒した。

 

「これが……例のあの人につけられたという、『傷』か。なるほど……奇妙だ。もう十年も前だというのに……まるで、つい昨日つけられたかのように……。この傷は伝説だ。そして、それを付けた御方も……」

「この傷はただの傷で、この傷をつけたヴォルデモートも伝説じゃない。弱い人間相手に人殺し魔法を使って喜んでるだけの……殺人鬼だ」

「……かの名前を口にするとは。()()()()()()というのは、実に恐ろしい」

「ただの名前だ。それに、その『お偉い』伝説はカサンドラに手も足も出なかったんだ」

 

 ルシウスはカサンドラを見る。

 

「……ほう?」

「多少苦労したが、大したことはなかったな」

「――なるほど。堂々とするだけの理由はあるらしい。だが……ミスターポッター。この傷はまだ……君に痛みを与えているのではないかな?」

「……え?」

 

 ルシウスがしげしげと傷を観察していると、列を割ってアーサーがやってきた。

 

「モリー、双子を回収してきたぞ。……全く、まだ並んでいるのか」

「これはこれは、アーサー・ウィーズリー」

 

 ルシウスはハリーから手を離すと、厳しい目でアーサーを見た。

 

「ルシウス」

「ずいぶんと……そう、苦労なさっているようで。毎日徹夜も辞さない勢いで無駄な調査に血道をあげて……得られるのはほんのわずかな給料と来た。残業代は……このようでは出ないようで。ウィーズリー、今年は大丈夫なのかな? 教科書がずいぶんと多いようだが……。くくく、あと数冊追加で教科書が指定されれば、破産していたかもしれませんな。教科書の購入ができずに破産する魔法使いがいたとしたら、それはあまりに……くくく」

「なんだと? ひどい侮辱だ」

「確かに」

 

 ルシウスはジニーが手に持つ大鍋の中に入れられた、擦り切れてぼろぼろになった本を手に取った。

 

「破産はしないでしょうな。何せ、山ほどいる兄弟で教科書を使いまわすのですから。しかし、普通、聖28族に数えられるほどの家ならば、長女の入学準備くらい、全て新品で揃えてしかるべきという考えは……ウィーズリーにも理解できると思うのですが、まあ、魔法使いの面汚しに進んでなるような奇特なお方だ、持って当然の常識を知らなくても無理はない」

 

 本をしげしげと眺めてから、ルシウスは本を大鍋に戻した。

 

「マルフォイ。魔法使いの面汚しがどういう存在かで、我々の認識は違うようですな」

「さようで。『血を裏切る者』らしい言い方だ……それに」

 

 じろりと、グレンジャー家とカサンドラを舐めまわすように見てから言った。

 

「このようなマグルの、魔法界にふさわしくない者と仲良しこよしなど。このようなとき、どのように表現すればいいのか。……そうそう、落ちるところまで落ちた、というやつですな」

「ルシウス!」

 

 いきなりアーサーがマルフォイにつかみかかって、そのまま書店の中で殴り合いのけんかを始めてしまった。

 

「おいおい。グレンジャー一家はこの場を離れろ。魔法が飛んでくるかもしれない」

「わかりました。カサンドラは」

「喧嘩の仲裁程度、容易い」

 

 カサンドラが言うと、グレンジャー夫妻は一人娘を連れて書店から離れていった。

 

「やれ! パパ! ルシウスをやっつけろ!」

「父上! そこだ! やっちゃえ!」

 

 立ち上がり、お互い密着して殴り合う二人を、お互いの息子たちが応援している。カサンドラは拳を振り上げるアーサーの手を取ると、二人の間に割って入った。

 

「二人とももっと鍛えろ。子供の喧嘩かと思ったぞ。実力も、理由もな」

「くっ、傭兵。マグル風情に何がわかる……!」

「今私が問答をするとは思わないことだ」

「生意気なことを言って! 必ず後悔させ、ぐ」

 

 ルシウスのみぞおちに拳を叩き込むと、彼は蹲って地面に座り込んだ。

 

「はんっ! ざまあみろマルフォイ! これに懲りたら」

 

 叫ぶアーサーに、カサンドラは非情に告げた。

 

「残念だが両成敗だ」

「え」

 

 どむ、といい音がして、同じようにカサンドラの拳がみぞおちに沈み込んだ。アーサーは声もなくノックダウンさせられた。お互いの子供たちが親に縋りつく。

 

「父上! だ、大丈夫ですか!?」

「パパ! カサンドラ、なんで!」

「なぜか? 喧嘩は両成敗だと昔から決まってる」

 

 ロンとマルフォイはお互いを睨みつける。

 

「二人とも、これ以上喧嘩するなら今度は気絶させるぞ」

 

 ルシウスは息子の肩を借りてゆっくりと立ち上がった。

 

「……はあ、はあ。や、野蛮なことだ。いいか、私は」

「黙らせてやってもいいんだぞ」

 

 カサンドラが言うと、ルシウスは悔しそうに黙った。

 

「……必ず後悔させてやる。行くぞドラコ!」

「はい、父上!」

 

 マルフォイ親子は言葉の勢いとは裏腹に、ゆっくりと書店から去っていった。

 

「まったく。子供か」

「あ、ああ、すみません」

 

 全くだ、というと、書店の奥の方から怒れる女性がやってくるのが見えた。

 

「……私は一切擁護しないからな」

「何が……」

 

 カサンドラが指で女性……モリーのほうを指すと、アーサーは顔を青くした。

 

「も、モリー、じ、事情があったんだ」

「事情!? こんな天下の往来で、大の男が! 殴り合いの喧嘩!? 恥ずかしくって消えたいくらいよ! 子供たちに随分と素晴らしい手本を示してくれてありがとうアーサー! これで今度の兄弟喧嘩の言い訳は決まったわね『だってパパがやってたじゃん』って! なんて情けないの! さあ、もう買い物は終わりました! 帰るわよ!」

「わ、わかった。すまなかった、モリー」

「まったくです!」

 

 カサンドラは肩をすくめた。本当に、大家族とは大変なんだな、と。

 

「ああ、モリー。私は少し野暮用がある。ここでお別れだ」

「あら。いいの?」

「ああ。じゃあ、また会おう」

「ええ。また招待させてね」

「手紙を待ってる」

 

 そう言って、モリー達は去っていった。ハリーたちも口々に別れを告げ、帰っていった。

 

「……」

 

 カサンドラはそれから、サイン会が終わるまでずっと、ダイアゴン横丁で過ごした。




映画だとアーサーはちょっと我慢強くなります。ルシウスがドラコをどけるシーン、ルシウスは内心ピキってたんじゃないかと今にして思えば思います。

グレンジャー夫妻の名前は探しても出てこなかったので、ギリシャ神話のヘルミオネーの両親から名前をとりました。
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