【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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非公式会談

――1993年12月 三本の箒

 

 コーネリウス・ファッジはラム酒を頼むと、カサンドラの隣に座り、にこやかに話しかける。

 

「昨年度は挨拶だけでしたな。こうしてお話の機会があって実に嬉しい」

「私もだ。魔法省大臣に顔を覚えてもらえるとは、光栄だな」

「いや、いや。実に珍しいことなのだよ、カサンドラ。魔法界にマグルがいて……それがホグワーツで働いているとなると。おそらく世界で初めてだろうね」

「まぁ、そうだろうな。あまり引っ掻き回さないようにはしてるが……。で、ここはいくら非公式の場とはいえ大臣が来るところか?」

 

 カサンドラが言うと、彼は驚いたような顔をした。

 

「ここほど魔法界をよく見れる場所はない。ただまぁ、あまりうろつきたくない場所と化しているのは否定しないが」

「そうですよ、大臣。ホグワーツだけでなく、ここにまであの悍しい生き物がいるなんて! 気が滅入って仕方ありません」

 

 マクゴナガルの言葉に、ファッジはたじろいだように軽く姿勢を正した。

 

「マクゴナガル先生、仕方のないことなのです。奴らは今ブラックの件で躍起になっている。捕まえるまで、ほんの一瞬たりとも休みはせんでしょう」

「その疲労を、生徒の魂で補われては困るのです!」

「わかっています。しかしブラックを捕らえるまで警戒を解くわけにはいかんのです」

 

 なるほどな、とカサンドラは言う。

 

「凶悪犯か……なぁ、そもそも、ブラックはハリーを狙うと皆確信してるみたいだが、なぜだ?」

「ブラックは例のあの人の忠実なる信奉者だからですよ」

 

 甲高い声で、フリットウィックが言う。足を不機嫌そうにプラプラさせながら。

 

「クィレルのような、か?」

「その名を出さないでください! ホグワーツの恥です!」

 

 マクゴナガルが声を押さえながら叫ぶという器用なことをした。

 

「……しかし疑問も尤もです。当時を知る者なら誰もが信じなかったでしょう。皆、最初はそうでした」

「当時?」

「ええ。ブラックには学生時代特に仲の良い友人がいました。フリットウィック先生、ハグリッド先生も覚えてらっしゃるでしょう?」

「はっはっは。マクゴナガル先生、あいつらを忘れるなんてこと、忘却呪文にかけられたんでもなきゃ無理ってもんでさ。シリウス・ブラックとジェームズ・ポッターのコンビは凄かった」

「兄弟のようでした。手を焼かされましたが」

 

 フリットウィックはしみじみと言った。

 

「本当に賢い2人でした。もちろん、後の2人もですが。もうあんなに減点と加点を繰り返す生徒には今後お目にはかかれないと思うほどでした。優しい一面もありました。スネイプ先生の命を救ったこともあるほどなのですよ?」

「フレッドとジョージみたいな感じか」

 

 カサンドラの言葉に、他の4人は大きく頷いた。

 

「その通りです、カサンドラ」

 

 ファッジが当時を思い出してわずかに微笑む。

 

「彼らはお互いを親よりも信頼できる人間だと思っていました。ポッターがエバンズと結婚するときも、新郎の付き添いを務めるほどです。もちろん、ポッター夫妻もその信頼に応えて、ブラックをハリーの名付け親にしたんですよ。

 ――ハリーは知りませんし、我々が教えることもないでしょう。真実はあまりに辛すぎる」

「なるほどな……。親友で、固い絆で結ばれていたわけか。だが、裏切って死喰い人となった」

「それだけならどれほどよかったか」

 

 ファッジの言葉に、カサンドラは首を傾げる。ファッジは声を落とした。

 

「ポッター夫妻は例のあの人の標的になったことを知った。当時のダンブルドア先生は苛烈な英雄でしたからな。死喰い人に優秀なスパイを幾人も放ち、敵の情報を手に入れていました。

しかし、カサンドラ。守ると言うことは特に難しい」

「だろうな。四六時中ゴロツキが自分の命を狙ってると知ったら……気が気でないだろう」

 

 ええ、とファッジは頷いた。

 

「ですが魔法はその困難を可能にします。『忠誠の術』という古く、複雑で、強固な魔法があるのです」

「……忠誠の術?」

「秘密を、人に封じ込めるのです。その人が秘密を黙する限り、世界全てに対して秘匿できる極上の魔法です。この魔法がかかった場所は絶対の安全が保障されると言ってもいいでしょう」

「……だが、結果はそうなってないぞ」

 

 ええ、とマクゴナガルが続ける。

 

「忠誠の術は強力ですが、秘密を保持する人間……『秘密の守り人』が秘密を誰かに伝えれば、伝えられたその誰かにとって、秘密は秘密でなくなります」

「ということは、だ。ブラックが……その秘密の守り人だったってことか?」

 

 全員が頷いた。ちょうどそのころ、全員が頼んだ飲み物がテーブルに並べられた。

 

「当然でしょう。当時は誰もがポッターとブラックとの絆を疑っていなかった」

 

 フリットウィックがさくらんぼのシロップソーダを飲みながら言う。

 

「ブラックは秘密を漏らすくらいなら死ぬだろうと誰もが、ダンブルドア先生でさえ思っていた。最後まで、不安がってはおられたが……」

「ダンブルドアはブラックを疑っていたのか?」

 

 フリットウィックは首を振った。

 

「いいえ。ポッターに近づく誰もを疑っていらした。ポッターの情報がやけに敵に通り過ぎる。敵のスパイがいるのだと考えていらした。しかし――当のポッターが、ブラックがいいと言ったのですよ」

「それで、信じて忠誠の術をかけて、あっさり裏切られたわけか。ハリーの父親も報われない」

「まさにそうだ」

 

 ファッジがラム酒を煽りながら言う。酒にそこまで強くない性質なのか、たちまち顔が赤くなる。

 

「だが……ポッター一家の情報を手土産に死喰い人内での立場を確立しようとしたんだろうが、それは最悪の形で失敗することになる。ポッター一家の殺害を、例のあの人が失敗したのだ。ただ失敗しただけではない。ハリーに敗れ、力を無くし、弱り果て……。死喰い人として華々しくデビューするはずのブラックは一転、旗頭の死をもたらす引き金となった大罪人となった。たちまち逃げ出すしかなかったろうな」

「あの――クソッタレの、アホンダラの、裏切り者め!」

 

 ハグリッドがジョッキをテーブルに叩きつけながら叫ぶ。四杯頼んだジョッキはもう半分がなかった。 

 

「ハグリッド先生、落ち着いてください。そして、声を落としなさい」

 

 マクゴナガル先生が鋭く注意するが、ハグリッドは取り合わなかった。

 

「落ち着け? 落ち着けって、これがどうやって落ち着ける……! こんなかでブラックに最後に会ったのは俺だ! 信じられるか? あのクソッタレめ、空飛ぶオートバイでやってきて、両親が死んだばっかのハリーを『渡してくれ』と言いやがった! さも当たり前みたいな顔で『俺は名付け親だ、俺が育てる』ってな! あんときの俺を褒めてやりてぇ。もしハリーを渡しちまってたら海にでもハリーを捨ててたかもしんねぇ!」

 

 だけどな、とハグリッドはさらにヒートアップする。そろそろ拳の出番かな、なんてことをカサンドラは考える。酒場に、喧嘩。飲み会の華だ。

 

(おり)ゃ、ハリーの家の前で震えるブラックを、慰めたんだ! 例のあの人がやられちまって、ビビってた奴を、ポッターが死んで悲しんでるって勘違いしてな!

 俺は裏切り者の殺人者を、必死になって慰めた!」

「ハグリッド! 声を、抑えなさい!」

「俺は、信じられんかった。誰が親友を差し置いて例のあの人の心配をしとるなんて思う? 結局、闇の魔法使いは、親友も、義理も人情も何もかもどうでも良くなっちまうんだ……」

 

 ハグリッドは泣きそうになりながらジョッキを煽った。

 

「……だが……」

 

 カサンドラはバタービールを煽って、言う。ジンジャーの辛味が最初に喉に来て、次にバターの柔らかい甘味が口全体に広がる。アルコールはないが、たしかに楽しい飲み物だ。

 

「奴は捕まった。捕まえたのは……たしか、闇払いか?」

「それだったらどんなによかったか!」

 

 今度はマクゴナガルが叫ぶ番だった。

 

「愚かで、勇敢なピーター・ペティグリューがブラックを追ったのです。本当に……。実力もないのに、勝てるわけがないのに、心根だけは獅子のようでした」

「つまり……ネビルみたいな奴ってことか?」

 

 ギリーウォーターを飲みながら、マクゴナガルは頷いた。

 

「ええ。実力に乏しく、しかし勇敢でした。ブラックとポッターを英雄のように崇めていつも付き従っていたのを覚えています。ポッター夫妻が殺されてすぐ、彼はカラクリに気付いたのでしょう。真っ先に彼はブラックを追いました。……追ってしまったのです」

「そして、たどり着いてしまったのです」

 

 ファッジが続ける。

 

「目撃者の証言では、二人はすぐに戦闘に入ったそうだ。ピーター・ペティグリューは杖を振り上げ……魔法を放つ前に、ブラックに吹き飛ばされた。跡形もなく」

 

 マクゴナガルは痛々しげに首を振った。ファッジがさらに説明を続ける。

 

「私は当時魔法での事故を取り扱う部署、魔法惨事部の人間でね。本職の人間が来る前のつなぎとしてそこにいた。酷い現場だ。クレーターのように広がる爆発痕。散り散りになったローブ。飛び散る肉片に、黒焦げになった臓物。恨めしげに空を見上げる顔の一部。巻き込まれたマグルたちは悲鳴を上げて逃げ惑っていたさ。そして、クレーターの中央で不気味に笑い続けるブラックがいた。彼を闇払いが連行していくまで、ピクリとも動かず、一言も喋らず。ただただ薄ら笑いを続けていた。本当に不気味だった」

 

 カサンドラは顔を顰める。マグル側の資料も見たが、確かに酷いものだ。

 

「つまりブラックはアズカバンにぶち込まれる前に、すでにイかれてたってことか?」

「いや――当時は、そうだったろう」

 

 ファッジはカサンドラの言葉を否定した。

 

「何?」

「確かに、間違いなくアズカバン収容時、彼は正気ではなかった。しかしつい先日視察に訪れたときは……まるでここが魔法省の独房だとでも言わんばかりの態度でハキハキと喋っていた」

「ありえねぇ!」

 

 ハグリッドが言った。

 

「アズカバンにぶちこまれてイかれるどころかまともになる? 大臣、それを本気で言ってるんじゃなかろうな?」

「事実を言ったまでだ、ハグリッド。彼はなんらかの手段で正気を取り戻した」

「本当に正気なのか? アズカバンから脱獄して、それでホグワーツに襲撃をかけるなんて」

「それについては……まだ不明です」

 

 ファッジは続ける。ラム酒を飲み干した。

 

「ブラックは確実に、あの日に為し得なかったことを成し遂げようとするだろう。つまり、ハリー・ポッターの殺害を。そうすれば例のあの人が復活するとでも思っているのか、それとも死喰い人の残党に合流するつもりなのか」

「……とにかく」

 

 フリットウィックが空になったグラスをテーブルに置いた。

 

「警戒を厳にすること。ポッターをやらせるわけにはいきません」

「その通りですな。では、私はこれにて。ホグワーツの先生方と話せる機会ができてよかった」

 

 ファッジは立ち上がると、来た時と同じようににこやかにカサンドラに向き直る。

 

「あなたは強いと聞きました。是非、ハリーを守ってやってください」

「言われずとも。それが仕事だ」

 

 ファッジとカサンドラは握手を交わし、三本の箒での会談はお開きとなった。

 

――1993年12月 グリフィンドール談話室。

 

 ハリーはベッドに潜りながら、鬱々と考えていた。

 カサンドラ、マクゴナガル、フリットウィック、ハグリッド、ファッジ。非公式の会談を、ハリーは全て、頭から最後まで聞いていた。去年ジニーが一年もの間カサンドラから逃げ切るほどの効力をもつ『羊皮紙』。ホグワーツ城の詳細な地図と、ホグワーツ城にいる人間の場所と名前がわかる高性能な魔法道具、『忍びの地図』。それをフレッド、ジョージの二人から譲り受けたハリーは、透明マントの力にあかせて抜け道を通り、誰にも見つかることなくホグズミードに辿り着いてしまったのだ。そこでロンとハーマイオニーを交えてホグズミードを楽しんでいたところ、三本の箒での先生方の会談を耳にして――ハリーは真実を知った。

 

 父、ジェームズとブラックの関係。

 ブラックが何をしたのか。

 その恐るべき殺人と、おぞましき裏切りを、全て。

 そして忌々しいことに、ハリーはブラックの顔を知っている。幸せそうに笑う満面の笑みを。

 一年生の時の末に、ハグリッドがくれたアルバムの中に、結婚式の写真がある。花嫁姿、花婿姿の両親を祝福するかのように楽しげに、幸せそうに笑うブラックの顔が、ハリーの脳裏に焼き付いて離れない。

 

 ――彼が裏切った。

 

 ハリーはもやもやとした不快感が、全身をどんよりとめぐる。

 ――信じてたのに、裏切った。

 ハリーはそのときの光景がありありと思い浮かぶようだった。

 ブラックは写真で見た時よりも醜悪に顔を歪ませて、狂気の笑みを浮かべる。そして――ハリーは彼の声を知らないが――天を仰ぐようにして叫ぶのだ。一昨年の末、クィレルがそうしていたように。

 

「やりましたぞ! ご主人様、ポッターめが愚かにも私を守り人に指定しましたぞ!」

 

 そして次に聞こえるのは嗄れた、掠れた亡者のような声だ。母と父を殺しジニーを操ったあいつだ。

 

「よくやったぞ」

 

 ――憎い

 

 ハリーは自分が抱いている感情を自覚した。それは激しい憎悪だった。シリウス・ブラックを見つけ出し、その体に魔法をかけてやりたい。呪文は知ってる。散々見た。奴を追い詰め、自分のしたことを後悔させながら、こう唱えてやればいい。

 

 アバダ・ケダブラと。

 

 両親を裏切り、死のきっかけを作った殺人鬼が緑色の閃光に貫かれて死ぬ。そんな想像をするだけで胸がすくようだった。ハリーは憎しみに、そして復讐に、囚われつつあった。

 

 結局、その日は一睡も出来ずに朝を迎え、クリスマス休暇に突入した。

 

「ハリー……。君、酷い顔だ」

「なにがさ」

 

 人気がほとんどなくなったグリフィンドール談話室で、ロンがハリーの顔を見るなりそう言った。ロンの胸元のポケットには飼いネズミのスキャバーズが収まっており、ロンは常に片手をスキャバーズの護衛に当てていた。ハリーは何かを言う気になれなくて、黙って談話室のソファに座る。暖炉の炎が揺らめているのを、ハリーはじっと見つめる。炎……。爆発。ピーターの死。せせら笑うブラック。

 

「ハリー、あなた大丈夫?」

「ハーマイオニー! あの不細工な猫を連れてないだろうな」

「ロン、クルックシャンクスは、不細工じゃない。ちゃんと女子寮にいるわ。可哀想なクルックシャンクス。迫害されて伸び伸びお出掛けにもいけないなんて」

「君の猫がお出かけするってことは、つまり僕のネズミの命の危機ってことだ」

「もういいでしょ!? クルックシャンクスは女子寮なの」

「わかった、わかったからそう怒鳴るなよ!」

 

 もう、とロンとハーマイオニーは軽く言葉で鍔迫り合いをしてハリーのそばに寄った。今年度入ってからずっとこうだが、二人はお互いにある程度の紳士協定をもってやりあっているらしい。つまり、ハリーの様子がおかしいときは、喧嘩をすぐに取りやめる、といった。

 

「ハリー、昨日のこと……その、大変な事実だと思うわ。恐ろしくて残酷で悲しいことよ。でもハリー、だからといって短慮はいけないことよ」

「短慮? 僕がどんな考えなしな行動するっていうんだい?」

「ブラックを追うとか」

 

 ロンがすかさず言った。ロンはちらりと、ハーマイオニーの方を見た。もしかしたらこのやりとりを練習していたのかもしれない。

 

「そうね。そんな危険なことしないわよね」

「そうだぜ、ハリー。僕たちが誰かを殺すだの、そんなの間違ってる。だろ?」

「君たちは!」

 

 ハリーはたまらなくなって叫んだ。わかっているのに口が止められない。二人は考えなしに言ったんじゃない。きっとハーマイオニーがハリーを傷つけないように、言うべき言葉を選んで、それで慰めようとしているのはわかってる。

わかってるのに、感情が溢れて仕方ない。心の奥から溢れ出る憎悪が、悲哀が、あとからあとから止めどなく発露してしまう。

 

「自分の母親の命乞いを聞いたことがあるの!? ヴォルデモートの配下になるって、そんなことまで言って僕を守ろうとした! ……ブラックが、親友を裏切るようなクズさえいなきゃ、母さんがそんなこと言う必要はなかったのに!必死になって命乞いして、縋り付いて、それなのにヴォルデモートはゴミクズみたいに母さんを殺した! そうなったのも全部シリウス・ブラックが――」

「どうにもできないの!」

 

 ハーマイオニーは苦しそうな、悲鳴のようにそう言った。ハーマイオニーだってハリーの憎しみを肯定してやりたい。ハーマイオニーだって大好きなママが犯罪者に殺されて、そしてそいつがのうのうと逃げおおせていたら、復讐に走るかもしれない。でも、だからこそハーマイオニーはハリーから復讐すると言う言葉を聞きたくなかった。

 

「ハリー、私たちは子供なの。ブラックは危険な殺人鬼なの。お願い、追うなんて言わないで……。賢者の石や秘密の部屋とは訳が違うの!」

「どう違うんだ、ハーマイオニー。どっちも危険だった。今年も同じってだけだよ」

「闇の魔法使いが、あなたの命を狙ってるのよ! なんでわざわざ殺されに行くの! それに、魔法省が必ずブラックを捕まえるわ。そしたら一生アズカバンよ!」

「ハーマイオニー、アズカバンからブラックは脱走してるんだ。吸魂鬼もカサンドラもブラックを見つけることさえできやしない。捕まえたってすぐ逃げる」

 

 ハリーの目に剣呑なものが宿るのを感じ取って、ロンは怯えたように言う。

 

「なら、どうするって言うんだ? まさか――ブラックを殺したいなんて、そんなこと言うつもりじゃ、ないよな?」

「ロン! ハリーがそんなこと言う訳ないじゃない!」

 

 ハーマイオニーは慌てて言った。ハリーに詰め寄り、さらに続ける。

 

「ね、ハリー、まさか、誰かを殺したいだなんて、そんなこと言わないわよね。だって去年、ほとんど首なしニックが復讐に協力してたこと、怒ってたじゃない!」

 

 ハリーは黙りこくる。一瞬、ハリーは思ってしまったのだ。復讐に協力してくれる大人がいたら、きっと僕ならやれる、と。

 しかしそれはふとよぎっただけの考えだ。ハリーの意思は、ハリーの性格は、まだ復讐に、憎悪に染まりきってはいない。ただ、わからなかった。

 両親を裏切った両親の親友が今もなお自分を狙う。そのことをどう自分の中で整理をつけたらいいのかわからなかったのだ。

 

「――わからないんだ。僕何も……。マルフォイが魔法薬学の時間、変なこと言ったの覚えてる? 『僕なら復讐するね』。マルフォイは知ってたんだ。ルシウスさんから聞いたんだ」

「君――まさか、マルフォイなんかと同じ意見だなんて言うつもりじゃないよね?」

「――言わないよ。言わないけど……」

「ハリー、ねぇ、お願い」

 

 ハーマイオニーの言葉はもはや懇願に近かった。

 

「本当に危険なの。凶悪な殺人鬼なのよ。たしかにブラックのやったことは許せない。私だってきっと復讐を決意するわ。でもそれを実行したらブラックの思う壺なの。マグル十三人を爆殺できる魔法使いが13歳の子供を殺すことがそこまで難しいとは思えないの。

 それに、あなたのお父さんやお母さんだって、あなたが傷付くのを喜んだりしないはずよ」

「――パパとママが何を考えて、何を思ってたなんて、僕は一生、ほんの少しも知ることはないんだ。僕は二人とほんの一言すら話したことはないんだ。ブラックのせいで!」

 

 沈黙が支配した。

 ハリーは顔を覆ってソファに座り直し、ハーマイオニーは罰が悪そうに顔を俯かせた。

 

「休暇だ!」

 

 半ばやけくそ気味に、ロンが叫んだ。ハーマイオニーは顔を上げ、ハリーは顔を覆っていた手を外してロンを見た。

 

「二人ともしっかりしろよ。クリスマス休暇だぜ? 楽しい楽しい休暇の最初の1日の朝を、こんな話題で終わらせるのか?

 ハグリッドの小屋に行こうぜ、ハグリッドとお茶でもすれば、気も晴れるさ!」

「でも……ホグワーツ城を離れるのは危険じゃないかしら」

「安心しろよハーマイオニー。カサンドラについてきてもらえりゃ、誰も文句は言わないぜ」

 

 ロンの言葉に、ハーマイオニーとハリーは顔を綻ばせた。

 

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