――1994年 6月 『叫びの屋敷』
カサンドラはあくまで冷静だった。
「それで……いろんな疑惑が一気に出てきたが、真実はどうなんだ?」
「カサンドラ、早く、早くなんとかして……!」
がたがたと震えながら、ハーマイオニーは言った。杖も手元にない今、彼女はただの13歳の女の子でしかない。
「私、信じてたのに……先生は違うって……! ただの、ただの傾向にしかすぎないって」
「落ち着け、ハーマイオニー。大丈夫だ」
「そんなのわからないわ……! ハリーも早く離れて! ルーピン先生は『人狼病』なのよ! ルーピン先生も10年前に『例のあの人』に協力した人狼の一人なのよ! ブラックが城に侵入する手引きをしたんだわ!」
ハーマイオニーの告発を受けて、ハリーは思わずルーピンを見た。
「私は違うよ、ハーマイオニー。その、手引きしたってところだけで……人狼ってところはあってるんだけど」
ルーピンは冷静だった。――だからこそ、ハリーの恐怖を煽った。ハリーは知っている。本当に邪悪な人間は滅多に声を荒げたりしない。冷静に平静そのもので人を惑わし、陥れ、殺めるのだ。
「ずっと……この12年間、私はシリウスの友ではなかった」
「そんなわけないわ……あんな風に、仲良さそうに抱きしめてたじゃない! 信じられない、信じてたのに!」
「落ち着いてくれ……。私は闇の陣営じゃない。狼人間であることを否定はしないけどもね。いつ気づいたんだい?」
わずかに震えながらも、ルーピンの声は落ち着き払っていた。それが、子供たち三人には不気味に思えてしょうがなかった。
「ずっと、ずっと前から……。カサンドラが人狼の授業をしたとき、妙だなって。それから、調べて言ったら……次第に」
「たくさんの資料を検証のために調べたんだろうね」
ルーピンは誇らしそうな眼をハーマイオニーに向けた。
「君は……君の同年代の中で一番賢い」
「本当に賢かったら、みんなに言ってるわ……。そうすれば、あなたがブラックを手引きすることもなかったのに! ロンは殺されかけたのよ!」
「私は手引きなんてしてないよ。それに……本当に秘密なんてことは滅多にないんだよ。君と同じ結論に至っている生徒は何人もいるだろうし、少なくとも先生は全員知ってる」
「冗談だろ!? ダンブルドアが、狼男だって知ってて雇ったっていうの!? カサンドラ、知ってたの!?」
ロンが怯えたように叫んだ。
「まあな」
「
「人狼病は対処可能な病気だ。そう教えただろう?」
「こんな状況になってるってのに、無茶苦茶言ってる自覚ある!?」
カサンドラは肩を竦めた。
「――先生方にも、そういう意見の方はいらっしゃった。しかし、ダンブルドア先生は私を信じてくださった」
「その信頼を裏切ったくせに!」
ハリーが叫んだ。
「いや、私は今でも先生さ。そうだろう、カサンドラ」
「――いや、どうだろうな」
カサンドラが警戒を解かずにそう言ったことに、ルーピンは少なからずショックを受けた。
「……さあ、ハリー、ハーマイオニー、ロン」
ルーピンは名前を呼びながら、それぞれの杖を持ち主のところに放り投げた。ハリーは受け取って、思わず呆然とルーピンを見た。
「わけを説明させてほしい。――シリウスは丸腰。そして私も」
ルーピンは言いながら、杖を懐にしまった。
「武器はない。君らの手には杖、そして最強の警備員がいる。どうこうするのは話を聞いてからでも……いいと思うんだけど、どうかな?」
「話してみろ」
カサンドラが静かに告げた。ありがとう、とお礼を言う。
「手引きしてないっていうなら……どうしてここが?」
ハリーが聞いた。困惑が色濃い表情をしているが、とりあえず話を聞いてみることにしたようだ。
「『忍びの地図』だよ。効果は……ご存じだね」
ルーピンはカサンドラのほうをちらりと見た。
「『処分した』と、私はお前から確かに聞いたぞ」
「生徒の手に渡ることはない。処分したも同じだよ」
「便利な地図を悪用しようとしてただけじゃないのか!?」
カサンドラが厳しい表情で聞く。
「か、カサンドラ、待って。おかしいよ。だって……。ルーピン先生、使い方を知ってるの? あれの使い方は……双子と僕しか知らないはずだ」
ルーピンは懐かしむように笑った。
「地図については誰よりも詳しいという自信があるよ。なにせ、これを書いたうちの一人だ。学生時代、親友たちからはムーニーと、呼ばれていたんだ。思い出の品だから、捨てるのに忍びなくてね」
「先生が、書いた?」
ハリーは驚愕に目を見開いた。
「懐かしの品か。……だが疑惑は続いているぞ、ルーピン。その地図をなぜ見ていた?」
「三人を見張っていたんだ、カサンドラ」
「……なぜだ」
「哀れなヒッポグリフを助けようとしないか、ずっと気がかりだった。ハリーは誰にも気づかれずにホグワーツを移動することができる。『透明マント』があるだろうからね」
「どうして……マントのことまで」
「ジェームズの十八番だったよ。マントに隠れて影から影へ。だけど、だからこそ『忍びの地図』は対策がなされている」
「昔話はもういい!」
カサンドラはしびれを切らしたように言った。
「なぜ私に知らせずに監視を続けていた! 便利な地図があったなら、ブラックの場所も手に取るようにわかっていただろう! その時点で私かダンブルドアに知らせるべきなんじゃないのか!」
「その通りだ。だが、私にはカサンドラに……あるいは、校長先生に疑われることになっても、どうしても確かめないといけないことがあったんだ」
「それはなんだ?」
ルーピンは三人を見回した。
「ハグリッドの小屋から駆け出して、暴れ柳にいるとき……私は自分の目を疑った……。あいつがいた。あいつがいたんだ……。あいつの名前を見た瞬間、驚きで私はその名前しか見えなくなった……。ねえ君たち。どうしてあいつと一緒だったんだ?」
「え?」
ハリーはロンとハーマイオニーに視線を向ける。二人ともふるふると首を振った。
「僕たち……三人だけだ」
「いいや、違う。暴れ柳にいたのは5人だ」
ハリーの困惑は最高潮に達していた。5人? そんなはずはない。あの場にいたのは自分たち三人だけだ。それ以外の人間なんて一人もいなかった。断言できる。
「はぐらかしているのか? 当の本人たちは違うと思っているようだが?」
「――だろうね。今こそ真実を語るべきだ……そうだろう?」
ルーピンはロンのほうを見て言った。
「何が……」
「ロン、ネズミはどこかな。見せてほしい」
「スキャバーズは、関係ないだろ!」
「ところが、大有りなんだ。どうか、お願いだ」
「そんな、そんなことない!」
ロンは頑なに胸のポケットをかばい続ける。
「ロン、気持ちはわかる。だが、見せるだけならいいだろう」
カサンドラが油断なくルーピンを見ながらロンに言った。
「でも!」
「話が進まん」
カサンドラが言うと、渋々ロンはポケットにいるネズミをむんずと掴んで掲げるようにしてルーピンに見せた。異様なくらい藻掻いてロンの手の中で暴れるスキャバーズをちらりと見ると、ルーピンは満足そうにうなずいた。
「もう満足かよ!」
「もちろんだ……ああ、もう十分だよ」
「それで、なんでわざわざ僕のスキャバーズを引っ張り出してきたんだよ!」
「そいつはネズミじゃない」
ブラックが突然声を上げた。
「……お前の目にはネズミ以外に見えるらしいな」
カサンドラが言うと、ルーピンは首を振った。
「そういう意味じゃないよ。こいつは魔法使いだ」
「……は?」
ブラックとルーピン以外の全員がそう思った。
「知ってるだろう?『
「……確か、マクゴナガルの変身能力をそう言うんだったか?」
カサンドラが確認するように言うと、ルーピンとブラック、二人がうなずいた。
「その通り……。高度な変身魔法だ。そいつの本名はピーター・ペティグリューという」
突拍子がなさすぎる。ロンはそう思った。そして、思ったことをそのまま言った。
「二人ともイカれてるのか?」
「言い訳にしたって酷いわ!」
「そうだよ、ピーター・ペティグリューは死んだんだ!」
ハリーが叫ぶ。
「ブラック、お前自分が殺した相手のことを忘れたのか?」
「殺そうとした」
ブラックが歯をむき出しにして唸る。
「だが小賢しいピーターに出し抜かれた……だが、奇跡は二度も続かないぞ!」
ブラックがこらえ切れず、ロンに向かって突撃した。その横っ腹をカサンドラが蹴り飛ばした。進行方向を90度変えられ、ブラックはまっすぐ吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
「があぁっ!」
「次に暴走したら殺す」
淡々と告げるカサンドラに、その場にいる全員が震え上がった。
「クソっ! 化け物め……! 何も知らない癖に……!」
「それを知ろうとしているところだろうが」
「後で知ればそれでいい!」
「お前を始末したあとで聞いてもいいんだぞ。口は2つある。あるいは、3つか」
ブラックとカサンドラのやり取りに、子供たちは気を失いそうだった。ブラックはネズミに、カサンドラはブラックに、尋常じゃない殺意を漲らせている。ハリーは慣れているからか体を竦める程度で済んでいるが、ハーマイオニーとロンはほんの少しでも身動きしたら殺されると思っているかのように微動だにしない。
「シリウス、落ち着くんだ。ロンはあいつをペットにしていた……。ハリーだって、真実を知る権利がある。そして、君には話す義務がある。それによく考えろ。今でこそ必死になって庇っているが、真実を知ったら自分から差し出すに決まってる!」
その言葉が決め手になったのだろう。シリウスは自分を落ち着かせるために深呼吸をした。視線は相変わらずロンの手の中にあったが、今すぐに飛び掛からんとする狂気はなりを潜めた。
「ああ、そうだな……誰があんな奴を大事に守る……。だが、リーマス、話すなら早めに頼む。私がアズカバンに送られる原因となった殺人を実行する前に」
「私の目の前でそれができると思ってるなら思い上がりだ。お前がネズミを殺すより先に私がお前を殺す」
「なんとでも言え……」
ルーピンはロンをまっすぐ見つめた。
「今から説明するけど……その間、ピーターをしっかり確保していてね」
「こいつは、スキャバーズだ!」
ロンは大人二人が冗談抜きで自分のネズミを殺そうとしていることを悟り、慌てて胸ポケットにスキャバーズを押し込もうとする。だが、スキャバーズはロンの手の中から逃れようと必死にもがいた。
「ルーピン先生、でもペティグリューが死んだ瞬間を見た人はいっぱいいるんだよ?」
緊迫した空気の中、思い切ってハリーが聞いた。
「見たと思っただけだ。誰もがそう『思わされた』」
「魔法か?」
カサンドラが聞くと、ルーピンは首を振った。
「少し違う。カサンドラ、よく情景を想像してほしい……。巨大な爆発。何人も死んだ。爆発が終わった後に、そこにいた人間が小さな小さなネズミに変わったとしたら……人々はそいつを『死んだ』と思うだろう?」
「否定はしないがな……」
カサンドラは違和感を拭えずにいる。
「あ、あの、その」
ハーマイオニーが恐る恐る口を開いた。
「そんな、そんなこと、あるはずがないですよ、先生」
「どうしてそう思うんだい?」
ルーピンの聞き方は、ハーマイオニーの思考を探ろうとするものだった。授業中にそうするように、ハーマイオニーは自分の考えを述べた。
「もし、そうなら……『動物もどき』なら……そう、みんな知ってるはずです。だって……『動物もどき』の習得者は魔法省に登録しないといけないんですよ。私、リストを見ましたけど……ピーター・ペティグリューの名前はなかったです」
ハリーはすぐに、『変身術』の宿題で出たところだとわかった。『呪文なしで変身魔法が使える人たちのことです』を長ったらしく書いただけのハリーと違って、ハーマイオニーは登録者のリストまで調べたようだ。
「その通りだよ、ハーマイオニー。これが授業なら5点を与えていたところだ。ただ、ハーマイオニー。自己申告だという前提が頭から抜けているね」
「リーマス、授業じゃないんだぞ……」
ブラックがうなった。
「12年待ったんだぞ! もう長くは待てない!」
「シリウス、君にも協力してもらう必要がある」
ぎしり、と入り口のあたりがきしんだ。カサンドラを含む全員がちらりと視線を向けるが、誰かがいるようには見えない。カサンドラは手に持った武器を握りなおした。
「の、呪いなの?」
ロンが聞くと、ルーピンは首を振った。
「ここは呪われてなんかないよ。ここは私が『症状』をやり過ごす場所だった……叫び声に唸り声。全部私のものだよ。子供のころの、私の声だ」
それから、ルーピンは遠くを見る。
「……カサンドラが授業で言っていただろう? 脱狼薬があれば症状を緩和できると。だが、それは最近開発された薬だから、当時は身も心も化け物になる以外の術はなかった。せめて誰もいないところで、一晩過ごす」
「よく学校に通えたな」
カサンドラが思わず聞いた。ルーピンも同じことを思っていたのだろう。苦笑して頷いた。
「ダンブルドア先生は症状が出る日が決まっているのだから、予防措置を取れば問題ないと言ってくださったんだよ」
ルーピンはそう言って、周囲を見回した。『叫びの屋敷』を懐かしそうに見る。
「ここがその予防措置だ。暴れ柳を守護者にして、ここへとつながるトンネルを使う者を私だけに限定して……変身するその時、私はここにきて時間をやり過ごす」
「……長くなりそうだな。紅茶でも淹れるか?」
カサンドラが皮肉気に言った。ルーピンはしまった、という顔をする。
「悪いね、私の悪い癖だ。私はホグワーツでとても親しい友人ができた。シリウス、ピーター、ジェームズ……。でも、私の異常に三人が気づかないはずがない。人狼であることを知った三人は、私を見捨てず……それどころか、私にいつ何時も寄り添えるよう尽くしてくれた。その方法こそが、『動物もどき』になることだった。けっして楽じゃなかっただろうに……三人はやりとげた」
「……父さんも?」
ああ、とルーピンは頷いた。
「でも……どうして、動物になれば寄り添えるの?」
ハーマイオニーが不思議そうに聞いた。
「それは……教科書には書いてなかったね。人狼が襲うのは、人間だけなんだ。人間以外の動物を、人狼は襲わない」
「『闇の魔術に対する防衛術』の授業はもう終わりにしてくれ」
ブラックがせかす。
「そうだね。動物として友達と一緒に過ごすうち、私は人狼になってもある程度の理性を保つことができた……。懐かしいよ。『叫びの屋敷』を抜け出していろんなところを一晩中走り回った」
「冗談でしょ!?」
ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
「そんな……危険な――! もし間違って人を噛んでたら!」
「ああ……本当に、その点は今にして思えばぞっとするよ。私は愚かだった。『動物もどき』の友達と一緒にホグワーツを探検したり、理性を保ったまま人狼に変身したことから、私は思いあがっていた。あわや、っていう場面は何度もあった。それを笑い話にしてたんだから……才能に酔うって言うのは、恐ろしいね」
ハーマイオニーは絶句した。
「私たちはより強固な絆を示すように、お互いの変身した姿を元に、ニックネームを考えて、それで呼び合った。ムーニー、パッドフット、プロングズ、ワームテール。マローダーズなんて格好つけてね。ダンブルドアの信頼を裏切って、友達を未登録の『動物もどき』にした奴が、自分の都合で罪の意識を感じたり、それを忘れたり……。ダメな奴だったよ、私は。そして……今も、大して変わってない」
「ほう?」
「カサンドラ、君には本当に申し訳ないことをしたと思っている。君の責任問題に発展してもおかしくはなかったのに……。私は、シリウスが『動物もどき』だと知ってたんだよ、ずっと。そして、偶然にも知った魔法界でも知る人がほとんどいない事実を」
カサンドラはその瞬間、全ての疑問が氷解するような気分になった。
「……動物に変身して守りを突破したのか」
「そうだよ。教科書にも、どこにも書いていないが……。吸魂鬼は人間の姿をしたヤツしか狙わない。動物の姿になれば、吸魂鬼の警備なんてないも同然だ」
「なぜ言わなかった」
ルーピンは申し訳なさそうにカサンドラから視線を逸らした。
「私が……どうしようもない臆病者だからだよ。大の大人が、学生時代に校長先生の信頼を裏切って好き勝手やってたことを知られてクビにされるのを心底恐れたんだよ」
「保身か。お前が腑抜けて、するべきことをしなかったせいで、ロンは殺されかけた」
「殺そうとしたのは、そこのネズミだ!」
「黙ってろ!」
カサンドラが怒鳴る。
「ダンブルドアが学生時代の悪事くらいで人事を決めると本気で思ってたのか!? 一昨年の教師はヴォルデモートを張り付けてて、去年の教師は闇の魔法使いだったんだぞ?」
「……何もかも、私が臆病だったんだ。そういう意味じゃ……スネイプ先生の懸念はごもっともだった」
「リーマス、奴の名前がなぜ出てくる?」
ブラックが思わず、という風に聞いた。
「スネイプ先生は……うん、今、先輩なんだよ」
「あいつが!? 冗談だろ……? ははは! お前ら、あいつに教わってるのか!? ははは、罰則としてどんな闇の魔術を使われたんだ?」
カサンドラは思わずブラックとルーピンの背後の壁に視線をやった。
「知ったような口を利くな。犯罪者の侮辱を聞き逃すと思うのか?」
カサンドラが言うと、ブラックは尚も言い募る。
「よく知ってるさ。我々とあいつは同期さ」
「そして、決定的に険悪だった。スネイプ先生はこの一年間、私が信用に値しないとずっと進言なさっていた」
「そしてそれは正しかった。卑怯者め」
カサンドラの言葉に、ルーピンは苦々しい顔をした。
「はっ。奴がそんな殊勝な理由でリーマスを追い出そうとすると思っているのか? 奴は学生時代のことをずっと引きずってるんだ」
「学生時代だと?」
カサンドラが聞く。ルーピンが後悔に満ちた表情で答えた。
「シリウスがかなり『ヤバい』悪戯を仕掛けたんだよ。それでスネイプは死にかけた。ジェームズが止めなければ、魔法薬学の先生は今頃別の人がなっていただろう」
「いい見せしめだ」
ブラックがせせら笑った。
「こそこそと嗅ぎまわって、我々のことを詮索するからそうなるんだ。私たちを退学に追い込むのに全身全霊をかけるようなヤツなんだ」
「それにしたってやりすぎだ……。君たちならわかるだろう? 我々はグリフィンドールで、彼はスリザリンだ。スネイプ先生は常にジェームズを嫌っていてね……。彼は我々の弱みを探ろうとして……マダム・ポンフリーに引率されて暴れ柳のほうへと向かう私を見つけてしまったんだ」
「あんまりにも知りたいようだったから、全てを教えてやったんだよ。暴れ柳の節を杖でつつけば大人しくなる、そうすればリーマスの後をつけることができるぞ、ってな」
「――実際に実行されていたら、人狼と化した私と不意に出会うことになっただろう」
カサンドラは厳しい目をシリウスに向けた。
「それは人殺しだぞ」
「事故さ。それに、すんでのところでジェームスが止めた。つまるところ、未遂で、時効だ」
「……あのな。そりゃ加害者の物言いってやつだ。そんなの、当のスネイプにとってみれば関係ないだろう。今でもお前を恨みに思ってるだろうし、お前ら全員グルだと思うに決まってる」
カサンドラは今までの話を聞いて、当然の感想を言った。
「――いかにもその通りだ、カサンドラ」
ルーピンの背後の壁、ブラックのすぐそばから冷たい、あざけるような声がした。スネイプが『透明マント』を脱ぎ捨てて、杖をルーピンの背中にピタリと当てていた。