【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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カサンドラの授業

――1993年11月 闇の魔術に対する防衛術 教室

 

 危なかった。ハリーは教室の扉を開けながらそう思った。クィディッチの試合を明日に控えた今日、オリバーは休み時間にチームメイトを見つけては始業ギリギリまで作戦の伝達をやるようになった。ハリーには特に念入りに敵シーカー、ハッフルパフのセドリック・ディゴリー対策を授けてくるのだから、ハリーは闇の魔術に対する防衛術の授業に遅刻しそうになった。教室に入った瞬間にベルが鳴り、ハリーは心底安堵した。なにせ教壇に立っているのはルーピンではなく、代理のカサンドラだったからだ。ハリーの中の怒らせては行けない人リストで上位に位置する彼女の初授業で遅刻。想像するだに恐ろしい。カサンドラは一瞬じろりと睨んではきたが何も言わず、首だけで席に座るよう促す。

 

「揃ったな。始めるぞ。グリフィンドールの諸君、ルーピン先生は持病の療養のため本日は休暇だ。私が代わりに授業する」

 

 カサンドラの手元から金色の光が溢れたかと思うと、その手にはそれは見事な金色の杖があった。ハリーはその杖に見覚えがあった。クィレルの杖腕を切り落とした槍にもなる杖、ヘルメス・トリスメギストスの杖だ。最も、ハリーはヘルメスの杖としか覚えていなかったが。コツン、と石突きで床を軽く叩くと、自己紹介を始めた。

 

「私はニコラオスに育てられし、ピタゴラスの子カサンドラ。生まれは紀元前450年代のギリシャの都市国家スパルタ。魔法界に関わる功績はなし。ホグワーツでは警備員をやっている。トロール、ヴォル……例のあの人、バジリスクを討伐。私の経歴はこんなものか」

 

 カサンドラは教壇の右から左へとウロウロしながら自己紹介する。カサンドラの名乗りに、ハリーの隣に座るハーマイオニーがこれ以上ないってくらいに目を見開いて驚いていた。

 

「2400年以上生きてるの? というか、ファミリーネームないの?」

 

 シェーマス・フィネガンが思わずと言ったふうに聞く。カサンドラが長生きだということは知っていても、どれほど長生きかは知らなかったらしい。

 

「年齢についてはそうだ。ファミリーネームについては、私が生まれた時はそんなもの存在しなかった。まぁ私が生きてる期間はどうでもいい。私の授業についてだ」

 

 グリフィンドールの生徒はほぼ全員がどうか『今から中庭に行って走るぞ』と言いませんようにと祈っていた。カサンドラはフィジカルをかなり重視するタイプだというのはホグワーツでは常識だからだ。祈りが通じたのかどうかはわからないが、カサンドラはいつまで経っても走り込みをするぞとは言わなかった。

 

「基本的には私の傭兵のノウハウの中から『守る』ことに適したものを選んで話すことになる。教科書を少し進めた後でな。では早速始めるか。今日のテーマは人狼について。全員394ページを開け」

 

 ハーマイオニーが手を挙げた。

 

「どうした、グレンジャー」

「あー、カサンドラ先生。今日の予定はヒンキーパンクです」

「そうか。それはルーピン先生の予定だ。先生からも好きにやっていいと言われてるしな。ヒンキーパンクは次のルーピン先生に教えてもらうといい。さぁ、開け」

「人狼はまだ教わってません」

「ならぴったりだ。さぁ、もういいだろう?」

 

 カサンドラの言葉に、ハーマイオニーは不満げに頷いた。ハリーにはなぜそんなに不満なんだろうと思ったが、聞くことはしなかった。

 

「さて、お喋り好きのウィーズリー。人狼と狼の違いはわかるか?」

 

 何せどんなに小声でお喋りしようとカサンドラは聞きつけてしまうからだ。

 

「うえっ!? えっと、狼は人になれないけど、人狼は違います」

「ふむ。当たらずも遠からずだな。細かい相違点を挙げればキリがない。全員教科書の挿絵を見てくれ。見たな? 毛皮は短く顔は犬面だが腕は極端に発達し、後ろ足は人とそう変わらない。狼と人狼の違い。それは見分けるまでもなく全く別の生き物だということだ。諸君は狼を見たことは? ――ないか。犬がそのままデカくなったとイメージするといい。さて、そもそも人狼とはなにか……わかる者は?」

 

 カサンドラがそういうと、ハーマイオニーがまた手を挙げた。

 

「グレンジャー」

「はい先生。人狼は人狼病とも言われていて、人狼に噛まれた人間が人狼病にかかると言われています。満月の日に意識をなくして人狼となり、周囲の人間に襲いかかります。人狼の時は意識はありませんが、その時の記憶はあります」

 

 満足げにカサンドラは頷く。

 

「私からの説明はもう不要だな。グリフィンドールに5点」

 

 カサンドラの言葉に、ハーマイオニーは嬉しそうだ。

 

「人狼は病気の症状の一つだ。つまり、対処方法も病気と同じ。

 ――人狼病は薬で症状を抑えることができる。治りはしないが、現状維持は可能な病気だ。そのような病気は他にもいくつかある。緑内障、糖尿病、エイズなどがそうだ。これらの病気は明確な治療法がなく、一度発症すれば一生付き合っていく病気だ」

 

 当然のようにカサンドラは言うが、ハリーは挙げられた病気がどんな病気なのかひとつもわからなかった。糖尿病がギリギリわかるくらいである。周囲を見回すと全員が似たような顔をしていた。わかったようにメモを取っているのはハーマイオニーだけだ。

 

「さて、グレンジャー。これらの病気の現状維持において、患者にとって共通する課題がある。わかるか?」

 

 ハーマイオニーはしばらく悩んだ。あのハーマイオニーがしばらく悩んでそれでも答えを出せないということに、グリフィンドール生は例外なく驚いた。

 

「……薬が高い、でしょうか」

「それもある。一回に10クヌートだとしても一生となるととてつもない額になる。脱狼薬は調合難易度からしても高額な部類だろう。しかし薬が安価でも、これらの病気には難しい点がいくつかある。

 まずは治療がずっと続くと言う点だ。一生病院に通い、一生薬を飲み続ける。それは誰だって嫌気が差す。面倒くさい。そんな理由で治療を取りやめ、症状を悪化させてしまう事例は枚挙にいとまがない。

 次に治らないと言う点だな。どれほど医者にかかっても、どれだけ薬を飲んでも今より良くならない。それは患者に多大な精神的な負担を強いる。

 当然、人狼病にも同じことが言える。さらに、人狼病は偏見と、そしてその偏見がやむを得ないと思わせるだけの危険性がある」

 

 カサンドラは黒板に向かい、チョークを取った。

 

「人狼病患者が偏見を持たれるに至った理由を箇条書きに書いた。10年前の闇陣営に協力したこと、意識なく暴れるのに記憶だけはあること、噛まれれば人狼病にかかること。

 特に、特定の条件で移る病気の偏見から脱却するのはとても難しい。一昨年にフレディ・マーキュリーがエイズで亡くなった時もメディアはこぞってさまざまな憶測を書き立てた。それもエイズへの偏見を助長するようなことを」

「先生、フレディ・マーキュリーって誰ですか?」

「マグルのアーティストだ。Queenというロックバンドをやっていてな、伝説的なアーティストだった。エイズについては……授業内容からかなり逸れる。自分で調べるかマグル生まれの友達に聞く、もしくは後で私が個別に話す。

さて、話を戻そうか。特に人狼が危険視される理由は症状の発露、つまり満月の夜に凶暴化し、周囲の人間を攻撃する上に、その牙にかかれば同じように人狼と化すからだ。実際に人狼に殺された者も、気付かずに人狼病を移されていた者もいる。難しい問題だ。愛があれば、優しさがあればそれで偏見、差別がなくなるというわけでもない。ただ、これだけは言える。知識は諸君らを守る」

 

 カサンドラは教室を見回す。

 

「さて……人狼病の概要はこんなものだ。この授業は医学の科目じゃないし、人権の科目でもない。では闇の魔術に対する防衛術の授業として、人狼をどう扱うか……。実際に満月の夜に人狼に出会った時、諸君らはどうするべきか。それを教えようと思う」

 

 カサンドラはネビルの机まで歩き、コツン、と金色の杖の石突きで床を叩いた。

 

「さて、ロングボトム。私が襲いかかってくると仮定して、何に気をつける? ちなみにこの杖は槍でもある」

「え、えっと……。槍に気を付けます……」

 

 うむ、とカサンドラは頷いた。

 

「その通り。通常人間が攻撃する場合、動くのは腕か足だ。誰がどう考えても口じゃない」

 

 カサンドラは教壇に戻ると、大きな羊皮紙を黒板に張り出した。人狼のイラストがデカデカと書かれている。

 

「人狼相手だとその口を警戒しないわけにはいかない。だが、この容貌を見ればわかる通り、人狼は腕が長く、爪が発達している。対して顔の大きさはそこまで変化はなく、犬のように変化しただけ。このことから人狼の主な攻撃手段は口による噛みつきではなく、腕と爪による攻撃であることがわかる。口に警戒していたら馬鹿力で殴り殺されていた……なんてこともある。人狼と不意に対峙したとき、多くの場合自分が人狼病にかかったかどうかを心配する必要はない。大抵は死ぬからな」

 

 カサンドラの言葉に、生徒たちはゴクリと息を飲む。

 

「ではどうするか。まずは逃げろ。距離を取れ。踏み込んで一歩、そこから腕が届く範囲内から一瞬でも早く離れろ。攻撃範囲から離れたらあとは走って逃げろ。人狼から逃げおおせたという事例が示すように、人狼の速度はそこまで速くない。四足歩行に適していない人間の骨格のままだからだ。離れればあとは妨害魔法を中心に時間を稼ぎ、大人たちが来るのを待て。

 最もしてはいけないことは、説得を試みること、人狼を見たショックで呆然とすること。この二つだ。特に説得は無駄だからやめろ。それがたとえ恋人でも、自分の子供でもだ」

「先生ならどうするんですか?」

「いい質問だフィネガン。私のすることは変わらない。一昨年のハロウィンの時と、去年の秘密の部屋の時と。相手が誰であれ、お前らに危害を加えるのなら始末する」

 

 ハーマイオニーは恐る恐る手を挙げた。

 

「先生、その、それが……親しい人でも、ですか?」

「ああ。人狼病の患者全員がいい奴とは言わない。人狼になった影響で強くなった身体で悪さをする奴はいる。だが大抵の場合、人狼は病気に苦しむ1人の人間だ。

 だが、人狼は人を襲う。恋人を引き裂きお腹を食い破り腑を啜って……。そして夜が終わればそれらを間違いなく記憶している。ではそれを止めることができる場所にいて、止めることができるだけの力があれば。

 グレンジャー、究極の選択だ。人狼を殺すか、人狼に殺されるか。……答えなくていい。ただ、私は人狼を殺すことを選んだ。それだけなんだ」

「……はい、先生」

 

 さて、とカサンドラは空気を入れ替えるように周囲を見た。

 

「少し話題を変えようか。人狼についてはここまでだ。

 闇の魔術に対する防衛術……と、銘打たれたこの授業だが、とても包括的だとは思わないか? たとえば、去年。ギルデロイは人の記憶を奪う闇の魔法使いだった。女子生徒が1人、闇の魔術がかかった日記帳に操られた。

 ギルデロイの忘却呪文。

 例のあの人の日記。

 どちらも対処は『闇の魔術に対する防衛術』で学ぶべき範囲だろう。だが、人が使う魔法と、闇の魔法具。あるいはルーピン先生がしているような、危険な魔法生物の対処方法の授業。どれもこれも大事だ。しかし1人の先生が教えるにはあまりに範囲が広い。

 そこで私は、対人戦に特化した防衛術を教えていこうと思う。

 ……ああ、そんなに身構えるな。走り込みはしない。しておいた方がいいとは思うが」

 

 カサンドラがそういうと、緊張で張り詰めた雰囲気が一気に弛緩した。ハリーも走らされるのは嫌だった。

 

「さて、ポッター。悪意を持った敵から自分を守るために一番効率が良いのはなんだ?」

 

 ハリーは考える。思い出す。自分の身に降りかかってきた危険。そして、それはいつもどういう形で命を拾ってきたのか。

 

「……敵を倒すことです」

「その通り。自分を殺そうとする奴がうんともすんとも言わなくなるようにするのが一番手っ取り早い。黙らせる時間が数時間か、それとも永久にかは状況によるが。では私が今から諸君らに武器を持たせて人殺しの訓練をさせるかというと違う。

 諸君らが身につけるべき『防衛術』というのはすなわち時間稼ぎと伝達だ。一秒でも長く生存し、一刻も早く大人に危機を知らせる。これからはこの方法論を教えていく。今日は以上だ。宿題は羊皮紙一枚に人狼病についてまとめてこい。殺し方もあればなおよし。では解散」

 

 カサンドラの授業はそうして終わりを告げた。

 生徒たちがほとんどいなくなった教室。ハーマイオニーが思い詰めたような表情でカサンドラのところまでやってきた。

 

「カサンドラ先生」

「ん、ハーマイオニーか。どうしたんだ、深刻な顔をして」

「……ルーピン先生って、人狼、なんですか?」

 

 カサンドラは教室を見回した。ハーマイオニー以外の生徒はいない。

 

「なぜそう思った」

 

 ハーマイオニーは首を振った。

 

「なんとなく、ですけど。でも月に一度絶対休む病気で……スネイプ先生がわざわざ薬を調合するなんて。人狼の特徴を知って、改めて思ったんです」

「そうか。なあハーマイオニー。ルーピン先生はいい先生だ。だろう?」

 

 カサンドラの言葉に、ハーマイオニーは頷く。

 

「人がどんな病気を持っているか。それを私が話すことはない。それじゃ不満か?」

「……いいえ、先生。その、私が知りたかったのは、本当にルーピン先生がそうだったとして、もし生徒に襲い掛かったら、カサンドラはどうするの?」

 

 カサンドラは一瞬も迷わずに言った。

 

「もちろん殺す。ルーピンだけじゃない。人狼なのがたとえダンブルドアでも、ハーマイオニー、お前でもだ」

 

 カサンドラは話は終わりだとばかりに書類を小脇に抱えて歩き出した。

 

「先生! でも、その日を乗り切ったらその人は元に戻るのよ? それでも?」

「それでもだ」

 

 カサンドラは頑なだった。教室から出て行った後も、ハーマイオニーは険しい顔をしてずっと考えていた。そして、それからしばらくして。ハーマイオニーは胸元にある砂時計のネックレスをくるり、と回す。

 

 ――ハーマイオニーはその場から消えた。

 

 ――1993年11月 クィディッチアリーナ

 

 カサンドラは周囲を見ながら試合の行く末を見守っていた。豪雨と暴風のせいで生徒の動きはおろかどこにいるかすら見えないが。

 

「なあ、ダンブルドア。何も見えやしないんだが」

「ほっほっほ。これもクィディッチの醍醐味というやつじゃよ」

 

 カサンドラは首を傾げた。ブラックの侵入が疑われる今、本来ならクィディッチは中止するべきなのだろうが、ダンブルドアは離れ業を使って試合を続行することにした。つまり、クィディッチ観戦を生徒全員に強制し、このアリーナにホグワーツの全生徒を集めさせたのだ。確かにこうすればホグワーツは守らなくていいからカサンドラもクィディッチを観戦できるというわけだ。そこまでしてクィディッチをやりたいのか、とカサンドラは戦慄した。何が恐ろしいかといえば、この措置に関して教職員、生徒から反対の声があがらなかったことだ。どんだけ人気なんだ。

 

「去年はクィディッチの決勝が中止になったと聞きました。今年はグリフィンドールが優勝するといいですねカサンドラ」

「ああ、そうだな」

「カサンドラはあのザマのグリフィンドールが勝てると思っているのか? 見てみろあの無様なポッターを。質のいい眼鏡を買う金すらジェームズは遺してくれなかったようだな、あの様子では」

「おう」

「スリザリンは今年も敗退だろう。なにせ生徒の亡くなった親を貶すような人間が寮監なのだから」

「うんそうだな」

「貶されるような親を持ったポッターが悪い」

「ずいぶんと根に持つじゃないかセブルス」

「貴様に言われる筋合いはないぞリーマス」

「いい加減にしろ」

 

 カサンドラは両隣に座った仲の悪い二人を押しやり、物理的な距離を離した。

 

「お前らロンとハーマイオニーか。私を挟んで喧嘩するんじゃない。あんまりうるさいと黙らせるぞ」

「う……すまない、カサンドラ先生」

「カサンドラ、くれぐれも、私をグリフィンドールの馬鹿どもと同じように言うのはやめていただきたい。恐るべき侮辱だ」

「わかった、わかったから試合に集中させろ」

 

 とは言ってもカサンドラにとってしてみればひゅんひゅんと米粒が動いているようにしか見えない。選手からしてもそうだろう。こんなんでスニッチが見つかるのか。そうカサンドラが思っていると、ハリーが箒を駆り、すさまじいスピードで動き始めた。セドリック・ディゴリーも追従する。

 

「スニッチを見つけた? よくやるよ」

「さすがはジェームズの子だ! 彼も素晴らしいシーカーだった」

「ポッターは毎回ボロボロになっているな。その無様も親譲りなのだろう」

「なんだと?」

「やめろと言ってる! ルーピン先生、フリットウィック先生に席を代わってもらえ」

「しかしだな、カサンドラ先生」

「黙らせるぞ」

 

 カサンドラが言うと、ルーピンは渋々フリットウィックに席の交換を申し出た。

 

「どうしたのですか?」

「監督すべき生徒がここにもいたってだけだ。大人げない……」

 

 フリットウィックは不思議そうにしていた。

 

「……カサンドラ」

 

 ふと、スネイプが緊張した面持ちでカサンドラを呼んだ。

 

「どうした?」

「吸魂鬼がポッターに群がっている」

「何? 何も見えんぞ」

「……クソ。馬鹿な! 校長、なぜ奴らがここに!」

「……ふざけおって。ここがホグワーツの外だとでもいうつもりかの」

 

 スネイプは息を詰まらせた。見るからに怒りに顔を染めたダンブルドアがいたからだ。カサンドラは立ち上がる。

 

「指示をくれ、ダンブルドア」

「残念じゃが今はまだカサンドラにできることは――! カサンドラ!」

 

 ダンブルドアが叫んで、杖を取り出した。彼が杖を振るった先を見ると、ハリーが箒から落ちて遥か上空から落下している。

 

「な――!」

「行け!」

 

 カサンドラははじかれたように駆け出し、教員塔から飛び降りて、生徒席のへりにすたりと降り立つ。その様はまるで猫のように鮮やかだった。生徒席からも飛び降りると、カサンドラはハリーがいた方に駆け出す。

 

「よいか」

 

 ダンブルドアの声が耳元で響く。

 

「今からハリーの元へ導く光を放つ。光を追え」

「わかった」

 

 カサンドラの目の前に、スニッチのような大きさの光の玉が現れる。カサンドラはそれを追って走り続ける。森に入るとハリーの試合相手である飛んでいたセドリックがカサンドラの隣にやってくる。

 

「……カサンドラ!」

「セドリック! 何があった!」

 

 わからないんだ、と彼は返した。

 

「吸魂鬼がハリーに群がったと思えば、ハリーが全身の力を抜いて……気絶したんだ!」

「心配するな。私がキャッチする」

 

 光の玉がいきなり上空に向かって動いた。カサンドラが空を見上げると、ハリーがゆっくりと落ちてくる。どうやらダンブルドアが魔法をかけたらしい。踏みしめていた地面にも変化が現れた。硬い地面から、まるでよく耕された畑のようにふんわりとした土へと変化した。

 

「ホント、ダンブルドアはすごい魔法使いだ」

 

 ぽす、と驚くほど軽い衝撃と共にハリーを受け止めながら、カサンドラは言った。

 

「カサンドラ、急いで離れるんだ! 吸魂鬼が周りに山ほどいるぞ!」

 

 カサンドラは周囲を見回すが、何も見えない。ヘルメスの槍を取り出して周囲をうかがう。

 

「……クソ! なんにも見えないぞ! アレシア、なんとかならないのか!」

 

 カサンドラは縋るように言う。守ろうにも敵が見えないんじゃどうにもならない。

 

『その必要を感じない』

 

 カサンドラの脳裏に、そんな声が聞こえた。

 それと同時に、半透明の不死鳥がカサンドラの周囲を飛び回った。

 

「……す、すごい。校長先生の守護霊魔法だ」

「なるほどな。さて、今年もハリーは医務室か。で、セドリック。どっちがスニッチを?」

 

 カサンドラが聞くと、セドリックは手の内に握ったスニッチを見せた。

 

「でも、こんなんじゃ僕勝った気になれないよ」

「勝利は勝利だ。病気の隙を突こうが、勝者は勝者。胸を張れ」

「……うん」

 

 カサンドラはアリーナに向かって歩き始めた。

 

 

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