【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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原作とちょっと時系列前後します


ホグワーツの『秘宝』

 ハロウィンの一件からしばらく。表面上は平穏を取り戻したホグワーツだったが、教員としてはまだまだ気が抜けない日々である。今日も夜の巡回は気を抜けない。

 

(おそらく犯人はクィレル……だが証拠がない)

 

 トロールの専門家で、なおかつあのハロウィンの大広間で、ほぼ唯一ハロウィンに参加していなかった教員。確実とは言えないものの、可能性は高い。

 だが、高いからと言って糾弾するわけにもいかないのは事実。疑惑もトロール使い=犯人くらいの短絡にも過ぎるものだし、そもそも疑惑があるからと始末していいのは古代までなのだ。いや――昔も、証拠集めやら何やらで東奔西走していた記憶がある。それに、もしサクッと始末して実は末端でしたでは、それこそ糸が切れることを懸念していたダンブルドアの予想が的中することになる。

 

(――最も考えられるのはクィレルは撒餌。あるいは油断を誘う罠。まいったな)

 

 内心苦笑しながら、少しひらけた場所に出る。すると、大きな鏡の前にハリーが座り、ぼんやりとしていた。

 

「またお前か」

 

 カサンドラが声をかけると、ハリーが勢いよく振り返る。ささっと、ハリーが移動し鏡の前を開ける。

 

「――なんだ?」

「これ、変な鏡なんだ。ロンも、ハーマイオニーも、僕とは違うものが映ったんだ。ねえ、鏡の前に立ってくれないかな」

 

 ハリーの言葉に興味を惹かれたカサンドラは、言われた通りに鏡の前に立つ――そして、映ったものに、目を見開いた。

 

「――みんながいる。母さん、義父さん、アレクシオスも。はは、ステントールもいるぞ。レオニダスに、ブラシダスもだ」

 

 カサンドラは鏡を撫でる。その瞳からは、涙が溢れていた。

 

「ああ、バルナバス、それにヘロドトスも。懐かしい……懐かしい」

 

 鏡の中に出てきては消えていく人々を、一人一人の名前を言う。夫、子供。沢山の人々。

 鏡の中のカサンドラは、仰々しい鎧も武器も持たずに、柔らかく微笑んでいた。

 

「――ハリー、これは何を写す鏡なんだ?死んだ人間か?」

「カサンドラは、その鏡に映ってる人……みんな亡くなってるの?」

 

 ハリーが恐る恐る聞いてくる。カサンドラは頷く。

 

「ああ。だが――気にするな」

 

 カサンドラは振り返り、ハリーを見た。隈が酷い。頬も少しこけている。寝ていないのだろう。おそらくきっと、この鏡を1秒でも長く見るために。

 

「ハリー。まさかずっとこの鏡を見ていたのか?」

「そうだよ。カサンドラならわかるでしょ?僕には……パパとママがいないんだ。やっと会えたんだよ。この鏡があれば、会えるんだ」

 

 鏡に魅入られている。人の心を覗き見て都合がいいように操る道具。カサンドラには心当たりがあった。

 

「ハリー。心を強く持て。これは鏡でしかない。お前の両親は、鏡の中にしかいないんだ」

「でも!カサンドラはわからないんだ!僕はずっと、ずっと両親がいない!殺されたんだ!」

 

 その表情はあまりに悲痛だった。カサンドラはしばらく悩む。――そして、打ち明けることにした。

 

「――私も子供の頃ずっと両親がいなかった」

「え?」

 

 カサンドラは床に座ると、ハリーに隣を促した。彼はストンと床に座る。

 

「死んではいなかった。だが、私は子供の頃……ダイゲドス山から父親に投げ捨てられたんだ」

「――あ、え、えっと、どうしてかは……聞いても大丈夫?」

「ああ。気にするな。笑える理由さ。デルポイのピュティアから神託があったと言われたのさ」

「デルポイ?ピュティアって?」

「デルポイは地名で……ピュティアってのは予言者だ」

「予言者?そんなのに従って、カサンドラのパパはカサンドラを捨てたの?」

「正確には弟をだな。『この赤子を投げ捨てなければスパルタは滅ぶ!』なんて口から出まかせを頭から信じてな。まだ赤ちゃんだった弟を守ろうと神官を突き落として……けじめとして、私も山から突き落とされた」

「そんな……」

 

今からすれば笑い話にもならないが、当時は予言者の言葉は王の言葉よりも重かった。秘密結社コスモスの門徒に支配された予言を必死になって守っていたと思えば、さらに笑えてくる。

 

「山裾で目が覚めた私はボートみたいな小舟に乗って海へ出て――ケファロニアに流れ着いた」

「そこでどうしたの?」

「そこでまぁ、信頼できる人に拾われて、傭兵をやるようになったが……寂しさはずっと、埋められなかった」

 

ハリーは黙って聞いている。

 

「結局、再会するまで言いようのない寂しさと言うのは付き纏っていた。そのときにこの鏡を見ていたら――どうだろうな、ハリーみたいに魅入られたかもしれない」

「再会? でもカサンドラ、さっき鏡の人はみんな死んだって……」

 

 カサンドラは薄く微笑む。

 

「世の中そんなものだ。人はいつか、親との永別を経験する。だがハリー。私は親を忘れろと言ったわけじゃない。こんな秘宝に両親を見出すなと言いたいんだ」

「秘宝……?」

 

 カサンドラは頷く。

 

「かつて来たりし者達という、古代文明が遺した秘宝だ。効果は色々とあるが……大体は人の心に作用する。心の弱いヤツを意のままに操り、破滅をもたらす。ハリー、この鏡はとても危険なものなんだ。もう二度と、見ようと思ってはいけない」

「でも、パパとママが!」

 

 カサンドラは立ち上がる。

 

「この城の歴史を辿れ、ハリー」

「え?」

「両親が子供の頃どこに通ってたと思う?」

「あ…」

「わかったらもう寝ろ。調査ってのは体力仕事だ。その上頭も使う。よく寝て、よく食べろ。探偵の私が言うんだ、確実だぞ。……いいな」

 

 希望を見つけたようなハリーは、同じように立ち上がった。

 

「うん! わかった、じゃあね、カサンドラ!」

「ああ」

 

 ハリーはそう言うと、帰っていった。

 

「――城の警備について話がある、ダンブルドア」

「気づいておったか」

「隠れる気があったのか?で、この鏡はなんだ?」

「お主は……なんじゃと思う?」

「問答をする気はない。確実なのは、私にとってはロクでもない道具だということだ。ハリーにも」

「まぁ、まぁ。そうせかせかするでない。この鏡は、みぞの鏡という。お主が想像した通り、見たものの望みが叶った姿を写す。カサンドラ、お主は死者に会いたいのかの?」

「それが悪いことか?」

 

 ダンブルドアは首を振った。

 

「違うとも。じゃが忘れないで欲しい。死者が蘇るような魔法は魔法界には――」

「ダンブルドア、そんなものがなくても死者には会える」

「――ほう?」

「果てしなき旅路を終え、死者と成り果てたとき、エリュシオンは降りてきて、永遠の休息を得られる。つまり、あー、なんだ。簡単に言うとだな。死者とは死んだら会える。だから焦る必要はないんだ。それに、もう『時』は近い」

「――そうか。そうじゃな」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「老人を前に、失礼だったか?」

「いいや、カサンドラ。実に救われたよ。死とは、新たな旅路の入り口に過ぎないのだと、改めてわかったのじゃ」

 

 旅路か、とカサンドラはつぶやく。

 

「そうじゃ」

「もう私は、歩くのには疲れたな」

「ほっほっほ。これはまた異なことを。まだまだお主は若いじゃろう?」

「――そうだったな。私は巡回に戻る。警備員として、この危険な鏡をどうにかするよう進言するが」

「おお、そうじゃな。場所を移さなくては、またハリーのような子が魅入られては事じゃ」

「結構多いのか、ハリーのような境遇の子は」

 

 カサンドラは確信に近い疑問を口に出した。警備員としてさまざまな学年、さまざまな寮の生徒と付き合っていると、幼少期の自分のような、そんな目をした生徒がちらほら見受けられる。それに、もうホグワーツに……魔法界に足を踏み入れて二ヶ月にもなる。何も知らないわけではないのだ。十年前、猛威を振るった最悪な魔法使い。

 

「――そうじゃ。不幸なことに、とても多い」

「ヴォルデモートとかいうクソ魔法使いが?」

「そうじゃ。そのクソ魔法使いじゃよ。カサンドラ、気持ちはわかるが、生徒の前で名前を出すのは避けてやっておくれ。ワシ個人としては、名を恐れる必要などどこにもないと思うのじゃがの」

 

 カサンドラは苦々しい顔でうなずいた。

 

「できれば避けたいんだがな。名前を忌むということは、神聖視に繋がると私は考えている」

「興味深いの。ヴォルデモートは、彼らの部下から神の如く崇められとった」

「こっちまで向こうの理屈に従う必要はないだろう?『汝、主の御名をみだりに唱えることなかれ』だ。名前を恐れて何になる」

 

 正直カサンドラはキリスト教信者というわけではない。だが、その教義は頭に入っている。とてもバカバカしいことだが、聖句の一つでも間違えると捕らえられ、拷問にかけられ、火炙りにされる時代があったのだ。

 

「まっこと、道理じゃな。じゃが、何事にも理由はある。それだけ、ヴォルデモートはたくさんの魔法使いを殺めたのじゃ。そしてその配下も。山ほどの悲劇があり……救いは何一つなかった。そして、唯一の希望を見つけたかのように……縋るように。生き残った男の子を英雄として崇めておる。それほどまでに、魔法使いはヤツに追い詰められたのじゃ」

「――そいつは恐ろしいな」

 

 名前を呼んではいけないあの人、か。カサンドラが相手をしたことがないタイプの悪だ。名を広く知らしめて悪事を働き、強さゆえに勢力を伸ばすなんて。まるでそんな海賊みたいな生き方をする奴が影響力を得るなど、カサンドラからしてみれば珍しいとさえ感じる。

 

「のう、カサンドラ」

「ん?」

「お主の望みは――死ぬこと、かの?」

 

 カサンドラは肩を竦めた。

 

「どうでもいいだろう、そんなこと。じゃあ私は巡回に戻る」

 

 ダンブルドアは、飄々と手を振って背中を見せ、歩き出すカサンドラをじっと見ていた。

 

――1991年 11月 ホグワーツ図書室

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は図書室で様々な図鑑をひっくり返して調査をしていた。ハリーの両親のことを知るため――ではなく、隠された『真実』を探るため。

 

「ニコラス・フラメル、ニコラス・フラメル……ダメだ、どこにもないよ」

 

 ハリーがお手上げといった風に机に突っ伏した。

 ことの起こりはマルフォイに決闘をすっぽかされ、あわやケルベロスの餌になりかけた日まで遡る。その翌日秀才ハーマイオニーがケルベロスは番人……何かを守る生物であることを思い出した。

 ケルベロスに守らせるということは凄まじい秘宝であることは間違いなく、その考えを聞いたハリーはハグリッドがそれっぽい小包をグリンゴッツ銀行から取り出したことをロンとハーマイオニーに話し……そして、興味が惹かれた彼らは探偵ごっこを始めることになった。

 魔法使いのスポーツ、クィディッチやトロール殺人事件などで一時期は調査が難航したが、冬休みを控えたハリー達は新たな手がかりを得たのだ。

 小包の中身は、ニコラス・フラメルという人物が関わっている、と。情報の出どころは件の小包をホグワーツに運んだ人物、ハグリッドである。まず間違い無いだろう。彼の口の軽さは子供ながらに心配になったが、まぁ、それも愛嬌だろう。

 

「なぁ、ハーマイオニー、ニコラス・フラメルってホントに魔法界の人間なのか?」

「そうに決まってるじゃない。それともなに?マグルがわざわざホグワーツに保管しなきゃいけないようなものを作るって?」

「ありえなくはないだろ?カサンドラなんてホントにマグルかと思うくらい強いじゃないか。頭でもすごいやつがいたっていいだろ?」

 

 そう言われればなくはないと思う。ハーマイオニーとしてはトロールより強い人が存在すること自体にめまいがしそうだが。

 

「――ねえ、カサンドラに聞いてみない?」

 

 名案を思いついた、という風にハリーが言った。

 

「どうして?たしかに色々知ってそうだけど……」

「やめとくべきだよ、ハリー。知ってる?カサンドラってスネイプと仲良く喋ってることがあるらしいよ。あのスネイプと!」

「スネイプ『先生』よ、ロン。同じ教員なんだからそれくらい普通でしょう」

「もし恋人だったらどうするんだよ。全部バレるぞ!」

 

 カサンドラ、スネイプ、どっちに聞かれたとしてもキレられそうなことを言いながらロンは強硬に反対する。彼にとってスネイプはハリーを殺そうと企み、隠された宝を奪おうとする悪人なのだ。

 

「でも……そうね、大人のことなんてよくわからないし。

でもそれじゃどうするの?」

「ハーマイオニー、冬休みにニコラス・フラメルについて調べておいて欲しい。マグルとして大成してる魔法使いもいる。そっち方面から調べてみよう」

「あー、わかったわ」

「あ、それじゃあさ、ハーマイオニー」

「どうしたの?」

「ついでにさ、何人か調べて欲しいんだ。レオニダス、ヘロドトス、それから……そう、スパルタ。他にも何人か……」

 

 ハリーはあの日の夜、カサンドラが溢した名前を列挙していく。

 

「――大丈夫そう?」

「調べるだけなら別にいいんだけど、どうして?」

「カサンドラの大切な人って誰なのかなって思って。家族……にしては数が多かったし。もしかしたらすごく有名な人かもしれないでしょ?あのカサンドラの家族だよ?」

 

 無茶苦茶な理論に聞こえるが、ハーマイオニーには納得できた。

 何せカサンドラはトロールを一人で倒せるくらい強いのだ。そんな彼女の家族ともなれば、有名な格闘家だったりする可能性はある。

 

「わかった。任せて」

 

 ハーマイオニーはどん、と胸を叩いた。

 

 冬休み。イギリスにある歯科医院が彼女の実家である。小さいながらも繁盛していて、とても理解のある両親と共に、健やかに、幸せにハーマイオニーは成長した。どれくらい理解があるかというと、娘がいきなりごく普通の進路を捨て、魔法使いになると決めたときも怒鳴らずに受け入れたくらいである。

 

「パパ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

 冬休みから帰ってきて、分厚い百科事典を片手にハーマイオニーが聞いてきた時も、ああ、娘が帰ってきたんだなぁとしか思わなかった。なにせハーマイオニーときたら、いつ何時も分厚い本を手放さないのが普通なのだ。ホグワーツに入学する一週間前なんか、食事の時も教科書を読み続けていた。努力家なところは誇らしくもあるが、友達が少ない、あるいはいないことについてはかなり心配していた。

 

「友達と一緒に調べ物してて、わからないことが一つあって」

「それは大変だ。パパに言ってごらん」

 

 ハーマイオニーは百科事典のうちの一ページ、古い壁画と石像が描かれた項目を指差した。

 

「スパルタって、今もあるの?」

 

 ふむ、とハーマイオニーのパパは顎に手を当てた。

 

「ハーマイオニー、土地と名前という意味なら、ある。ただ、そうじゃないんだろう?」

「ええ」

 

 ハーマイオニーは冬休みからこっち、自由時間のほとんどを読書、調査に費やしていた。まあいつものことなのだが、友達の為に、というのがハーマイオニーとしては珍しいことだった。いや、あるいは初めてなのかもしれない。

 ニコラス・フラメルについては割と早期に特定ができた。マグルか魔法使いなのかまではホグワーツに戻らないとわからないが、マグルの世界でも有名な錬金術師だった。

 だが難航するのはハリーの言った人名、おそらくカサンドラの大切な人の名前。最初は後ろめたさ半分、好奇心半分だったが、調べるうちにだんだんと深みに嵌り、調査に熱が入ってしまったのだ。

 なにせ、ハリーがあげた名前は全て、古い人間の名前なのだ。100年200年ではきかない。なんと紀元前400年代――ざっと2400年前の名前ばかりなのだ!この謎を解き明かさないことには、ホグワーツに帰れない。ハーマイオニーは使命感に燃えていた。

 

「見て、パパ。ヘロドトス。『歴史』『鷲の傭兵』が著名。

 ヒポクラテス。当時の医療を何世代分も引き上げた人。

 レオニダス。この人は……ちょっと古め。スパルタの王様。

 ソクラテス。哲学者。

 アリストファネス、喜劇メインの劇作家」

「よく調べてるね……。でもどうして急に? グレンジャー家の一人娘は古代ギリシャマニアじゃなかったと思うけど。それとも魔法使いには必須な知識なのかな」

「違うの! それにほら、これ!」

 

 そう言ってハーマイオニーはスパルタの兵士の石像を指差した。

 

「この兜、カサンドラが入学式の時机に置いてたの!」

「じゃあそのカサンドラって人がギリシャマニアなのかな」

 

 違う! と言いたかったが、ハーマイオニーには否定できるだけの資料がなかった。だが、ハーマイオニーのカンはそんなことで収まる話ではないと言っているのだ。

 

「……パパは魔法使いのことなんて何にも知らないけど。もしかしたら、そのころからずっと長生きしてるのかもね」

「……カサンドラが? でもあの人確かに古めかしいこと言う人だけど……」

「ハーマイオニー、たくさん知識をつけて、その人に聞いてごらんよ。辛い事じゃなかったら話してくれると思うよ。でもね、ハーマイオニー。人に昔のことを聞くときは、配慮を忘れちゃいけないよ」

「……うん、パパ」

 

 ハーマイオニーのパパは柔らかく微笑んだ。

 

「よし、じゃあ魔法使いについて教えてほしいな。きっと不思議で、毎日が煌めいているんだろうね」

 

 ハーマイオニーは語り出すと止まらない。

 

 最初はニコニコ聞いていたパパだったが、ことがトロール殺人事件のことになると、顔を真っ青にしていたが。

 

 ――そして、ハーマイオニーパパはまだ、トロールなんかよりやばいことに娘が関わることを、ハーマイオニーは調べ物どころじゃなくなることを、彼らはまだ知らない。

 

――1992年 1月 ホグワーツ中庭 

 

「は? ドラゴン?」

 

 カサンドラは目をまん丸くして悲痛な訴えをする3人を見つめていた。カサンドラは聞かなきゃよかったと早くも後悔していたが、聞かなかったことにするわけにもいかない。

 

「あー、その、ロン。ドラゴンって……魔法界じゃ普通なのか?」

「普通か? 普通かだって?カサンドラ、普通だったらわざわざトロール殺しの警備員に話をすると思うの?」

「あー、そうだな」

 

 カサンドラはため息をついた。ドラゴンだと?ある程度の化け物を殺した経験がある彼女だが、ドラゴンは経験がない。

 

「それで、どこにいるんだ?地下の秘密遺跡か?それとも封印された宝でも開けたのか?森の奥に巣穴でもあったか?」

「ハグリッドだよ」

 

 ハリーが苦々しげに告げる。

 ハリーとしても告げ口なんてしたくなかった。なかったが、ロンの指が『ちっちゃな』――何度聞いてもバカバカしい、もうハグリッドの小屋の半分くらいに大きいドラゴンが『ちっちゃな』?――ドラゴン、ノーバートに半ば噛みちぎられてしまってはそうも言ってられなくなった。次は自分か、ハーマイオニーか。そう思うといてもたってもいられなくなって、頼れる大人代表であるカサンドラに話を打ち明けたのだ。

 

「――なんだと?つまりそれは、ハグリッドが……飼ってるということか?なら問題ないんじゃないか?」

「おおありよ!」

 

 ハーマイオニーがきゃんきゃん声で言った。

 

「本で読んだわ。魔法使いの法律だと、資格のない人はドラゴンは飼ってもいけないし売買も禁じられてるの!これが魔法省にバレたら大変よ。ハグリッドは杖を折られてる。もう一生アズカバンから出られないかも……」

 

 だんだんと尻すぼみになっていくハーマイオニーの頭を撫でると、カサンドラは頭を回転させる。

 

「ハグリッドは資格を持ってるんじゃないか?」

「無理だよ。チャーリーが言ってたけど、ドラゴンキーパーになるには人柄も考慮されるって。少なくともホグワーツを退学になるような人は、絶対なれっこないよ」

「このままだとハグリッドの小屋があいつのくしゃみで黒こげになっちゃう。カサンドラ、どうにかならないかな」

 

 カサンドラはハリーのすがるような声に応えてやりたかった。だがカサンドラもカサンドラで困惑しているのだ。

 

「どうにか、というのがドラゴンの始末という意味ならできるが……まいったな。ハグリッドは同僚なんだ」

 

 敵対者は大体始末してきたカサンドラだったが、いくら彼女でもそれなりに仲の良い同僚のペットを問答無用で始末するほど人格破綻はしていない。

 

「校長には言ったのか?」

「ダンブルドア先生には言わないで!本当にアズカバン送りになっちゃう!」

 

 カサンドラは悩む。カサンドラは警備員で……生徒が立ち入ることができる場所にドラゴンがいるというのは当然職責のうちに入る。

 

「――まぁ、わかった。とりあえず確認に行くか」

 

 確認してからでも遅くないか。ペットというからには、ちゃんと飼えているんだろうし。カサンドラは必死の形相の三人に連れられて、ハグリッドの小屋に向かった。




カサンドラの実の父親の名前は出てきません。理由? あの父親を『大切な人』にカウントする人間がいたら見てみたいね

みぞの鏡は『かつて来たりし者たち』製の秘宝です。なので人間に対して強い心理的な作用があります。

予言のせいで親に捨てられたカサンドラと、予言のせいで親を殺されたハリー。二人の境遇には共通項がいくつかあります。

原作ではヴォルデモートの名前を直でいう人はほとんどいません。恐れて名前を言わないということは畏れ敬うことに遥かに近いことだとカサンドラは考えています。

スネイプはリリーラブぞっこんで、カサンドラのタイプは……なんだろう、ゲーム本編の印象だと手当たり次第に食ってるイメージしかない

ヘロドトスの『鷲の傭兵』はオリジナル書籍です。きっと書いただろうな、書いててほしいなと思ったので登場させました

『本で読んだわ!』
 言わせたいセリフでした。幼少期ハーマイオニーを象徴するセリフですね
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