【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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闇の帝王が成し遂げたもの

 ハリーがある種のほほんと、ゆっくりとしたペースで訓練しているのは、事態がこちらにとって遥かに有利だからだとばかり思っていたからだ。

 それなのに、新聞に書かれた事はハリーの想像とは違い、『死喰い人』たちによる被害が明確に出ている。——早急に対処するべきだと、ハリーは強く決意していた。

 

「ダンブルドア先生、カサンドラ。どうして『死喰い人』が活発になってるのに、僕はこうして……普通に学校生活なんて送ってるんですか?」

 

 校長室に来るなりそう切り出したハリーに、ダンブルドアは痛ましいような顔をした。

 

「ハリーや。どうかわかっておくれ。たとえどれほどの犠牲が出ようとも、ワシたちはお主に過酷な訓練を課す事はないのじゃ」

「なぜですか! もっと厳しい訓練をすればきっと——」

「きっと、なんだ? お前と同じことを考えた国があった。アメリカだ。ベトナム戦争時代に短期で即戦力を作るべく過酷な訓練を施し……その結果、戦争が終わった後、まともに生活も送れないような人間が量産された。ハリー、お前の人生はヤツを消した後も続く。いや、お前の人生プランから言って、ヤツを消してようやくお前はお前だけの人生を歩めるんだ。その時にお前、『厳しい訓練』の記憶に苛まれるような人生を送りたいのか?」

 

 カサンドラは腕を組んで憮然と言った。ハリーは信じられなかった。

 

「冗談でしょカサンドラ? スパルタの人がそんな甘いことを言うなんて!」

「その『厳しいスパルタ』は滅んだぞ。とっくの昔にな。前も言ったが、滅んだ国の練兵術なんてそんなに固執するようなことじゃないのさ」

「違う……カサンドラは僕に戦ってほしくないから、先延ばしにしてるんだ!」

 

 ハリーが指摘すると、カサンドラはあっさり頷いた。

 

「その通り。お前はどんなふうに情勢がかわろうが、誰が何を言おうが、17歳になって成人するまで実戦には出さない。だから、のんびり訓練しても問題ないってわけだ」

「でも! でもカサンドラ、グリフィンドールの生徒の親が奴らに殺されたんだ!」

「焦る気持ちはわかる。ワシも心苦しい。しかしお主が関わるべきことではないのじゃよ」

「そんな——僕が! 僕が一刻も早くヴォルデモートを倒せば!」

「倒したところですぐに事態は収まらないぞ」

「——え?」

 

 ハリーは驚愕の声を上げた。そんなはずはない。ヴォルデモートを倒せば『死喰い人』達は支柱を失って瓦解するはずだ。

 

「一度ヤツは復活してる。二度目がないなんて誰が言える?」

「言えるように、万全を期すのじゃよカサンドラ」

「わかってる。話の腰を折らないでくれ。——とにかく、一般市民にとって……そして、『死喰い人』たちにとってヤツはどんなふうに倒したとしても『いつか復活するご主人様』だ。——なぁダンブルドア、今気づいたんだが、奴の前に『死喰い人』を皆殺しにしないと本格的に神格化されないか?」

 

 ハリーに説明しているうちに、カサンドラはハリーの説得どころではなくなってきていた。改めて、こうして事態を整理すると、現状はかなりまずいことに気が付いたのだ。

 

「う、うむ……。確かに……なくはない、かのう」

 

 ダンブルドアも同じことを気づいたのか、苦い顔をしてうなり始めた。残念ながら見習いアサシンであるハリーには事態がさっぱりわからない。ただ、自分を説得するより大事なことが判明したらしいことだけはわかった。

 

「キリストも『復活』が信仰の鍵だった。……1996年前の話だぞ。とにかく、ヤツを今消したら闇の魔法使いにとっての神になりかねないぞ。それは……ヤバいよな?」

「そうじゃのう……。とっても『ヤバい』のう」

 

 うーん、と2人揃って考えを巡らせ始めてしまった。

 

「え、えっと……カサンドラ、話の続きは……?」

「あ、ああ……。すまない。たった今気付いたんだがな、今ヴォルデモートを倒すのはかなりマズイ可能性が出てきた。ハリーが大人の戦士だったとしても、待てと言うしかないな」

「え、ええ? なんでそんなことになるのさ?」

「復活を果たすというのは重要な意味を持つ。ヤツはそう……『奇跡』を起こしたと言ってもいい。そんな人間を闇雲に消しても、新しい宗教が生まれるだけだ。闇の魔法使いや魔法界に蠢く犯罪者どもの救世主としてヴォルデモートが崇め奉られる——そんな未来が来たら悪夢そのものだぞ」

「そうなったら……ワシは死ぬほど後悔するじゃろうな」

 

 ダンブルドアはカサンドラを見て、それからハリーを見た。しばらく……いや、長い間、彼は目を閉じてずっと考えていた。

 しかし、目を開いた時、その瞳に迷いはなかった。ハリーが憧れた、あのキラキラした目をしていた。

 

「うむ、師匠として、決定事項を伝える。ハリーや、心して聞くがよい」

「……はい先生」

「まず、お主の懸念はワシらも理解した。一刻も早く事態の収集を望むお主の思い、ワシは嬉しく思う。しかし、先程ワシらが気づいたように、お主や我々が求める結果を出そうと思ったならば、今は時期ではない。まずは奴の勢力を削らねばならん。そしてそのための方策は……未だに、ワシですら思いついておらん。故にハリー、お主がやるべき事は一つじゃ。今のまま、ワシの課題をこなすが良い」

「——。っ、はい、先生」

 

 ハリーは言いたいことがたくさんあった。結局変わらないのか、とか。

 でも、ダンブルドアがしっかりと理由を言ってくれただけで、なんだか認められたような気がしていた。

 

 ——

 

 ハリーが去ったあと、校長室で2人は話を続けていた。

 

「……トムの神格化、のぅ。方便にしては随分と真に迫っておった」

「方便? 嘘だと思ったのか? ——まぁ、宗教とまではいかなくても、『死喰い人』残党が復活の儀式をするためにハリーを狙い続けるくらいはやると思ってるぞ」

 

 そっちの未来予想図も絶対に避けなければならない。もしそんなことになってしまったら、復活の儀式の方法は『死喰い人』同士で共有され、『死喰い人』を虱潰しに皆殺しにしない限りハリーの人生に平穏はなくなってしまう。

 

「それだけは絶対に避けねばならん。ならんが……ううむ……」

「何を悩む? まさか策がないってのは方便じゃなかったのか?」

「その通りじゃよ。無数に散らばる『死喰い人』がトムの死後に復活を目論まないようにする方法など何一つ思いつかぬ」

 

 カサンドラは肩をすくめた。

 

「一つ考えがある」

「なんじゃ?」

「ヤツの権力を支えているのは力だ。だが一方で純血という権威も使っている。それならばヤツの立場を危うくすればいいんじゃないか? 力だけの化け物だと『死喰い人』にも知らしめたら、少しはマシになるかもしれん」

「……それをどうやるのじゃ?」

「新聞を使ってネガティヴキャンペーンだ。淫売の息子だのなんだの、ダンブルドアとハリーにしたことをそっくりそのままヴォルデモートにさせる」

 

 ダンブルドアは顔を引き攣らせた。

 

「……冗談かのう?」

「もしブンヤ共が断るなら今度こそ軒先に吊るしてやる。ヴォルデモートに殺されるか、私に殺されるか、好きな方を選べと言うわけだ」

「カサンドラ、それではマフィアのやり口じゃよ」

「……悪い。まぁとにかく、手勢を消しても多分意味はないだろう。手勢そのものを自分から離させないと。どうする?」

 

 ダンブルドアとカサンドラ、2人して唸る。ヴォルデモートはたった1人で、しかも彼を倒すための戦力は着実に力をつけている。だが、ヴォルデモートのカリスマは、悪の魅力は、彼を倒しただけでは事態が終わらない可能性を示唆していた。

 

「……まず、スパイに話を聞こう。それからだな」

「……うむ、そうじゃのう」

 

 ダンブルドアがちょい、と杖を振る。しばらくすると、校長室にひとりの男が入ってきた。鉤鼻で、脂ぎった髪の毛をした陰気な男。スネイプだった。

 

「おぉ、セブルス。少し聞きたいことがあったのじゃよ」

「手短に願えますかな。吾輩、次の授業の準備で忙しい故に」

「——ああ、そういや、言ってなかったな」

 

 カサンドラが不意につぶやいた。

 

「なにか?」

「おめでとう、スネイプ。念願の科目だろ? お前に教えられた生徒は、きっと伸びるぞ」

「——当然である。吾輩が教えるからには、ウスノロには消えてもらわねばならん」

「そんなに教えがいのある生徒なんていたか? ネビルは最近メキメキ成績が上がっているみたいだが」

 

 カサンドラが言うと、スネイプはなんとも言えない顔をした。

 

「——吾輩、あのポッターめが教師志望と聞いて最初は失笑を隠せなかったのだが……ロングボトムを見るに、魔法薬学ほど才能がないわけではないらしい」

「うむうむ。長いこと、セブルスには我慢を強いておった」

「過去形とはまた興味深いですな」

「——ともかく、セブルスよ。知りたいことがあるのじゃよ。トムは現在『死喰い人』にとってどのような存在かの?」

 

 ダンブルドアは余計なことを言わず、結論だけを聞いた。先入観を持たずに答えて欲しかったのだ。

 

「どのような? ……なんとも、面妖なことをお聞きなさる。しかし、ちょうどご報告申し上げようとしていた事項でもある……。『闇の帝王はもはや帝王の器に留まらず、神の階を上りつつある』そう考える者が少なからずいます」

「なんと……! よもやそれほどとは」

「しかし……厄介だな。ヴォルデモート第一の使徒とか言って組織再編でもされたら宗教化まったなしだぞ」

「むぅ……。ワシとしては人の名誉を貶めるような真似はしたくないのじゃが……」

 

 ううむ、とダンブルドアは悩む。——彼には情報があった。純血主義の連中からヴォルデモートへの忠誠を揺るがすことが可能な情報を、証拠付きで握っている。だがそれはものすごくプライベートなことなのだ。中々策を踏み切るのには勇気と覚悟が必要だった。

「どうするべきか……」

「……とにかく、ダンブルドア。私のやる事は変わらない。ハリーを鍛える」

 

 そうじゃの、とダンブルドアは締めくくった。とりあえず、決断は先送りにすることにした。

 

「カサンドラ、先輩として忠告申し上げるが、ポッターにばかりかまけているようでは授業の質も、察するにあまりある……」

「ぐ……。わかった、わかったよ。ダンブルドア、私は私でやるべきことがあるらしい」

「うむ、そのようじゃのう」

 

 カサンドラは頷くと校長室から出て行った。今のカサンドラは正式なマグル学の教授なのだ。知識の低下を叫ばれる中教職に就いただけに、手を抜く事はできなかった。

 

 ——ままならないものだ。なにもかも。

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