【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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家出少年

――1993年8月 ロンドン、カサンドラ探偵事務所

 

 カサンドラは事務所の扉が叩かれる音が聞こえて、目を覚ました。

 

「なんなんだ全く」

 

 夜間営業はしてないぞ、と悪態を吐きながらカサンドラは小手……アサシンブレードだけを装備してベッドから降りる。軽く伸びをしてから、事務所に入る。

 ドンドンと扉を叩く音がする。念のため拳銃でも装備したかったが、生憎と、100年前と違って今のイギリスは自衛のためでも銃の使用は厳禁なのだ。

 

 カサンドラは鍵を開けた。

 

「鍵は開けたぞ!」

 

 アサシンブレードで迎撃できるよう構えながら、カサンドラは待った。ゆっくりと、扉が開く。

 

「……カサンドラ……」

「ハリー?」

 

 扉を開けたのは、ハリーだった。

 少し見ないうちにハリーはパッと見ただけでも随分と背が伸びている。だがホグワーツで最後に見た時より随分と痩せていて、とてもじゃないがまともに食べさせてもらっているようには見えない。

 彼はヘドウィグが入った鳥籠と、大きなトランクを持って所在なさげに立っていた。その様子はまるで家出少年だ。

 

「とりあえず入れ」

 

 カサンドラは周囲を見ながらハリーを招き入れる。誰にも見られてはいなかった。ハリーは荷物を床に置くと、ぐったりと疲れた風にソファに座り込んだ。

 

「限界だったんだな」

「ああ、そうだよ! あんなクソみたいな奴にあれ以上関わってられるもんか! なんで僕だけあんな風に、パパとママを馬鹿にされて、そんなことを我慢しなきゃいけないんだ!」

 

 カサンドラは相槌を打ちながら、ココアを淹れてやる。こういう時は湯気が出そうなココアを飲めば元気が出るとダンブルドアが言っていた。

 

「なんで僕だけ、ホグズミードに行くために両親の尊厳をズタズタにされなきゃいけないんだ! ……ねえ、カサンドラ、ここに住まわせてよ。僕は床でいい。仕事も手伝う! だからせめて、この一月だけ……」

 

 カサンドラは悩む。

 

「まぁ、取りあえずココアでも飲め」

「……ありがとう」

「気にするな。なぁ、ハリー。他に何かないのか、もしかしたらダーズリーの親権を停止させられるかもしれない」

「カサンドラ、それはありがたいよ。でもね! どうせ次の家も同じようになるさ! なんたって、マグルなんだから! それとも、カサンドラが僕を引き取ってくれるっていうの?」

 

 カサンドラとしてもそうしてやりたいのは山々だ。だがそれはできない理由がある。

 

「すまないな。それはできない」

「……なんで? 僕、カサンドラの仕事ちゃんと覚えるよ。それに……」

「ハリー。私にとってこの探偵事務所は……。そこまで大事なものじゃないし、私がハリーの親になることはできない」

「なんで。僕、カサンドラが義母さんなら、とても嬉しいのに」

 

 なぜ、なぜか。それを言わないことには、現在不安定になっているハリーに申し訳ないし、不誠実だろう。カサンドラはある程度の事情を話すことにした。

 

「……私の旅路が終わる時が近づいている」

「どういうこと? もしかして、寿命、とか?」

「いや。私の持つ秘宝を受け継ぐ者がそろそろ現れる筈だ。私はそいつに杖を渡して……そして、私の旅は終わる」

「……それっていつなの、今すぐ? じゃあせめて、今年だけでも!」

 

 カサンドラは悩む。

 

「一応うちは真っ当な探偵事務所だ。ハリー、電話番号は?」

「え? でも」

「まぁ、任せてくれ」

 

 ハリーはおずおずとダーズリーの番号を言った。カサンドラは机に置いてある固定電話の受話器を上げると、番号を入力する。しばらくして、通話が繋がった。

 

「こんな夜分にどちら様ですか?」

「カサンドラだ。ダーズリーのお宅でお間違い無いかな」

「……あの時の女か! 貴様のようなやつと話すつもりはない!」

「まあまて。そっちの面倒を幾分か片付けられる」

「……なんだと?」

 

 ダーズリーは食い付いた。

 

「ハリー・ポッターだろ? 面倒な事情があるんだろう? 実は今近くに来ていてな。本人が新学期が始まるまでウチで泊まりたいと……そう言ってるんだが」

「ハリー・ポッターなどうちにはおらん! 何度でも言うが、俺は知らん! 好きにしろ!」

「そうか、では彼は預かる」

「くどいぞ!」

 

 がちゃん、と電話が切れた。

 

「……全然うまく行ってないじゃないか!」

 

 ハリーは叫ぶが、カサンドラの意見は違った。

 

「いや、何もかも想定通りだ。これで堂々とお前はウチで寝泊りできる。なにせ本人と親の同意があるんだからな」

「……同意した?」

「したとも。さっきの会話をよく思い出してみるといい。わかったらもう寝ろ。ベッドは……とりあえず今日は私のを使え」

 

 カサンドラはハリーに自分のベッドを勧める。この家にはベッドが一つしかないのだ。

 

「え、でも、悪いよ」

「古代ギリシャのベッドを知ってるか? 石のベッドに毛皮を敷いて寝るんだ。ほら、早く寝ろ。明日から忙しいぞ」

「え?」

「手伝ってくれるんだろう?」

 

 カサンドラがにこりと笑うと、ハリーも同じように笑った。

 カサンドラの仕事を手伝いながら夏休みを過ごすなんて、なんて最高なんだ!

 

 ハリーはカサンドラにお礼を言いながら、寝室へと向かっていった。

 

「くぁああ……。大変なことになったもんだ……」

 

 カサンドラはソファに腰掛けると、腕を組んで目を閉じる。明日には寝袋か長ソファを買わなければ。そんなことを考えながら、カサンドラは眠りについた。

 

――1993年8月 カサンドラ探偵事務所

 

 ハリーはカサンドラの元で夏休みを過ごすことになってから、今までの人生でこれ以上ないというほど幸せに過ごした。昼間はロンドンの漏れ鍋からダイアゴン横丁に行き、買い物をしたり新学期の準備をしたりして過ごす。夜になるとカサンドラの元へ帰り、話をしたり仕事を教えてもらったりする。ハリーは少しだけ調査のやり方について詳しくなった。それから傭兵のコツも少しだけ教えてもらった。大事なのはどう情勢が転んでもどっちかから依頼がくるように、満遍なく仲良くすることだと教わった。それを教えられたハリーは、カサンドラはとにかく誰とでも敵対することを避けるよう振る舞っていたことを思い出した。スリザリンだけでなく、マルフォイ一家相手でさえ。

 ハリーはダイアゴン横丁でロンとハーマイオニーともよく話をした。ロンはエジプト旅行に行けず、ハーマイオニーは新学期の準備と宿題とで忙しそうだった。

 ハリーのお気に入りは箒店に飾られた世界最速の競技用箒『ファイアボルト』で、ハリーはそれを何日にも渡って、何時間も眺め続けた。ハリーが変なのではない。その証拠に、他にも同じことをしている人が何人もいた。

 

 そして、あっという間に新学期が迫っていた。

 

「明日から新学期だな」

「うん。でも不安だよ。ホグワーツでいきなり捕まったりしないかな」

 

 ハリーはカサンドラにボソリと聞いた。

 

「捕まる? なぜだ」

「……実はね、僕魔法使っちゃったんだ」

 

 ハリーはカサンドラに家出した日のことを話す。両親を馬鹿にされて、気が付いたらマージおばさんを風船みたいに膨らませてしまったことを。

 

「今度未成年魔法使いの魔法使用制限に関する法令を破ったら杖を折るって……。ねえ、もし退学になったらここで働いていい?」

「気にすることはない。通達が来てないってことは、大丈夫ってことだ」

「え、ええ?」

 

 カサンドラは事務室のソファに背を預けながらハリーを安心させるように言う。

 

「今日の新聞は見たか?」

「え、うん」

 

 

 ハリーは今朝の日刊予言者新聞を思い出す。魔法省総出でシリウス・ブラックを探しているらしい。ことがマグルの警察にもかかわってくることだからと総力を挙げて、職員全員が寝ずに対応に当たっていると書いてあった。

 

「私のところにもブラックを見ていないかと魔法省からのフクロウ便が来た。マグルの関係者に情報を求めるほど状況は切羽詰まっているらしい。これは二年ほど魔法界にまがりなりにもいた人間の意見だがな、ガキの『悪戯』に構ってられるほど余裕がないんじゃないか?」

「……ええ? 退学騒ぎになるくらいのことなんじゃないの?」

 

 いや、とカサンドラは首を振る。

 

「正直マグル生まれくらいしか意味がない法令らしい。ミリセントに聞いたことなんだがな、魔法使いの家の子は家では魔法使い放題らしい。未成年魔法使いがホグワーツに入ったときにかかる魔法は、『周囲で魔法が使われた』ことしか検知できない。誰が使ったか、その結果どうなったかしかわからない。多分検知する人間が手がふさがっていたか、追及する人間がそれどころじゃないのか、この状況でお前を魔法界から追放するわけにはいかないのか。まあ、ラッキーだったと思うといい」

「……うん、そうするよ」

 

 さて、とカサンドラは立ち上がる。

 

「さて、私は先にホグワーツに行ってるぞ」

「え?」

 

 バシン、と音がしてマクゴナガルが姿現しをしてきた。

 

「迎えにあがりましたよ、カサンドラ……。ポッター? なぜここにいるのです?」

「家出少年を保護したんだ。親の同意はとった」

「……あのマグルからどうやって?」

 

 カサンドラは肩をすくめる。

 

「あいつはハリーのこととなると目が曇る。カモみたいなもんだったよ」

「つくづくあなたの手管は恐ろしいですね。では、行きますよ」

「ああ。……ハリー、遅れるなよ。もう空飛ぶ車はなしだからな」

「わかってるよ! 行ってらっしゃい、カサンドラ」

「ああ、行ってくる」

 

 カサンドラはマクゴナガルの裾をつかみ、バシンと音がした。

 

――1993年9月 ホグワーツ 大広間

 

 組み分けが終わったころ、ハリーはようやく大広間でみんなに合流することができた。なんで僕は普通に登校することすらできないんだと悪態を吐きたくなる。そもそもなぜか吸魂鬼とかいう化け物がコンパートメントに入ってきて、ハリーたち生徒を襲ったのだ。なぜかハリーだけその化け物に強く影響されて、気を失ってしまった。それを重く見たマクゴナガルに医務室にぶち込まれそうになったのだ。『大丈夫』を何度も連発して無事を主張してようやく解放されて、大広間に来ることができた。

 

「組み分け見逃しちゃったわよ。今年も」

「去年も僕のせいじゃない」

 

 ハーマイオニーと冗談を交わしながら席に着く。ダンブルドアが立ち上がり、生徒たちを見回す。この瞬間を、ハリーは夏休み中ずっと待っていた。老いていてもなお偉大な雰囲気。彼の長いあごひげを見ると、帰ってきたという気がする。

 

「また、新学期が始まる!」

 

 ダンブルドアはそう宣言した。

 

「今年度は、特に重要な注意事項があるのでな、ご飯を食べて頭がぼうっとする前に伝達事項を伝えておこう。まず、ホグワーツ特急が臨検にあったため知っている生徒も多かろう。今年はホグワーツのありとあらゆる入り口、侵入可能な場所に吸魂鬼が警備にあたる。あの者たちがおる限り、絶対に、くれぐれも言うが、()()()、無断でホグワーツを離れてはならん。吸魂鬼は恐ろしく感知能力が高く、特に人間の魂を見分けることにかけてずば抜けた能力を持っておる。悪戯魔法、変装魔法、全て無意味じゃ。当然、透明マントも無駄じゃ。奴らが我々と同じ光景を我々と同じようにみているとは決して思わぬように、厳に忠告しておく。奴らには言い訳やお願いの類は一切聞いてもらうことはできぬ。諸君だけではなく、この世の誰にもそんなことはできぬ。よいか、決して、奴らに口実を与えてはならん。生徒を害する大義名分、口実ができれば吸魂鬼は喜んで諸君らに危害を加えるじゃろう。監督生、首席の生徒たちはよくよく他の生徒たちに気にかけてやっておくれ」

 

 ハリーの視界では、パーシー・ウィーズリーが誇らしげに胸を張った。その胸には首席であることを示すバッジがあった。ダンブルドアはしばらく生徒たちを見回した、全員が怯えたような表情をして、吸魂鬼の恐怖を存分に理解したあたりで、声色を変えて言った。

 

「楽しい話に移ろうかの」

 

 ダンブルドアは続ける。

 

「今年から、新任の先生を二名、新たに迎えることになった。まずはルーピン先生。今年の『闇の魔術に対する防衛術』の教授を務めてくださることになった」

 

 よれた、だが継ぎ接ぎはないくたびれたローブを着たルーピンが立ち上がり、ぺこりと一礼する。

 

「みなさん、よろしく。今年からみなさんに闇の魔術に対する防衛術を教える、リーマス・ルーピンです。一昨年、去年よりもはるかに実りのある授業を約束しましょう」

 

 吸魂鬼を追い払ったところを見ていたハリーたちはその言葉が真実であることを知っていたが、他の生徒は懐疑的だ。

 

「スネイプ見てみろよ」

 

 ロンが耳元で囁いてきたので、ハリーはスネイプのほうを見る。今にもルーピンを殺しかねないような目で彼を見るスネイプがいた。

 

「『闇の魔術に対する防衛術』の席をずっと狙ってたのにまた新任が来たからキレてるんだよ。子供みたいなやつ」

 

 ロンはそう言うが、ハリーは本当にそれだけだろうかと思った。去年も、一昨年も、あんな目はしていなかった。スネイプがルーピンを見るときの目は、彼がハリーを見るときの目と全く同じ、存在すら許せない憎い相手を見るような目つきだった。

 

「さて、もう一人の先生を紹介しようかの」

 

 大広間の拍手が収まるのを待ってから、ダンブルドアは切り出す。

 

「まず……『魔法生物飼育学』の先生、ケトルバーン先生は残念ながら前年度末を持って退職なさった。手足が残っているうちに余生を楽しむそうじゃ。そこは、祝福するべきじゃろうな。

 さて、後任なのじゃが……うれしいことに、ほかならぬ魔法生物のプロ、ルビウス・ハグリッドが現職の森番に加えて、『魔法生物飼育学』の教鞭をとってくださることになった」

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーは三人顔を見合わせて、それから三人全員が嬉しそうに顔をほころばせ、ひときわ大きく拍手をした。グリフィンドールからの拍手は割れんばかりだったが、スリザリン生からの反応は芳しくなかった。だがハリーにはそんなことはどうでもよかった。あのハグリッドが魔法生物について教えてくれる! なんて素敵なホグワーツだ!

 

「しょ、紹介にあずかったルビウス・ハグリッドだ。……です。俺に任せりゃ、今年が終わる頃には危険な魔法生物だって飼えるようになっちょる。信じてついてきてほしい」

 

 ハグリッドのあいさつに、ハリーは身を乗り出す気持ちで拍手した。

 

「うむ。うむ。さて、最後にじゃが。闇の魔術に対する防衛術の先生は諸事情があって月に何度かお休みなさる。そのお休みの時にルーピン先生に代わって、警備員のカサンドラが代理として『闇の魔術に対する防衛術』を教えてくださることになった」

 

 ハリーの驚きは最高潮に達した。カサンドラが? 先生? 一緒に暮らしてた時はそんなこと一言だって言わなかったのに! でも思い返すと、カサンドラが読んでいた本は学校教育についての本が多かったように思う。

 

「カサンドラだ。マグルだが、守るという事に関しては自信がある。機会は少ないが……まあ、期待してくれ」

 

 カサンドラはそういうと照れたように椅子に座りなおした。

 

「カサンドラが防衛術の教授の代理なんて! これきっとホグワーツでも初めてのことなんじゃないかしら」

「そうだろうね。なにせ、最高齢のぶっちぎり記録だ」

「もう! わかってるくせに」

 

 ロンとハーマイオニーは軽口を言い合っているが、ハリーは気が気でない。今年のロンとハーマイオニーはお互いのペットについて衝突しがちなのだ。

 

「さて、大事な話はこれで終わりじゃ。つまり、真に楽しい時間の到来ということじゃな。――宴を始めよう!」

 

 長いテーブルの上にある空の皿、盃に突然食べ物、飲み物が山のように現れた。新入生は心底驚いたような顔をする。楽しい楽しいサプライズだ。ハリーたちはご馳走を前に食欲が沸き上がり、食事を始める。素晴らしい食事だった。カサンドラと一緒に過ごしていた時は外食中心だったからそれも悪くはないが、ホグワーツの料理は特に絶品だ。

 

「なあ、いつ行くよ?」

「食べ終わったらすぐに!」

 

 ハリーとロンはお互い頷く。ハグリッドはどれほどこの人事がうれしかっただろう。ホグワーツを退学になって、一人前の魔法使いではなくなって。それなのにホグワーツの教師になるというのがどんなにうれしく、そして名誉なことか。

 

 三人がデザートのかぼちゃタルトを食べ終わったころ、ダンブルドアが宴の終わりを宣言した。寮のみんなが自分の寮に向かう中、ハリーたちはハグリッドの元へと駆け寄った。

 それと同じタイミングで、マルフォイがハリーたちと同じようにカサンドラのほうへと歩いていた。

 

「……まさかマグルの分際で防衛術の教授になるとは」

「ああ、マルフォイ。進級おめでとう。聞いてたろ? 臨時だ。普段はいつも通り巡回してるさ」

「今年にそれが必要だとは思わないが」

「吸魂鬼とかいう化け物か」

 

 マルフォイは頷いた。

 

「奴らは危険だ。父上も難色を示していた。あれは学校に放っていい存在じゃない。いいか、カサンドラ。決してホグワーツの外に近づくな。おそらくお前に吸魂鬼は見えない。そして見えたところで、奴には魔法も物理も効かん。……僕はカサンドラが吸魂鬼の仲間入りするのはごめんだからな」

「忠告感謝する。またよく調べておくよ」

「……お前が吸魂鬼になったら、手が付けられなくなると思っただけだ。じゃあな」

「ああ。ありがとう、マルフォイ」

「ふん。……カサンドラ、ホグワーツの先生は容易くなれるものではない。お前の授業、ぜひ期待させてもらうとするよ」

「ああ」

 

 マルフォイはそう言ってスリザリンの寮へと戻っていった。

 

「……大丈夫、カサンドラ」

「おお、ハリーたちか。何も」

「おめでとう、カサンドラ」

 

 入れ替わるようにハリー、ロン、ハーマイオニーがカサンドラのところまでやってきた。

 

「すげーよ。マグルなのに先生になるなんて」

「まあ、月に1、2回程度だ」

「それでもすごいわ! でも、その、カサンドラ。ひたすら走り込みは……その、受け入れられるとは思わないわ。それだけは言っておきたくて」

 

 カサンドラはハーマイオニーの胸元をちらっと見る。去年まではなかった小さな砂時計のネックレスがある。それが逆転時計だろうか。

 

「いや、そんな無茶はしないよ。座学だけだ。まあ、いろいろ過激なことやってきたマグルらしい授業にするつもりではあるが」

「……ごめんなさい、カサンドラ。私不安なの……」

「何言ってんだよハーマイオニー。カサンドラだぜ? 絶対いい先生になるって!」

「スパルタがどんなふうに人を育ててたかを知ってもそれが言えるといいわね」

 

 ハーマイオニーの懸念に、カサンドラは苦笑する。

 

「まあ、私はおまけだ。本格的に先生になるならともかく、あくまでルーピンの防衛術だからな」

「……私、カサンドラが先生の授業は怖いかも」

 

 ハーマイオニーの懸念ももっともだろう。もしカサンドラが一年まるまる防衛術を任されたら、七年生の最終授業はトロールの討伐とかになりかねない。一年生はピクシーを一人で殺すとかだろうか。

 

「まあ、それはないだろう。私はあくまで警備員だ」

「……でも僕全然知らなかった。どうして教えてくれなかったの?」

 

 カサンドラはにやりと笑って、ハリーに言う。

 

「できる傭兵っていうのは依頼の最中に知った情報は話さないものなのさ」

 

 ホグワーツの一年が、始まった。

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