【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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襲撃、『太った婦人』

――1993年10月 ホグワーツ ルーピン居室

 

 ハリーは毎年のことながら、うんざりした気持ちだった。ハリーは鬱々とした気持ちでルーピンの後ろを歩いている。一人ポツンと廊下を歩いていたらお茶に誘われたのだ。

 ハリーは内心ため息をつく。なんか毎年この時期は憂鬱な気がする。去年は運のない自分を嘆いていたし、一昨年はマルフォイとのやり取りにうんざりとしていた。今年は特に深刻だ。何せ今年から新たにハーマイオニーが猫のペットを飼ったのだ。それだけなら良かったのだが、ハーマイオニーの不細工な猫はロンのネズミ、スキャバーズと仲が悪いのだ。いや、捕食者と被捕食者で仲がいいのなんてディズニー映画や日本のアニメ映画くらいだろう。ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスはスキャバーズを目の敵にしていつも狩りの瞬間を虎視眈々と狙っているのだ。そのせいでスキャバーズは何度か殺されかけたし、そのせいで飼い主同士が戦争状態に突入した。お互い一歩も譲らないし、お互いに用事がある時は必ずハリーを通してやりとりをする。たとえ隣同士になってもそうだ。

 

『なあハリー、そこの猫好きにこの問題の答えを聞いてくれよ』

『ねえハリー。ネズミ狂いにそれくらい自分で考えてやりなさいと言ってもらってもいいかしら?』

 

 一事が万事こんな感じである。ストレスで髪が抜け落ちたりしないだろうか、とハリーは13歳らしからぬ心配をするほどだった。週末になってみんながホグズミードに行っている今、ようやく一息つけたような感じだ。ホグズミードで2人は仲良くやっているだろうか。

 

「さ、ようこそ。ホグズミードほどではないにしろ、それなりに興味深いものを揃えてるつもりだ」

 

 ルーピンに連れられ、居室に入る。先生らしい部屋というのは初めて入ったかもしれない。一昨年はニンニクが壁を埋め尽くす勢いでしこたま吊るされていて、去年はニンニクの代わりにロックハートのスマイル写真がかかっていた。だが今年は壁一面にびっしりと本が敷き詰められている。マグルの書いた本もあり、その全ては授業に関わりのあるものだった。部屋の中にはカサンドラがいて、肘掛け椅子に座って本を読んでいた。

 

「紅茶はいるかな」

「あ、ありがとうございます。カサンドラ、どうしてここに?」

「ん……まぁ、教師の勉強だ。友達はホグズミードか」

 

 カサンドラが本を閉じて、本棚に戻した。

 

「うん。みーんなゾンコのいたずら専門店に行くだとか、ハニーデュークスでどんなお菓子を食べようだとか、そんな話ばっかりして、僕を置いていっちゃった」

「まぁ、それは辛いだろうな。だが、土産を期待しておけ」

 

 カサンドラはそういうが、物だけではダメなのだ。物を買う時の雰囲気を味わいたい。わがままなのはわかっている。全てはバーノンおじさんからサインをもぎ取ることができなかったハリーの責任だ。

 

「それに、ホグズミードには私も行ったことはない」

「そうなのですか?」

 

 紅茶を淹れたルーピンが2人の席の前に紅茶を置いた。

 

「ありがとうルーピン先生。魔法使いだけの村に私が行けば、興醒めだろ? それに、バタービールやお菓子なんかは毎年差し入れに来る生徒がいる。土産話と一緒にな」

 

 楽しそうな思い出を語る表情でカサンドラは紅茶を飲んだ。カサンドラはそれで十分のようだった。こうしてホグズミードに行けないことを愚痴愚痴言う自分がひどく子供っぽいんじゃないかとさえ思ってしまう。いいや。ハリーは思い直す。カサンドラはきっとずっともっといいことや楽しいことを知ってるからそんなふうに思ってられるんだ。

 ハリーは楽しいことや面白いことに飢えている。ワクワクが欲しい。きっと今頃みんなは幸せにホグズミードでバタービールを飲んでいるんだろう。漏れ鍋みたいなパプで飲むバタービールはどれだけ美味しいだろうか。

 

「失礼」

 

 その時、部屋の扉が開いてスネイプが入ってきた。

 

「……む」

「ああ、スネイプ」

 

 カサンドラがちらりと顔だけ彼の方へ向けてあいさつした。

 

「ふむ。熱心なことだ」

 

 スネイプはハリーの目をじっと見る。それから顔を見て、憎々しげな表情に変わる。バッと、スネイプはルーピンに近寄ると手に持ったジョッキ一杯はあろうかという大きさの魔法薬を手渡した。

 

「ここで飲みたまえ」

「わかった、スネイプ先生。ありがとう」

「ひと鍋分、ある。もっと入り用であれば……」

「いや、いや。それには及ばないよ。本当にありがとう」

「礼には及ばん。これはそう、ただ仕事をしただけだ」

 

 スネイプは踵を返すと、にこりともせず部屋から出て行った。

 

「……うーん、砂糖がダメなのがなぁ」

 

 ルーピンは机の上の紅茶を羨ましそうに見ながら、いかにも不味そうな魔法薬を飲み始める。ハリーはスネイプの噂をいくつか思い出して、青い顔をする。

 

「あの、ルーピン先生」

「ん、なんだい? 私の持病にはこれが不可欠でね。私はラッキーだ。これが調合できる魔法使いが先輩にいるなんて」

「その、スネイプ先生は闇の魔術にとても興味があるんです」

「はは。いかにも、そういうふうに見えるね」

 

 ルーピン先生は全く取り合わず、ゴクリと魔法薬を煽る。

 

「その、人によっては……」

 

 ちらりとカサンドラを見る。彼女は不思議そうな顔をしている。怒られるかも、なんてことを考えながら、思い切ってハリーは切り出した。

 

「どんな手段を使ってでも、闇の魔術に対する防衛術の先生の座を奪う、そう考える人もいます」

 

 ルーピンは魔法薬を飲み干した。

 

「それは恐ろしいね。ただ、ハリー。私はこの魔法薬を疑うことだけはないよ」

「ハリー、そんなにスネイプが疑わしいか?」

 

 カサンドラの質問に、ハリーはこくりと頷いた。

 

「まぁ、ほんの少ししかいない私でも……スネイプ先生がハリーに思うところがあるのはわかる。先生から憎まれれば偏見の一つも持つだろう」

 

 ことり、とジョッキを机に置くと、はぁ、とルーピンは重々しいため息をついた。

 

――1993年10月 ホグワーツ大広間

 

 ハリーは食事をしながら、この世で最も幸福だというような顔をしたロンとハーマイオニーが語る土産話に聞き入っていた。

 

「大体有名なところは全部回ったけど……悪戯専門店のゾンコは思ったより楽しかったわ。買いたいとは思わなかったけど、店の中が悪戯好きな子たちの心を擽る工夫に満ちててね」

「三本の箒は最高だった! テーブルも椅子も全部古臭くて、まるでタイムスリップしたみたいだった!」

「バタービールは暖かくて本当に温まるのよ。1瓶買ってあるから、また飲んでみてね」

「ああ、バターの甘い感じと、ジンジャーのピリッとした感じが合わさってものすごく甘く感じるんだ。談話室に戻ったら絶対飲んでみろよな」

「うん、お土産たくさんありがとう」

「でもなぁ、叫びの屋敷だけはそこまでじゃなかったな。正直真夜中にカサンドラに出くわす方が遥かに怖いよ」

「人はたしかに寄り付かないけど、だからこその魅力があるのかしらね? それでハリー、あなたはどうだった? 宿題はもうやった?」

 

 ハリーはベーコンを齧りながら首を振る。

 

「ううん。ルーピン先生とカサンドラとお茶してたんだ。そうしたらいきなりスネイプが――」

「先生よ」

「――スネイプ先生がやってきて、ジョッキ一杯くらいの魔法薬をルーピン先生に渡したんだ」

 

 まじかよ、みたいな顔をしてロンはルーピンを見る。彼は別に苦しそうに首を押さえたりもしていない。ごく普通だ。

 

「毒だと思うか?」

「ちょっとロン。二人とも失礼よ。いくらスネイプ先生でもいきなり消しにかかるなんてそんなことしないわ」

 

 やりかねないぞ、とロンは考えを変えたりはしなかった。ハリーはルーピンを見る。楽しそうな様子で小さなフリットウィックと話す様子を見るに、毒を盛られた様子も、それを心配している様子もなかった。

 

「おやポッター。ホグズミードで見かけなかったが、吸魂鬼が怖かったのかい?」

 

 せせら笑うようなマルフォイのからかいにも慣れたものだ。ハリーはするっとマルフォイを無視することにした。

 

 それからハリーは二回もお代わりをして素晴らしいご馳走でおなかを満たした。寮に戻ればロンとハーマイオニーが買ってきてくれたお土産があることを思いだして一瞬だけしまったという顔をするが、お菓子なんて数日は持つものだ。三人と楽しくおしゃべりしていると、グリフィンドール生がどうにも談話室に入れずに立ち往生しているらしい。

 

「どうしたんだろう。また太った貴婦人はお出かけかな」

「すぐ帰ってくるだろ」

 

 ハリーとロンは楽観していたが、どうにも事態はもう少し深刻らしい。首席のパーシーが叫ぶように言った。

 

「誰か、ダンブルドア先生とカサンドラを呼んできてくれ」

 

 パーシーが言うか言わないか。バシン、と大きな音がしてダンブルドアが現れた。その隣には馬鹿でかい両刃の斧(ハリーはその武器がラブリュスという名前だということを知らない)を担いだカサンドラが立っている。その目は鋭い。

 

「二人がこんなに早く? いったい何が……」

「ああ、なんてこと」

「おい、ハリー、ハーマイオニー、僕にも見せてくれよ……。おったまげー」

 

 三人はさっと割れたグリフィンドール生の間をすり抜け、どんな事態が起こっているのかを理解した。

 ずたずたに引き裂かれ、もはや絵としての体裁も保っていないほど破壊されている。つまり、グリフィンドール寮が何者かに襲撃された。

 

「なんということじゃ……。『婦人』を探さねば」

「探してこようか」

「いや、お主にはほかにやるべきことがある」

 

 その時、ダンブルドアがふと振り返った。その視線の先には走って現場に駆けつけてきたマクゴナガル、ルーピン、スネイプの先生方が見えた。

 

「マクゴナガル先生、フィルチさんに報告して『婦人』を探すよう言ってはくれんかの」

「はい、しかしこれは……」

 

 自分の監督する寮の入り口がここまでずたずたにされたことに、マクゴナガルはかなり動揺している。

 

「見つかるかな? 見つかるわけない!」

「ピーブズ。今の私に冗談が通じると思わないことだ」

 

 急に現れたポルターガイストのピーブズにカサンドラが威嚇しても、彼は楽しそうに笑うだけだった。

 

「冗談だったらよかったのにねぇ、カサンドラ! お仕事できない役立たず! クビも近い! 警備員失格!」

「ピーブズ」

 

 ダンブルドアの声がやけによく通った。周囲の生徒はごくりと喉を鳴らす。さしものポルターガイストもダンブルドアをからかうつもりはみじんもないようで、嫌にへりくだった様子になって朗々と報告した。

 

「これはこれは校長閣下……伝説的英雄、ダンブルドア様。しかしピーブズめはなにも嘘を言っているわけではないんですよ」

「どういうことじゃ?」

「かわいそうに、いきなりの襲撃でした。悲鳴をあげ、泣き叫びながら婦人は走り去っていきました。森の奥へ、おそらく5階の方でしょうなぁ。婦人も可哀そうに。仕事をしただけなのにあんなにも怒らせて」

 

 ダンブルドアは半ば確信しながらも、聞いた。

 

「誰が、やったのかの」

「イカれた癇癪持ちって風でしたよ、ダンブルドア様。あのシリウス・ブラックは!

 

 ピーブズはひゃはははは! と大笑いしてポン、と消えてしまった。シンとあたりは静まり返っている。誰も何も言わない。

 

「……ダンブルドア、すまない。どうにも、私はしくじったらしい」

「いや、いや。お主は悪くない。何も、じゃ。さて、諸君。非常に申し訳ないが……大広間に戻ってもらえるかの?」

 

 ダンブルドアは宣言した。カサンドラ、スネイプ、ルーピンの護衛の下、ハリーたちは再び大広間に戻り、そしてそこから出ることが許されなくなった。10分もすればグリフィンドールだけでなく他の寮の生徒たちもぞろぞろと全員が大広間にやってきた。先生たちも全員だ。

 

「さて、皆の衆。まず生徒たちへ。残念じゃが今日はここで泊りじゃ。侵入者が確認されたゆえな。先生方は城の中をくまなく探さねばならん」

 

 マクゴナガルとフリットウィックは手際よく大広間を閉鎖していく。窓という窓を閉じ、扉という扉を閉めて、鍵をかける。

 

「よいかの。非常に申し訳ないが、人手が足らん。監督生には見張りとして大広間の警備をしてもらうことにする。各寮の首席は中にいる生徒の監督を頼もうかの。カサンドラ、お主は監督生の護衛じゃ。知らせにはゴーストを使うとよかろう。カサンドラには大声で叫べば駆けつけてもらえるじゃろう。全員、異常があればワシに報告を」

 

 ダンブルドアは全員に指示を与えると、大広間の扉を一つだけ開けた。先生たちがその扉から出て、捜索に向かう。監督生が扉から出て警備にあたる。カサンドラも同じように外に出た。

 

「おお、そうじゃ」

 

 ダンブルドアが腕をさっと振るうと大広間のテーブルが全て端っこへと飛んで移動し、お行儀よく整頓されて壁に並んだ。もう一振りすると、生徒全員分のふかふかの寝袋が床に現れた。

 

「よし、よし。ではの、諸君、おやすみ」

 

 ダンブルドアが大広間を出ると、がちゃんと扉が閉まり、しっかりと鍵がかかる音がした。大広間はたちまちざわざわと騒がしくなった。普段の寮の対立はなんだったのかというほどいろんな寮にわたって情報のやり取りが発生し、噂が飛び交う。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だけでなく、ほとんどの生徒はなかなか寝付けなかった。

 

 ――1993年10月 ホグワーツ大広間外

 

 カサンドラはそれから寝ずにずっと周囲の警戒に当たっていた。その隣では同じようにダンブルドアが警備にあたっている。

 

「……侵入に気づかなかった私が言うのもなんだが、吸魂鬼だったか? あいつらはサボってたのか?」

「ワシはお主が失敗したとは思っておらん。非常に不本意じゃが、吸魂鬼もじゃ。吸魂鬼に発見できないということは、つまり人間には発見できなかった可能性があるのう」

「テレポートはどうなんだ」

 

 ダンブルドアは首を振る。

 

「いいや、姿現しができるのはワシと、ワシが許可した人間だけじゃ。妨害魔法が広範囲にわたってかかっておる」

「透明に……いや、効かないのか」

「うむ。『本物』の透明マントなら可能かもしれん。じゃが、それは持ち主がはっきりしておるでの、あり得ない」

「……わからん。侵入方法がわからん限り警戒もできんぞ」

「そうじゃの……」

 

 ダンブルドアとカサンドラはそれきり黙って警戒を続けた。

 

 それから数時間。監督生たちの悲鳴が聞こえることもなく、眠そうな監督生が何人か見える。そのたびにダンブルドアが覚醒の魔法を使って目を覚ませてやった。

 

「カサンドラ、一度生徒たちの様子を見ようかの」

「寝てると思うか?」

「ワシなら一晩中耳をそばだてておるのう」

 

 だろうな。カサンドラとダンブルドアは大広間の中に入る。カサンドラには数人が狸寝入りを決め込んだ気配を感じたが、何も言うつもりはなかった。不用意な発言には気を付けなければ。そう思うくらいだった。

 

「おお、パーシー、生徒たちの様子はどうかの」

「異常ありません。外は……?」

「こちらも進展なしじゃ。じゃが、朗報がある。太った婦人の居場所が分かった。しばらくは療養してもらうとして、寮の門番には別のものに担当してもらうことになるじゃろうな」

「……そうですか」

 

 カサンドラはいつそんな情報をやりとりしていたんだと思ったが、そういえば伝令役にはゴーストが担当していたんだったと思い出す。カサンドラの目にも耳にも、ゴーストの存在は検知できない。

 

「校長先生」

 

 大広間の扉が開いて、スネイプがやってきた。

 

「おお、セブルス。どうかの」

「探せるところは全て。しかしヤツはいません」

「ふむ、人のいそうなところではないところにいるかもしれんの。フクロウ小屋は見てみたかの?」

「はい。しかし……」

「いや、よい。大事なのはブラックを見つけることではない。生徒の安全を確保することじゃ。非常に不本意じゃが、ブラックがホグワーツからいなくなるのならばそれでよいのじゃ」

 

 ダンブルドアの言葉に、スネイプは不満げだった。

 

「校長先生、ヤツの侵入方法に心当たりは?」

「カサンドラといろいろ話していたのじゃがな、どれもみな不可能なのじゃよ」

「どれも? ふむ、全ての可能性を語りつくしたわけではないことは、カサンドラの様子を見ればわかろうというものですな。もし語りつくしていたのなら、カサンドラは吾輩相手にも警戒を向けるでしょう」

「しかしの、セブルス」

「一度ご忠告申し上げたはずだ。この城の守りは強固ですが、多くの守りは内部の手引きがあれば容易く突破できると」

「ワシは」

 

 

 二の句を継がせない、絶対的な威圧をにじませてダンブルドアは言った。

 

「決して、誰かがブラックをホグワーツに招いた。そんなことを考えてはおらん」

 

 ダンブルドアは首を振って強く否定した。

 

「カサンドラ、すまぬが生徒たちは頼んだぞ。ワシは吸魂鬼に会ってこなければならん。捜索を打ち切ることを伝えねばの」

「あの、ダンブルドア先生。校内を彼らに捜索させるわけにはいかなかったのですか?」

 

 パーシーが聞くと、ダンブルドアはきっぱりといった。

 

「わけにはいかんのじゃ、パーシー。ワシが校長である限り、吸魂鬼にこのホグワーツ城の敷居はまたがせん」

 

 ダンブルドアはそれだけをきっぱりと宣言すると、大広間から出て行った。

 

 ――1993年11月 ホグワーツ職員室

 

 カサンドラは緊張した様子で手もとの書類を確認する。羊皮紙ではなく、マグルらしいA4用紙にびっしり書かれた授業内容に何度も目を通す。カサンドラの初めての授業が迫っている。普段は職員室にいない先生たちも職員室で微笑ましそうにカサンドラを見ていた。生暖かい視線に苦笑しつつ、要領を確認する。ただ、視界の端で落ち込んだようすのマクゴナガルが気になった。不安と緊張を紛らわせるように、カサンドラは彼女に話しかける。

 

「……マクゴナガル、ずいぶん落ち込んでるな」

「ああ、すみません。初めての授業頑張ってください。ハグリッドの件があるのですから、過激なことは控えるべきでしょう。最初は無難に。生徒たちの人気をかっさらう必要などないのですよ」

「ありがとう。ベテランからのアドバイスは参考になる。マクゴナガルは何か心配事か?」

「ええ。明日の試合についてです」

 

 カサンドラは窓から外を見た。嵐と見紛う天気である。風は吹き荒れ、雨は土砂降り。とてもではないが明日にやんでいるとは思えない。

 

「この天気でやるのか?」

「それがクィディッチです。しかし、今年はポッターの練習時はフーチ先生をつけることと条件を付けたため、練習量が去年に比べて激減しているのです」

「それは……困ったな」

「はい。もはや天に祈るしかありません」

「……そうか。私はもう行く」

 

 カサンドラは書類を持って職員室から出る。

 

「頑張ってくださいね」

 

 ほかの先生たちの応援が、心強かった。

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