【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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ダンブルドアの秘密/弱点

 ――1996年 12月 ホグズミード ホッグズ・ヘッド

 

 古びた木製の扉をギイと開けると、酒場中の視線が一瞬だけハリーたちに集中する。酒場にいる客は皆フードを深くかぶったり三角帽子を目深にしたりして、顔が見えないよう気を遣っている。相も変わらず闇の魔法使いやら『死喰い人』やらがたむろしてそうな客層である。ハリーとドラコはお互いに少しだけ目配せすると、ゆっくりとバーテンのところに歩いて言った。お互いに連れ合いはいない。ホッグズヘッドは彼女連れで行くような場所ではないのだ。

 

「こんにちは」

「おう。……注文は?」

 

 ぶっきらぼうに、バーテンは二人に促した。ここには何度か来たことがあるが、そのたびにこのバーテンに既視感を……つまり、どこかで見たことがあるように感じていた。彼がどのような人物かを知った今、なぜそう感じたのか、簡単に理解することができる。

 

「バタービールを二つ」

 

 ドラコがずい、とカウンターに乗り出して言った。バーテンはドラコを上から下まで見て、それから嫌悪感を如実に顔に表した。

 

「――フン」

「それから、少し聞きたいことがあります」

 

 奥に引っ込んでバタービールの瓶を取り出そうとしたバーテンの背にハリーは声をかける。彼はハリーを無視して店の奥に行こうとする。

 

「ダンブルドア先生についてです」

 

 ハリーが具体的に言うと、ようやく彼は動きを止めた。瓶を取るのをやめて、ゆっくりとカウンターの前に戻ってくる。

 

「それをなぜこんなバーテンに聞きに来る?」

「その前に――『マフリアート――耳塞ぎ』」

 

 ハリーは構えながら杖を取り出し、さっと呪文を唱えた。『半純血のプリンス』謹製の教科書に記されていた、プリンス自作の魔法である。この魔法の優れている点は音を『消す』のではなく『増やす』点であり、術の使用者を雑音の一つに紛れ込ませる。周囲に溶け込むことを良しとするアサシン的にも優れた魔法だった。ハーマイオニーは得体のしれない学生が作った魔法を使用することに苦言を呈するが、今のハリーにしてみれば、それがヴォルデモートが作った魔法だろうと、奴を消すために有用ならば使うことに是非はない。相手は世界最強の魔法使いと、最強の傭兵を同時に相手にしても逃げおおせるような化け物なのだ。

 ――ただ、それでも。ジニーや、死んだ両親に顔向けできないような手段を取る気はなかったが。

 

「これで秘密は守られるわけだ。さあ、アバーフォース・ダンブルドア。アルバス・ダンブルドアについて知っていることを教えてもらおうじゃないか」

「なぜワシがアバーフォースだと知っている? ――まぁいい。どちらにせよ答えは一つ。『NO』だ」

 

 バーテン……アバーフォースはドラコに向かってきっぱりと言った。だが、それではハリーは困るのだ。

 

「僕はダンブルドア先生から課題を一つ、言い渡されています。どんな手段を使ってでも、ダンブルドア先生から杖を奪う事。……そのために、ダンブルドア先生の弱点を知る必要があるんです」

 

 ハリーはドストレートに、何一つ隠すことなく言った。すると、アバーフォースはさすがに面食らった様子でハリーの顔をまじまじと見た。

 

「……あいつの杖を奪う? ――そんなことを学生ができるわけがない」

「できるわけがないかどうかは、アバーフォースさん、あなたの情報にかかっているんです」

「いやいや……しかし……。もしできたら、それは奇跡といってもいいだろう」

「奇跡だって? たかだか学校の先生の杖を奪うことに随分大げさな表現をするんだな?」

 

 ドラコは挑発するように言った。ハリーはこれがドラコなりの情報の引き出し方だともう理解していた。――そういえば子供の頃からこんな感じだった。ドラコは敵対者や協力的でない者から情報を引き出す手管に長けているのだろう。ハリーが苦手としている手法だった。

 

「お前たちは……そうか、知らないのか。哀れなものだな。自分たちがどんな無茶を言われているのか」

「なぜ、そう思う? あいつはもう耄碌し始めてる」

「耄碌してようが関係ない。あいつの杖は……『死の秘宝』のうちの一つだ」

 

 アバーフォースがそう言うと、ドラコは大きく目を見開いた。

 

「……な、なんだって? 『死の秘宝』……『ニワトコの杖』か?」

「そうだ。あれがある限り、あいつの魔法は強力無比、最強無敵、そういうわけだ」

 

 アバーフォースは断言した。ハリーとしてはその『死の秘宝』が何なのか物凄く気になったが……ここにハーマイオニーはいないし、隣にはドラコがいる。見せなくてもいい弱さは見せたくなかった。

 

「ポッター、本気でダンブルドアの杖が『ニワトコの杖』だったら、絶対に無理だ。最強の杖を手にした最強の魔法使い。――どんな不意をついても無駄だ」

「マルフォイはあきらめるの? 僕は違う。僕はやる。――それに、ダンブルドア先生は最強かもしれないけど、無敵じゃないし、欠点がないわけじゃない。本当に完全無欠なら、4年生の時に僕が三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)に参加する羽目にならずに済んだはずだ」

 

 ハリーが淡々と言うと、ドラコがハッとしたような表情になった。そうだ。『炎のゴブレット』自体に年齢を設定することができなかったために、ゴブレットの周囲に『年齢線』が引かれたのだ。その年齢線を突破し、ハリーは参加者の一人となった。

 そして、『年齢線』を引いたのは、ダンブルドア本人だ。もちろん、結果から見れば、『年齢線』は魔法的手段によって突破されたわけではない。わけではないが。

 

「いくらダンブルドア先生でも、魔法の発動すらできないくらい動揺して、意識に空白ができれば、絶対に防ぐことができない瞬間があるはずだ」

 

 ハリーは言い切った。その瞳には覚悟と、そして、強い意志があった。

 

「……お前、名前は?」

 

 その強い意志を感じたアバーフォースが、聞いた。

 

「ハリー・ポッター」

「……そうか。そういう、ことか」

 

 決まりだ。ハリーは内心そう思った。魔法界でこのタイミングでこの名前を聞いて、協力的にならないわけがない。半ば確信していた。

 

「……課題をこなすために、弱点が知りたいんだったな」

「はい」

「やめとけ」

 

 え? ハリーは思わず、そう声を上げた。隣のドラコも不思議そうにアバーフォースを見ていた。

 

「お前はあいつに利用されてる」

「それでもいい。僕にはなすべきことがある」

「……ずいぶんときれいに洗脳されたもんだ。お奇麗な思想に頭までどっぷりってわけか。――あいつは何も変わってない。学生の頃のあいつを知ってるのか、ハリー・ポッター。『死喰い人』もどきだったってのは知ってるのか?」

 

 ハリーは頭が真っ白になった。ダンブルドア先生が、若い頃は『死喰い人』? いや、違う。ハリーは時系列が合わないことに気付いた。

 

「ヴぉ……『例のあの人』が活動を始めたのはダンブルドア先生が先生になってからの話です」

「『もどき』だと言っただろうが。世紀の犯罪者、ゲラート・グリンデルバルトと仲良しこよしでどうマグルを支配するのか毎日楽しそうに話し合ってたよ」

「冗談はうんざりだ。ポッターを遠ざけるにしてももっとましな嘘があるだろうが」

 

 ドラコがアバーフォースに詰め寄ると、彼はバカにするようにして笑った。

 

「嘘だと思うか? お前らがどんな小細工を弄したのかは知らんが。『より大きな善の為に』と言いながら突撃してみろ。面白いほど動揺するだろうな」

「……『より大きな善の為に』?」

 

 ドラコが訝し気に聞いた。マグルを支配する、なんて『死喰い人』みたいなことを言う割に、そのスローガンはあまりにもちぐはぐに感じた。

 

「あいつらはマグルを支配することが魔法界にとって最も『善きこと』だと妄信してた。――バカバカしい」

 

 ハリーとドラコは一瞬顔を見合わせる。

 

 ――二人とも、ホグワーツ中で評判のマグル学を思い出していた。確かに、マグルの科学技術は魔法使いにとって脅威だった。通信技術、撮影技術は未だになぜ魔法使いが露見していないのか不思議なくらいだった。

 

「――とにかく。僕は……僕は、ダンブルドア先生が昔何やってたかなんて、今は関係ないと思ってる」

 

 そう、何もかも終わったことなのだ。今のダンブルドアは優しい校長先生なのだから。ハリーは動揺する心を、そう言い聞かせることで抑える。ダンブルドアの過去の片鱗を知ってもなおも忠誠を向けるハリーに、アバーフォースは面白い者でも見るような目を向ける。

 

「ふん……。今は関係ない? そんなことはない。弱点だったか。そんなに知りたいか?」

「もちろんです」

 

 アバーフォースはしばらく何も答えなかった。そして、ゆっくりとハリーを見る。

 

「利用されてるとわかっていても、か?」

「はい。僕だって、先生を利用してる」

「――お互い様ってわけか。――ボガートだ」

 

 え? ドラコもハリーも、同じようにぽかんとした表情をした。その表情が可笑しくてしょうがないのか、アバーフォースは意地の悪い笑顔を見せた。

 

「『真似妖怪』相手にそんな顔をできるのは、まっとうに生きてきた人間だけなのさ。闇が深いほど、後悔が多いほど、あの妖怪は脅威になる。『リディクラス』すら言う暇がないほど動揺するのさ」

「……でも……カサンドラはポイベーって女の子を死なせちゃったことを、ずっと後悔してるみたいだった。でも、普通に対応してたよ?」

 

 そう、カサンドラなら対応できた。だが……対応できるようになるまで2400年近い時間が必要である可能性も十分にあるが。

 

「ふん。俺はそのカサンドラってやつもポイベーって言うやつも知らん。知らんが。自分の手で殺したわけではあるまい?」

「……。――それは、そうだけど」

 

 ハリーは訝しむ。それじゃあまるで……。まるで、ダンブルドアが人を殺したことがあるみたいな……。そんな言い方じゃないか。

 

「もう俺からは何も言わん。知りたければあいつに聞け」

「……ありがとうございました」

 

 ふん。そう言って、アバーフォースは店の奥に引っ込んだ。

 

「……これで本当にうまくいくのか? 『より大きな善の為に』と叫びながら突撃して、隙を作りたかったら『真似妖怪』? こんなの、ホグワーツの2年生でもできるぞ」

「……きっとそういうことなんだろうね、マルフォイ。不意を打つこと自体は、そこまで難しいことじゃない。標的のことをよく調べれば……心の隙は必ず生まれる余地がある。でもマルフォイ、『より大きな善の為に』はなしにしよう」

「なぜだ?」

「それを言っちゃったら、僕らが過去を知ったことを先生に気付かれる。最後の最後、『いつも通りの襲撃だったな』と思わせておいて、ボガートを出して致命的な隙を生み出そう」

「……ああ」

 

 ドラコはそう言う事しかできなかった。それが最善だとドラコでも思ったからだ。

 ドラコはハリーを半ば恐れていた。もし、これでダンブルドアの殺害が失敗したら、ヴォルデモートに危機が迫るというだけではない。

 

 ――ハリーが、あまりにも狡猾で、まるで『暗殺者』のようだと、そう思ってしまったのだ。

 

 今のハリーなら、『透明マント』で何日にも渡る調査をして標的に対する理解を深めることすらするだろう。そのために、誰とでも仲良くなって。

 ドラコは今現在ハリーに対してそこまで隔意を抱いていないことに愕然としていた。『もしかしたらこいつとはもっと仲良くなれてたかもしれない』なんてぼんやりと思うくらい絆されていた。

 

 もしかしたら、それが才能というやつなのかもしれない。

 

 だが……ドラコはそれでも、ハリーに対して嫉妬することはなかった。

 

 暗殺者としての才能を開花させること。それが果たして幸せなのか、喜ばしいことなのか。それがわからなかった。

 

「行こうか、マルフォイ」

「ああ」

 

 もう情報収集は終わった。ボガートはホグワーツ中のタンスをひっくり返せば見つかるだろう。そうして帰ろうとしたとき、店の奥からアバーフォースが出てきた。

 

「ほら、注文の品だ」

「え?」

「バタービールだ」

 

 差し出された二つの瓶を、ハリーとドラコはそれぞれ受け取る。

 

「……一杯やってく?」

「僕とお前が? 冗談はほどほどにしろ」

「だね」

 

 ドラコとハリーは揃って店を出て、店を出た次の瞬間には別れて別々の道を歩き始めた。

 

 ――さよならも、挨拶もない。

 

 だが、罵倒も嫌味の応酬もまた、なかった。




ダンブルドアの過去は今はまだ概要だけ。あとでもう少し詳しくやります。多分
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