【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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ロケーション:リドルの洞窟

 ——1996年11月 ホグワーツ

 

「おいポッター」

 

 図書室の一角。実に奇妙な光景が広がっていた。

 ロン、ハーマイオニー、ジニー、ハリー。そのグループの中に何故か、驚くべきことにドラコ・マルフォイがいるのだ。椅子を一つ開けて座っているが、目的は同じ。

 ダンブルドアを出し抜く計画を考えること。

 しかし……会議が始まって早々、ドラコは冷や汗を流しながらハリーを問いただすハメになった。

 

「さっきまでの話は本当か? お前、ダンブルドアが寝てるところに襲撃をかけて……防がれただって?」

 

 それが本当なら絶望である。その状況でも不意を打てないなら一体どうすればいいと言うのか。

 

「寝てるところとは言ってないよ。寝てるところを襲撃しようと真夜中に透明マントを着て校長室に入ったら、パッて灯りがついて、机に先生が座ってたってだけ」

「襲撃に気づいたって言うのか?」

 

 ドラコの質問に、ハリーは頷いた。なんとも奇妙な光景だった。マルフォイとハリーが喧嘩することなく会話をしている。ホグワーツ始まって以来の奇跡かもしれなかった。

 

「——食事中、夕暮れ時、朝駆け……時期を変えタイミングを変え、それでも不意は打てず、か」

「ハリー、もう無理矢理にでも隙を作り出すしかないわ」

 

 ハーマイオニーが発言すると、マルフォイが一瞬ムッとしたような表情になる。『穢れた血』に発言力があるのが気に食わないらしい。しかし、この場を追い出されるわけにはいかないのに加えて、ハーマイオニーの言葉はとても有用だった。

 

「何かの対処をしているときはきっと無防備になるわ。校長先生の前でド派手な悪戯をして、杖を使わせるの。その隙にやるのよ」

「ド派手な悪戯ってなにさ?」

 

 ロンが聞く。

 

「あなたのお兄様が詳しいんじゃなくって? 『携帯底なし沼』とか、『増殖するネズミ花火』とかしこたま買い込んで目の前で使ってやれば……」

「ハーマイオニー先輩、流石の校長先生も減点と罰則を言い渡すんじゃないかしら……?」

 

 ジニーはその時の光景を想像してゾッとなった。徐にロンやハーマイオニー達がダンブルドアの前に立ちはだかって、思い思いに悪戯グッズを使いまくる……。事情を知らない人からしてみれば、ハーマイオニー達が自主退学したいのかと思うことだろう。

 

「でも、やってみなくちゃわからないよ」

「点数に関しては任せて。私が減点分を取り戻すわ」

 

 凄い自信だな、とマルフォイは思ったが、彼女の成績、そして彼女がグリフィンドールにもたらす点数を思えば、大言壮語というほどでもなく、むしろ現実的なプランだと言える。

 

 ——寮対抗杯ねぇ。

 

 マルフォイは例年ほどに点数の多寡に熱を上げられなかった。とんでもなく重い命令が彼の心に重くのしかかっているからだ。こうして『血を裏切る者』に『穢れた血』それにハリー・ポッターと同じ机を囲んででも、彼には成さねばならぬことがあった。

 

「よし、一旦これでやってみよう」

 

 数日後、その計画は実行された。他の教師が数分かかる悪戯グッズの無効化がほんの数秒で終わったせいで、ハリーは襲撃のタイミングを見失い、襲撃は失敗。マルフォイとハリーは越えるべき壁のあまりの高さに絶句した。

 

 ——

 

 ——1996年 12月 イギリス

 

 クリスマス休暇を目前にしたある日、カサンドラはダンブルドアと共に洞窟が見える崖に立っていた。

 

「暖かくなってからじゃダメなのか? ジジイが寒中水泳なんかやったら死ぬぞ」

「ワシは大丈夫じゃ。死ぬ気はないが、マルフォイの策が完璧に成ったとしたら、ワシはそのとき死んでしまうからのう。できるだけ早くしておきたい」

 

 カサンドラは肩をすくめた。マルフォイが『死喰い人』となりとんでもない指令を命じられているのはカサンドラでもわかる。ハリーにすり寄っているのが何よりの証拠だ。

 

「ルシウスとナルシッサをなんとかできないか?」

「かなり無理をする必要があるじゃろうな。そして、ワシは彼らのために無理をする必要性がないと思うのじゃ」

「まぁ……ドラコはともかく、ルシウスもナルシッサもギンギンの『死喰い人』だからな……」

 

 難しい問題である。

 

「とにかく今は洞窟だ。この先に分霊箱があるんだな? まるで『ダンジョンズ&ドラゴンズ』だな。これから水泳判定して、そのあとは知覚判定か?」

「おぬしならば出目10で成功するじゃろうな」

 

 ぱちくり、とカサンドラは目を瞬かせた。絶対わからないだろうと思ってネタを出したのに、ダンブルドアは綺麗に返してきた。

 

「知ってるとは思わなかった」

「ほっほっほ。ワシは学校の先生じゃよ? 遊びの一つ理解せず務まるものではないのじゃよ」

「そいつぁ頼もしいな」

 

 カサンドラは両手を揃えるとぴょん、と寒空の下に飛び出して、氷のように冷たい海に飛び込んだ。入江のようになっているために波がうねり、泳ぎにくかったが、カサンドラにとっては大した労苦ではなかった。

 

 洞窟の中に入って水から上がると、カサンドラは後ろを見る。ピッタリとダンブルドアがついてきていた。

 

「あんた実は格闘もできたりしないか?」

「ワシは魔法使いじゃよ」

「まぁ、そりゃそうなんだが。で? ここが目的地か?」

「入口、と言ったところかの」

 

 ダンブルドアは杖を翳すと洞窟の中を調べる。やがて、何の変哲もない岩肌に手をつけると、つぶやいた。

 

「ここじゃな」

「わかった。じゃあ行くぞ」

「タダでは行けぬ。血の代償を払わねば」

「鶏の血で代用できないか?」

 

 カサンドラが聞くと、ダンブルドアはにっこりと微笑んだ。

 

「刃物を借りてもよいかの?」

「わかった」

 

 カサンドラはダンブルドアに近寄ると、アサシンブレードを展開した。シャキリと、特徴的な音が鳴る。

 

「そいつの刃がワシに向けられるのは、流石に恐ろしいのう」

「言ってる場合か?」

「痛っ……。痛いのは、できれば避けたいんじゃがのう」

 

 ぶちぶちと文句を言いながら、ダンブルドアは手のひらをぎゅっと握り込んで血を溜めると、岩肌に向かって撒く。すると、ただの岩にしか見えなかった部分が淡くなり、霞のようになって、消えてしまった。奥へと続く道がぽっかりと開く。

 

「では行こうかの」

 

 カサンドラとダンブルドアは洞窟を進む。しばらく真っ暗な道を歩くと、ほんのりと淡く輝く地下池にたどり着いた。向こう岸が見えないほどの大きな池だった。池の中央には何なら台座のようなものがあり、その台座にはいかにも毒々しい何かが並々と注がれている。その台座までは、カサンドラ達のすぐそばにある小舟でいくようだ。二人用の小さなボートだった。

 

「さて、改めて、手筈を確認しておこうかの。今からこの小舟で中央まで行く。お主は中央の台座にある毒液をワシがどのような状態になっても飲ませ続ける。異論はあるかの?」

「ないぞ」

 

 カサンドラは小舟に乗り込みながら答える。ダンブルドアも同じように乗り込むと、彼女は小舟を漕ぎ始めた。

 湖を進んでいくと、透明な湖の底に大量の死体が沈んでいるのが見えた。

 

「しっかし……あいつは空を飛べるんじゃなかったのか?」

「トムは飛べるが、トム以外は飛べぬ。故に足は必要不可欠なのじゃ。せめてもの安全策に、魔法使いの定員は一人と呪いがかけられておる」

「私が都合がいいわけだな。で、湖に沈んでるお邪魔虫どもはいつ仕掛けてくる?」

「おそらく湖に足を踏み入れた時か、あの毒液を飲み始めた時か、じゃろうな」

「そうか。なら、急いで飲まないとな」

「——……うむ」

 

 ダンブルドアはうなずく。中央まで来た。台座の周囲は小さな小島のようになっており、台座の中にはいかにも毒々しい液体があり、その横には小さなゴブレットがある。

 ダンブルドアは小舟から降りると台座まで歩き、ゴブレットを手に取ると毒液を一掬い。いかにも高級そうなワインの時のように匂いを嗅ぐ。

 

「おお……カサンドラ、朗報じゃ。この毒液、なんと無臭じゃ……お主何しておる?」

 

 ダンブルドアは振り向くと、カサンドラの様子を見て絶句する。彼女は彼女でなにやら作業をしていたのだ。頑丈そうなロープに……。

 

 ——漏斗がある。ダンブルドアは嫌な予感がヒシヒシとしてきた。

 

「何って、準備だ」

「その漏斗を何に使う気じゃ?」

「もちろん、流し込むためだ」

「——誰に? 何を?」

「お前に、その毒液を。それが命令だろう、ボス?」

 

 それはそうだ。それはそうなのだが。

 

「もう少し穏便にできんかのう?」

 

 冷や汗をかきながらダンブルドアが聞いた。

 

「何を言ってる? 飲むのを拒絶しても流し込めと言ったのはお前だろ? 健気な新任教師はボスからの指令を十全に果たすべくあらかじめ準備してきたんだ」

「……うむ、そ、そうじゃのう」

 

 ぐうの音も出なかった。

 

「さあ、寝ろ」

 

 カサンドラの手でダンブルドア地面に寝かしつけられ、口に漏斗をセットされる。口と漏斗をロープでしっかりと固定すると、ゴブレットを持つ。客観的に見たら老人を水責め拷問にかける女性という光景が広がっていることになる。

 

「お前の言が正しければこれで死ぬことはない。

 

 ——耐えろ」

 

 トクトクと、最初の一杯が注ぎ込まれた。

 

 ——

 

「——これで終わりだ」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「ほら、水だ。それから、マグルのジュースも用意してある。口直しに飲め」

 

 カサンドラはペットボトルの水を口を開けてダンブルドアに差し出す。彼はペットボトルを受け取ると、ごくごくと飲み干した。

 

「……生き返るのう。自分の意思で飲む水のなんと美味なことか」

「言ってろ。で? そのロケットが分霊箱か」

 

 カサンドラが聞くと、ダンブルドアはこれ以上なく苦々しい顔をした。しかめっつらである。

 

「どうした?」

「いや……。くたびれ儲けでないことだけを願っておるだけじゃ。これが分霊箱でなかったら、水責めをされたかいがないのでのう」

「?」

 

 まぁいい。とにかく、カサンドラは帰るべく小舟に近づく。すると、湖の方から動く死体やらなにやらがうぞうぞと蠢いてカサンドラ達の方に寄ってきた。普通なら驚き慄くべき場面。しかしここにいるのはカサンドラに、毒を飲んで弱体化したとはいえ未だ最強のダンブルドア。

 

「食後の運動に最適そうだな」

 

 カサンドラは背中から巨大な、燃え盛るハンマーを取り出してニヤリと笑う。

 

「彼らはただ、悪意ある魔法によって操られておるだけじゃ……そうわかっておるのに、八つ当たりに最適な相手が来たと喜ぶワシもいる。人とは実に因果で……業の深い生き物じゃのう」

 

 ギラリと二人の目が戦意に輝いて、戦闘が始まった。

 カサンドラが雄叫びを上げながら駆け出し、手近な亡者の頭をハンマーで振り抜く。炎上しながら亡者の頭は湖の端まで飛んでいく。

 ダンブルドアが杖を振るうと不死鳥のような形の業火が生み出され、水魔や亡者を灰にしながら縦横無尽に駆け回る。

 

「ワシらが力尽きるのが先か、奴らの全滅が先か……」

「結果なんてわかってる!」

 

 カサンドラとダンブルドアはそれから、鬱憤を晴らすように大暴れした。

 




用語解説『出目10』
本来ならばサイコロを振るべき場面で、ゲームの管理者がそれを許すならば、プレイヤーは出た目が10だったことにして結果を算出してよいとするシステム。おおよそ非戦闘時に用いられる。
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