【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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不審で素敵な贈り物

――1993年 12月 ホグワーツ ハグリッドの小屋前

 

 カサンドラはホグワーツの庭を、グリフィンドールの三人を連れながら歩く。周囲はすっかり雪化粧に彩られており、一面真っ白である。ハグリッドの小屋までたどり着くと、カサンドラはノックする。

 

「おお、おお……カサンドラ!」

「おわっ」

 

 扉を開けて、ハグリッドがカサンドラの姿を認識したのと同時、彼はカサンドラに突撃して思いきり抱き締めた。小さくハーマイオニーが驚いたような声を上げた。

 

「ど、どうしたハグリッド」

「おお、おお……」

 

 ハグリッドはそのまま泣き出してしまった。すすり泣くような声が聞こえるが、カサンドラには何が起こっているのかさっぱりである。仕方がないので無理やり引きはがす。

 

「どうしたんだ、まったく」

「すまねえ、その、変な意味はなかったんだ」

 

 カサンドラが離れると、ハグリッドは照れたように顔を拭う。髭もじゃの顔が涙で濡れてくしゃくしゃになっている。

 

「それはわかってるよ。どうしたんだ」

 

 これを見てくれ、とハグリッドは強い握力で握り締められて皺皺になった書類をカサンドラに見せた。

 涙で所々インクが滲んで読みづらかったが、なんとか解読する。皺皺になった書類には、ハグリッドの授業の最中に起こったできごとは事故だと認められ、責任を追及されないことが書いてあった。

 

「……これは、無罪放免か。よかったな」

「よかったね、ハグリッド! これからも先生だ!」

 

 カサンドラが言うと、ロンが嬉しそうに言う。だが、ハグリッドの顔はくしゃりと泣きそうな顔に歪んだ。

 

「俺も最初はそう思った……」

 

 ハグリッドはそう言ってまた顔を覆って泣き始めた。カサンドラがさらに書類の下のほうに視線を向けると、彼女はなぜハグリッドがこうも泣くのかを理解した。

 

「……バックビークが裁判にかけられるのか」

「なんだって? カサンドラ、僕らにも見せて!」

 

 ハリーが言うと、カサンドラはハグリッドを見る。彼はゆっくりと頷いた。カサンドラは手に持った羊皮紙をハリーに渡した。

 

「何これ……マルフォイのパパが! バックビークを裁判にかけるって!?」

「でも大丈夫よね。『危険生物処理委員会』っていうのが取り仕切ってるなら……まさかマルフォイのお父さんの言いなりってことはないだろうし」

「ハーマイオニー! お前さんはあいつらの恐ろしさを知らん!」

 

 ハグリッドの急な怒声に、ハーマイオニーが肩を跳ねさせる。

 

「そう怒鳴るな。どんな奴らなんだ」

「連中はずっと昔からおもしれぇ生き物を目の敵にして、隙あらば処分しようとする鬼畜ばっかりなんだ」

 

 小屋の外でバリバリと何かを引き裂く音がした。バックビークが何かの生き物の死骸を食いちぎる音だ。

 

「カサンドラ、奴らが処分した生き物のリストを見たことがあるか? マンティコアにアクロマンチュラ、ヒッポグリフが何匹か、それに古い記録なら人狼も何人か! 信じられねぇだろ!?」

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は顔を見合わせた。つまり、ハグリッドが言う『面白い生き物』というのは三人にとって『恐ろしい怪物』であると気づいたのだ。

 

「私は最近魔法界について勉強を始めたんだが……全部危険な生き物だ。私でも始末するのに手こずりそうな。ヒッポグリフもそうだ」

「ヒッポグリフを始末!? お前さん冗談でもそんなこと言うのはやめてくれ! あいつらは賢くて、気のいい奴らなんだ!」

「あー、そうだな」

 

 言葉で同意しているが、三人はそれが生返事だということを知っていた。何せカサンドラは生徒に危害が及ぶならハーマイオニーが人狼と化していたとしても殺すと覚悟を決めている人なのだ。ヒッポグリフを殺すのにためらいが生まれるとはとても思えない。

 

「可哀そうなバックビーク。クリスマスだってのに庭に繋がれて……死刑が決まった裁判を待ってるなんて!」

「あー、バックビークは別にキリスト教ってわけじゃない。生誕祭が祝えなくても気にはしないだろう」

 

 カサンドラは適当なことを言いながら小屋の中に入る。三人も同じように入る。部屋の中はずいぶんと荒れていた。掃除をする気力もわかないらしい。テーブルの上に置かれた山のように置かれた空の酒瓶に、ハーマイオニーが息を飲んだ。

 

「ハグリッド、あなた、こんなに飲んで! 死んじゃったらどうするの!?」

「俺はこんなんで死んだりせん! 飲まんとやってられん!」

 

 ハーマイオニーは呆れたように肩を落とした。

 

「もう……。ハグリッド、お酒を飲むより、もっとちゃんと考えないと。しっかりと弁護して、バックビークがだれかれ構わず襲う化け物じゃないって証明しないと」

「どんなに弁護したっておんなじこった」

 

 ハグリッドの声が涙声になる。

 

「確かに、マルフォイのパパが口出ししたら勝てる裁判も勝てなくなるかもしれないけど、やりようはあるだろ?」

 

 ロンが不思議そうに言った。

 

「ロンはわかってねえ。誰が訴えかけたなんて連中にゃどうでもいい。奴らは、あの処理屋の悪魔はこの世から面白い生き物を駆逐するのを生きがいにしとるんだ。わかるか? 奴らはマグルからの訴状でも喜んで生き物を殺しにかかるだろうよ」

 

 それはきっとカサンドラでも同じことするんじゃないかな、とハリーは思ったが口には出さなかった。

 

「でもハグリッド、最初からあきらめてちゃどうにもならないわ。校長先生はなんておっしゃってたの?」

「もう十分手を尽くしてもらった……。俺自身は無罪放免だ。もうダンブルドア先生は手一杯なんだ。吸魂鬼の連中がホグワーツ城内に入っとらんか目を光らせておるし、ブラックのヤツがうろついてるかもしれん現状、これ以上お手を煩わせるわけにはいかん」

 

 ハリーはハグリッドに近寄って、手をそっと握る。

 

「ハグリッド、ハーマイオニーの言う通りだよ。諦めちゃだめだ。絶対になんとかなる」

「頑張ってなんとかしてみるわ。ちゃんとした組織でちゃんと裁判をしてるなら、絶対に記録を取ってるはずよ。ヒッポグリフが無罪放免になった事例があれば、前例主義の裁判所ならなんとかなるはず。調べてみるわ……きっと時間はかかるけど、心配しないで、()()()()()()()()

 

 ハグリッドは感極まっておんおんと泣き始める。ハリーとハーマイオニーをがっしと抱きしめて泣き止む様子がない。

 

「……お茶でも淹れようか。落ち着くにはお茶が一番だってママが言ってたし」

「じゃあ私はココアでも。ダンブルドアはココアが一番落ち着くと言ってたからな」

 

 ロンとカサンドラはお互いに顔を見合わせて、それから苦笑しつつキッチンに向かった。

 

「ああ、悪い、二人とも……。この頃の俺はどうかしとった。先生なのに、俺はバックビークのことばっかり心配して……お前さん、俺の授業はひどいもんだったろ」

「うーん、素敵な授業だったわ」

「うん、いい授業だった」

 

 ハリーとハーマイオニーの言葉がお世辞だと言うことに気づいたハグリッドはすまねえなぁ、と言って二人の頭を撫でた。

 

「もうホグズミードにも行くのもやめだ。あそこに行くたびに奴らが……吸魂鬼が見えて気が滅入る。アズカバンに送られそうになったことを思いだしちまう」

 

 去年、ハグリッドはダンブルドアの必死の弁護があってアズカバン行きは免れた。しかし、自分がアズカバンにすぐにでも送られる立場だということを自覚するには十分だった。

 

「そんなに……アズカバンって酷いところなの?」

 

 ハリーが恐る恐る聞いた。

 

「ああ。吸魂鬼が常に巡回してて、おやつ代わりに囚人を()()()()行くような場所だ。恐ろしい……」

 

 ハグリッドはロンの用意したお茶のマグカップをじっと見つめる。恐怖におびえるハグリッド自身の顔が映っている。

 

「……カサンドラ、お前さんなら薄々わかっとるんじゃないか? 手段さえ選ばなきゃ方法なんていくらでもあるちゅうことを」

 

 カサンドラは頷いた。

 

「まあ、いくつか思いつくな。そのなんとか委員会の連中を5人も消せば裁判どころじゃなくなるだろうし」

「カサンドラ!」

 

 ハリーが悲鳴みたいな声を上げる。

 

「冗談だ。今ならちょうどいいスケープゴートがうろつきまわってることだし……そう睨むな。冗談だ」

 

 ハリーの咎めるような視線に、カサンドラは降参だとばかりに両手を軽く上げた。

 

「そんな過激な手段じゃなくても、ヒッポグリフは動物だ。野に放てばたくましく生きるだろう」

「そうだ。そうなんだ……だが……」

 

 ハグリッドの目から涙が流れる。恐怖の目だ。

 

「万が一にでもばれたらどうする? 今度こそ俺はアズカバンだ……。ダンブルドア先生がいくら言うても無駄だろう。俺は……。俺はアズカバンに行くのが怖い」

 

 ハグリッドはそれからずっと、泣き続けた。

 

――1993年 12月 ホグワーツ談話室

 

 結論から言うと、調査は全く進まなかった。その表現は正確ではない。バックビークに不利な事例ばかりがでてきたのだ。マンティコアが無罪放免になった事例は見つかったが、その理由も『怖くて誰も近寄れなかったから』である。その事例を逆手にとってバックビークを大暴れさせることもハリーたちは考えたが、今の魔法界には魔法を使わずにバジリスクすら討伐せしめる傭兵がいる。その手は使えなかった。結局正攻法でなんとか弁護するという結論に落ち着いたが、じゃあ弁護人がハグリッドで上手くいくかというと、三人は首をかしげざるを得なかった。

 ハグリッドが友人であることを、三人はほんのカケラも疑わない。だが、ハグリッドを大人として信頼しているかというと……。明言は避ける。とにかく、このままでは非常に不利な状態でバックビークは裁判に臨むことになり、そしてそれを打開する方法も思いつかない。結構切羽詰まった三人だったが、とりあえずハーマイオニーがもっとよく調べると言うので彼女に任せることにした。

 

 そして、クリスマス当日。ハリーが談話室に降りると、ロンがセーターを手に苦笑していた。

 

「おはよう、ハリー。見てくれよ。またセーターだぜ? もう毎年やんなるぜ」

「そうかな。僕はうれしいけど」

 

 はい、と投げ渡された手編みのセーターを受け取ると、ハリーはそれを広げる。胸元に大きくHとイニシャルの刺繍がされた赤色のセーターだ。毎年贈られてくるが、ハリーは毎年同じくらいうれしかった。着るかどうかは別にして、ちゃんと大事にとってある。

 ハリーは自分宛てのプレゼントを一つ一つ見ていく。ハーマイオニーやコリン、ジニーをはじめとするグリフィンドールの面々、そしてカサンドラからもプレゼントが贈られている。その中に、差出人の名前がない包みが一つあった。細長い棒状のものだ。箒だろうか。ハリーはあたりを付けた。なにせハリーがニンバス2000を喪失し、学校貸し出しの箒で練習にも苦労する身だということは噂にもなっている。グリフィンドールの勝利を願う誰かが新しい箒を贈ってきても不思議じゃない。

 

「……これ、誰からだろう」

 

 どうしよう、と包みを拾い上げながら思う。確かにうれしい。うれしいけれど、贈られた以上使わないことには申し訳ない。だが、ニンバス2000と同じかそれ以上なんて、そんな箒を学生が買えるとも思えない。つまり、学校貸し出しの箒以上ニンバス2000以下ということだ。……贅沢で、我儘だなと自分でも思いながら包みを開ける。

 結局のところ、去年よりパワーダウンした状態でクィディッチに臨まなきゃいけない。そんな懸念は包みをちらりと開けただけで吹き飛んだ。

 

「ロン!」

「どうしたんだ? ……箒か。どうするよ。ニンバス2000以上の箒なんて学生が買えるわけないよ」

「違う! これ見てよ!」

 

 ほんのちらりと除く木の質感。ロンはそれだけでは全くわからなかった。

 

「……ハリーはこれがわかるっての? この状態で?」

「もちろん! 夏休みにずっと見てたから!」

 

 ばりばりと包みを開けていく。少しずつその姿があらわになるほど、ロンの目が驚愕に見開いていく。握りやすいように考え抜かれた柄の部分。完璧な流線型を描き、尾の先端まで制御された枝の部分。乗りやすいようにと鐙のような金属パーツがついている。

 

「嘘……だろ……?」

 

 ロンの声はかすれていた。ハリーがその箒をつかむと、箒はひとりでに宙に浮き、ハリーが一番乗りやすい高さに移動した。柄に刻まれた金文字が燦然と輝く。

 

『炎の雷、ファイアボルト』

 

「ほ、ほんもの?」

 

 ハリーは頷く。夏休みに毎日通って、何時間も眺めていたのだ。見間違うわけがない。

 

「うん。これは本物だよ。本物のファイアボルトだ!」

 

 ハリーは箒をつかんで嬉しそうに言った。ぎゅう、と箒を抱きしめる。あのショーウインドウの向こうにあった最高の箒が、自分の手の中にある! 今にも踊りだしそうだった。

 

「でも」

 

 ロンは言った。

 

「誰からだろう。マクゴナガルかなぁ」

「誰でもいいよ」

 

 ぼうっとした様子でハリーが言った。まるで魅了されたみたいに箒に夢中になっている。

 

「どうでもいいって……まあそうか。マルフォイが知ったらどんな顔をするか! また包帯腕に巻き始めるぜきっと!」

 

 あーおかしいとロンはおなかを押さえて笑い始めた。ハリーはそんなロンに目もくれず箒を撫でる。

 

「夢だったりしないよね。今年一番いいことだ……」

「はははは……。あー、笑った。でも本当に誰なんだろ。ダンブルドア先生かな」

「んー、そういうことするかなぁ」

 

 ハリーは否定的だった。確かにダンブルドアはハリーに甘いところがある。ただそれは先生と生徒の枠組みを超えないレベルでの甘さである。何百ガリオンもする高価な箒を買い与えるのは……違う気はする。

 

「またマクゴナガルかな」

「あー、ありそう。でもニンバス2000よりもかなり高いし、どうなんだろう」

「カサンドラは?」

「いや……多分それだけはないんじゃないかな」

 

 お金がないとは言わないが、カサンドラがそういうことをするとはとてもじゃないが思えなかった。

 誰だろうと二人して言い合っていると、起きてきたハーマイオニーが談話室にやってきた。

 

「おはようロン、ハリー。メリークリスマス」

「メリークリスマス、ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーはハリーが持つ箒を目にとめた。

 

「……これ、箒? 新しい箒なのね。誰からのプレゼント?」

「『新しい箒なのね?』なんでそんな反応なんだよ!? ファイアボルトだぜ!?」

 

 さして興味もないような様子のハーマイオニーに、ロンが詰め寄る。その熱意に彼女は若干引いた様子で答える。

 

「その箒がどれだけ凄いか私にはさっぱりわからないの」

「この箒は世界で一番速いんだ。値段も高い。箒界のマクラーレンみたいなものだよ」

 

 ハリーが言うと、ハーマイオニーは嬉しそうにするどころか顔を顰めた。

 

「……その高級な箒を誰が贈ってきたの? またマクゴナガル先生かしら。贔屓が過ぎるわ……」

「いや、誰が贈ってきたのかわからないんだ」

「――なんですって?」

 

 ハーマイオニーの箒に向ける視線が冷たくなる。

 

「別に、どうだっていいだろ?」

 

 不穏な空気を察したロンが慌てて言う。

 

()()()()()。箒界のマクラーレンなんて言うくらいよ、高いんでしょ?」

「そりゃね。スリザリンの箒全部合わせたより高いはずだ」

「おかしくない? 正直、この箒をハリーに贈った人は『物凄い』恩をハリーに売れるわけなのに……送り主不明?」

「それがどうしたって言うんだ!」

 

 ロンがイライラして言った。

 

「本で読んだわ。殺したい相手を吹っ飛ばすのに一番有効なのはその人のポストに爆弾を入れることだって」

「君、どんな本をいつも読んでるの?」

 

 最近のハーマイオニーの読書のラインナップがかなり物騒になっていることが心配になったロンだったが、ハーマイオニーの言いたいことが薄々理解できた。

 

「二年前を思い出してハリー。クィレルがあなたを箒で振り落とそうとしたでしょ? それをもっと確実にする方法があればどうかしら」

「……そんなのあり得ないよ。だって、もう僕はこの箒を持ってるけど……なんともないし」

「いや……悔しいけどハーマイオニーの言う通りだと思うぜ。例えば今から試乗してなんともなかったとしても、本番で起動するように呪いをかける方法はある」

「えー……」

 

 ハリーはがっかりしたような声を上げる。

 

「マクゴナガル先生に見せましょう」

「わかった。一回乗ってから」

「今すぐ!」

 

 ハーマイオニーが叫んで、談話室の外を指さした。

 

「でも……その」

「ハリー。世界一の速度を体験してお星さまになりたいの? スニッチを掴んでも生きていられるようにするために、必要なことなの」

「そうだぜ。それに乗ってハリーになにかあったらマクゴナガルが泣きながら焚き付けにするぞ」

 

 わかった、とハリーが言ったか言わないか。視界の端で小さな毛玉が猛スピードでロンのほうへと突っ込んできた。慌ててロンは胸ポケットをかばった。

 

「ハーマイオニー! そいつを――クソっ! そいつをどこかにやってくれ!」

「ごめんなさい! クルックシャンクス! めっ! ほら、離れなさい!」

 

 慌ててハーマイオニーがクルックシャンクスを抱き上げた。

 

「なんで、そいつが女子寮から出てくるんだ! 隔離しとけって言っただろ!」

「ごめんなさい。すぐに戻すわ」

 

 ハーマイオニーは申し訳なさそうに女子寮へ戻っていった。入れ違いになるように女子生徒が一人談話室に降りてくる。どうやら彼女が出入りする隙に抜け出したらしい。

 

「……全く。全然しつけできてないじゃないか。今年から天敵がそばにいるせいでスキャバーズもすっかり弱っちゃったよ」

 

 ロンがネズミの頭をいたわるように指で撫でる。

 

「元気ないね……。寿命が近いのかな」

 

 ハリーの言葉を、ロンは否定しなかった。クルックシャンクスのせいにしたかったが、ロンのスキャバーズはもう長いことロンのペットだ。

 

「……考えたくないよ。だって……。でも、いつかは……」

 

 ロンはスキャバーズの死を間近に感じたせいで、その寿命にも気が向くようになってしまった。ネズミにしては長い旅路だ。だが、どんな旅もいつかは終わる。その日が来たとき、ロンはきっと泣きはらすだろう。だが、それはいつか、いずれ、必ず訪れることなのだ。

 

「クルックシャンクスを戻してきたわ。ごめんなさいロン」

「いや……でも次から気を付けろよ」

 

 ええ、とハーマイオニーは頷いた。

 箒の件は昼食の時に切り出すとハリーは約束し、それまでロンとハリーの二人はきゃいきゃいとファイアボルトを眺めたり撫でたりして過ごした。ハーマイオニーはそんな二人を馬鹿を見るような冷めた目で見ていた。

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