【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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トム・リドルという人間

 ——1996年 10月 ホグワーツ校長室。

 

 カサンドラはホグワーツに戻ると真っ先に校長室に向かった。ダンブルドアは校長室で気難しい顔をして、カサンドラを迎え入れる。

 

「ケイティはどうだった?」

「応急処置はマダム・ポンフリーに。そして根本的な対処はセブルスに頼んでおる。しかし、かなり高度な呪いであるがゆえに……やはり、一度聖マンゴで精密検査が必要じゃろうな」

「——無事か。よかった」

 

 ダンブルドアから告げられた内容を聞いて、カサンドラはホッと一息ついた。

 

「うむ。そうじゃな、要約すればそうなるじゃろう。ではカサンドラ、聞き込みの結果を聞こうかの?」

「ああ。まず……あれはケイティに仕掛けられた物じゃなかった」

「ふむ……」

「ケイティが服従の呪文で仕掛け人にさせられていたところを、友人が止めた結果だ。呪いの品はトンクス経由で闇祓いに行った。問題あったか?」

 

 ダンブルドアは首を振る。

 

「全く。お主やトンクスの行いはまったくもって正しい」

「話を続けるぞ。ケイティは今日友人と3本の箒で一杯やってたところを、トイレに行った隙に『服従の呪文』にかけられたらしい」

「む? それはまことかの」

「ああ。不自然な点があったか?」

「うむ。その言葉が真実なら、ホグズミードに行ける人間しか犯人である可能性はない」

「そりゃそうだろうな」

「そして、ワシが考えておった第一容疑者はその時間、確実にホグワーツにいたのじゃよ。ミネルバが証人になるじゃろう」

 

 カサンドラは不思議だった。その言い方だとまるで——

 

「——お前まさか生徒を疑っているのか?」

「然り。……マルフォイじゃよ」

「お前なぁ。確かにあいつの親は『死喰い人』だ。だがその子供まで『死喰い人』とは限らんだろ?」

 

 カサンドラは頑なに信じようとしなかった。そんな彼女を、ダンブルドアはこの上なく好ましく思う。だが、現実は残酷だった。

 

「いいや。マルフォイはすでに『死喰い人』じゃよ。……そして、トムから一つ命令を受けて行動しておる」

「へぇ? 一体あのお偉い闇の帝王が子供にどんな命令をしたって言うんだ?」

「ワシの暗殺じゃよ」

「——それを本気でできると思ってるのか、あいつは」

 

 カサンドラの暗い声に、ダンブルドアは首を振った。

 

「失敗して、親子もろとも懲罰するつもりじゃろうな」

「今すぐドラコを止めるぞ」

「ならん。どうかカサンドラ、彼を止めてくれるな」

「なぜだ!」

「マルフォイの身の安全は、ワシを狙い続ける限り保証される。故に……騎士団に割ける手がない以上、泳がすほかないのじゃよ」

「だが……!」

 

 ダンブルドアはゆるゆると首を振った。

 

「残念じゃがこれはホグワーツ校長としての決定事項じゃよ。従ってくれるな、カサンドラ『先生』」

 

 ダンブルドアは先生という部分を強調して言った。——もはやカサンドラは警備員ではないのだ。

 

「——クソったれめ。いつから知ってた? 今回の人事が私を縛る物なら、私にも考えがあるぞ」

「それだけは違う。よいかの、ワシがお主に教職を打診したのは去年度の学期中。そして、マルフォイが『死喰い人』となりワシの暗殺を命ぜられたことをワシが知ったのは夏休み中じゃ。セブルスに確認してもらっても構わんし、なんなら『憂いの篩』で確認するかの?」

 

 つまり、ダンブルドアは状況を利用しただけなのだ。カサンドラとしてはなんとももどかしいが、実際問題、マルフォイの暗殺を止めてその先どうするのか、まったく考えが思いつかない。ドラコはともかく、その両親はどっぷりと『死喰い人』なのだ。対応が非常に難しい。

 

「……いや、いい。悪かった。私も少し熱くなってたようだ」

「気にすることはないじゃろう。新任教師が生徒思いで、ワシはとても嬉しい。……そして、事件の品が闇祓いに渡ったということはじゃ、学校としては、もうできることはないということじゃな。

 

 ところで、じゃ。ハリーの訓練で少し相談があってのう?」

「どうした?」

 

 相談? カサンドラは珍しい話の切り口に、思わず頭に疑問符を浮かべる。

 

「相談じゃよ。ワシはトムのことをハリーに教えるべきじゃと思う。そこで……去年からコツコツ集めておった、この記憶を、ハリーに見せようと思う」

「記憶を? なんでそんなもん集めてたんだ」

「まぁ……本来の『訓練』の内容じゃよ」

「——そうか。まぁ、一応私も確認する」

「そう言うと思って、用意しておるよ」

 

 ダンブルドアはさっと、執務机の上に憂いの篩を置いて、中に記憶を入れた。

 

「では、トムのことを知る記憶の旅を始めようかの」

 

 トム・マールヴォロ・リドルという男の生い立ちから半生が、第三者視点で綴られる。

 

 ——

 

 全ての記憶を確認し、憂いの篩から頭を上げたカサンドラは、ふむ、と腕を組んで難しい顔をした。

 

「これをハリーに見せるのは反対だな」

「なぜ、かのう?」

「この記憶は確かにヤツのことを知るきっかけになるだろう。だが……結局のところ、私としてはヤツのことを詳しく知らせるべきではないと思う」

「トムのことを知れば、トムを倒すきっかけをハリーが思いつくやも知れぬが?」

「殺す相手のことなんて、必要以上のことを知る必要はないんだよ。初めてならなおさらだ。ヤツは闇の魔術を使うバケモノ。人間とすら思わない方がいい」

「——ふむ」

 

 ダンブルドアは押し黙った。何せことは人殺し……ダンブルドアが全くの門外漢な分野である。だからこそ、彼は暗殺に関してはプロのカサンドラの意見を尊重せざるを得ない。

 

「孤児院で育ち、魔法しか取り柄がなかったために闇に魅入られてしまった哀れな人間を殺すより、災厄振り撒く闇の悪魔を殺す方がよっぽど精神的に楽だ。だから、この記憶はハリーには見せない。どうだ?」

「お主がそこまで言うなら、そうしようかのう。ではカサンドラ、代わりと言ってはなんじゃが、何か気付いたことはあるかのう?」

 

 カサンドラが先程までダンブルドアと見ていた記憶は、複数人の記憶だった。幼き日のヴォルデモートが、ヴォルデモート卿と化すまでの断片がここにはあった。ダンブルドアが気づいていない何かを、カサンドラが気付く可能性は十分にある。

 

「しっかし……。一通り見たが、ヤツは本気で教師志望だったのか? あのザマで?」

 

 カサンドラは記憶の最後の方、つまり、『闇の魔術に対する防衛術』の授業が呪われるその瞬間について言及した。対するダンブルドアは思案顔である。

 最後に『就職面接』に来た時のトム・リドルははっきりいって化け物に片足突っ込んでいた。ハンサム顔に翳りが見え、今のヘビ面に限りなく近かった。そんな状態で面接に来るのだからある意味でガッツがある。

 

「ワシは……そうではないと思ったし、今でも、トムは教師の器ではないと思うておるよ」

「私は……ヤツが教師になる未来もあるんじゃないかと思ったがな」

「——ワシの学校で闇の魔術を教えることはならん。ワシはお主の『技術変遷』ですら、思うところがあるんじゃぞ」

 

 ダンブルドアの言葉に、カサンドラは顔を顰める。

 

「冗談だろ? 拳銃やライフルは確かに一般人に触れられないようにはなってるが、闇の魔術ほど秘匿されてるわけじゃないんだぞ」

「それはわかっておる。故に禁止してはおらんじゃろ?」

 

 そう言われて、カサンドラは黙る。ため息を吐きたい気分だった。確かに、邪悪な魔法、凶悪な技術は存在する。だがその存在すら教えないと言うのはいかがなものかと彼女は思うのだ。まぁ、それが校長の方針だと言うなら従うが。

 

「それで。最後の方、ヤツはスラグホーン先生にしつこく聞いてたことがあったな。たしか……」

「ホークラックス」

 

 ダンブルドアは苦々しい表情でいった。その言葉を口にするのも恐ろしく、悍ましいと言う表情だった。まるで、一般人がヴォルデモートの名を耳にしたときのような、そんな反応だった。

 

「どういう術なんだ?」

「魂を分ける術じゃ。作り方は教える必要があるとは思えんゆえに省略するが……。魂を物に封じ込め、本体が死したとき、現世に魂を留めることによって、死を免れる方法じゃ」

「つまり、ヤツは16年前それで死を免れたってわけか」

 

 カサンドラはマグルの創作である悪の魔法使い、リッチを思い出していた。魂を別の場所に保管しており、元となる魂を破壊しない限り、活動しているリッチをいくら倒しても必ず復活する。そういうモンスターである。

 

「うむ、おそらくはそうじゃろう」

「だが、妙だな。それが本当ならヤツはもうすでに『不死』……。私の杖を求める理由はないはずだ」

「そうもいかん理由がある。ホークラックス……分霊箱はおよそ最も不死に近付ける闇の魔法じゃが、致命的な欠点が二つあるんじゃ」

「ほう?」

 

 欠点と聞いて、カサンドラが目を輝かせた。敵の弱点は多いにこしたことはない。穏やかな性格のダンブルドアにとって、彼女のその強かで凶暴な鋭さは恐ろしくもあった。

 

「まず、魂を分けるという都合上、分ける回数が増えるごとに、本体の魂が目減りするという欠点がある。一回目で半分、二回目で四分の一、三回目にもなると八分の一になってしまうのじゃ。

 次に、魂の保証はしても身体の保証はしないという欠点じゃ。事実、トムは16年前に赤子のハリーに倒されてから復活するまでに14年の歳月を費やしておる。復活を果たすまでは、本人はただの意識があるだけの塵にも等しい存在じゃった」

「なるほどな。いちいち2年前みたいな大掛かりな復活祭が必要になるわけか」

 

 なるほど、それなら確かに肉体が滅びる可能性が限りなく少なくなるヘルメスの杖を欲する気持ちもわかる。だが……。

 

「それでも解せないな」

「ワシは……お主の杖を手に入れたトムは、お主のように杖を使うことはないと考えておる」

「ほう?」

「つまりじゃ。トムにとってお主の杖は新たなる知見であって答えではないのじゃ」

「……まぁ確かに私の杖では分霊箱ほどの不死は望めないが」

 

 ヴォルデモートは完全な不死を求めている。道具にも、薬にも依存しない、完全なる不死を。

 その点、カサンドラの杖は一見ヴォルデモートが求める不死そのものに近く見える。だが、カサンドラは誰にも言っていないが……。この杖にも当然、欠点と呼ぶべきものがある。

 

 ヘルメスの杖がカサンドラの手から他者の手に渡った瞬間に、カサンドラは死ぬ。

 

 つまり、カサンドラは杖を奪われたらその瞬間に死ぬのだ。とてもではないがヴォルデモートの求める不死ではないだろう。

 

「今のトムは二つの目的のために動いておる。魔法界の支配、不死の探究。不死の探究が進む手立ては、カサンドラの杖を置いて他にないであろうな。魔法界に存在する最も強固な不死の魔法が、分霊箱じゃったのだから。それに満足できないとなると……」

「——マグルの世界にすら、手を伸ばす必要がある」

 

 ダンブルドアは頷いた。カサンドラがなおも言い続ける。

 

「……おそらく、ヴォルデモートはアブスターゴを通して『秘宝』の存在を知ったはずだ。さまざまな効果があるが……その中に、私の杖と似たような効果の『秘宝』がないとは言えん」

「うむ……」

「私が気付いたのは、ヤツが意外と信心深いってことだな。『最も強い数』ってなんのことだ?」

 

 カサンドラは不思議だった。7という数字に、トム・リドルが異様なほど拘っていたことに。

 

「魔法を扱う上に置いて最も効果が高くなると言われる数字じゃよ。起源は六芒星にあると言われ、六芒星の各頂点で6、それに加えて術者が立つ中心で1。合計7と、そういうわけじゃな。そのことから魔法界では7が最も魔法的に強い数字とされておる」

「で、ヴォルデモートが分霊箱を7……いや、6個か。それだけの数、魂を分けた可能性はどのくらいある?」

「高いとワシは見ておる」

「冗談だよな? 6回だぞ? 元の魂の……えっと……0.01%だぞ? ハエより魂の量少ないんじゃないか?」

「それでも、トムならやるじゃろう。——現に、ワシはすでに二つ、分霊箱を発見し、破壊しておる」

「ほう? 私には心当たりがあるぞ。4年前に『自分は記憶だ』とかなんとか言いながらジニーに巣食ってたクソ野郎が関係してるな?」

 

 カサンドラの言葉にダンブルドアは頷いた。机の引き出しからボロボロの日記を一冊取り出すと、机の上に置く。日記には牙による穴が空いていた。その穴からまるで血を流したかのように、黒ずんだインクが流れて固まっている。

 

「お察しの通りじゃよ。そして、もう一つ、ワシは分霊箱を見つけた。二つ作ったのなら……6個作られているとワシは考えておる。これがその『分霊箱』じゃ」

 

 ダンブルドアはローブのポケットから、一つの小さな指輪を取り出した。

 

「……そいつは?」

「『蘇りの石』……。魔法界の『秘宝』。ワシの『杖』、ハリーの『マント』に続く、至高の魔法具じゃ」

 

 禍々しい気配を放つ指輪を、ダンブルドアはじっと、じっと、焦がれるように見ていた。

 

 

 

 

 

 ——まるで今すぐにでも、その指輪を嵌めたいかのような、そんな表情をしている。




トムに関する記憶は全て原作通りですので全カットします。
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