【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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バジリスク

――1993年5月 秘密の部屋

 

「うわあああっ!」

 

 ハリーはジニーの吹き飛ばし魔法をもろにくらい、カサンドラのそばまで吹き飛ばされた。

 

「さて、カサンドラ。実に残念だけどジニーを操ったところでジニーの魔法力が高くなったわけじゃない。悪意も殺意も十分なんだけど……流石に恋する乙女は強いね。ハリーと戦うとなった途端に抵抗が強くなったよ。もしかしたら、制御を奪い返されるかもね」

 

 セリフとは裏腹に、リドルは全く動揺したようには見えない。何を企んでいるんだ、カサンドラは訝しむ。

 

「僕も杖なし魔法だとそこまで強い魔法は使えないし……。ジニーだと使えるのは吹き飛ばし呪文とか、地面をツルツルにしたりする悪戯用の魔法がいくつか。うーん、戦うにはどうしても間抜けな絵面になっちゃうな」

 

 そうすると、リドルは名案を思いついた、というふうな顔をして大袈裟に振り返り、スリザリンの胸像に相対する。深く一礼すると、堂々と、朗々と宣言する。

 

「そういえばここには素晴らしい化け物がいたんだった!

 

さぁ、出よバジリスク』」

 

 スリザリンの口がごごご、と開き、そこから白い体の蛇が鎌首をもたげて現れた。慌ててカサンドラはすぐそばのハリーの頭を押さえ、地面の方に視線を向けさせる。

 

「見るな。いいか、見るんじゃない」

 

 カサンドラはバジリスクから視線を離しながら言う。目を見るだけで死を与える邪眼。カサンドラでさえ恐ろしいと思う化け物がすぐそばにいる。

 

「ハリー、私は継承者じゃないから、目を見たら死んじゃうの」

 

 リドルが操るジニーが半透明のリドルのそばに寄りながら言う。

 

「随分と子供の振りが上手いんだな。ロックハートの演劇授業はタメになったみたいだな」

「僕は天才なのさ。演技でさえ。

さあ、僕たちを守れ』」

 

 バジリスクは命令を実行し、大きな巨体をとぐろを巻くように動かし、リドルとジニーを隠した。

 

「さあ、カサンドラ。負けを認めたら命だけは助けてあげてもいい」

「ほざけ!」

 

 カサンドラはハルバードを構える。

 

「ハリー、動くなよ。絶対に視線を上げるな」

「う、うん」

 

 カサンドラは駆け出す。チラチラと首を動かすバジリスク相手に目を見ないようにするのは面倒なことこの上ない。

 

「クソ! 面倒臭いな!」

 

 のたうつ恐怖とはまた違った種類の恐怖。尻尾の先端が鞭のようにしなり、カサンドラに襲いかかる。その場で後方に向かって飛んで、その一撃を回避する。

 

「『グリセオ――滑れ!』」

 

 その着地点に向かって、摩擦をなくす悪戯が飛んでくる。踏み締めるはずの大地が、まるで氷のように滑る。カサンドラはバランスを崩し、膝をつく。立ち上がろうにもまるで踏ん張りが利かない。

 

「コケることもしないんだ。『フリペンド――吹き飛べ』」

 

 ジニーの杖を起点に魔法の弾丸が飛んでくる。カサンドラは地面にレオニダスの槍を突き刺して、もろに食らいながらも吹き飛ばされるのを防ぐ。すぐ目の前にバジリスクの頭がやってくる気配がして、カサンドラは慌てて視線を下げる。

 

「『フィニート・インカンターテム――呪文よ終われ!』カサンドラ逃げて!」

 

 ハリーの魔法によって普通の床に戻ったことを悟ったカサンドラはハルバードを振り上げて、大口を開けるバジリスクに向かって前進した。

 

「オオオオオオオオッ! 口を割ってやる、化け物が!」

 

 カサンドラはハルバードを振り下ろし、バジリスクの口腔内、下顎を縦に割った。カサンドラに突撃していたバジリスクは、痛みのあまり首を振って痛みに身を捩った。

 

「なっ……正面から迎撃だと?

バジリスク!もう一度だ!』」

「『痛いのに無理しちゃダメ!カサンドラから離れないと殺されちゃうよ!』」

 

 ハリーが言うと、バジリスクは悲鳴を上げてカサンドラから離れた。周囲の水場から秘密の部屋の周囲にある移動用のパイプへ潜り込み、リドルたちを守ることも忘れて身を隠す。

 

「クソッ! 所詮は蛇か! だがどうする。僕は殺せないぞ!」

「カサンドラ、日記だ! 日記を壊せばきっと!」

 

 日記だと!? カサンドラは周囲を見わたすが、それらしいものはどこにもない。

 

「ジニーに持たせてるのか!」

「もちろん。ジニーを殺して漁ってみるかい?」

 

 カサンドラはハルバードを握りしめる。ジニーの体は11歳の女の子のものだ。生き物として貧弱すぎて、カサンドラの一撃がカスリでもしようなら致命傷を負いかねない。バジリスク対策にと大型武器ばかり持ってきたのが完全に仇となっている。

 

「それに、バジリスクも誰が継承者か思い出したみたいだ」

 

 カサンドラの背後で大きな水しぶきが上がる。カサンドラの背後のパイプから大口を開けてバジリスクが迫る。カサンドラがジニーたちに向かって駆け出すと、つい一瞬前までカサンドラがいた場所を、バジリスクの牙が通り抜けた。ハルバードを握ったカサンドラは、迫りくるバジリスクの気配を感じ、右に跳ぶ。バジリスクの突撃を回避したカサンドラの時間感覚が引き延ばされる。周囲はやけにゆっくりと動き、けれどカサンドラは普段通りに動く。

 

「ウオオオオオオオッ!」

 

 雄叫びと共にカサンドラはハルバードを振り上げた。全身の血液が沸騰したかのように熱くなり、最大効率で体を動かし、目の前にある壁みたいな大きさの胴体に向かってハルバードを振り下ろす。

 金切り声を上げて、バジリスクがのたうちまわる。カサンドラの一撃は胴体を半ばほどまで断ち切っていた。勢い余って地面に当たったハルバードは、地面に小さなクレーターを作るほどの威力があった。カサンドラはそのまま一歩踏み込むと、今度はハルバードを思い切り振り上げるようにして斬りつけた。同じように重症を与えられたバジリスクは、全身を真っ赤に染めながら顔をカサンドラに向ける。バジリスクの周辺にびしゃびしゃと返り血が降り注ぎ、カサンドラの全身を真っ赤に染める。バジリスクはカサンドラの視線を追い、目を合わせようと必死に顔を動かす。バジリスクが本気で敵を殺そうとするときの行動である。全神経を視線を合わせることに集中させ、目を閉じたらその瞬間に噛み砕く。野生動物らしい、合理的な戦術だった。

 

「クソ、厄介だな」

「ちっ。『バジリスク、そこの男を狙え!』」

「『バジリスク、早く逃げないと死んじゃうよ!』」

 

 ハリーとリドルが同時に命令する。だが、極限状態のバジリスクは2人の、他人の言うことなんて聞いている余裕はなかった。スリザリンに生み出されてから長い年月が経った。その中で最も危機的な状況なのだ。バジリスクは必死だった。必ず、必ず目の前の小さな化け物を殺さなくてはならない。たとえ継承者の指示に従うという使命に背いてでも、目の前の化け物を殺さなくては。

 

「ダメだ! このままだとカサンドラが……」

 

 ハリーはカサンドラを助けられない自分をひどく恨んだ。誰か、誰でもいい。ハリーはほとんど神頼みに近い心境で助けを求める。誰か。

 

 その時、鳥の鳴き声が聞こえた。ハリーがハッと空を見上げると、真っ赤な炎のような色をした鳥が一羽、組み分け帽子を掴んで飛んできていた。

 

「……不死鳥……? フォークス?」

 

 長い尾羽が特徴的なその鳥は、組み分け帽子をハリーのそばに落とすとバジリスクに向かって急襲をかけた。カサンドラを殺すため全神経を集中させていたバジリスクは、視界外から襲いかかってきた小さな鳥に全く気付くことが出来なかった。バジリスクが不死鳥に気付いたのは、視界いっぱいに不死鳥のかぎ爪が映り、そして激痛と共に目が見えなくなってからだった。

 

「よくやった! フォークス!」

 

 カサンドラはハルバードを担いで駆け出す。もう一方の目を不死鳥が抉り潰した頃には、カサンドラはハルバードを振りかぶっていた。

 

「――!?」

 

 そこで、急激に力が抜けていくのを感じた。ハルバードを振り落とすが、僅かに表皮を切り裂き、肉を抉っただけで先ほどのような致命的な攻撃には至らない。

 

「な、何が? 力が入りにくい……」

()()()()()()()()()?」

 

 リドルが言った。心底理解できないものをみたような声だった。

 

「バジリスクの毒の血液を浴びて力が入らないで済むだと!? お前は本当に人間か!?」

 

 カサンドラはリドルをじっとみる。

 

「――クソ! 『バジリスク!ハリー――男を殺せ!』」

 

 もはや耳しか感覚器官の残っていないバジリスクは、恐怖からか、生存本能か。バジリスクはハリーがいた場所に向かって少しずつ動き始めた。その動きはもはや精彩を欠き、よろよろとしていて、死にかけのようにも見えた。

 

「ハリー、逃げろ!」

 

 ハリーは言われるまでもなく、帽子を掴んだまま駆け出した。バジリスク用の出入り口、通用パイプが外周にある。ハリーはそこへと駆け込んだ。バジリスクも追う。

 

「――クソ。厄介な毒蛇だ」

「はは。随分と弱ったじゃないか。毒の回りが遅かっただけじゃないか。そうか、そうだな。古代の英雄といえば毒蛇かサソリに殺されると決まっている! カサンドラ、君はもう終わりだ!」

 

 かもな。カサンドラはそうこぼした。ジニーから魔法がいくつか飛んでくる。槍で軽く切り払うが、走ったり反撃したりはできそうにない。

 

「だが、そうだな。古代の英雄は人間だったろう?」

「――何?」

 

 カサンドラはジニーに向かって歩き始める。弱り切った足運び。どう考えても誰がみても死にかけ。衝撃の魔法がジニーから飛んできて、もろに食らった。だが、カサンドラはぐ、と踏みとどまった。

 

「私はそうじゃないと言ったらどうだ」

「――バカな」

 

 そのはずなのに、カサンドラは歩みを止めない。それどころか少しずつ足取りが確かになっていく。

 

「かつて来たりし者たち……。種族の名をイス。人間を作った、先駆者のことだ」

「……『かつて来たりし者たち』? 聞いたことがあるぞ。ホグワーツにある一際強力な魔法具が、そいつらが作った『秘宝』だと。一説には神とも呼ばれたと。だがもうそんな奴らは滅んだ。神々のことを持ち出して僕が動揺するとでも」

「その血を引いてる」

 

 リドルは固まった。カサンドラはもはやバジリスクの毒などなかったことのように、しっかりとした力強い様子で立っている。

 ジニーの、すぐそばに。

 

「……なんだと」

「半分か、もしかしたらそれ以上……」

 

 祖父レオニダスを思い出す。彼はそのイスの『秘宝』たる槍を使いこなしていた。イスの『秘宝』を扱えるのは資格を持つ者、つまりイスの血を引く者だけだ。

 

「半分以上、私は人間じゃない」

 

 父方も、母方からも、イスの血を色濃く受け継ぐカサンドラ。彼女が化け物染みたことができるのも、マグルなのに魔法のような芸当ができるのも。そしてバジリスクの毒を体内から消し去ることができたのも。その身に流れる――。

 

『神』の力によるものだ。

 

「……それが、どうした。いいか、ジニーは確かにロクな魔法が使えない。もはや君を殺すことはできないだろう。だが、ジニーを助けられるかどうかは別だ。君と違って人間は弱くて脆い。自殺するのに大仰な何かがいると思わないことだ。たとえ子供でも、自分の舌を噛み切るくらいはできるんだぞ」

 

 カサンドラはじっと、ジニーを見つめる。至近距離まで近づかれたジニーは杖を振り上げることもせず呆然とカサンドラを見ていた。怯えたような表情は、演技なのか、それともひょっとしたら、ジニーとリドル、両方の本心なのだろうか。

 

「――背中に括り付けているな」

「それがわかって、どうする? ただの日記だと思わないことだ」

 

 それもそうか、とカサンドラはジニーのそばに寄る。

 

「何をする気だ。舌を噛むぞ」

「やってみろ」

 

 リドルはジニーの体の制御を失った。鳩尾に叩き込まれたカサンドラの拳のせいで、ジニーは意識をあっさりと落としたのだ。

 

「なっ、なぜ? なぜ気を失った。僕が完全に制御してるのに!」

「人間は弱くて脆いんだろう? 体を一切動かせなくなるから、気絶と言うんだ」

「クソ。忌々しい化け物め。だが……。結果は引き分けかな。なにせハリーはもう死んだ。子供にバジリスクの相手は無理だよ」

「……そうだな」

 

 早く助けに行かなくては。そう思った所で、スリザリンの胸像が壁の裏から破壊され、バジリスクが飛び出てきた。轟音と共に秘密の部屋全体が揺れる。

 

「はぁ……、はぁ、僕も、鍛えておけば、よかった!」

 

 狂乱状態のバジリスクの影に隠れるように駆け出して来たのは、見事な装飾がなされた銀の剣を持つハリーだった。そして、左手には短剣ほどもあるバジリスクの牙がある。

 

「ハリー、大丈夫なのか!?」

「だ、大丈夫。死ぬかと思ったけど、フォークスが助けてくれたんだ」

 

 そして、ハリーははい、とカサンドラに銀の剣を手渡した。

 

「これは?」

「組み分け帽子から出てきた。カサンドラ、僕は魔法使いなんだ。カサンドラはその……騎士でしょ?」

 

 カサンドラは銀の剣をひゅんひゅんと振り回す。素晴らしく出来のいい剣だ。

 

「騎士か……そんな柄じゃないが、まあやってみるよ。ハリー、日記は背中だ。いけるか?」

「……うん! 任せて、カサンドラ!」

 

 カサンドラはレオニダスの槍を左手に、銀の剣を右手に構えて、ほとんど死に体のバジリスクに向かって駆け出す。

 

「こっちだバジリスク! 決着をつけるぞ!」

 

 声に気付いたバジリスクがカサンドラに向かって口を開けて突撃してくる。だがそれこそが狙いだった。

 上顎の柔らかい口の中。カサンドラは銀の剣を突き出し、口の中からバジリスクの脳を貫いた。バジリスクは一際大きく、ビクリと跳ねた。そして、それきり動かなくなった。倒れ伏したバジリスクに、カサンドラは近づく。

 

「……まさか、バジリスクが……」

 

 茫然としているリドルの隣で、ハリーがジニーをうつ伏せにし、背中を撫でる。カサンドラの言う通り、背中には日記が括り付けられている。その感触がする。流石に服を脱がせて日記を取り出している余裕はない。このまま壊すしかないだろう。

 

「……ハリー、日記を壊すことなんてできないよ。その日記には特別な魔法がかかっている。どんなものでも、壊せやしない」

「リドル」

 

 ハリーは手に持ったバジリスクの牙を逆手に持つ。

 

「……もし万が一壊せたとして。その時ジニーはどうなると思う? 悪者を倒して囚われのお姫様は助け出せました……。そうなると思うかい?」

「ならなくても。ジニーの魂は半分残ってるんだろ? なら……大丈夫だ」

「何を以ってそう思うのかな? 君は魂の専門家なのかな。本当に壊してもいいと思うのかい?」

「……リドル、君は記憶なんだよね」

「そうとも。そもそも日記を壊した所で僕を倒せるとは――」

「記憶も、魂も。その人の全て。『生命全てを殺す猛毒』なら、きっと倒せる」

 

 ハリーは牙を持つ手に力を込めた。

 

「なら! ならば、それは人殺しなんじゃないか」

 

 ハリーの手が止まった。リドルが口角を僅かに上げた。

 

「――ただの日記だ」

「でもそこには記憶がある。魂もだ。トム・マールヴォロ・リドルがそっくりそのまま居るんだ。それを消滅させるってことは、人を殺すこととどう違う? 僕が悪者だから殺すのか?」

「……僕は」

「よく考えた方がいいんじゃないか。日記も、何もかも、大人に任せればいい」

 

 リドルには勝算があった。子供が、それもグリフィンドールのいい子ちゃんが人殺しなんて絶対にできない。カサンドラにも止めるように言うに決まってる。あとはこの場を乗り切りさえすれば、バカな教師連中なんて簡単に言いくるめて……。

 

「去年なら、そうしてたかも」

「――なに?」

「ロンが言ってた。本はヤバイ魔法具なんだって。人格を保存して、乗っ取ったりする。

 リドル、これはただ危険な魔法具を壊すだけなんだよ。なにせ本物の君は……ヴォルデモートは去年、カサンドラが殺したんだ」

 

 ハリーは日記には牙を突き立てるべく、腕を振り下ろした。

 

「やめろ!」

 

 ドス、と、壊せないと豪語していた割には、酷くあっさりと牙は日記に突き立った。その瞬間、リドルの体が光り、虫食いのように体の所々が欠け始める。

 

「バカな! 僕が……この僕が!」

 

 悲鳴を上げながら、リドルは呻めき、叫び、苦しむ。

 

「クソッ、とっとと殺しておけば……! チャンスはあった! 何度も! クソっ! 小娘が生意気にも抵抗しなければ!」

「君は! ジニーに負けたんだ!」

「僕が!? 11歳のガキに? あり得ない!」

「僕を殺せなかった、誰も殺せなかった! ジニーが最後の最後で抵抗してたからだ!」

「そんなバカなことが、全部偶然だ!」

「そんな偶然続くもんか!」

 

 ハリーは日記に開いた穴を広げるように牙を動かす。

 

「があああっ! やめろハリー! 僕は、僕が、僕こそが魔法界を良くするんだ!」

「君はもう、とっくの昔に死んでるんだ!」

「こんなバカなことが、カサンドラめ、あの化け物さえいなければ、あの人間もどきさえいなければ! ホグワーツの穢れた血を、皆殺しに……!」

「ダンブルドアがいる限り! ホグワーツは負けない!」

「――ァァアアアアアアッ!」

 

 一際大きな悲鳴を上げて、リドルの記憶は虚空へと消えた。

 

 それと同時。カサンドラはバジリスクのつぶれた大きな目をぐ、とつかむと思いきり抉り取った。目を抉り取ったはずなのに、カサンドラの手にあったのは黄金色の真球だった。カサンドラの脳裏に冒涜的な威圧感を伴った声が大音量で聞こえる。

 

『始祖の秘匿を守護せよ……』

 

 カサンドラの脳裏に巨大な蛇が迫ってくるビジョンが浮かぶ。自分の体を乗っ取り、制御しようとする呪いのような力に抵抗し、カサンドラを侵さんとする神秘に抗う。

 ――そして、気が付けばバジリスクを化け物たらしめていた神秘はきれいさっぱり感じられなくなった。カサンドラは真球をしまうと、ハリーのほうへと向かって歩き出す。

 

「……ああ、クソッ、毒はキツいな……。ああ、フォークス、ありがとう」

 

 カサンドラが剣についた血を振り払いながら、不死鳥のフォークスにお礼を言う。カサンドラの肩に止まったフォークスは、ポタリポタリと心配そうに涙を流してカサンドラを癒していた。

 

「リドルは倒せたか?」

「うん。なんとかね」

 

 そうか。とカサンドラは気を失ったジニーを担いだ。

 

「カサンドラ、ジニーが目を覚まさないんだ」

「覚まさないだろう。それくらい強く殴ったからな」

「え?」

 

 ジニーを気絶させたの、カサンドラだったの?

 

「帰るか」

 

 カサンドラはゆっくりと、ロンたちがいる方向へと歩き出した。

 

 秘密の部屋には、ちっぽけな蛇のミイラだけが残されていた。

 

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