【完結】ハリー・ポッターとワシ使いの傭兵   作:丹寺 錯視屋

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寮内侵入事件

――1994年2月 グリフィンドール寮

 

 カサンドラは談話室に入ると、じっと床を見る。案の定、足跡の土汚れが男子寮へと続く階段へと延びていた。お菓子の空箱やバタービールの瓶が散乱する談話室から男子寮に向かう。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 ロンの絶叫が寮中に響き渡るのと、その寝室にカサンドラが踏み込むのとはほぼ同時だった。

 

「死ね!!」

 

 カサンドラは両手用のウォー・メイスを振りかぶっていた。

 

「なっ」

 

 まるで野球選手がスイングするかのように振りかぶったカサンドラは、不審者に狙いを付けた。

 

「ザクロのように弾けるがいい!」

 

 男は杖を取り出そうとして、慌てて頭を下げた。だが、それはブラフ。もともとカサンドラが狙っていたのは彼の胴体だった。どむ、と音がして不審者の体が浮き上がり、壁に叩きつけられる。

 

「が、はっ!」

「いいザマだな、ブラック。貴様の死を多くのものが期待している」

「……クソ、化け物め!」

 

 ブラックは狼狽えながらも冷静だった。手に持ったナイフをカサンドラに投げつける。メイスから片手を離し、飛来するナイフをしっかとつかむ。ナイフに意識が向いた一瞬で、部屋の窓ガラスが全て一斉に割れた。

 

「!」

 

 カサンドラが周囲を見る。外側から内側に向かって割れている。外部に協力者が? そう思ってブラックから視線を離した隙に、ブラックは窓から外に飛び降りて逃げおおせてしまった。

 

「なに? どれだけの高さがあると……」

 

 しかもどういうからくりか、もうすでにシリウスの姿は見えなかった。死角に入られたか、とカサンドラは歯噛みする。

 

「え、ええ? カサンドラ、どうして男子寮に」

「いいから、ロン。無事か?」

「な、なんとか。殺されるかと思った」

 

 カサンドラがロンのベッドに目を向けると、ベッドのカーテンが引き裂かれているのが見えた。

 

「……ロンを狙ったのか?」

 

 しばらくすると、マクゴナガルが部屋にやってきた。

 

「カサンドラ、生徒は無事ですか!」

「ああ。なんとかな。窓を割って逃げたよ」

 

 カサンドラは続々と人が集まってくる寝室の中で観察を続ける。

 

「マクゴナガル、私の記憶が正しければ寮は合言葉やらなにやらで外部からの侵入はできないはずだ。それも魔法か?」

「いいえ」

 

 マクゴナガルの声は氷のように冷たかった。

 

「底抜けの愚か者がいたのです。カドカン卿は正しく仕事をしていただけでした。――一週間分の合言葉を紙に書きだして、その紙を放り出した底抜けの愚か者が」

「合言葉を紙に書きだすのはよくあるパターンだな」

 

 合言葉を覚えられない生徒……カサンドラには心当たりがあったが、それを口に出すようなことはしない。

 

「それで、窓ガラスを割ったのは魔法か? 詠唱は聞こえなかったが」

「そうでしょう。無言呪文と言って、魔法使いは訓練を積めば呪文を唱えることなく魔法を使うことができます。……無言呪文で広範囲に影響を及ばせるとは、ブラックの腕前は学生時代よりも衰えてはいないようです」

「そうか。一番大事なことなんだがな、なぜロンのベッドが狙われた? 奴の狙いはハリーじゃなかったのか?」

 

 カサンドラは、ブラックが間違ってロンのベッドに向かったとか、勘違いしたとか、そういうある種の楽観をすることはなかった。ブラックが何らかの意思の元、間違いなくまっすぐロンのベッドに向かったと考えていた。

 

「それは……わかりません」

「つまりだ。ブラックの狙いがわからなくなった以上……ハリーの周りを厳重にするだけじゃ、足りないってことだな」

 

 マクゴナガルは苦々しい顔になった。

 

「そうですね。とりあえず、カサンドラ。ブラックの捜索に向かってもらってもよろしいですか? 私は愚か者を見つけ出し、恐るべき罰則を与えなければ」

「……罰則に関しては私に考えがある」

「考えておきましょう」

 

 カサンドラは駆け出した。それから他の教職員も巻き込んでホグワーツ城を捜索したが、ブラックは結局、見つからなかった。

 

 ――1994年2月 カサンドラの居室

 

「さて、ネビル・ロングボトム」

 

 カサンドラは明らかにびくびくした様子のネビルを前に、ソファに座って足を組む。彼はびしっと気を付けの姿勢で微動だにしない。

 

「罰則は私の話を聞くことだ。聞いてるな? 座れ」

 

 カサンドラが椅子をすすめると、ネビルは座った。数日前、ブラックの寮内侵入を許したきっかけとなった合言葉のリストは、案の定ネビルが犯人だった。マクゴナガルからこっぴどく叱られたネビルは、校則に合言葉に関することが書いていなかったため減点こそなかったものの罰則……カサンドラの説教を聞く羽目になってしまった。カサンドラが罰則をするということでネビルは今にも処刑台に上る気分だったし、他のグリフィンドール生もネビルの元気な姿を見るのはこれっきりだと信じて疑わなかった。フレッドとジョージなんかはお供えは何にするかと話し合っているくらいだった。

 だが、想像していたよりも、カサンドラに怒った様子はなかった。ネビルにはそれが不思議だった。

 

「さて、話すとするか。今から2000年くらい前だ。とある国の砦の出入りには合言葉を使って敵か味方を判断していてな。出入りの商人がしょっちゅう変わる合言葉をいちいち覚えるのに嫌気がさしたんだろうな。ネビルと同じように合言葉を紙に書き込んで、それを読んで門をパスしていた。私はその商人からその紙をくすねて、商人になりすました。わかるだろう? この前の状況と同じだ。敵である私が砦に侵入し、砦はどうなったと思う?

 

 ……皆殺しだ」

 

 ネビルは息を飲んだ。

 

「見張りをしている奴の首を掻き切って、仮眠を取っている兵士を二度と目覚めないように心臓にナイフを突き立てた。書類整理をしている指揮官の頭をメイスで吹き飛ばし、数十人いた砦の兵士は2時間もしないうちに全滅の憂き目にあった。すべては合言葉を紙に書いていた商人がいたせいだ」

 

 カサンドラの言葉に、ネビルは顔を青ざめさせる。自分がしたことの意味を理解し始めていた。

 

「ネビル。覚えられないのはわかる。紙に書くのもな。だが時期が悪かった。侵入者がいるかもしれない時期にやるべきことじゃなかった」

「……ごめんなさい」

「運が良かった。ブラックが何を目的にしていたのかはわからないが……ロンが死んでいてもおかしくなかった。ネビル。間抜けもポカも大いに結構。だが、外敵に対して今までと同じような馬鹿をやると、死ぬのはお前だけじゃない。お前の友達も死ぬんだ」

「……」

「堅牢な砦を攻略するときは、間抜けを見つけてそいつから崩していくのがセオリーなんだ。ネビル。そんな間抜けにはなるな。いいな」

 

 ネビルはゆっくりと頷いた。

 

「よし。じゃああとはもう少し血なまぐさい話をして終わりにするか」

「え」

 

 ネビルは顔を青くした。ネビルはそういう話が大の苦手なのだ。

 

「お前が情報の大事さを芯に刻み込むまで、ちゃんと話してやるからな」

 

 できれば遠慮したいネビルだったが、カサンドラの長年の経験によるエピソードは臨場感たっぷりで、ネビルは時々小さく悲鳴を上げながら罰則を聞き続けるしかなかった。

 

 

――1994年3月

 

 ホグワーツはそれから厳戒態勢になった。カサンドラがメイスを肩に担ぎながら巡回するようになったし、他にも持ち回りで巡回する先生が必ず一人はいるようになった。ホグワーツの扉という扉にブラックの人相書きが張り出され、フィルチがどんな小さな穴でも板でふさいでいた。

 グリフィンドールの門番は『太った婦人』に戻ったが、まだ彼女は神経をとがらせていた。

 

「……ネビル、大丈夫かなぁ」

 

 ハリーは自分が知るホグワーツの抜け道には警備の目が薄いことに気が付いた。フレッドとジョージからもらったホグワーツ城の詳細な地図、『忍びの地図』のことはおそらく彼らの言う通り、双子と自分しか知らない情報なのだろう。

 

「大丈夫だよ。もしかしたらちょっと化け物に厳しいこと言う様になってるかもしれないけど」

 

 ロンはうきうきした様子で言った。ロンはあの日からちょっとした英雄扱いだった。シリウス・ブラック襲撃の標的となり、生き残った。『生き残った男の子』ホグワーツ版というわけだ。色んな寮の生徒からその時の話をせがまれ、ロンはちょっと脚色したり大げさに言ったりしながらも雰囲気たっぷりに襲撃の様子を語った。このままだと本を出すと言いかねないようすだったが、すぐに落ち着くだろうとハリーは思っていた。ロンは自分にホグワーツ中の注目が集まっている今の状況を最高に楽しんでいた。

 

「カサンドラがそんな酷いことするとは思わないけど……ねえ、ロン、『アレ』のこと言わなくていいのかな」

「冗談だろ? あれを手放すなんて馬鹿のすることだぜ」

 

 懸念を示すハリーの言葉を、ロンはまともに取り合わなかった。たしかにホグワーツとつながっているハニーデュークスからブラックが侵入したのであればロンも同調したであろうが、ブラックの侵入経路はいまだに不明だった。

 

「それは……僕もそう思ってるけどさ」

 

 ハリーは手に持った手紙をもてあそびながら言った。ハグリッドからのお茶会の誘いだった。ホグワーツの玄関口まで迎えに来てくれるらしい。ハリーが標的でないとわかった以上、カサンドラはほかの生徒にも気をかけなければいけなかった。

 

「おう、ハリー、ロン! さあ、行くぞ」

 

 ハグリッドの小屋まで案内されると、ハリーとロンはいつものようにソファに座った。

 

「よう来たな。ブラックの件でロンが落ち込んどるんじゃないかと思ったが、心配なさそうだな」

「まあね。確かに死ぬほど怖かったけど、カサンドラが助けてくれたし」

「おう、カサンドラにかかりゃブラックなんてあっという間だ。心配するこたねえ」

 

 ハリーは壁にかかっているスーツとネクタイに視線をやる。

 

「ハグリッド、あれどうしたの?」

「ん? ああ、バックビークの裁判の時に着る予定だ。その、今日はただのお茶ってわけじゃなくてな……。ハーマイオニーのことで話があるんだ」

 

 その名前を出されて、ロンはあからさまに不機嫌になった。もう数週間も前の話にもなって、ロンとしてもスキャバーズの喪失は飲み込み始めている。だが、いまだに謝罪の一つもないハーマイオニーに対する怒りは続いていた。

 

「それで? あの女に頼まれたの?」

「いいや。その逆だ。絶対に二人には言うなと釘を刺された。だがなぁ。俺にゃ、お前さんたちがこれで終わりなんて、そんなのはダメだと思ったんだ」

「あいつが『ごめん』の三文字が言えりゃ、もうちょい前向きに考えるんだけどね」

「……あの子はもういっぱいいっぱいなんだ、ロン」

 

 ふん、とロンは取り合わなかった。

 

「休み明けからこっち、あの子は俺の為に随分時間を割いてくれた。バックビークの有利になるような判例を見つけてきてくれたり、何時間も弁護の練習に付き合ってくれたりな」

「……なんだって?」

 

 ロンは不思議そうな声を上げた。

 

「あの子は冷たいから謝らんのじゃない。ロンに本当に申し訳ないと……あの子の猫がロンのネズミを殺すことを『選んだ』ことが、ずーっと心にのしかかっとるから、謝ることすら失礼だと思っちょる」

「……ハグリッド、何が言いたいのかさっぱりわからないぜ。そもそもあいつはずーっと談話室で勉強してる。そんな時間あるわけない」

()()()()()()()。……おっと」

 

 ロンとハリーは顔を見合わせた。つまり、今のハーマイオニーは普通じゃないってこと?

 

「ハグリッド、ごめん。僕らも手伝うべきだったのに」

「いいや、俺はお前さんらを責めたいわけじゃねえ。やるべきことがたくさんあったのはよーくわかっとる。だがなぁ。ロン。お前さんなら……ネズミよりも友達のほうを大事にすると、そう思ってた。俺が言いたいのはそれだけだ」

 

 ハリーとロンはお互い気まずそうだった。ハーマイオニーに何か事情があるのはわかっていた。猫の躾に手が回らなくなるほど何かを背負い込んでいるのも薄々感づいていた。だが、いつかハーマイオニーが話してくれるだろうと歩み寄ることをしなかったのもまた事実なのだ。

 

「ロン、お前さんが刺されかけたとき、本当にあの子は心底心配しとった。ハーマイオニーはまっすぐだ。知っとるだろう?」

「あのイカれた潰れ顔の猫さえどっかにやってくれれば、僕は何も言う気はないのに」

 

 ロンの心境は複雑だった。

 

「――なのに、ハーマイオニーはいまだにあいつを自由にさせてる。もうネズミはいないから気を遣うひつようなんてないって言わんばかりだよ。僕はハーマイオニーが反省しているようにはちっとも見えないんだ」

「……まあ、うん。ペットのこととなると、みんなちぃっとだけバカになるからなぁ」

 

 ハグリッドは一昨年のことを思い出しながら、悟ったように言った。ノーバートは元気にしているだろうか。

 ハリーとロンはそれから近況を、つまりクィディッチの優勝杯がかなり近くなったことを話題に大いに盛り上がった。

 

 ハグリッドに送られて談話室に戻った二人は、今週末ホグズミードでどう過ごすかで盛り上がっていた。

 

「ハリー」

 

 ずっと勉強していたハーマイオニーが、若干ふらつきながらハリーのところにやってきた。

 

「は、ハーマイオニー、大丈夫? ちゃんと休んでる?」

「私のことはいいの……。ハリー、聞いたわ。今週もホグズミードに行くのね」

「もちろんだよ。あんな楽しいところないよ」

 

 ハーマイオニーはしばらく目をつむった。そして、覚悟した様子で言った。

 

「もし、行ったら。マクゴナガル先生に報告するわ。つまり、あの地図のことを」

「ハーマイオニー」

 

 ロンがイライラしながら言う。

 

「君、僕からネズミを奪って、今度はハリーから楽しみを奪おうってのかい」

「そんな程度の低い話をしているつもりはないわ。ロン、できればあなたにもホグワーツで大人しくしててほしいくらいよ。ブラックに殺されかけて、それでも外に出歩くなんて、正気じゃないわ……」

「正気じゃないのは君じゃないのか。ええ? 地図のことを話せばハリーがどうなるかわかってるだろ? 友達をホグワーツから追い出したいのか!?」

 

 ハーマイオニーは何かを言おうとして、口ごもった。言葉を選んでいるというよりは……言葉が出てこないように見えた。

 

「……私、そんなつもりじゃ」

「もういいよ。この期に及んで謝ろうともしない君の言う事を、僕らが聞くと思わないことだ。ハリー、行こう」

 

 ロンはそう言うと肩をいからせて男子寮に戻ってしまった。

 

「ハーマイオニー、本当に大丈夫?」

「……ええ、私はすべきことをするの。『()()()』んだから……命に対して、誠実でなきゃ」

 

 ハーマイオニーはゆっくりと机に向かっていった。今ではハーマイオニー専用と化しつつある一角に。

 

「その、僕はいかないよ」

「そう言ってくれただけで、救われた気分よ」

 

 透明マントを着ていこう。ハリーはそう心に決めた。

 

 ――1994年3月 スネイプの居室。

 

 ハリーは今、ハーマイオニーの言葉に従わなかったことを心底後悔していた。

 楽しいホグズミードは大体が上手くいっていた。ハニーデュークスでお菓子をしこたまかってローブのポケットに詰め込んで、ゾンコの悪戯専門店で面白可笑しい悪戯グッズを買い込んだ。『三本の箒』で一杯やって、ホグズミードを満喫していた。ロンと肝試し代わりに『叫びの屋敷』へと行ってからケチが付き始める。なんとマルフォイ達スリザリン三人組が叫びの屋敷にやってきておしゃべりを始めたのだ。透明マントを被っていたハリーは気づかれなかったが、代わりにロンがマルフォイ達に目を付けられた。

 

「ウィーズリー? ここで何してる? ――ああ、もしかしてあれか、『自分の部屋』ってこんな感じなのかな、なんて思ったりしてるのか? 君の家じゃ兄弟全員が一つの部屋で寝るって本当かい?」

 

 ハリーはその侮辱を聞いて、先ほどしこたま仕入れた悪戯グッズを使うべき標的を見定めた。

 

「僕らさっきまで共通の友人について話してたんだよ。毛むくじゃらの、ウスノロさ。今あいつがどんな無様を晒しているか想像してみろよ。ワクワクしてくるだろう? 『あいつはなんもわるくねえ! 悪いのはマルフォイだ!』

 ――ははは! 僕の腕を壊しかけたヒッポグリフの首をあいつの前に晒してやれば、なんと言って泣くのかな」

 

 ハリーは屋敷の外にあった泥をマルフォイの顔にぶつけた。

 

「……は? ウィーズリー、どういうことだ?」

「知らないよ?」

 

 それからも泥の攻撃は続き、ロンは腹を抱えて大笑いした。悪戯グッズも交えて、三人の姿はどんどん見るも無残な姿になっていく。その姿を愉快に思って油断したのがいけなかったのかもしれない。『虹色ポマード』をゴイルの髪に擦り付けようと近づいたその時、透明マントの裾を踏まれ、ハリーの頭から透明マントがずり落ちた。全身が暴露することは免れたが、宙に浮くハリー・ポッターの生首という異様な光景がそこには生まれてしまった。

 

「ハリー!」

 

 ロンが叫ぶ。

 

「逃げろ!」

 

 ハリーは慌ててマントを被りなおし、駆け出した。自分が通ってきた抜け道を逆にたどり、ホグワーツに戻った。安堵して透明マントを脱いだその矢先、スネイプに捕まったのだ。

 スネイプの居室は研究室も兼ねており、雰囲気自体は魔法薬学の教室とそうは変わらない。つまり、ジメジメとしていて、たくさんの瓶詰があり、ぬめぬめとした気味の悪い液体が入れられたビーカーが並ぶ、そんな部屋だ。暖炉の火はついてはいるが、部屋はちっとも暖かくなく、それどころかどこか肌寒い。

 

「さて、さて」

 

 スネイプは楽しそうだった。じめっとした髪の毛を指で軽く整えると、自分の椅子に座った。

 

「実に奇妙な話というのはあるものだと、思わないかね、ポッター」

「どういうことですか」

「どこからともなく泥の塊、悪戯グッズが飛んでくる。下手人は居ないように見える。

 そしてポッター、貴様の生首の幻。実に奇妙だ」

 

 スネイプの話し方はまるでいたぶるようだった。

 

「その、誰がそんなことを?」

 

 ハリーが聞くと、スネイプは不思議そうな顔をした。

 

「おや? わざわざ言うまでもなくご存じだと思ったのだが。マルフォイ君だよ、ポッター」

「じゃあ、その、きっと彼は病気なんです。マダム・ポンフリーに診てもらわないと」

「貴様はホグズミードを許可されていない。首があったのなら、他の部分もそこにあったのだ。ん? 吾輩たちホグワーツの教師が『透明マント』の存在を知らないと思っていたのかね?」

「僕はずっと寮にいました!」

「証人は? まさかいないとは言うまいな? 何せ今のグリフィンドールは……勤勉な魔女が一名、常に談話室の一角を占拠しているそうだが」

 

 ハリーは黙った。

 スネイプは薄ら笑いを浮かべた。もう彼の中で判決は決まったらしい。もはやどんな反論も聞き入れてはくれないだろう。

 

「実に……愚かしい」

 

 スネイプは顔をハリーに近づける。ハリーはまっすぐに自分の目を見つめるスネイプに心底恐怖した。

 だが、ハリーの絶望はこれから始まるのだ。

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